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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第七章 女神は天に在らず

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645/714

第一一八話 武力介入

(=ↀωↀ=)<漫画版58話が更新されました


( ̄(エ) ̄)<前回に引き続き俺無双クマ


https://firecross.jp/ebook/series/267

 ■???


 【魔砲王】最終奥義の爆発を機に、多くの事柄が動き出した。


 ◆


 ソレはこの地での戦いを観測していた。

 現時点において、両軍で唯一所在が明らかなフラッグである王国の<砦>。

 それを皇国が攻めることは必定であり、戦況の推移を観測することはソレが属する陣営においても重要であり、だからこそソレが此処に置かれた。

 極論、ソレが属する陣営にとっては王国と皇国のどちらが勝とうと問題はない。

 あるいは隠された争点の一つである【邪神】の生死すらも、どちらでもいい。

 その後の立ち回りが変わるというだけで、『この戦争及び【邪神】の生死次第で後がなくなる』皇王や議長とは違う。

 無論、『王国に勝ってもらった方が立ち回りやすくなる』ことや『【邪神】に生きていてもらえば第三プランも残る』といった事情はあるが、決定的ではない。

 陣営の第一プランは『怨敵の撃破』であり、第二プランは『怨敵の計画乗っ取り』だ。

 ゆえに、陣営はソレを此処に配して情報収集に努めさせるも、一日目(・・・)のように、あるいは異国で起きた戦いのように介入するつもりはなかった。


 その事情が変わったのは、一人の<マスター>の存在。

 第二プランの協力者……その候補になりうる一人がこの戦場にやってきたためだ。

 彼については他の協力者から十分な情報提供を受け取り、これまでに得た各種観測データからもその素性を把握している。

 既に引き入れた者達同様、境遇ゆえに状況次第では引き込める人材。

 至る(・・)かどうかも含めて、より詳細な観測を求められる状況。

 そして最終奥義の炸裂と格納庫の崩壊により、介入の余地が生まれた結果。


 阻むものに対しては介入も辞さないと、ソレにオーダー(・・・・)が下された。


 ◇◇◇


 □<遺跡>・プラント


 皇国の襲撃が始まってから、レイと彼を守るルーク、そして移動手段であるパレードはプラントに篭っていた。

 他にもアットやラングなど数名の<マスター>がプラント内部の防衛に回されている。

 さらには、もしもガーベラのような認識困難な<マスター>にここまで忍び込まれたときのために、今もルークがリズによって警戒網を張り巡らせている。

 それでも、優先防衛対象の一人であるパレードはソワソワと落ち着かない様子だ。


「うぅん、なんかヤバそうな気配ですしビフロストでさっさと逃げちゃいません? レイ君もここのティアンもまとめて王都までドロンできますよ?」

「……それは防衛線が破られるギリギリまでは待ってください。まだ、レイさんのシルバーの修理が終わっていません」


 彼らが、そしてティアン技術者達が襲撃の始まった後もこのプラントに残り続けている理由はそれだ。

 レイの乗騎であるシルバーの、あと僅かな時間で終わるはずの修理を済ませるため。

 シルバー担当以外の技術者はプラントが皇国勢に破壊されるリスクを考え、そうなる前に一騎でも多くの【セカンドモデル】を生産し、王国に残すために動き続けている。

 ビフロストという脱出手段が確保できているからこそ、ギリギリまで粘れる形だ。


「今後想定される状況を考えれば、レイさんの足であるシルバーは不可欠です」

「ですがねぇ、命あっての物種ですよ? <砦>だけ落ちる分には陥落までの時間差で王国の判定勝ちですが、レイ君まで落ちたら一気に形成不利なの分かってますぅ? ぶっちゃけ<砦>を損切りするのが一番ですって」

「分かっているから、レイさんもここに留まってるんですよ」

「……ああ」


 レイは、拳を握りしめながら頷く。

 王国の仲間達が戦っている状況で自分が待機している現状に耐えていた。

 本心を言えば、自分も迎撃に出たかった。

 また、今や一大戦力であるルークをここに留めておくことも惜しいと考えている。

 だが、普段とは話が違う。

 今のレイは落ちてはならない存在だ。

 命を賭して悲劇を覆すのが彼であれど、今はその<命>を賭される訳にはいかない。

 レイが直接襲撃を受けた墓標迷宮や教会での応戦はともかく、まだ防衛線が維持できている段階で<(レイ)>を出陣させるのは愚策だ。


「さっさと逃げましょうって。リスク管理は大切で……あいたぁ!?」

「グダグダ言いなさんな。もしものときは俺達が時間を稼いでやるからよ」


 ラングはパレードの頭を引っ叩きながらそう言い切った。

 彼がここにいるのはハレーを展開できる広い場所が限られていたこともあるが、何よりその性質ゆえだ。

 もしも準備が整う前にここまで攻め込まれたときは、ここに来た侵入者をハレーに閉じ込め、その間にパレードのビフロストで逃げる手筈になっている。

 他の<マスター>も同様……言わば捨てがまりだ。


「……シルバーの修理状況はどうですか?」

「最終確認中です! あと二十……十分もあれば!」


 技術者から返ってきた答えに、レイは呻く。

 あと十分。待つには短く、しかし状況からすれば長い時間。

 ジリジリと焦がされるような思いで、レイ達は時が過ぎるのを待ち……。


 直後、<遺跡>全体を揺らすような巨大な振動が彼らを襲った。


「地震……いや、爆発音!?」


 振動に遅れて、何かが大爆発するような音が伝わる。

 音源の方向は……格納庫だ。


「これは……!」

「あ、これ多分ヘルダインの最終奥義ですね。なんかヤバい威力だとは噂になってましたよ。生きてたんですねぇ……。この分だと<砦>もダメかもしれんね」

「それは……会議では聞けませんでしたね」


 微笑みを浮かべたルークの冷たい視線がパレードに突き刺さった。

 ヘルダイン生存の可能性をさっさと切り捨て、さらに最終奥義の情報も寄こさなかったパレードへの視線は冷たい。

 言外に『あなたやはり回し者なのでは? 僕の目を欺くなんて大したものですね』と告げていた。


「隠してた訳じゃなくて忘れてたんですよぅ!? アイ・アム・ノットスパイ! アイ・アム・ウラギリモォノォ!」

「胸を張って言うことですか……?」


 そんなやりとりを横で聞いていたラング達は『こんなガバい奴に今後の攻略wiki任せて大丈夫か?』と、不安そうな目をしながらアットに視線を送る。

 それに対して疲れた顔のアットは『実務は俺が何とかする……』と視線で応えたのだった。


「…………」


 そんな周囲のやりとりも、レイの意識にはない。

 彼自身は焦燥感に満ちた顔で、プラントからは見えない格納庫の方角を向いている。

 <砦>を守っていた仲間の安否を気遣うが、直後に『王国<砦>破壊』の判定が伝わったことで……その表情を苦しげに歪める。


「扶桑先輩……、月影先輩……」


 友人や仲間が前線に立つ中で、自分はそうできない……この戦争で幾度も味わったもどかしさ。

 すぐにでも自ら戦場に立ちたいが、その行為自体が仲間の健闘に泥を塗る二律背反。

 だからこそ、今のレイは拳を握りしめて……待つしかない。


『…………』

「…………」


 そんな彼の苦渋の表情を、修理の最終工程に入ったシルバーと……傍らに立つネメシスが見守っていた。


 ◇◆◇


 □■カルチェラタン地方・山岳部


「やれやれ、最後に月夜が威力を抑えてもこれか。危なかったな」


 フィガロは間一髪で砲撃を逃れた後、爆風によってかなりの距離を飛ばされていた。

 常人ならば死んでいただろうが、爆風に飛ばされながらも自らのダメージを最小限に抑えたのがフィガロという男の超人ぶりを物語っている。

 結果として、骨が数本折れる程度の軽傷(・・)で済んだ。


『フィガロか!』


 そんな折、フィガロの名を呼ぶ者がやってきた。


「やぁ、ライザー」


 それは寸前までヘルダインと交戦していたライザーだ。

 ヘルダインの最終奥義発動が防げなかった彼は、隣山の<遺跡>で炸裂した最終奥義の爆発を外部から目撃していた。

 そして爆風から離脱してくる人影に気づき、それを確かめるべく近づいてきたのである。

 なお、ライザーはそれが昨晩の会議にはいなかったフィガロであったことには驚いたが、あの爆発の中でフィガロが生存したこと自体には驚いていない。決闘ランカーとして付き合いが長い二人であるため、『まぁフィガロなら……』と妙な納得があった。


「君も無事だったのかい」

『ああ……だが、砲撃は阻止できなかった……』


 ライザーは悔やむが、フィガロは「相手が一枚上手だったってことさ」と慰める。


「仕方ないさ。それより君も僕も生きてるんだ。まだ内部で続いてる戦闘に加勢しよう」

『……ああ!』


 そうして、二人は並んで<遺跡>へと駆け出す。

 山一つ程度、彼らのステータスならば数分で移動できる。


『しかし、フィガロと肩を並べて戦う日が来るとはな』

「うん。これも、克服に付き合ってくれたハンニャ(冬子)のお陰だよ」

『最近のお前はすぐに惚気るな……。それと、お前らカップルはあまりリアルでの本名を言わない方がいい』

「そうだね。気をつけるよ」


 最近は決闘ランカーの模擬戦でも目撃されている二人のやり取りを思い出し、ライザーはやれやれとため息をつく。


(まぁ、その愛情深さが二人のモチベーションなのだろうが……)


 フィガロがパーティ戦闘を克服する特訓をしていたのと同時に、ハンニャもジョブスキルや<エンブリオ>に頼っていたのを改めようとしていたのを知っている。


(……愛、か)


 ライザーが想起したのはかつての……、いや、彼にとっては今でも自分達のオーナーである一人の男だ。

 【剣王】フォルテスラ。

 好敵手との決闘に血を滾らせ、仲間との共闘に燃え、そして一人の女性(ティアン)を情熱と共に愛した男。

 だからこそ、愛する人を失った後はライザー達のところに戻っては来なかった。

 彼の中の熱量は消えてしまったのだと、ライザー達にも理解できた。

 あるいは、その胸で再び燃えるものがあるとしても……その心の炎ははたしてかつてと同じ色であるのか。


『…………』


 なぜ、だろうか。ライザーは思考を巡らせていたが、不意に心で連想する人物が自らのオーナーから別の人物に切り替わった。

 次に浮かび上がった人物は、この戦争で相対した強敵……【喰王】カタ。

 熱というものを一切持たないように見えた、堕落する本能に流された食欲しか見えなかった男。

 自らと戦い、痛手を負わせ、多くの損害を与えたライザーすら、カタはその牙に掛けることなく立ち去った。

 あのときは目まぐるしい状況の変化に動転し、自らの両足も損なわれて身動きできなかったために見送るしかなかった。

 だが、今になって疑問に思う。

 なぜ、カタは報復しなかったのか。

 負の感情らしきものすら、パートナーである<エンブリオ>からしか見受けられなかった。

 カタは、ただ疲れた顔をして……こう述べただけだ。


 ――思考器官が潰れた<マスター>って、何もない暗いところに放り込まれるんだよ。

 ――精神的にしんどい(・・・・・・・・)


『…………』


 あるいはルークであれば、もっと多くを読み取り言語化できたかもしれない。

 だが、ライザーはそこに『何か違和感がある』程度が限界だ。

 『損害を受けても悪感情一つ持たなかったのは、その程度の瑕疵(・・・・・・・)を気にも留めないほど、深く大きな心の傷が既にあるためではないか』。

 『自分以外に……自分の心以外に何もない暗闇で何を見たのか』。

 そんなことまでは、考え至るはずもない。

 あるいは、カタ自身すらそのときは自覚していないかもしれなかった。


 どうであれ、このまま進めばライザーは再びカタと相対するだろう。

 フィガロもライザーも多少のダメージは負っているが、戦闘継続に支障はない。

 この時点で<遺跡>内部にどの程度の戦力が残っているかを二人は知らないが、プラント防衛線にこの二人が加わればカタとの戦いは決定的となるだろう。

 それこそ、身動きの取れないカタに《終極》を打ち込めばそれでケリがつく。



『――残照励起(Load)

 ――だからこそソレ(・・)が介入するならば此処だった。



『【天地隔卵 ホロウ・フォロー】――《不在鳥(あらずどり)の殻》』

「『ッ!』」


 遺跡を目指す二人の眼前に、薄い半透明の光の膜が生じる。

 ライザーは咄嗟に足を止め、フィガロは黒刀(オオイミマル)を抜き放って膜を切り裂かんとする。

 だが……。


「触れられない?」


 黒い刃が膜に触れるより速く、風にそよぐように膜がゆらめき、刃の鋒から逃れる。

 ならばと膜を無視して突き進もうとすれば、なぜか自身も膜に辿り着けず……走っても遺跡との距離が縮まらない。


『セカンダリオーダー、開始』


 周辺環境の変化に一瞬で警戒を強めた二人に対し、まるで機械で変声した声(マシンボイス)が掛けられる。


 二人が振り向いた先に立っていたのは、一人の怪人。

 フードを被り、外套でその身を覆い、顔すらも機械仕掛けの仮面(マシンマスク)を装着した、老若男女不明の……人かどうかすら定かでないモノ。


『こいつは……!』


 だが、ライザーはそれに思い当たる存在がいた。

 ルークより伝え聞いた、イゴーロナク追撃の最終局面で現れた謎の人物。


『狼桜を倒したという機械仮面か!』


 ソレは二人と同じく決闘ランカーであった狼桜を一蹴した……王国に敵する第三者。


 改変環境下自己進化理論実証機七九一九号。

 【賢者之証明者】。

 そして、皇国軍元特務兵団長モルド・マシーネ。

 数多の名を持つ二〇〇〇年の戦闘兵器がそこに在った。


 ◆


(状況確認)

(自陣営戦力確認)

(陣営の環境適合者である【猛毒王】は脱落)

(他の協力者は環境不適合者(非ランカー)であるため介入不可能)

(この戦場に投入可能な戦力は私と【水晶之調律者】七号及び付帯装備)


(敵陣営戦力確認)

(特記戦力【超闘士】フィガロ、他一名)

(装備強化能力と類稀なる戦闘センスで複数の<UBM>に由来する武器を使い分ける)

(即ち、私と類似した戦闘型)


(確認を完了)

(上記の条件により、私が適任者と判断。【水晶之調律者】からのオーダーを受諾)

特記戦力(フィガロ)への妨害行動を開始)

(空間希釈による特記戦力の隔離を確認)


(――協力者候補の変容(・・・・・・・・)を観測する時間を稼ぐ)


 To be continued

(=ↀωↀ=)<先々期文明(フラグマン陣営)はさぁ……


( ꒪|勅|꒪)<横から殴るの好きだよなあいつラ


(=ↀωↀ=)<議長が基本予知のドミノ倒しか、それができないときに圧倒的戦力でゴリ押すのに対し


(=ↀωↀ=)<あいつらは細かいタイミングで不意打ち介入してくるんですよ


(=ↀωↀ=)<あと地味にスカウト熱心



○パレード


(=ↀωↀ=)<最近は作中で重いこと考えすぎてるので


(=ↀωↀ=)<こいつのセリフ書くときは気分が楽


(=ↀωↀ=)<それはそうと近々息抜きのコメディSS書いて活動報告かAEに投稿します



○フラグマン陣営


(=ↀωↀ=)<この戦争は自分達の勝負所じゃないので後のために戦力確保や観測優先してる


(=ↀωↀ=)<「お客様の中に闇堕ちしそうな<超級>はおられませんか?」


(=ↀωↀ=)<「<超級>候補の準<超級>でもいいですよ」


(=ↀωↀ=)<ちなみに闇堕ち要素一切ないスプレンディダも協力者にいる


(=ↀωↀ=)<彼の場合は遊技派過ぎたんだ……



○モルド・マシーネ


(=ↀωↀ=)<戦力として使い勝手いいので早速【水晶】(と作者)にこき使われる


(=ↀωↀ=)<「一番やばい奴(フィガロ)まだ生きとるやんけ! 足止めせな!」(【水晶】と作者の声)


(=ↀωↀ=)<なお、モッさんは戦力的には『それなりにウォームアップしたフィガロ』くらい


(=ↀωↀ=)<出力よりも万能性でフィガロに勝るタイプ


(=ↀωↀ=)<ちなみに二日目の間にキャサリン金剛から受けたダメージは修復しています

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえば、【勇者】の《全連結》なのですが、もしサブジョブに【記者】を取った場合《ペンは剣よりも強し》が強制的に発動するのでしょうか?
[一言] カタ狙いかな?
[一言] これだからフラなんとかは!
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