表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第七章 女神は天に在らず

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

685/740

第一四七話 メス

(=ↀωↀ=)<実は本日二話目


(=ↀωↀ=)<珍しく同時投稿

 □■<王都アルテア>・王城・正門前


 王国とゴゥルの最初の交戦地点となった正門と外壁の間。

 ゴゥルの落下や移動に巻き込まれ、重傷を負い、さらには犠牲となった兵士達も多い。


 しかし今、犠牲者全員が息を(・・・・・・・・)吹き返していた(・・・・・・・)


「――処置完了。【司教】の方は奥義を」

「は、はい! 《リザレクション》!」


 潰された死体の前で医療器具を振るっていた眼鏡の医師が声を掛けると共に、彼に随伴していた【司教】が奥義を発動させる。

 【司教】の奥義たる蘇生魔法リザレクションは、死体の状態によって成功率が大きく変動する。

 致命傷を負い、内臓や骨が大きく損傷した死体の蘇生成功率は著しく低くなる。

 だがしかし、いま蘇生魔法を掛けられる死体はどうだろうか?

 それはゴゥルによって踏みつぶされたはずの兵士の死体。

 だが、打撲や裂傷は見られるものの、大きな骨折や内臓の挫滅はない。


 それらの傷……死因となった重傷は、既に治療されている(・・・・・・・)


 回復魔法は死体には効かない。

 死体に作用する魔法は死霊術などの類だ。

 だが、医術は違う。

 その手にある技術で死体であろうと修復し、形を整復することができる。

 それは単なるエンバーミングではない。

 医術によって遺体を修復することで、蘇生魔法の成功率を引き上げる。

 これこそは医術と回復魔法の連携の究極系、修復蘇生手術である。

 無論、時間経過等による限界はあるが……幸いにもこの場では全員を蘇生できた。


「す、すげえ……! すげえよアンタ!」


 凄まじいスピードで修復手術を連続成功させ、死体を蘇生可能域に戻した眼鏡の医師に、彼についてきた【司教】や兵士達が喝さいを上げる。


「いえ……医師()では蘇生はできません。【司教】の皆さんの魔法あればこそです」

「謙遜すんなって! オレ、医者ってもんを見直したよ! すげえよ!」


 その【司教】は語彙を失い、「すげえ!」と連呼することしかできないほど称賛するが、それは周囲の者達も同感であった。

 回復魔法のような即効性のない医術。

 しかし、彼ら彼女らは医療の神髄をここに見た。


「ここに患者はもういませんね?」

「ああ! 埋まってた死体も探知スキルで見つけて蘇生した! あとは回復アイテムで間に合う怪我人だけだ!」

「分かりました。それでは城内へと向かいましょう。そちらでも戦闘が続き、患者が増えているでしょうから」

「分かったぜ!」


 そして眼鏡の医師を先頭に即席の医療チームは城内へと向かう。

 彼等の胸には素晴らしい医師と行動を共にできる誇らしさがあった。

 ただ、その中の一人がふと気になったことがある。


(そういえば先生は何というお名前なのだろう?)


 まだまだ事態が切迫しているため、余計なことに時間を取らせたくはない。

 だから今回の事件が片付いたら教えてもらおうと、その【司教】は思った。


 ◇◆◇


 □■<王都アルテア>・王城・内部


 王国の者にとっては、ゴゥルは目的も意図も不明だった。

 先に彼女自身が述べた【死神】の姿も確認できず、何のためにいるのかも分からない。

 それは無理からぬこと、死神と親指の道理など、知らなければ理解のしようもない。

 ゴゥルを一刻も早く排さなければテレジアが死ぬ、などと分かるはずもない。

 だが、国を護るマスターとして、騎士として、王城で無法を働いた相手を放置はできない。


 しかし、ゴゥルの侵攻を阻むテオドールとライザー達の試みは、二つの理由で失敗した。


 一つ目の理由はハンニャによる《天死領域》の発動。

 城を包むその力の発現により、ゴゥルは一足飛びに城の内部へと飛んでしまった。

 ゼタとの戦闘では有効だった必殺スキルだが、死神の顕現のために内部を目指していたゴゥルには逆効果だったと言える。死神自身は距離の問題さえクリアすれば死を与えるべきものの前に出ることを惑わない。

 本来ならば侵入者を目的地に辿り着かせない力だが、死神と<親指>の性質などハンニャにとっては完全に未知であったため、仕方のないことだ。


 そして二つ目の理由は、ゴゥル自身。

 内部に移動したゴゥルを追ってライザー達も城内に入り、彼女を撃破すべく戦った。

 だが、その攻撃の全ては……有効打足りえなかった。

 自分達の攻撃が通じない理由については、彼らも戦う中で理解した。

 まず、【金剛力士】というジョブのステータス。

 例えば同様に力士系統超級職である【超力士】のSTR・AGI・ENDが一〇〇〇ずつ上がっているとき、【金剛力士】は一〇〇・一〇〇・二八〇〇という上がり方をする。

 そう、【金剛力士】とは耐久極振りの超級職。

 尚且つレベルを上げてきたゴゥルならば、<マスター>のような補正がなくとも五桁後半のENDを有している。

 そして、この強度に拍車をかけるのが、力士系統の耐久スキル、《不動》。

 王国の決闘ランカー且つ力士系統として知られたビシュマルは使わない(幾つかのスキルと選択式の取得なのでビシュマルは使えない)スキルだが、それ自体はメジャーなもの。

 曰く、自らの動きが少ないほどに耐久と属性耐性にバフが掛かる。《アストロガード》や《五体投地結界》の同類だが奥義ではなく、縛りと強化倍率の軽いスキルだ。

 走るよりも歩く方が、歩くよりも立ち止まる方が、《不動》を持つ【力士】の強度は増す。門前でゴゥルが走らなかったのもそのためだ。

 そして、【金剛力士】は《不動》をスキルレベルEXで会得している。

 元より高いENDが《不動》EXで跳ね上がった今のゴゥルの強度は御覧の通りだ。

 立ち止まっていれば数値換算で二〇万を優に超える防御力と属性攻撃への超耐性を発揮する。

 端的に言えば……【破壊王(シュウ)】でもただ殴るだけではろくにダメージが徹らない。

 そして城の内部に辿り着いた時点で、ゴゥルは動くことを止め……完全な防御状態に移行した。発揮される強靭さゆえに、ライザー達はゴゥルを倒せない。

 それでも状態異常や<エンブリオ>の特殊効果でゴゥルを何とかしようとはしていた。

 だが……。


『来るぞ……!』


 攻撃を仕掛けていた<マスター>達に対し、四本の独鈷杵が飛ぶ。

 それを盾で弾こうとした<マスター>が、盾ごと貫かれて散っていく。


『クッ!』


 自らの使用者(ゴゥル)に迫るものを阻む盾にして、貫かんとする矛。

 伝説級特典武具、【身代矛盾 フォールガイズ】。

 使用者のENDに(・・・・・・・・)等しい強度(・・・・・)を持ち、砕けるまで自動的に攻撃を阻み、敵を貫く。

 その性能故、使い手次第では多少の便利アイテムで収まるだろう。

 だが……この使い手は【金剛力士】ゴゥル。

 飛翔する四本の独鈷杵は神話級金属をも遥かに上回る武具と化し、彼女の周囲の生物を勝手に殺して回る。


「ワタシ、ここ、待つ」


 攻防において隙はなし。鎮座するゴゥルは不落の要塞に等しい。

 彼女はただ、死神が目的を遂げるときをここで待つ。 

 それが<親指>として育った彼女の役割だからだ。


(どうする……! アイツが来るにはまだ……)


 こちらの攻撃が一切通じず、それどころか自動反撃や移動だけで蹴散らしてくるゴゥル。

 太刀打ちできぬ堅牢さにライザーは焦燥感を抱く。

 あるいは戦争の連戦で半ば機能停止しているヘルモーズや、先の王都襲撃戦で失われた【ヴァルカン・エア】があれば、ゴゥルにも有効打を出せただろうか。

 そして彼の抱く焦燥はテオドールも同じ。

 城の中に踏み込まれてしまった。強力な防衛設備で城内に使用するものはない。

 また、先の【アラーネア・イデア】のような構造の弱さもゴゥルにはない。

 それでも彼らは、この城を侵略する者への対抗策を考え続ける。


 だが、状況は彼等に考え続けられる時間を与えない。

 状況は変化する。


「救護所から派遣されて来ました! 緊急治療が必要な人達はどこに!」

『……助かる!』


 第一の変化は、彼らの戦場に新たな<マスター>達が現れたこと。

 医師と【司教】で構成されたそのグループは周囲の状況を見て、傷を負って倒れている者達の傍に駆け寄り、蘇生と治療を試みる。

 ゴゥルの迎撃圏外で兵士や騎士を助ける彼らを、ライザー達はありがたく思う。

 それは好ましい変化だろう。


 だが、第二の変化は……そうではない。


「…………【死神】様?」


 座り込んでいたゴゥルが何かに気づいたように立ち上がった。

 立ち上がった彼女が向いたのは、第三王女の私室の方向だ。

 あるいは、<親指(依代)>としての繋がりから、死神の異常……同質の力で刻まれるというかつてない事態を感じ取ったのか。


「【死神】様、助ける」


 そして、ゴゥルは再び歩き出す。

 死神のいる場所へと。

 その道程に、何があっても。


 床を砕き、壁を壊し、天井を削り、……進む先に重傷を負った兵士達がいようと進む。

 治療中の医師達もろとも、踏み殺さんばかりに。


「……止めろ!!」

『うぉおおおお!!』


 テオドールが防衛設備で、ライザーが蹴撃でその悲劇を食い止めんとする。

 だが、防衛設備はゴゥルの堅固さに効果を発揮できず、ライザーの蹴撃は【フォールガイズ】に阻まれる。

 そしてゴゥルは巨大な歩幅で、瞬く間に彼等との距離を詰めた。

 そのまま殺意なく倒れた人々と、彼らを救おうとする者達を踏み殺すのだろう。


「……!!」


 その悲劇を阻まんと奮闘する者達の想い空しく、健闘空しく、彼等の手は届かない。

 あるいは、この場にアルティミアが……【聖剣姫】がいたならば、異常な防御力ごと【金剛力士】を切り伏せることも可能だっただろう。

 だが、今この地に彼女はいない。

 この王都に在るべき【聖剣】が今はない。

 この地に、ゴゥルを止められる剣はない。


「【死神】様、待ってて、いま、行く」


 そして制止の叶わなかったゴゥルが、進行方向の人々を踏み潰す瞬間が訪れ……。





「――術野が陰になる。退け(・・)

 ――ゴゥルは、仰向けに倒れた。




「?」

「『……?』」

「「「…………?」」」


 その場を支配した疑問と驚愕は、唯一人を除いたその場の全ての共通意識。

 何が起きたかを理解できた者も、きっとその一人だけ。


「医療行為の邪魔はしないで貰おう。……処置完了」


 その一人……眼鏡の医師は、心肺停止の兵士を修復し、蘇生可能状態にまで戻した。

 そのまま「蘇生を頼みます」と兵士を【司教】に預ける。

 預けられた【司教】は「え。あ。はい」と半ば呆然としたまま、《リザレクション》を使う。

 まるで周囲の状況に構わず、手術を続けた眼鏡の医師。

 だが、少しずつ時間が経つにつれて、他の者も状況を理解してきた。


「……? ゴゥル、あしない(・・・・)?」


 仰向けに倒れたゴゥル。

 彼女の右足は、何時の間にか切断されていた(・・・・・・・)

 

「……なんで?」


 ゴゥルは不思議そうに出血もない自分の足の断面と、それを成した……自分と比べればあまりにも小さい医師を見比べる。


「修復蘇生手術の必要な患者はもういませんね? では、重傷者の治療に移りましょう」


 眼鏡の医師は立ち上がり、周囲を見回しながらそう述べる。

 あまりにもマイペース。患者の治療以外の何も見えていない。

 眼前の巨大な暴威を、気にも留めない。


「……うぅ!」


 その在り方をどう思ったのか。

 このとき、ゴゥルは自らの意志で右腕を振り下ろした。

 自らの身体を損なうという人生最大の異常。

 それによって本能と心が、事故ではなく、殺意による攻撃を実行した。


「怪我人を増やすな」


 次の瞬間、いま正に叩き潰される寸前だった医師が右手を掲げている。

 彼の手の中には、一本のメス。



 そして、彼を叩き潰すはずだったゴゥルの右手が宙を舞っている。



 やはり、出血はない。


「なんで……なんで……!?」


 ゴゥルは狼狽しながら、失われた手首とあまりにも小さい刃物を見比べる。


「ゴゥルの身体、かたいのに、なんで……!?」


 そのメスにはいつしか、ジョブスキルのオーラが重なっている。

 スキルの名は、《サージェリー》。

 外科手術(サージェリー)の名の通り、医療系スキル。

 その効果は……。


「――医師が患者を切開できなければ、手術にならないでしょう?」

 ――肉体に対する、一切の強度無視(・・・・・・・)


 それはあたかも……とある【聖剣】の機能を限定したかのような力。

 ルールも強度も無意味と化す、理外の切断。


「医療が必要な現場で暴れてほしくはありません。ここにはまだまだ治療が必要な患者が大勢いるのですから」


 先刻、医療行為の邪魔をされたときとは違う柔らかい口調で、眼鏡の医師はゴゥルを諭す。

 その有無を言わせぬ雰囲気、ゴゥルだけでなく、王国の者達も息を呑む。


「……いえ、違いますね」


 しかし不意に、眼鏡の医師は恐怖の視線で自分を見下ろすゴゥルを見上げ返す。

 そうして、気づいたようにボソリと呟く。


君も(・・)患者(・・)か」


 眼鏡の医師はゴゥルの顔を……その奥にあるものを見つめるように、目を細める。


「ならば、話は決まった」


 今この地に、【聖剣姫】はいない。

 今この王都に、【聖剣】はない。

 だが……。


「今から――手術(オペ)の時間です」

 此処に――神刀(メス)はある。



「――【神刀医(ゴッドハンド)】イリョウ夢路。執刀を開始する」

 ――【聖剣王(・・・)試作超級職(・・・・・)【神刀医】が此処に在る。



 To be continued

(=ↀωↀ=)<……えー


(=ↀωↀ=)<スパート掛けたけど年内のエピソード完結無理でした……!!


(=ↀωↀ=)<色々計算ズレたのか毎日一話以上書いても終わらぬ……!


( ꒪|勅|꒪)(作者の計算、いつもズレてるな)


(=ↀωↀ=)<あと一話か二話ならともかくもっとありそうなので年跨いでも続きまする……


(=ↀωↀ=)<来年に延長戦だけど良いお年を……!



〇《不動》


(=ↀωↀ=)<スキルレベルによって変わるけど概ねこんな感じ


レベル一(下級職):

徒歩END一〇%アップ

静止END二〇%アップ


レベル五(下級職限界):

徒歩END五〇%アップ

静止END一〇〇%アップ


レベル六(上級職):

徒歩END六〇%アップ&属性耐性四%アップ

静止END一二〇%アップ&属性耐性八%アップ

自身の行動以外でのノックバック一〇%軽減


レベル一〇(上級職限界):

徒歩END一〇〇%アップ&属性耐性二〇%アップ

静止END二〇〇%アップ&属性耐性四〇%アップ

自身の行動以外でのノックバック五〇%軽減


レベルEX(【金剛力士】):

徒歩END二〇〇%アップ&属性耐性四〇%アップ

静止END四〇〇%アップ&属性耐性八〇%アップ

自身の行動以外でのノックバック一〇〇%軽減


(=ↀωↀ=)<EXまでいかないなら


(=ↀωↀ=)<静止状態の防御上昇は《アストロガード》や《五体投地結界》が上



〇イリョウ夢路


(=ↀωↀ=)<<セフィロト>の一人


(=ↀωↀ=)<ただし裏仕事の類には一切使えない


(=ↀωↀ=)<今回王国にいたのも『<超級>のネームバリューでスカウトやって』という特に問題ない案件任された後、指示がなかったので王国で医療支援してた


(=ↀωↀ=)<なお、<セフィロト>結成の<超級>召集の際には自分から立候補してきた


(=ↀωↀ=)<理由と対価は『医療と回復魔法の連携を国として広めてもらう』こと


( ꒪|勅|꒪)<聖人かヨ……


(=ↀωↀ=)<議長的には『……拒否した方が後々面倒ね』でメンバー入りさせた男



〇【神刀医】


(=ↀωↀ=)<【聖剣王】の試作超級職


(=ↀωↀ=)<現象やエネルギーを斬るとかはできないけど肉体は切れる


(=ↀωↀ=)<名前でも分かりやすい試作超級職だと思う

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
夢路、お前の所属…セフィロトだけじゃねえだろ?
きゃ、きゃっけええええええええ
ゴゥルの能力的に防御無視はいつか出ると思ったけどついに出た そしてただの聖人だった
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ