第一二三話 似て非なるもの
(=ↀωↀ=)<先週は休載でお待たせいたしました
(=ↀωↀ=)<こちら21巻のカバーとなります
(=ↀωↀ=)<マリーは4巻以来のカバー担当となります
(=ↀωↀ=)<これでメインキャラで最も長くスパン空いたのがルークになりました
(=ↀωↀ=)<ちなみに彼はメイン服の成長に伴う衣装チェンジ挟むので
(=ↀωↀ=)<多分戦争一日目の墓標迷宮まで挿絵に出てこないでしょう
(=ↀωↀ=)<今回も挿絵候補に挙がったものの
(=ↀωↀ=)<「でも新規キャラデザ出すならメインの巻でやりたいよね」で選外です
(=ↀωↀ=)<さて今回の新規キャラデザは三名ですが
(=ↀωↀ=)<三人全員当てられたら本当にすごいと思うのでよろしければ挑戦してみてください
(=ↀωↀ=)<ヒントを出すと一人は既存キャラのバリエーションです
(=ↀωↀ=)<さて、休載している間に作者は21巻店舗特典SSやあとがきの作業をしていました
(=ↀωↀ=)<今回の店舗特典は二種類で
(=ↀωↀ=)<メロンブックス様とBookWalker様になります
メロンブックス様:女装の理由 (キャンディとゼクスとガーベラ)
BookWalker様:東方勇者放浪記:滅丸ノ章 (【勇者】VS【ホロビマル】)
(=ↀωↀ=)<BookWalker様の特典は電子書籍なので毎度ページ制限はないのですが
(=ↀωↀ=)<今回は気づくと文庫換算で36ページ
(=ↀωↀ=)<本編換算で二、三話分の文字数になっていました
(=ↀωↀ=)<面白いものを書けた自信はありますのでお楽しみいただければ幸いです
(=ↀωↀ=)<ちなみに来週は漫画版12巻SSの締切ありますが
(=ↀωↀ=)<本編もちゃんと更新できるように頑張ります……
(=ↀωↀ=)<それ終わったらAC6の二周目やるんだ……
( ꒪|勅|꒪)<ちゃっかり一周はクリアしてんじゃねーカ
■【喰王】カタ・ルーカン・エウアンジェリオン
俺がその<マスター>の名前を初めて意識したのは、<パレス>での世間話。
クランメンバーと、なぜかフランクリンが一人の<マスター>について話していた。
俺自身はその話に加わらなかったけど、何やら騒がしくも楽しく、なんだか羨ましそうだったメンバー達の顔は覚えている。
それが気になって、エリートにその<マスター>の情報を教えてもらった。
元々マークしていたみたいで、情報はすぐに出てきた。
王国の<超級>の弟だとか、他の<超級>や決闘ランカー、有名PKと関係が深いとか、王国の重要人物達とも関わりがあるとか、そういう付加情報はどうでもよかった。
俺が気になったのは、その<マスター>の来歴だ。
ログイン初日、【デミドラグワーム】から幼い少女を守った。
封鎖事件の後、伝説級の<UBM>から商隊を守った。
国境地帯にて、悪名高い山賊団から子供達を守った。
ギデオンにて、フランクリンの陰謀から第二王女を守った。
トルネ村にて、復活した古代伝説級の<UBM>から村を守った。
カルチェラタンにて、【魔将軍】や先々期文明の兵器から街を守った。
講和会議にて、あの【獣王】を相手にして第一王女を守った。
そんな彼の短くも厚い、歴戦の逸話を聞いて……俺は思った。
思わざるを、得なかった。
――ああ。彼は間に合って、守り続けたんだな、と。
それは、何も間違えなかった自分を見ているようだった。
助けるべき人を助けられて、愚かな行為もしなかった自分だ。
思ってしまう。
きっと自分だけじゃないだろう、と。
メイデンの<マスター>は、この世界の命を、命と知る。
喪われる命は大切な誰かかもしれなくて。
そうなれば、メイデンの<マスター>は耐えられず、何かしら狂う。
けれど、“不屈”の彼は折れていない。
それは折れない強さがあったのか。
折れるような出来事に直面していないのか。
俺にとってそれはあまりに眩しく、羨んで、死にたくなる。
だから、俺はこの思いに蓋をした。
死ねないから、生きなければならないから。
かつての思いと同様に、仕舞い込んだ。
それだけでない感情も……諸共に。
◇◆◇
けれど心の蓋は開き、何者かに幽かな希望を見せられて。
そして――出会ってしまった。
◇◆◇
□【聖騎士】レイ・スターリング
ティアンの人達に届く勢いでプラントに飛び込んできた巨獣の突進を《カウンター・アブソープション》で止め、反撃を叩き返す。
『■■■……!』
顔面の半分を衝撃即応反撃で消し飛ばされた巨大な白い獣――【喰王】と融合した<エンブリオ>のガーディアン体は大きく仰け反っている。
「――探求開始」
だが追撃はせず、一言のみの宣言の後、後方に跳んで【喰王】から距離をとる。
このまま至近距離にいるのはマズいという直感。
それは正しく、獣の顔面の傷痕から血が零れ――それが床に落ちる前に小型の肉食恐竜を思わせるモンスターに変わる。
『GIGIGI!!』
「《煉獄火炎》、《地獄瘴気》!」
飛び掛かってくるモンスターの群れを毒で鈍らせ、炎で焼き散らす。
耐久力とHPは然程でもないらしく、【瘴焔手甲】のスキルで対応できる。
しかし血の散布で発生したモンスターは俺だけではなく、プラントの奥……ティアンの人達も狙って動いている。
「レイさん、こちらは僕が!」
だが、俺の危惧をすぐに察したルークが前に出ていた。
リズを蜘蛛の巣状に展開。斬撃の結界と化して近づくモンスターを八つ裂きにしている。
さらにタルラーが呪いを照射し、群れの勢いを抑制していた。
これなら、心配は要らない。
「え? うえええ!? あれカタ!?」
なお、そんなルークの後ろでは《看破》で白い獣を見たパレードが素っ頓狂な悲鳴を上げていた。
「え? しかもなんか白くない? 模様とか毒とかついてるけど、白い獣じゃない? 《竜王気》とか纏ってない? まさか殿下の探してた下手人って……カタ? ……あああああああ!? あそこで殿下呼ぶんじゃなかったぁあああああ!? どの道いまはビフロスト使えませんけどぉおお!?」
「集中してるのでちょっと黙っててもらえます?」
何やらパレードが百面相しながら早口で慌てているが……対応はルークに任せよう。
『■■■ァ!』
そうして、俺達がモンスターに対応する間に【喰王】が再起した。
手当たり次第に床と壁を喰らい、そのリソースを使って顔面の傷を三割ほど癒やし、辛うじて顎のカタチを取り戻した顔で再度こちらに噛みつこうとしてくる。
奴の噛みつきは《カウンター・アブソープション》で防げる……が!
『スキルストックはあと三回だぞ!』
「分かってる!」
防ぐのではなく、左に跳んでギリギリで回避する。
ライザーさん達に聞いた話より、こいつ自身の動きが単純化している。
ガーディアン体になったがゆえか、あるいは本人の思考力が低下しているのか。
何より……。
「その身体、使い慣れていないみたいだな!」
戦争前の戦力分析で、【喰王】にあんな姿があるという情報はなかった。ライザーさん達が目撃したことで初めて明らかになったくらいだ。
何らかの理由で隠して、温存して、使わずにいた。
だからこそ、身体の使い方が人間のときほど上手くない。
全身に口を形成して手当たり次第に捕食することはできても、人間体と戦ったライザーさん達がされた『口の形成と集中を利用した身体構造の大幅な変形』をしてこない。
同程度に巨大な存在とのぶつかり合いならばともかく、それは対人戦では不利。
人間体のトリッキーさが失われ、戦法が体躯と牙、それに量産したモンスターでのゴリ押しに偏り、動きが読みやすくなっている。
だが、それらも含めた上で、俺が回避できている最大の要因は……。
『■■■、……!』
【喰王】は超級職。捕食による強化も重なり、俺よりステータスで勝っている。
しかし今、その速度は超音速に達していない。
見れば白い獣は全身を重度の状態異常に苛まれていた。
それはきっとアット氏達がやろうとしていたコンボ……アユーシの必殺毒を強化使用されたのだろう。
全身を蝕む必殺毒は継続ダメージだけでなく、ステータスにもデバフを与えている。恐らく、《衰弱》やそれに近い代物だ。
ステータスを著しく落とし、罹患した影響で動き自体も精彩を欠いている。
加えて、十六斎が使うと述べていた加重の必殺スキルは、彼がデスペナルティした後も遺っている。
恐らく、毒を浴びる前は加重をものともせずに超音速機動を使えていたのだろうが、ステータス低下によって再び影響が強まっている。止まるほどでなくとも、鈍るほどに。
防衛のために戦ったみんなが遺した爪痕――多重デバフ。
それによって超級職を凌駕したステータスを発揮するはずの【喰王】は、少なくとも速度に関してはこちらの領域にまで落ちてきた。
そしてその条件下ならば、俺は辛うじて回避できる。
『■■■!』
「ちっ!」
だが、倒し切れない。
衝撃即応反撃で顔面を半分潰したが、逆に言えば奴自身の攻撃を倍返しにしても奴の体積からすればその程度しか削れていないということだ。
尚且つ、身に纏った《竜王気》は先刻から《煉獄火炎》を寄せつけていない。
初手こそあちらから突撃してきたお陰で衝撃即応反撃が決まったが、通常の当て方ではまずあの護りに減衰されてしまう。
加えて、奴はダメージを与えても周囲を喰らい続けて損傷を回復している。
継続ダメージとの相殺を優先しているせいで瞬間回復の域には達していないが、現状ではこちらの攻撃の手が足りない。
ルークもリズでの援護を躊躇っている。餓竜の体躯とステータスならともかく、本体相手では斬断する前に口を形成されてリズを喰われることを警戒しているのだろう。
速度こそギリギリ対応可能なレベルまで落ちているが、大抵の防御を無意味にする攻撃と<超級>に相応しい耐久力は健在だ。
「…………」
そんな相手を、どうやって倒すか。
継続ダメージで死ぬのを待つのは……厳しい。
手当たり次第に捕食してダメージを抑え込んでいる。あれでは絶命までに幾らかの時間が掛かり……奴が死ぬよりも先に犠牲者が出る。
その前に奴を倒すならば……再生の余地なく一撃で消し飛ばす火力が必要だ。
それは、《シャイニング・ディスペアー》では足りない。
《瘴焔姫》でも《極大》と併用しなければ分の悪い賭けになる。
何より、それらはどちらも今は使えない。
『■■■■!!』
「ッ……!」
回避行動の中、一瞬だけ視線を手元のネメシスに移す。
今の黒大剣は第一形態の頃とは違う。特殊な形状をした黒い大剣であることは変わらないが、その刃の根元から柄にかけての形状が変化していた。
以前まではなかった部位が二種類ある。
まず、四つの涙状のオーブが取り付けられている。
その内の三つは白く輝いているが、一つは刃と同じ黒色に変色していた。
言わずもがな、《カウンター・アブソープション》を使用したためだ。
必要が生じた結果、残ストックの可視化がなされたのだろう。
そして、もう一種類の部位は……大剣の柄から延びた『帯』。
『帯』は黒旗斧槍の旗よりも細く、長く、幽かに揺らめいている。
黒大剣に付された帯には折れ曲がった線のような模様――何行もの文字列がある。
それは、今も少しずつ刻まれている。
「ネメシス」
綴られ続ける文字列を見て、俺は確かめるようにネメシスに声を掛けた。
『……ああ。前提条件は、十分に満たしているだろう』
分かっている。知っている。
奴が此処に辿り着いたということは、そういうことだ。
だから、あとは……。
「……?」
しかしそこで状況に変化が生じた。
『…………』
俺を喰らおうと追い回していた【喰王】の足が、唐突に止まっていた。
回復のためか手足の口でプラント内部を貪り食っているが、こちらへの攻撃が一時止まっている。
その場に立ち止まり、俺をジッと見ている。
『…………レイ、スターリング?』
【喰王】は、ようやく俺に気づいたかのように人の言葉を発する。
しかし、その声音にはどこか……疑問や発見以上の感情が伺えた。
『……それに、ここは』
床や壁を喰い続けたまま、首を回して周囲を見る。
まるで自分が今までどこで暴れていたのかも分かっていなかったかのように。
……そのこと自体に、不穏な気配がある。
『レイ・スターリングに、【魔王】、……こんなにティアンがいる。それに……パレード? 何でここに……』
「ひぃぃ!? 名指しされてるぅ!?」
その視線はこのプラント内にいる人々を視認し、やがてビフロストの前で懊悩していたパレードを捉えた。
『パレードがいるのは……裏切ったのか』
「即座に裏切りを確信されるとは人望がないですね」
「おだまりなさい! こっちはそれどころじゃないのですよぉ!?」
【喰王】はルークとパレードのやり取りに構うことなく、視線をティアンの技術者達と……俺に向ける。
『何でティアンと<命>が、パレードの<エンブリオ>で逃げていないんだ?』
「…………」
嘘偽りなく、疑問を含んだ声。
ビフロストの機能不全はこいつの仕業ではないらしい。
となると、先ほどの放送で【喰王】に語り掛けた方か。
『スキルの不具合? そうだとしても……飛んでしまえば俺からは逃げられただろう?』
【喰王】は施設内にある部品と……天井を見ながらそう述べた。
このプラント内で作られていた【セカンドモデル】のことは知っているらしい。
それに乗り、天井をぶち破れば離脱は可能と言いたいのだろう。実際、かつて【黄金之雷霆】はここの仮設天井を破壊してアズライトの下へと向かったらしい。
だが……。
「【煌騎兵】じゃないと、【セカンドモデル】の飛行機能は使えないんでな。あの人達の脱出手段には使えないんだよ」
技術者の中にはレベルや適性の問題で【煌騎兵】ではない人が大多数。
ルークのオードリーとて、全員は乗せられない。
その脱出プランは使えない。
『……それは君や彼だけなら逃げられるってことだろう?』
「…………」
『戦争の勝敗を考えれば、万が一にも君が落ちる訳にはいかないんじゃないか?』
言わんとすることは分かる。
互いの<砦>が落ちて一対一だが、同数なら先に落ちていた方が負けというルール。
このままタイムアップを迎えれば王国が勝利する。
しかしここで<命>である俺が倒れれば……王国は皇国の持つ残り二つのフラッグをどちらも落とさない限り勝利がなくなる。
一転して窮地に陥ることになる。
そのリスクを抱えながら、なぜここにいて……自分の前に立つのか。
「……勝敗については、お前の言うことが正しいのかもな」
『だったら何で残ったんだ? 勝利が惜しくないのか? 敗北が怖くないのか?』
「いや……。勝ちたいし、怖いさ」
問われるまでもない。
この戦争には勝つ。勝たなきゃいけない。
それは俺がこの世界に来た頃からずっと続いている皇国との因縁にケリをつける……というだけじゃない。
<墓標迷宮>では俺を守ってパトリオットさん達が、王都では俺を庇ってエフが、この<遺跡>でも防衛のために扶桑先輩やラング達が……散っていった。
そして、<デス・ピリオド>の仲間達……マリー、先輩、ふじのん、霞、イオ、アルベルトさんもこの三日間の戦いで脱落している。
そんな彼らに報いるためにも、勝ちたい。
そんな彼らの健闘を無為にしてしまうのが、怖い。
何よりも……。
――唯の一つの後悔もなく命を託せる。そんな相手はアナタだけだから。
「自分と王国の命運を託してくれたアズライトのために……俺は勝ちたい」
この国と友達のために俺は……勝つ。
そう思ったからみんなの力も借りて、俺はこの戦場に立っている。
『それって……ティアン?』
「ああ」
『…………そう。でも、そう思えるほど大切な人がいるなら、なおさらここに残った意味が分からないよ』
「そうかもな……」
【喰王】の言っていることは理解できる。
だけどさ……。
「それでも俺は、この人達を見捨てて……犠牲にして勝つのは嫌だ」
『……嫌?』
「ああ。そんな未来を自分から選んで、可能性を閉ざすのは――」
それはきっと勝利を逃すことと同じくらいに……。
「――後味、悪いだろ。俺も……あいつも」
それ以上の理由なんてない。
俺は嫌だったし、あいつの心にも傷をつけさせたくない。
だから、決めた。
「あの人達を守って、俺も生き残って、戦争にも勝つ。
そんなハッピーエンドの可能性を――俺は諦めない」
きっと今の俺達なら、望む未来も小数点の彼方ではないはずだから。
『――――――――』
俺の言葉を受けて、【喰王】は沈黙する。
壁や床を捕食していた手足すらも、いつの間にか止めている。
継続ダメージがその身を苛んでいるのに、気づいてすらいないかのように。
それを失念するほどの何事かを、俺が言ってしまったかのように。
『――そう』
毒の影響で吐血しながら、【喰王】は再び言葉を発する。
その声は口内で籠もり、重く、鈍い音をしている。
「……!」
その理由は、身体を蝕む毒のせいではないと察せられた。
声に、言葉に、これまでとは比較にならないほどに、感情が籠もっている。
『お前にも大切なティアンがいて……生きていて』
獣の両目は今までにない色を含みながら、俺だけを見ている。
そして……。
『――お前にはまだ、後味を気にする余裕があるんだな』
――その声は俺がこれまで聞いたどんな音よりも昏い重さを含んでいた。
To be continued
『何も間違えなかった自分』などではない。
根本的にレイとカタの在り方は別物だ。
それこそ、絶対に相容れないほどに。




