エピローグA 星明りの下で
(=ↀωↀ=)<昨日(24時含む)四話更新してるのでご注意を
(=ↀωↀ=)<区切りの問題で短めエピローグ
(=ↀωↀ=)<このエピローグ後に他のエピローグを連続更新です
□■カルディナ某所
夜の砂漠を、一艘の砂上艇が進む。
その船の舵を握るのはラスカルであり、隣の座席にはいまだ目を開かないマキナの姿がある。
既に身体を侵食していた光は消えているが、侵食中の負荷が高かったのかまだ目覚めていなかった。
ラスカルは船を操縦しながら、しかし時折……心配そうに彼女を見ていた。
そんな折……。
「……ぅ……」
回復したのか、マキナは身動ぎした後……左の瞼を開けた。
「えっと……ここは……?」
「……ようやく目が覚めたか、ポンコツ」
目覚める前の心配などおくびにも出さず、ラスカルはいつものように彼女に接する。
ただ、内心には安堵があり……声は自覚なく僅かに震えていた。
「……? …………あ! <UBM>に……ど、どうなったんですか!?」
「落ち着け。順を追って説明する」
自らにしがみついてくるマキナを鬱陶しそうに左手で押しのけ――けれど僅かに口角を和らげながら――ラスカルは説明する。
「件の<UBM>、【フーサンシェン】は倒した。俺の独力ではないし、外部に手の内を明かすことになったがな」
「よかったぁ……」
「……しかし、その後に一つ問題があった」
「問題?」と首を傾げるマキナに対し、ラスカルはその光景を思い出す。
◇◆◇
□■【フーサンシェン】撃破直後
【<UBM>【百棄弥光 フーサンシェン】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【ユーゴー・レセップス】がMVPに選出されました】
【【ユーゴー・レセップス】にMVP特典【百折不撓 フーサンシェン】を贈与します】
そのアナウンスは、この場の誰もが望んだものだった。
それこそは、<UBM>の討伐を保証するもの。
即ち、悲劇の終焉に他ならないのだから。
「終わっ…………たぁ!」
溜まった感情を吐き出すようなソニアの声。
カルル、『獅子面』、【ベルドリオン】との連戦は彼女と<童話分隊>にとっても最大の困難だったのは間違いない。
「おつかれさん」
「あ! グリムズ! アンタなんで最後にクトーニアン切っちゃったのよ!」
「切れたんだよ人聞き悪ぃな!? つーかこっちまだ第四だぞ!? あんなもんを数分止めただけでも大金星じゃねえのか!?」
「…………」
「『二人はマイペースだね』です。……いえ、創造主様も大概では?」
そんな<童話分隊>のやり取りは、戦いが終わった後の緩んだ空気を象徴するようなものだった。
だが……。
『――総員離脱!!』
『――離れろ!』
ラピュータのグレイと【ヴィドス・グランゼラ】のラスカルから、異口同音の警告が発せられた。
共に機動兵器の内部でセンサーに目を向けていたからこそ、二人は気づいたのだ。
【フーサンシェン】を失い、再び身体を動かす頭脳を失った【ベルドリオン】。
その体内で――注ぎ込まれたままのエネルギーが暴走し始めている。
頭脳による制御を失った莫大な魔力の暴走。
それが【ベルドリオン】の機能を過剰稼動させる現象。
即ち、<アクシデント・サークル>。
「ッ!」
【ベルドリオン】を中心に歪み始める空間から、<マスター>達は一目散に離脱する。
しかしその中でたった一人、離脱が間に合わない者がいた。
『ユーゴー!!』
ベルドルベルが呼びかけた青年……ユーゴー・レセップス。
【ベルドリオン】の胸部に肉薄し、零距離攻撃で【フーサンシェン】を仕留めた彼だけは……もはや逃れることが叶わない。
「――あ――」
一瞬の後、巨人の残骸はユーゴーの白い機体と共に――何処かへと消え去った。
行く先が土の中か、水の中か、……虚空の果てかさえも、今は誰にも分からなかった。
◇◆◇
□■カルディナ某所
「そんな訳だ」
ラスカルの経緯説明に、マキナは「ほへー」と驚いた顔だ。
「緊急脱出機能の再発動くらいは考えてましたけど、……<アクシデント・サークル>になるってどんだけのエネルギーだったんですかその<UBM>。四号に積めてたらな~……」
「やめろ。地獄だ」
【フーサンシェン】の玩具になった【ヴィドス・グランゼラ】など、【ベルドリオン】以上に世界の危機である。
「……ともあれ、その後は混乱の中でその場を離脱した。あちらも俺が指名手配されているとはいえ、追う余裕はなかっただろうからな」
「結局、ベルドリオンは回収できなかったですねー……。ご主人様も私も大変でしたし……これが骨折り損の草臥儲けってヤツですね……」
マキナがトホホ顔で俯く。
「ベルドリオンは消えたが、逆に使われることもなくなったからよしとしよう。それに拾い物はあるぞ」
「え?」
そう言ってラスカルは船のデッキに何かを放出する。
それは焼け焦げた機械の残骸と、人に装着する機械甲冑だった
「これって……」
「【フーサンシェン】の手駒になっていたカルディナの新兵器の残骸と、ウィンターオーブのパワードスーツだ。何かの研究の足しにはなるだろう」
「うわぁ! 転んでもタダじゃ起きませんねご主人様!」
嬉しがるマキナに、ラスカルは笑みを浮かべる。
今回の事件の労力や情報アドバンテージの損失、加えてしくじったときのリスクを思えばまるで足りないが……良しとした。
「そういえば、ご主人様。うちの砂上艇ってこんなのでしたっけ? 妙に速いですし」
「ああ。半壊した【サードニクス】を組み込んだ」
「え!? うわ、マジでやってますね!?」
マキナが船の中を覗いてみれば、そこにはエンジン代わりになっている【サードニクス】の姿があった。
なお、【ヴィドス・グランゼラ】のときのように機体をそのまま組み込んだので、どこか所在なさげなサードニクスの頭部が伸びているシュールな絵面だ。
「後で取り出して改修しておいてくれ」
「はーい……。でも大分壊れてますし、時間も掛かりますよー?」
「だろうな」
そう言って、ラスカルはマキナの頭にポンと……優しく手を置いた。
「だが、マキナがいてくれるなら……できるだろ?」
ラスカルは真っ直ぐにマキナの一つしかない目を見ながら、そう告げる。
「…………」
マキナはその視線を受け止めて
「……もしかしてデレてます?」
生体部品の皮膚を赤くしながら、照れ隠しのように頬をかいた。
「このポンコツ」
「あっ」
ラスカルはそんな彼女の頬に手を添えて。
星明かりの下で……少しだけ顔を重ねた。
To be continued
(=ↀωↀ=)(この作者両思いになるとキスさせるよな)
(=ↀωↀ=)<ちなみにこの後は他陣営のエピローグですが、ユーゴーはエピローグないです
(=ↀωↀ=)<飛ばされた後にどうなったのかは再登場したときに……




