第一四二話 『死』
(=ↀωↀ=)<クリスマスは終わりましたが
(=ↀωↀ=)<今日も更新
(=ↀωↀ=)<なぜかと言えば明日が南海編下巻の発売日だからです
(=ↀωↀ=)<お店によっては明日並ぶでしょうし、BookWalker様など電子でも明日配信
(=ↀωↀ=)<書き下ろしもあるのでお楽しみに!
(=ↀωↀ=)<……という宣伝も兼ねた今日の更新です
□■<王都アルテア>・王城・テレジア自室
「なんて状況だよ……」
上司の様子を盗み見ていた一つ目の天使を排除しながら、モーターは溜息を吐く。
彼は既に蝙蝠と混ざった戦闘形態に変身しており、臨戦態勢だ。
彼の上司であるテレジアも、城を襲う事態は把握している。
「私を殺しに来たのかもしれないわね」
「縁起でもないぜ。……護衛の騎士が駆け込んでこねえな」
この事態になっても、今の王城で最も守るべき存在であるテレジアのところに誰も来ないことをモーターは不思議がる。
しかし、その答えは傍の上司から齎された。
「私がスラルで来られないようにもしているのよ」
「そいつは……ああ、納得した」
自らを守る人間を遠ざける主の行動に一瞬疑念が湧くが、モーターもすぐに理解する。
仮に護衛の騎士がここに来ても彼女を守れない。それどころか自分やスラルを隠す必要が生じ、むしろ被害が増すと考えているのだろう。
【邪神】などという役割を持たせられてはいるが、自分以外への危難を快くは思わない少女である。
「随分と器用に使えるようになったみたいだな」
かつてスラルで手加減し損ねて自分を殺しかけたのに、今は細かい裏工作までできているようだとモーターは少し皮肉を混ぜて述べる。
「レベルアップしてしまったもの」
それに対してテレジアは、何でもないように深刻な情報を口にする。
「……何だと?」
「ドーがいないし、昨日どこかで何か起きたのね。街一つ分ほどのリソースが流れてきたわ」
「……大丈夫なのか?」
【邪神】としてレベルアップすると最終的にどうなるかを既に聞いているため、モーターはテレジアの身を案じる。
「大丈夫よ。まだまだ余裕はあるわ。……早めに済ませてほしいけれど」
「…………」
その早く済ませるが『ドーマウスの帰還』なのか、『テレジアの殺害』なのか、モーターには判断がつかなかった。
この上司は、キチンと自分を殺してくれるならそれでいいと考えている節があるからだ。
どちらであるかは、テレジアの表情からは窺えない。
「ところでモーター。一つ頼みがあるのだけど」
「何だ? 迎撃に出ろってか?」
「少し違うわ。ミリアーヌの方の護衛に回ってほしいのよ」
「…………は?」
一瞬、モーターはテレジアが何を言ったのか理解できなかった。護衛を遠ざけている発言やレベルアップ発言よりも、それはモーターの意図を外れるものだ。
「遊び疲れて客室でお昼寝中のはずだから、巻き込まれないように守ってあげて」
「こういうときこそあんたの傍にいるべきじゃないのか?」
かつてテレジアは言った。『私を利用して<終焉>を動かそうとする者を排するのも、私を中途半端な力で殺しに来て殺せもしないのに防衛機能を刺激するモノを弾くのも、眷属の仕事』、と。
ならば、今日は自分の仕事をするときなんだろうなとモーターは考えていた。
「構わないわ。今この城で一番非力なのはあの子だから。巻き込まれて死んでしまうかもしれないし、私はそれが怖いの。スラルはさほど護衛に向いてもいないから、お願いね」
「俺が離れてあんたの方は大丈夫なのか?」
「ええ。言ったでしょう。レベルアップしたもの。それに眷属のあなたより【邪神】の方がずっと強いわ」
「へっ、そうかよ」
そうしてテレジアの命を受け、モーターは部屋を後にする。
「お友達のお嬢ちゃんを安全な所に送ったら戻ってくるからな。その間、精々気をつけな」
「ええ。お願いね、モーター」
テレジアはヒラヒラと手を振り、モーターを見送る。
そして自室の扉が閉じ、モーターが離れた後……。
「……行ってくれたわね」
『彼を逃がせた』、とテレジアは息を吐く。
テレジアは、既に理解している。
今日、ここに来ている敵は半端な相手ではない。
彼女を確実に殺せる敵であり、モーターでは壁になることもできずに死ぬだけだ。試す意味すらもない。
それを察したからこそテレジアはモーターをこの場から逃がし、ミリアーヌを任せた。
どちらも、巻き込まれて死ぬのは可哀そうだと思ったから。
【邪神】は《真偽判定》の対象外。
ゆえに、【邪神】の嘘は分かりにくい。
「……色々準備してもらっていたけど、無駄にしてごめんなさいね」
一人になった部屋で、テレジアはモーターに詫びた。
準備とは、モーターがテレジアに命じられて行っていたことの一つ。
彼女が【邪神】とバレたときのために、彼女を殺せないものに命を狙われ続けることになったときのために、外で生きる準備だ。
それを今、無駄だったとテレジア自身が言ったのだ。
「あら……」
すると何かの拍子に空間の繋がりが変わる。サンダルフォンの必殺スキルが発動したためであるが、テレジアはスラルを介してそれを把握していた。
これではモーターが戻ってくるのも大層手間取るだろう。
しかし、それでいいとテレジアは思った。
そのまま、テレジアはベッドに座して暫し待つ。
やがて城のどこかから破壊音が響く。
正面からやってきた侵入者は、少しずつ城の奥へと近づいている。
「…………」
先の講和会議に合わせて行われた襲撃と、今回の襲撃。
どちらもその中心に自分がいるのだと、テレジアは思っている。
渦中で消えていく命を……自分の中に流れ込むリソースで感じ取る。
その度に、テレジアは思うのだ。
彼女を殺そうとしている者達の考えは、間違いではないと。
【邪神】の討伐こそが、この世界にとっての正義なのだ。
『自分の正しさを選ぶ男』と『世界の悪を選ぶ男』は彼女の生を肯定していたが、他ならぬ彼女が自分を肯定しきれない。
だからこそ、今の彼女でも幽かに感じる力の源……自分を殺すために近づいてくる存在によって殺されても、『仕方ない』と考えている。
彼女としても、自分が完成して姉達と友人を殺してしまう未来や、姉の命と引き換えに殺されてしまう未来よりは、第三者に自分が殺された方が遥かにマシなのだから。
そのように自身の死を半ば受け入れた心持ちでテレジアは待つ。
やがて、彼女の部屋の扉が開き――。
「――ごきげんよう、テレジア殿下。私はヴォイニッチ」
――部屋に入ってきたのは、大鎌を抱えた道化師だった。
「…………」
名乗った道化師……ヴォイニッチに対して、テレジアは特に感情の動きを見せない。
ただ、『こっちじゃない』とだけ思っている。
「私のことは御存知でないでしょうが、私は貴女を護るためにここまで来ました」
「知っているわ。私のファンクラブだった人ね」
(……あ、認知されてるんですね……)
公認か非公認か曖昧な公認クランだったが、組織内の内訳含めて推しに把握されていたらしい。『これを知ったらメンバーの皆さん喜びますかね?』などと裏切者は考える。
「そしてカルディナのスパイでしょう? きっと私に育ってほしい人達の仲間ね」
「子供が健やかに育つことを願わない人も少数派でしょう」
ヴォイニッチは誤魔化すようにそう述べるが、内心では『想定よりこちらの内情が把握されていませんか?』と少し戸惑った。
「今はお城の中が大変だと思うけれど、よくここまで来られたわね」
「いえいえ、殿下を護るために馳せ参じただけですよ」
涼しい顔をしているが、実際は人海戦術と凄まじい頭脳労働の結果である。
《天死領域》の支配下に置かれた城の中、《視天使》を四方八方に飛び散らせ、それらが集めた情報から脳内でマッピングし直し、最短かつ城内で交戦中の連中に引っかからないルートを設定して超音速機動で駆け抜けてきたのだ。
常人なら血管が破れるような頭の回転を要求される行いだ。
ヴォイニッチとしても水面下で必死に足を漕ぐ白鳥の如き心境である。
「さて、御理解されているでしょうがこの城は危険です。私と共に脱出しましょう」
「…………」
「御心配なさらず。如何なる危難からも私が貴女を護りますよ」
「そう」
状況と風貌も怪しさしかないヴォイニッチに対しても、テレジアは動じない。
彼の目的を考えれば、それは本心であろうと思っている。
だが、そんなことは重要ではない。
「私を護るというけれど……」
いつからか、テレジアの視線はヴォイニッチの方を向いていない。
なぜか、彼とは少しズレた場所を見ていて……。
「それって、あなたの隣にいるヒトからも?」
「?」
ヴォイニッチはテレジアの指差した先……自分の左隣を見る。
そこには何もいない。
室内を俯瞰して監視中の《視天使》も何も映していない。
「……これはこれは。古典的なおどかしですね」
まるで子供を怖がらせる怪談のようだと、ヴォイニッチはわざとらしく苦笑してみせる。
「?」
しかし、不意に気づく。
スキルが、《飼の宣告》が発動している。
それが意味することは簡単だ。
たった今、彼は死んだ。
「……!?」
ゾッとするものを感じなら、ヴォイニッチは飛び退く。
何も見えない、聞こえない、触れた感触すらもない。
しかし、理解してしまう。
何の前兆もなく、何の余韻もなく、自分は殺されているのだ、と。
「……殿下。私の隣に、何がいたんですか?」
「私にもよく見えないわ」
ヴォイニッチの問いに、テレジアは正直に答える。
そして……また指差す。
「でも、今は隣じゃなくて後ろね」
「!?」
ヴォイニッチは再度動くが、その直前にまた死んだ。
その度に、王都のどこかで<マスター>が突然死する。
(ダメージじゃない! 【暗殺王】の最終奥義のような問答無用の即死現象……! しかしそれを私は一切感知できていない……! ……ッ、そうですか、これが……!)
自らを襲う『死』に、ヴォイニッチはもう一つ理解する。
議長が《飼の宣告》の機能を開放しておけと言った理由はこれなのだ、と。
「どうして私にしか見えないのかしら? ここまですんなり来られたのも、誰にも、何にも、気づかれていなかったからでしょう?」
戦慄するヴォイニッチを他所に、テレジアは彼には見えない何かに話しかける。
ヴォイニッチからすれば、テレジアの独り言にしか見えない。
だが、ヴォイニッチも既に理解している。分かっている。
ソレは、ここにいる。
『――恐れているから』
――いるからこそ、ソレは応えた。
ソレの言葉はテレジアにしか聞こえない。
ヴォイニッチには欠片も伝わらない。
答えにしても、答えになっていないような言葉。
しかし、ソレにとっては明確な回答に他ならない。
『生きているものは僕を恐れる。だから僕を直視できない、気づかない。死を知らぬ機械は、そもそも僕を理解できない。僕を実感できるのは、心身を病み、苛み、僕を無視できなくなった生者だけ。死を受け入れた者達だけ』
「…………そう」
受け答えながらも、語る相手の姿をテレジアは確認できない。
ヴォイニッチやソレを素通りさせた者達と違い、『いる』ことは認識できる。
会話も、こうしてできている。
だが、それ以上が認識できない。
眼前に『いる』人物の容姿が分からない。
隠れもせずに目の前に立っているはずなのに、情報が脳に入らない。
年齢が分からない。性別が分からない。身長が分からない。美醜が分からない。
空間に人型の輪郭がぽっかりと浮いているような曖昧さ。
聞こえてくる声は若く思えるが、それは人間の声に混ざるはずのノイズがない……非人間染みて澄んだ声だからだろう。
(……まるで、空気と話しているみたい)
人型の空気の塊がそこにあるかのような幻想。
実際には、そこに生きた人間が立っているはずなのに。
いや、本当にそうなのだろうか?
これは、本当に……ヒトなのか。
【邪神】である彼女すら、初めて体感する異常。
だが……。
(けれど、どこかで……)
彼女の記憶……欠けながらも引き継いできた【邪神】の記憶のどこかが、眼前の相手に対して既視感を覚えている。
「――あなたは誰?」
視線の先にある気配に、【邪神】から見てもなお異常なソレに、尋ねる。
ソレは、やはり応える。
否……宣告する。
『僕は君達の――『死』だ』
ソレこそが――【死神】。
To be continued
(=ↀωↀ=)<明日は書けていたら投稿します
(=ↀωↀ=)<なかったらお察しください……
〇ヴォイニッチ
(=ↀωↀ=)<見えず聞こえず感じず即死連打してくる
(=ↀωↀ=)<そんな相手からテレジアを守り切ってください
( ꒪|勅|꒪)<クソゲーかナ?
〇【死神】
(=ↀωↀ=)<…………
(=ↀωↀ=)<【死神】がおかしいんじゃない
(=ↀωↀ=)<死神がおかしい




