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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
蒼白詩篇 五ページ目 & Episode Superior 『命在る限り』
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第二十六話 白金百象赤心拳

(=ↀωↀ=)<19巻は9月1日発売


(=ↀωↀ=)<こちらで店舗特典情報もお出ししてますー


https://firecross.jp/info/565


( ꒪|勅|꒪)<テイストマンって誰だヨ……



○前回の前書き


(=ↀωↀ=)<感想のお陰でスペースが消える理由が判明


(=ↀωↀ=)<そうか。文章貼り付けて文頭をスペースしても見た目だけで実際はスペースにならんのか


(=ↀωↀ=)<最近はスマホでメモしてWordで清書する割合が増えていたのでこの問題が起きていたと思われます


(=ↀωↀ=)<教えていただきありがとうございました

 □■【円環綴道 ウロボロス】・一等客車


 空を駆ける列車の上、カーバインとブレンダの戦場。

 白金が躍り、紅い華が爆ぜる。


「…………」


 白金の鎧を纏うカーバインは鎧の肘から先を枝分かれ(・・・・)させて伸ばす。

 枝の先は刃や槍の穂先に変じ、四方八方からブレンダを襲う斬裂の投網。

 しかし、対するブレンダはそれに絡めとられない。

 触れられる前に自らの体表で爆発を起こし、その爆風による瞬間的な加速と不規則な軌道変更の連続で白金の腕を避ける。

 そして彼の死角に回り込むが、まるでそれを読んでいたように鎧の背中が膨れ上がり、無数の槍となって彼女を牽制する。

 それを彼女は瞬間的に自らを爆破でノックバックして躱す。


(隙がないわぁ)


 ブレンダ・フォーサイスは<Infinite Dendrogram>に適応したバトルセンスの持ち主。

 王国の決闘四位であるジュリエットの同類だ。

 自らのバトルスタイルを研鑽し、頭を回し、土壇場の直感にも優れる。

 しかしそんな彼女が、レベルでは『格下』であるはずのカーバインを攻めあぐねている。


(本当に、スライム(バケモノ)みたいな挙動するわねぇ)


 金属系スライムは高速かつ強靭なものが多いが、その中でも群を抜いている。

 槍を避けて後方に飛んだ彼女に向き直ったカーバインは、再び千変万化の両腕で今度こそ逃げ場を潰すように攻撃を仕掛けてくる。

 ブレンダは屋根から跳び、一時車外の空中に身を預け、爆風と共に大きく回り込むようにして再び車上に帰還する。


(こっちの爆撃もさほど堪えないくらいの強度と、この変形速度。でも、ベースの人型は常にあるから……やっぱり部分置換の<エンブリオ>?)


 人型の大半が維持されており、大きく変形するのは肘から先。

 既に推測したとおり、両腕の置換だと半ば確信する。


(背中が変形していたし、全身を覆う鎧は両腕の変形の余剰かしら。あと、ガードナーじゃなくてアームズね。視界外への対応……正面方向と比べて背面方向の攻撃が大雑把だもの)


 自律思考持ちのガードナー……スライムならば、前後の区別などない。


(ただ、アームズにしては速すぎる)


 カーバインは基本的にブレンダより速い。

 ヨハネスの三倍のステータスが加算されていても、爆発を加味しない純粋速度では上級職止まりのカーバインに負けているのが現状だ。

 あえて言うならば、カーバインの腕は迅羽のテナガ・アシナガより速い。

 無論、射程距離では大きく劣るだろうが、変形速度では勝っているのだ。


(上級職レベルのAGIで考えると速すぎるのよねぇ)


 <エンブリオ>自体が強度と変形速度に振ったとしても、それを扱う本人のAGIがある。

 ガードナー系列でなくアームズならば、尚更に本人のスペックが重要だ。

 補正を重視していたとしても、上級職止まりの彼がこれほどの速度で扱えている(・・・・・)ことに疑問がある。


(加えて、パワーもある)


 ここまで辿り着いた連続跳躍。あれも変形によるものだと察しがついた。

 この列車の破壊を試みたときのように、変形を利用した強力な一撃を円盤に叩きつけ……その反動(・・)で自分を飛ばしていたのだ。

 大地を蹴るように円盤を蹴る。その上で次の円盤に着地する際には、変形を使いこなしたクッションで衝撃を吸収していたのだろう。

 コントロール能力が余程高くなければこうはならない。


(強度、速度、出力。単品の<上級エンブリオ>で出せるかは微妙ねぇ。変形の多彩さと含めると余計に難しそう)


 ならば、何らかの縛りかコンボがあるはずだ。

 使用可能な時間か、負荷か、あるいは……ジョブや特典武具との組み合わせが。


(ジョブ……ジョブねぇ)


 そして、ブレンダは迫る白金の武器群を回避しながら、自分の戦闘経験から『もしかして』という予想に思い当たる。


(…………あの剣とか槍って武器(・・)なのかしら?)


 彼女の脳裏によぎった単語は、『素手ビルド』。

 『武器を持たない』ことを条件に発動可能なスキルを固めたビルドだ。


(どんな形に変形しても、あれらが『両手』に過ぎないのなら……)


 肉体置換のエンブリオの多くは、装備スロットを消費しない。

 即ち、千変万化の武器となる彼の両腕も、システム上では素手そのもの。

 素手ビルドの適用範囲内だ。


(素手ビルドでも【苦行僧】型じゃない。上級職までのステータスでガードナー獣戦士でもないならHPが足りないもの。【硬拳士】なら素直に強化されるけれど……ああ、そういうこと。あの鎧も防具じゃない(・・・・・・)のね)


 ブレンダは冷静に、目の前の現象を起こしうる相手の手札を読み解く。

 強度の鍵は、【硬拳士】の奥義、《我が拳、巌となりて》。

 素手に限り、ENDの三倍の数値を自らの両手の攻撃力と防御力に足し込むスキル。

 無論、彼自身のステータスは上級職相応のものだが……。


(あの鎧も<エンブリオ>なら、内側に防御力じゃなくてEND補正特化の装備で固めていればカンスト止まりでも結構上がりそうねぇ)


 それが答え。

 武器に限らず、防具も含めて二重に装備しているようなものだ。

 そこまで活かしているならば、この強度にも納得がいく。

 逆に、そうでもなければここまでにはなるまい。


(強度の秘密はそんなところ。あとは速度だけど……そっちも割れてるようなものねぇ)


 視界内の方が精緻に隙なく動く白金。

 視線の動きを隠すようなフルフェイスヘルム。

 加えて……。


(変形したものを振り回してるんじゃなくて、カタチを変えることそのものが攻撃)


 武器に変形したものをブレンダ目掛けて振り回しているのではなく。

 武器に変形するまでの経路(・・)にブレンダを置こうとしている。


(それが一番速いから。……ああ、そういうことねぇ。うん、その速さを参照するならこのスピードも納得だわ。素手ビルドとも合うし)


 これまでの攻防で見えてきたポイントと、素手ビルドの定石。

 それから導き出される答えを、ブレンダは察した。

 ゆえに、それを口に出して問いかける。


「――これ、あなたのイメージ(・・・・)と同じ速度で変形してるでしょ」


 彼が思い描いたカタチに、思い描いた瞬間に(・・・・・・・・)変わる両腕。

 思考速度、即ち変形速度。

 元から肉体よりも速い思考は、【哲学者】の《高速思索》によってさらに加速。

 彼の脳が描いたイメージに、寸分の遅れなく追従するマニュアル操作の極致。

 それが齎すものこそ、上級職と<上級エンブリオ>でありながら超級職や<超級エンブリオ>を凌ぐ攻撃速度だ。

 この最速の変形攻撃こそ、カーバインが辿り着いた素手特化ビルドの亜種。

 かつての戦争において、王国側で最も多くの<マスター>を倒した力。

 彼の戦う姿に、クランの仲間の一人はこう名付けた。

 白く輝き、数多のカタチ持つ、心のままに動く拳。

 


 ――白金百象赤心拳プラチナム・ハンドレッド、と。



「本当に思考と等速で変形できるなら……それがアナタの必殺スキルよね?」

「…………」


 自らの手の内を看破したブレンダに、カーバインは動揺を見せない。

 この戦いの中で、彼は常に冷静だ。

 より正確に言えば――自らの両腕のカタチを思い描くことに思考を集中している。


「ワタシだったら余計なこと考えて自爆しちゃいそうねぇ」


 そんなカーバインの強さを、ブレンダは理解していた。

 単に速度や強度に秀でているだけではない。

 変形の精緻さ、種類、対応力。

 何より、マニュアルとは思えぬ制御能力。

 いずれも自らのエンブリオを鍛え上げなければ到達できない領域だ。


「どれだけ特訓すればこうなるのかしらぁ? 実はリアルでもすっごい武闘家だったり?」

「……絵描き(・・・)だ」

「!」


 攻防の中、ブレンダの発した言葉にカーバインが答える。


(これまで制御に集中していたのに? リアルの話は無視できなかった? こんな<エンブリオ>だし、そこに自負か……見過ごせないトラウマでもあるとか?)


 彼の反応に驚き、推察しながらブレンダは会話を続ける。


「画家さんって意外ねぇ。こんなにバチバチにやりあえる画家さんいるぅ? 《高速思索》込みなんでしょうけど反応も良いし、ちょっと信じられないわぁ」


 あえて挑発を混ぜながらそう述べてみれば、カーバインは先ほどよりも長い言葉で応える。


「芸術家の想像力(イマジネーション)が、武闘家の反応速度(リアクション)に劣るとでも?」

「ワタシには分からない世界ねぇ」


 言いながら、嘘ではないのだろうと彼女は察した。

 自分には分からない世界があり、自分には分からない道理があり、しかし自分と同じ土俵で強さを発揮する。それを歴戦の猛者であるブレンダは理解している。

 そしてカーバインは上級職だが、間違いなくブレンダと同等かそれ以上の実力者。

 ブレンダもブラフの挑発はすれども、煽る気には微塵もならないほどに理解している。


 しかしそれでも……優位に立っているのはブレンダだ。


 どれほど多彩な攻撃を仕掛けようと、攻撃は全て同じ<エンブリオ>が変形した物理攻撃。

 拳だろうが剣だろうが槍だろうが、同じモノ。

 既にヨハネスが『カーバインの<エンブリオ>による物理攻撃』への耐性を獲得し、ブレンダにもそれが引き継がれている。

 どれほどに『手』を尽くしても、ブレンダには一ダメージも通らない。

 これまで多少の被弾こそあるが、ダメージは欠片もない。


(素手ビルドなら武器もない。怖いのは、絡めとられて動きを封じられた状態で【ジェム】とか使われることよねぇ。なるべく回避しないと)


 『耐性で自分は無敵だ』などと考えるほど、ブレンダはおろかではない。

 むしろ、最大で三つ……ほとんどの場合は爆発耐性で一つ潰れて二つしか耐性を持てない。

 だからこそ、相手の攻撃の何が大丈夫で何がマズいかを常に考えながら戦うスタイルだ。

 無効化されたメイン火力を目くらましや拘束に使いながら、【ジェム】などのアイテムで倒そうとしてくる相手には慣れている。

 既に自分の両腕が通じないことを悟ったカーバインも、それを狙っているからこそ包囲攻撃など仕掛けてきているのだろうとブレンダは考えていた。

 少なくとも……難攻不落のブレンダを殺す隙を狙う気配はズッと感じていた。

 ゆえに、思考する。


(仕掛けるなら……自分から)


 相手の準備を整える瞬間など待たない、と。


「芸術家なら、こんな言葉も知ってるわよね?」


 ブレンダはあえて言葉を発しながら、カーバインの攻撃を回避しながら周囲に配置していた魔法を起動させる。


「――『芸術は爆発だ』」

 ――直後、閃光と爆音が車上に拡散する。


 閃光弾(フラッシュバン)

 浮遊機雷に紛れたそれは、貯蔵されていた魔力を光と音の爆発にして解放した。

 それにはレーザーのような破壊力はない。

 だが、耳目を麻痺させるには十分だった。

 そして、光の中でブレンダが動く。

 相手の視界……彼女を捉えるイメージの源となるものを潰しながら、一気に距離を詰める。


「――――」

 ――だが、カーバインには視えている(・・・・・)


 耳目が使えずとも、彼は既に周囲の風景を心に焼き付けている。

 そこに自らの空想(<エンブリオ>)を変形させるイメージも含めて。

 ゆえに、彼のイメージ(高速変形)は損なわれない。

 何かを狙って近づいたブレンダを、白金の網が確と捉えた。


「!」


 そのまま網が有刺鉄線……否、槍の茨となってブレンダを貫こうとするが、やはりその攻撃は耐性の前には通らない。

 それでも、ブレンダはカーバインに捕らえられた。


(――クリア)

 ――カーバインに手が届く距離で。


(ここで止まるとは思ってたわぁ。見えないのを補うために広げすぎる(・・・・・)のも含めてね)


 強度と変形速度を併せ持つ液体金属の両腕。

 だが、総量(・・)には限度があるとブレンダは察していた。

 全身を守る鎧、プラス先ほどウロボロスを破壊しようとした巨大剣が最大量。

 それなりの物量だが……どこから接近するか視覚で確認できないブレンダを捉えようとして四方八方に広げ過ぎた。

 その分だけ――護りは薄くなる。


「起動」

 ブレンダの右手に光が灯る。


 カーバインが攻めあぐねたのはブレンダの持つ耐性ゆえ。

 ブレンダが攻めあぐねたのは――カーバインの防御を貫く準備を整えるため。

 ブレンダの耐性は完全だが、カーバインの防御力は有限。

 ゆえに、単純な火力でも貫く手段はある。

 既に準備は整った。

 ここからは、相手に火力(【ジェム】)を使わせる間も与えない。


「――カウント・ワン――」


 それは本来ならば設置型の魔法。

 自らの魔力を任意の量だけ注ぎ込み、爆発範囲と威力を設定する。

 そうして出来上がった光球を設置し、離れてから遠隔起爆させる。

 あるいは飛行魔法との併用で上空から投下する。

 そうした使い方の……上限値が高く、設定範囲が広いだけの『魔法爆弾』だ。


「……ッ!」


 この戦いが始まってからずっと、その『魔法爆弾』は彼女の右手にあった。

 彼女の持つ自らの魔法を隠す力……浮遊機雷にも使っていた特典武具の併用。

 戦いながら、カーバインの攻撃を回避しながら、彼女は只管に溜め続けた。

 カーバインの護りを確実に突破できるだけの魔力充填を終えるまで。

 本来であれば遠隔で起爆する魔法。

 それを自らの右掌――完全耐性を持つ体の表面で起爆。

 範囲は最小に、威力は最大に。

 完全耐性の掌そのものを『筒』として、指向性を持たせた上での零距離起爆。

 それこそは【爆裂姫】奥義にして、爆炎流星拳の絶招。


「――《爆心(グラウンド・ゼロ)》」

 ――爆炎が白金の鎧と網を食い千切った。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<決着まで行けるかと思ったけど間に合わなかった……


(=ↀωↀ=)<でも半分以上書けてるから六日ペースより早く更新できると思います


(=ↀωↀ=)<次は28日に更新


(=ↀωↀ=)<その次は9月1日にAEの方で19巻発売記念短編を投稿予定です



○カーバインの<エンブリオ>


(=ↀωↀ=)<腕部置換型のアームズ


(=ↀωↀ=)<基本は腕の形やプリセットした鎧の形に固定されてるけど


(=ↀωↀ=)<必殺スキルは変幻自在かつ超音速で変形する


(=ↀωↀ=)<しかし常人が使うと恐らくは溶けたり崩れたり自爆したりする


(=ↀωↀ=)<それをスライムもびっくりの使い方してるカーバインがおかしい


(=ↀωↀ=)<名前は次回


(=ↀωↀ=)<あと白金と書いてるけど色が白金なだけでプラチナではない



○ブレンダ


(=ↀωↀ=)<メスガキ系バトルマスター


(=ↀωↀ=)<クロレコ終わってなければそっちに出てた枠


(=ↀωↀ=)<両者空中戦対応で


(=ↀωↀ=)<マルチ属性&遠近両用VSマルチ耐性&遠近スイッチの戦いになる

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― 新着の感想 ―
カーバインさ、モノクローム編で出てきたソルクライシスのヴァーミンみたいに亀甲の構えと僧侶の五体投地結界を組み合わせて蹲った状態でスラストライクしたら最大威力の体当たりになったんじゃ無いの?ww まぁそ…
[一言] 芸術とは(哲学)
[気になる点] メスガキか。 ロリコンのカーバイン氏が新たな扉を開かないか心配だ。
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