第一四五話 障害物
(=ↀωↀ=)<本日二話目
(=ↀωↀ=)<まだの方は前話から
□■<王都アルテア>・王城・通路
王城の廊下を、長剣を握った男が駆けている。
陰鬱な気配を発し、死人のような目をしながら、しかし身体の動きは常人とは異なる。
相対すれば斬られるか、あるいは奈落に落ちるのか。
それほどまでに人を遠ざける雰囲気の持ち主は、先刻からこの王城を走り続けている。
『ねえ、団……マスター』
そんな彼に長剣……彼の<エンブリオ>が声を掛ける。
「……何だ?」
『【水晶】には【邪神】……第三王女を狙う相手を倒せって言われたよね?』
「ああ」
『でも、なんだか城の中がおかしくて辿り着けないね……』
「<エンブリオ>の能力だろう。……ああ、ギデオンで暴れたらしい<超級>がこんなスキルの持ち主だったか」
彼もまた、《天死領域》に囚われている。
それに対して然程思うこともないように、思い出した情報を言葉として零している。
『どうするの、マスター? このままクエストが果たせなかったら……』
「奴自身も言っていたが、これは保険で次善。しくじったところで、連中には本命があるだろう」
そこまで言ってから、男は「とはいえ」と言葉を続ける。
「初仕事から失敗するのも、癪だ」
『どうするの?』
「こういうときは……話を単純にする」
◇◆◇
□■<王都アルテア>・王城
混沌とした王城。しかしその中で最も混乱しているのが誰かと言えばモーターだろう。
テレジアの命令に従い客室で寝ていたミリアーヌを回収したまでは良かった。
しかし直後の《天死領域》の発動によって彼は大きく惑わされた。
ラインを越える度にどこへ飛ばされるかも分からない空間のシャッフル。
この不規則な移動法則の中では、ミリアーヌを外に逃すことも、テレジアの部屋に帰ることもできない。
挙げ句の果てにはかつて脱退した組織の指揮官……かつて自分が眷属になった直後に後ろから心臓を抜いて殺したはずの相手であるゼタとの遭遇。
『何故ここに再び……<IF>の差し金か!?』と思考する間にミリアーヌを奪われ、自分は姿を変えられた上、明らかに正気ではない女に奇襲を受ける羽目になった。
(ク……ソッ……!)
狂王の一撃を咄嗟に腕でガードしたものの、左腕の骨は砕かれ、胸部にもヒビが入る。
変身していなければこの一撃で絶命していた恐れもある。
その惨状に苦鳴を漏らしても、真空に閉ざされて音にならずに消えていく。
(改人だったら死んでたぞ……!)
【邪神】による眷属化は生物としての強度を大幅に引き上げる。
即席のスラルですら家具を亜竜級から純竜級の怪物に変えてしまうのだ。
超級職の人間からの生物眷属化に成功したモーターの強化幅はより大きい。
眷属器のジョブスキルもモンスター由来の者達とは違い、各ジョブ一つに限らない。
そう、眷属とは強きモノ。先代【邪神】の四天王のような生物眷属であれば、一体でティアン超級職一パーティに相当する。
「■■■!」
だが、眼前で暴走状態になっているハンニャの力は眷属のモーターをも優に超えている。
そんな怪物と交戦する理由も意味もモーターにはない。
しかし、必殺スキルを介して施されたゼタの迷彩は未だモーターから剥がれていない。
ハンニャのターゲットは依然としてゼタだ。
このまま、彼の息の根を止めるまで襲ってくるだろう。
(こいつに構っている暇なんてねえんだよ……!)
モーターがやらねばならぬのは、ここでハンニャの相手をすることではない。
ミリアーヌを救出して逃し、テレジアのところへ帰ることだ。
ゆえに、それを妨げるハンニャは早急に退けなければならない。
(仕掛けてきたのはお前だ! 恨むなよ……!)
改人時代から残された力の一つ、《暗黒結界》。
一定時間だけ周囲一帯の光や電磁波を吸収する視界消失能力。
この暗闇を見通せるのはモーターのみ。
そして暴走ハンニャはゼタの姿を見失い、一瞬静止する。
ならばこのまま空間シャッフルの先へと逃げ去るか?
否、相手は吹き飛んだモーターが途中で軌道を変えても追ってきた。
逃げたところで見つかってしまうのならば、ここで倒すしかない。
決意と共にモーターは視覚を失ったハンニャへと接近し、もう一つの力を使用する。
眷属器【奇襲王】の奥義、《サドンデス》。
ブローチをはじめとする防御効果さえも無効化して相手の命を奪う一撃。
この一撃で相手の急所を抉り、戦いを終わらせる。
かつてゼタの心臓を貫いたときのように、ハンニャの心臓に狙いを定めて貫手を放つ。
「――――」
その瞬間、見えていないはずのハンニャが脚を上げ――モーターの奇襲をガードした。
閉ざされた視界の中、ハンニャには見えていない。
だが、人ならざる視界を持つもの……サンダルフォンには見えている。
そして主の危機に対処すべく、彼自身が咄嗟に身体を動かした。
眷属の放った超級奥義の威力は高い。
しかしそれも、《ラスト・バーサーク》のダメージ軽減が入った状態では<超級>を破壊するには至らない。
「――■■■」
結果、渾身の一撃は有効打とならず――逆に相手に反撃の隙を晒す。
次の瞬間にモーターは蹴り返されまたも遥か後方に吹き飛ぶ。
先刻以上の衝撃が、モーターを襲う。
「ッヅ……!?」
そして、今回は先刻よりも当たり所が悪い。
腕ではなく左大腿部を貫かれ、大きなダメージを負ってしまった。
(……マ、ズい!)
眷属の肉体は少しずつ再生しようとはしているが、それでもまともに動けるようになるにはある程度の時間が必要だ。
そして、動きの鈍ったゼタを暴走ハンニャが見逃すはずもない。
トドメを刺すべく、地を駆け、迫る。
「■■■!!」
サンダルフォン第一形態への形態変化。
AGIへの装備補正や対人・室内戦に適応するといったメリットはある。
だが、第七から第一……言わば退化とも言える部分も当然ある。
サイズダウンによる攻撃範囲の大幅縮小。
進化の過程で得たティアンと<マスター>を見分ける識別能力の消失。
そして、切り札となる最終スキル……《フォールダウン・スクリーマー》の使用不可。
ゆえに破壊力においては第七形態と比べるべくもない。
しかしそれは……今のハンニャに切り札がないという話ではない。
「――《■■■》!!」
蹴士系統上級職【烈蹴士】奥義、《流星脚》。
【爪拳士】の奥義、《タイガー・スクラッチ》と同種の攻撃重複化スキル。
しかし、《タイガー・スクラッチ》が三撃固定であったのに対し、《流星脚》は可変。
半分の威力の物理攻撃分身を使用者のAGI三〇〇〇毎に一撃……本物と合わせて最大十一撃まで増加させる。
上級奥義でありながら、最大威力を発揮するには超級職クラスのステータスを要求されるスキル。
しかし、今のハンニャ……暴走して超級職のAGIが五倍化されたハンニャならば。
――最大火力へと到達する。
先刻、一撃でモーターを殺しかけた蹴撃が流星群の如く降り注ぐ。
それが意味することは……モーターの死。
「――――」
迫るハンニャを前に、モーターの脳裏にテレジアと幼い頃に生き別れた妹の顔が浮かび……。
「――お前だな」
――その走馬灯を遮るように、見知らぬ男の声が届く。
その男は、ハンニャとモーターの間に立つように現れていた。
(バッ……!?)
その位置は、あまりにも危険。
迫る十一の蹴撃は、モーターと障害物を区別しない。
それを示すように金属の脚が男へと襲い掛かる。
男は、なんと手にした長剣でその連続攻撃を阻もうとする。
男は凄まじい技巧でハンニャの蹴りを凌ごうとするが、彼が相対しているのは【狂王】の超暴力。
最も威力の高いハンニャ自身の一撃を受けた時点で長剣に罅が入り、
二撃三撃と重ねるごとに罅は拡大、
そして半分を過ぎた時点で――長剣が折れる。
男の技巧が優れていようと、得物を失った剣士では残る攻撃を凌げない。
一瞬の内に男はモーターの代わりに木っ端微塵になる。
そんな光景を、モーターが幻視した直後。
「都合が良い――《超克を果たす者》/《ソード・アヴァランチ》」
男を攻撃していたハンニャが――バラバラになった。
一瞬で、肉体も<超級エンブリオ>も区別なく寸断され、寸前までの暴威の何もかもを残すことなく、光の塵になって夢幻のように消えていく。
(…………な、に?)
砕かれた長剣の代わりに、男は光の剣を握っている。
「……必殺スキルも消えたな。あと一〇分、有効に使わせてもらう」
そう言って、男はモーターには興味もないかのように駆け去って行った。
それは先刻の暴走ハンニャを上回る速度であり、目にも映らぬ速度で動いた男がどこへ行ったのかも分からない。
「…………」
事ここに至り、モーターの混乱は頂点に達する。
ゼタ、ハンニャ、そして長剣の男。
立て続けに彼の前に現れた者達は、彼の思考と想像の許容を超えかけている。
しかし、それでも……。
(足は……そろそろ動くか)
自然再生で少しずつ傷は癒え、立ち上がれるようになった。
未だにゼタに施されたスキルは解けていないが、それでも活動するには問題ない。
この姿を狙うハンニャは、もういない。
そして、サンダルフォンの消失に伴って迷宮と化した城も元の構造に戻っている。
「…………」
いま、モーターの前には二つの道がある。
ミリアーヌを連れ去ったゼタを追うか、テレジアの下に戻るか、だ。
自身の目の前で起きたこと以上の何かが起きているかもしれないこの城。
あるいはこの状況は、【邪神】であるテレジアの力さえも超えているのではとモーターは予感している。
ならば上司であり、命の恩人であるテレジアを護るべきだという考えもあった。
だが……。
「ッ……!」
モーターは――ゼタを探すために城内を駆け出す。
テレジアの身より、彼女が彼に託した願いを……『友達を護って』という命令を優先した。
きっとあの少女ならば、『そうして』と言うだろうと思ったから……。
To be continued
〇ハンニャ
(=ↀωↀ=)<流動する状況が色んな意味で噛み合わせ悪かった
(=ↀωↀ=)<状況や出てくる人員が違えばこうはなっていない
(=ↀωↀ=)<それはそれとして闇の恋愛感情で最終奥義即使用したのが最大の失敗
(=ↀωↀ=)<その強化ステータスは無駄にならんけど
〇《流星脚》
(=ↀωↀ=)<イメージとしては百烈脚とかペガサス流星拳
(=ↀωↀ=)<同じく攻撃回数追加奥義の《タイガー・スクラッチ》との違いはこんな感じ
《タイガー・スクラッチ》:同じ威力・属性・性質の攻撃を二回追加
《流星脚》:半分の威力の物理攻撃をAGI次第で〇〜一〇回追加
(=ↀωↀ=)<理論上の最大値は《流星脚》の方が高いけど、それ出せるの超級職かAGI特化<マスター>くらいだし
(=ↀωↀ=)<物理オンリーだから《タイガー・スクラッチ》みたいに有効打増やせないこともある
(=ↀωↀ=)<ただ、あっちと違って爪とか装備してなくても使える
(=ↀωↀ=)<そして蹴り技中心格闘職の名前が蹴士系統に決まった




