第二十五話 爆炎流星拳
(=ↀωↀ=)<最近Wordに書いた本文をコピペしたときに
(=ↀωↀ=)<文頭の一字下げが消えてる率高いのが悩み
□■【未確認飛行要塞 ラピュータ】・中央正門エリア
トラクタービームのエントランスと繋がった中央正門は、ラピュータで最も細工を凝らされた厳重な作りの門である。
何よりの重大なことは、貴賓室に向かうために他の施設を介する必要がある他の門と違い最短で辿り着けるということだ。
しかし攻めてきた敵はこの門を使うことを選ばなかった。
(……敵は遠回りの西や東から侵攻。時間差でもない、か)
今、中央正門の前にはカーバイン一人が立っている。
ここが彼と、彼に同行した<AETL連合>の持ち場だったからだ。
敵手の侵攻が彼の守るエリアとは異なるエリアから始まったことを彼は悟った。
(庭園にも来ているようだが、そちらは何らかの事情で停滞している。……彼らのお陰か)
<童話分隊>の怪しい行動を見咎めたカーバインだが、それがこの状況で効果を発揮していることは理解した。
(後ほど、謝罪せねば。とはいえ……重要なのは今だ)
中央正門を無視した敵の侵攻と、継続する質量爆撃による足止め。
この状況に対し、カーバイン自身はどう動くのが最良か。
東か西への援軍に向かい、敵の侵攻を抑えるのが最も無難であろう。
ここを持ち場としていた他のクランメンバーは既に分散して向かわせた。
彼自身は他が囮でここに本命が来る可能性も考えて控えていたが、それもない。
であれば、彼もメンバーの後を追って急行すべきか。
彼ならばすぐに追いつき、追い越し、東西どちらにでも加勢に赴ける。
しかし、その選択は否だ。
(どちらにせよ、この状況が続けばいずれ詰む)
カルディナの謀略で無法地帯と化したウィンターオーブ領から脱出しなければ、敵はいくらでも戦力を送り込める。
対して、ラピュータ側は戦力が補充できない。
いずれは守る者が全滅し、姫君達を害される。
その状況を覆すのであれば、相手の戦略の要を崩さねばならない。
(グレイは、あの列車型がこの状況の原因だと言っていたな)
この地方に閉じ込めているのがウロボロス。
それだけではない。
(質量爆撃の主は<セフィロト>のイヴ・セレーネ。列車型の動きを見れば、奴もあれに同乗しているのだろう)
ウロボロスは今もラピュータを中心に据えた軌道で周回している。
イヴの使う車窓を常にラピュータに向け、爆撃を継続するためだとカーバインも悟った。
(守るだけでは絶対に負ける。誰かが攻めなければならない)
そして、それを成せる者は少ない。
西棟のベルドルベルも、東門の合体<エンブリオ>も、庭園の<童話分隊>も、どちらかと言えば防衛戦を得意とする者達だ。
少なくとも、宙を超音速で駆ける列車を落とす力はない。
それができる迅羽は不在であり、グレイは阻止されている。
ゆえに……。
(――可能なのは、私だけか)
――今ここで成せる者は彼しかいない。
(それは分かっている。だが……)
カーバインの懸念は自分がここを離れた後。
東西より迫る敵がいる。あるいは空になったここを通る者もいるかもしれない。
その毒牙が守るべき王女に届く前に、彼は自らの目的を果たせるのか。
彼がいなくなった後、誰が王女を守るのか。
「……フッ。分かりきっていることだな」
王女の傍には……皇子がいる。
<童話分隊>に尋ねられたときは半ば冗談(半分本気)で誤魔化したが、真意は異なる。
自分の目で確かめて、分かったのだ。
あの皇子ならば彼女を……カーバインがかつて見た美しい笑顔を守ってくれるだろう、と。
ゆえに、彼女を守る最後の盾はカーバインではない。
カーバインの役目は盾ではなく……矛だ。
かつての戦争で王を守れず、代わりに皇国の<マスター>を数多く殺したように。
「…………」
カーバインは、天空を周回する列車型を見上げる。
二等客車を切り離したことで、ウロボロスの走行速度は更に増している。
「相手はこちらとの距離を維持。速度は音速の二倍強」
空を渡る手段がなければ辿り着けず、音速を凌駕しなければ追いつけない。
そんな天空の鉄道に対して、カーバインは……。
「行けるな」
冷静に、そう述べた。
そして通信装置を介し、この飛行要塞の主に呼び掛ける。
『道』を作るために。
◆◆◆
■【円環綴道 ウロボロス】・一等客車
「流石に楽勝とはいかないわよねぇ。大変そうだわぁ」
<メジャー・アルカナ>の一人であるブレンダは、ウロボロスの車窓からラピュータの様子を眺めつつ感想を口にする。
ラピュータを中心に据えてグルグルと回っているため、対応できる視力やAGIがあれば戦場の様子も目に入る。
庭園では足止めを受け、東門では桔梗によって桔梗ともう一人を除いて全滅した。
「意外にもあの食べかすちゃん担当の西門が一番順調なのよねぇ。まぁ、門を潜った先にひっどい罠とかある気がするけどぉ」
ブレンダの予感は正しく、西門から乗り込んだ五号車の人員はベルドルベルによって一気に壊滅状態に陥っている。
「入り口でかなり削れてるのよねぇ。あっちの<超級>二人は押さえてるらしいけど、相手が他に同格の戦力を伏せてたら全滅しちゃうかも」
もしもそうなったときはこの無法地帯にラピュータを閉じ込めたまま、第二陣を派兵することになる。
ブレンダの役目は、それも含めた作戦完了まで要であるウロボロスを守り切ることだ。
「…………」
ブレンダは視線を自らの傍らに立つ鎧の騎士……ガーディアンのヨハネスへと向ける。
鎧の胸元には三つのシールドマークが並び、左だけ色が白く、後の二つは赤い。
これは必殺スキルの残り回数を示している。
「あと二回。リセット含めて五回。……足りるかしらねぇ」
アルテミスによって防戦一方に陥っているラピュータが反撃を行ってきたとしても、二回もあれば防ぐことはできる。
だが相手はラピュータだけではない。
ブレンダはマテルとは違う。<超級エンブリオ>や超級職以外は自分達に及ばぬザコなどと、無謀な慢心を抱かない。
「ジョブや到達形態がどうであれ、強い人は強いものねぇ。……あら」
ブレンダがそう呟いたとき、ラピュータ側に動きがあった。
ラピュータから射出されたのは円盤大隊だ。
まだ在庫があったのかという思いと、それを出してどうなるという考えがブレンダの脳裏をよぎる。
既にレーザーは効かず、ぶつけようにも近づけばブレンダが爆破する。
そもそも爆撃に晒される状況では精密なコントロールはおろか、まともに飛ぶことも叶わない。
円盤はフラフラと飛びながら、しかしラピュータとウロボロスの中間でアステロイドベルトのように漂っている。
低速移動中のラピュータに追従はしているようだが、それだけだ。
近づけば破壊されるだけとはいえ、不可解な配置だ。理解に苦しむ者の方が多いだろう。
「あはっ♪」
だが、ブレンダは理解していた。
ラピュータ側が、どういう手を打ってくるのかを。
「そういうことできる人がいるんだぁ」
彼女の呟きの直後、――白金の影が跳ねた。
白金の残像が駆け抜ける。
点在する円盤を足場に、源義経の八艘飛びのように。
飛距離は一度に数百メテル。速度は音速の数倍。
一流の前衛超級職の如き動作を、その白金は実践している。
(AGI型超級職並みの速度だけど、足場にされた円盤は、いずれも反動で砕けている。STR式の跳躍移動かな? 普通は発揮した速度に自分の主観速度が間に合わなかったり、反動を抑えられなかったりして自滅するんだけど。あれはそうなる気配がないなぁ)
ブレンダは自身の戦闘経験から相手の手の内を探るが、まだビルドは判然としない。
その間にも、相手は動く。
常人の視力では、白金の光が歪な線を描きながら伸びているようにしか見えない。
ブレンダとて大差はない。サブに積んだジョブのAGIのお陰で多少見えているだけだ。
強いて言えば、光の軌跡の先端にあるのが白く輝く鎧であるということだけ。
『…………』
跳ねる白金の光はウロボロスに追いすがり、到達せんとする。
その猛追は空を飛ぶドラゴンでもこうは行かぬという速度と威圧感がある。
その勢いのままに、王国の白金はウロボロスに肉薄する。
「――ダ・メ♪」
――だが、敵の接近を許さぬために彼女がいる。
ウロボロスへと跳んだ白金を迎撃すべくブレンダは指を鳴らし、展開されていた浮遊機雷が一斉に起爆する。
白金の鎧は避ける間もなく、爆炎の中に呑まれた。
それが意味するのは死か、あるいは地への墜落か。
二つに一つと思われたその結果は、爆炎が晴れると共に明かされる。
結果は――白金の鎧だったものが巨大な球体に変化していた。
「!」
爆圧で変形したわけではない。
むしろそうならぬための、防御体勢に予め変形したのだとブレンダは察した。
さらに注視すれば球体からはワイヤーのようなものが伸びており、いつの間にかウロボロスの車体と繋がっていた。
死か墜落の二択と思われた迎撃の結果で、相手はどちらとも違う状況に辿り着いた。
(変幻自在の金属……王国の“トーナメント”で、金属系スライム使いの<マスター>が優勝したって聞いたけど。それともまさか……)
思考をよぎらせる間に、球体が更なる変貌を遂げる。
融けて、流動し、整い、固まり、――巨大な片刃の剣へと変ずる。
それこそ、ウロボロスを容易く輪切りにできそうなほどの。
「ヨハネス!」
『――《災厄よ、我が忠誠の輝きを見よ》』
二度目の必殺スキルを使った直後。白金の巨大剣はいまだ繋がっているワイヤーで自らをウロボロスに引き付け、その刃を振り下ろした。
巨大な刃と列車の衝突。
間に合ったヨハネスの完全耐性によってダメージなどはないが、そうでなければ……。
「今のやばすぎでしょ。必殺スキルを使ってなかったら落ちてたわよぉ」
ウロボロスが戦闘面では脆弱とはいえ、一撃で壊されかねなかった。
「……で、あと一回。リセットの余裕もなさそうね」
ヨハネスの鎧の胸部、三つ並んだハートは二つ目もまた変色している。
レーザーに続き、ヨハネスとウロボロスはあの白金の攻撃にも耐性を持った。
しかし、だから無視できるという相手でもない。
相手の手札がどれほどあるかも分からない。
「相手はもうこの列車の上……仕方ないわねぇ」
ブレンダは……その手の中に光る球体を生じさせる。
可視化された爆発魔法であり、接触と同時に爆発を引き起こす代物だ。
「ヨハネス」
『ご随意に。《災厄よ、我が忠誠の輝きを見よ》』
ヨハネスはウロボロスの車体に触れながら三度目の必殺スキルを使う。
その直後、ブレンダが球体をウロボロスの天井に放り投げた。
防衛対象への暴挙だが、ブレンダの顏は至極平静なものであり、ヨハネスも咎めない。
球体の接触と共に爆発魔法は起爆する。
しかし、傷一つ付かない。ヨハネスの必殺スキルによって、爆発魔法に耐性を得たためだ。
だが、その代償はある。
ヨハネスの胸のマーク全てが白色に変色し……彼の鎧が石化し始めた。
あたかも、『主君の窮地を三度救った後に石化した忠臣』の物語のように。
『御武運を』
「当たり前よぉ」
そうして石化する自らのガーディアンを見届けた後、ブレンダは窓を開け……。
――敵の待つ車上へと跳んだ。
◇◆
ウロボロスに叩きつけられた巨大な刃は、その目的を果たせなかった。
刃を白金の鎧に変じさせながらその持ち主……カーバインは呻く。
「…………これは」
目論見通り、グレイからの足場の提供によってウロボロスに到達することはできた。
だが、肝心の攻撃は失敗した。
「フッ!」
カーバインは呼気と共に車両の屋根へと拳を突き出す。
拳打の過程で鎧の手首から先が馬上槍へと変化し、屋根に突き立たんとする。
だが、それでもウロボロスを傷つけることは叶わなかった。
「レーザーを弾いたのと同じスキルか……厄介な」
『恐らくは自身の<エンブリオ>の物理攻撃そのものに耐性を持たれてしまったのだろう』と、カーバインは察する。
それではこの車両そのものを破壊することは難しい。
「ならば、乗り込んで中にいる者を殺す」
この<エンブリオ>の<マスター>、それにラピュータを爆撃しているイヴ。
両方を殺せるならば、ウロボロスそのものを破壊できなくても問題ない。
そう考えて、窓からでもドアからでも内部に侵入しようとしたが……。
「――ダ~メ。ガードがワタシのお仕事だもの」
カーバインの行動は横合いから爆発音と共に飛来した少女の蹴撃によって阻まれた。
「ッ!」
咄嗟に馬上槍を盾に変形させ、相手の攻撃を逸らすように受け流す。
しかし逸らした直後に更なる爆発音と共に相手が再加速・再加重を行い、蹴撃が鎧の腕に食い込む。
「あれ?」
だが、少女が疑問を漏らすと共に、
――鎧の腕がトラバサミに変化してその足に食らいつかんとした。
直前にブレンダの足裏から再度爆発が起き、その反動でブレンダは一気に距離を空ける。
ガキンと、トラバサミが獲物を逃した音が響く。
「……爆発による急加速と加重を組み合わせた格闘術か。何らかの手段で爆発そのものへの完全耐性を自身に付与している。加えて、ステータスも魔法職のソレではない」
カーバインは今の攻防から推察した情報を口にし、相手の反応を見る。
「まぁ見てのとおりよ? 詳細を教えるほどバカじゃないけどね♪」
ブレンダは笑みと共に彼にそう答えた。
カーバインの推察が、概ね正しいからだ。
ヨハネスの必殺スキルには、第二段階が存在する。
モチーフとなったグリム童話『忠臣ヨハネス』の作中において、自らの身を賭して主君を三度守り抜いたヨハネスは石像へと成り果てる。
そんな彼の献身は、心幼き主君の成長を促した。
それをモチーフとしたがゆえに、ヨハネスの必殺スキルにも続きがある。
必殺スキルを三度行使したとき、ヨハネスは護衛対象への耐性を遺して石化する。
そして、彼が遺すものはもう一つ。
『自身のステータスを三倍化し、自らの耐性と共にマスターであるブレンダに譲渡する』。
そう、三度の必殺スキル行使によって、ブレンダとヨハネスは完成する。
だからこそ、三つ目の耐性を得るために自らの爆発魔法を使った。
爆発魔法の超級職、爆発魔法への完全耐性、上位純竜級前衛ガーディアンの三倍のステータス。
さらに格闘系のサブジョブと追従型浮遊機雷を自由に操る彼女自身の繊細なバトルセンスを組み合わせた格闘術こそが……彼女本来のスタイル。
爆炎流星拳と、自分の心の中だけで呼んでいる。
「……そういうあなたも面白い戦い方ね。王国には全身がスライムでできた超強い犯罪者がいるって聞いたことあるけど、もしかしてあなた?」
「バカを言わないでもらおう。全身置換でもなければ犯罪者でもない」
「じゃあ両腕あたり? 噂の【犯罪王】は能力コピーまでできるらしいけど……アナタは多分物理変形だけよねぇ。代わりに変形速度や強度が強いとかぁ?」
「さて、な……」
言いながら『他にも仕掛けがありそうね』とブレンダは察する。
そんな<エンブリオ>を持つだけの相手ならば、あんな異常な動きでウロボロスに辿り着き、さらには自分の奇襲に対応できるはずもない。
対策をしているのか《鑑定眼》が通りにくいが、合計レベルは読める。
五〇〇ジャスト。あえてサブジョブを一部消して超級職を隠すなどしていなければ、上級職の範囲内でのビルドだ。
一体どうコンボを作れば、並の前衛超級職が青くなるような動きができるのか。
「…………フッ」
「…………アハッ」
互いに相手の手の内を読む。
そして不明点はあるが、確かな事実は二つだけだ。
共に準<超級>と呼ぶに相応しい猛者であり――敵同士ということ。
ゆえに彼らは向かい合う。
一人はフルフェイスのヘルムで顔を隠し、一人は笑みを浮かべたまま。
――相手の命を絶つべく音速を超えて跳ぶ。
To be continued
(=ↀωↀ=)<カーバインVSブレンダ
(=ↀωↀ=)<殴り合い、空
○ブレンダ
(=ↀωↀ=)<繊細な爆破トラップや耐性付与など後衛防御型スタイル
(=ↀωↀ=)<と思わせて本当はゴリゴリの前衛攻撃型スタイル
(=ↀωↀ=)<自分の爆発+相手の攻撃手段二種に耐性を持ち
(=ↀωↀ=)<ガーディアンの三倍のステータスと爆発による速度と威力増加で殴る
(=ↀωↀ=)<それとやり合ってるカーバインのビルドは次回