幕間 ゴゥル
(=ↀωↀ=)<話の雰囲気の問題で分けたいけど短いので
(=ↀωↀ=)<次の話と同時投稿
■ゴゥルについて
『ゴゥルは、自分が何か、知らない』
彼女は、自分が如何なる存在かを理解していない。
『ゴゥルは、生まれたときから、違ってた』
レジェンダリアには様々な人種がいるが、ゴゥルは異形と言ってもいい存在だ。
『ゴゥルは、混ざりすぎてた』
彼女は多種の人種が混ざった特殊個体だった。
『ゴゥルの母は、巨人の血が流れてた』
ゴゥルの母の生まれた村は、巨人の血を継ぐ者達が住むレジェンダリアの隠れ里だった。
しかし零落し、サイズも半分程度になってしまっていた。
『ゴゥルの母、奴隷だった』
種としての力も弱く、されど種族としての希少価値はある。
ゆえに、母は村を出たときに他の種族に捕まり、奴隷となった。
『ゴゥルの父は、鬼と牛が混ざった、人食い』
ゴゥルの母と子を成した遺伝上の父は鬼と牛のハーフであった。
当時からハーフでも珍しい屈強な肉体と鍛え上げたジョブで裏社会では知られており、とあるエルフの奴隷商の荒事要員として雇われていた。
『ゴゥルの父、ゴゥルの母、救った』
しかし、奴隷商が契約を反故にしたため、ゴゥルの父は奴隷商を食い殺した。
『ゴゥルの母と父、ゴゥル作った』
ゴゥルの父は財産を物色している内に自分に見合う体格の女奴隷を見つけて、珍しく食欲以外の欲を解消した。
『ゴゥルの母と父、別れた』
行為の後、母は左腕を食われて放逐された。
腕を食ったのは珍しい人種の味見をしたのだろう。
孕まされ、腕を食われたが、母は父を恨まなかった。
それまでよりは扱いがマシであったから、と。
『ゴゥルの母、ゴゥル、産んだ』
ゴゥルの母は村に帰り、彼女を産んだ。
祖父母は既に亡く、村のはずれで独りで暮らしながら子を産んだ。
『ゴゥル、生まれたときから強かった』
離れすぎた人種のハーフは弱くなるか強くなるかが、極端だ。
ゴゥルの父は後者であり、ゴゥルは父以上に後者だった。
『ゴゥル、強かった。村の周りの、何よりも強かった』
ジョブのステータスが上乗せされる前……幼児の頃から、ゴゥルの肉体は亜竜を捻り殺せる力があった。
モンスターのように肉体そのものが強い力を発している。
母が彼女の名の由来として伝えた、最大の巨人の逸話の如く。
だが、彼女は……強すぎた。
『ゴゥルの母、動かなくなった』
子供の癇癪で母を叩いて……殺してしまうほどに。
『ゴゥルの母、喋らなくなって、ゴゥル、独りになった』
ゴゥルは、母の死の理由を理解できなかった。
あるいは、肉体の強さと引き換えに何か問題を抱えていたのかもしれない。
『ある日、沢山の人、来た。みんな、母と同じになった』
ある日、ゴゥルの母の姿を見なくなったことで村の者が様子を見に来た。
そこで彼らが見たのは殴り殺された死体と、それと暮らす異形の少女。
彼らはゴゥルを排すべき異常と考え、挑み、全て死んだ。
『ゴゥル、また独り』
彼女に近づく全てを、彼女を恐れる全てを、彼女はいつの間にか殺していた。
生まれ持った肉体ゆえの人を殺す感触のなさ。
実感もない殺人行為。
『これが、この世界。みんな、止まる。それが、『死』』
彼女は、『生き物はいつか唐突に止まって動かなくなる』という彼女だけの悟りを得た。
自身もまたいつか止まるのだろうと漠然とその悟りを受け入れた。
そして森の中、遭遇するものを死なせながら生きていると……。
『だけど、ゴゥル、出会った』
――ねえ、ゴゥルにわたしは見えているかしら?
やがて彼女の前に、奇妙な生き物が立った。
いや、生き物ではないかもしれない。
それは、左腕のない人型の輪郭だった。
まるで母のようだったが、母はその輪郭ほど小さくはなかった。
『ゴゥル、【死神】様と、出会った』
――わたしは、ゴゥルの『死』よ。
ゴゥルは『死』を名乗るそれと出会い、言葉を交わした。
それは死なず、止まらず、この世界に命在る限り、在り続ける。
『ゴゥル、【死神】様、好き』
自分の傍から、絶対にいなくならないもの。
ゴゥルは、そんなものの傍にいたいと思った。
あるいはそれは、止まってしまった母への想いの代替か。
『だから、ゴゥル、<死神の親指>』
そうして、彼女は<指>になった。
――おやまぁ、随分と大きい子供だよ。面倒見なきゃならんねぇ。
――……我々は暗殺教団だぞ? これに暗殺はできんだろう。
――フシュシュ。巨人族の末裔とは、奇異なものを<指>にしたものですねぇ。
反応は様々だが先達の<親指>達に迎え入れられ、育ち、【金剛力士】も獲得した。
そうして、成長した彼女は。
今、死神の役に立つため、王城にいる。
To be continued
〇ゴゥルの父
(=ↀωↀ=)<こっちも既に故人
(=ↀωↀ=)<氷漬けになった後にバラバラになった
(=ↀωↀ=)<名前もゴゥルと似ているらしい




