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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
蒼白詩篇 五ページ目 & Episode Superior 『命在る限り』

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586/716

第十三話 【総司令官】VS【鉄道王】

(=ↀωↀ=)<本日、一時間遅れの更新です


(=ↀωↀ=)<お待たせいたしました

 □■ウィンターオーブ西方


 【総司令官】グレイと【鉄道王】ツークンフト。

 各々が操るのは、飛行要塞と鉄道車両。

 地球においても<Infinite Dendrogram>においてもまず見ることのない対戦カード。

 しかし、その第一手はどちらも酷似した手を選ぶことになる。


『兵装車両【火葬列 ヴォルカ・ロック】、【大衝弩 ショック・シェル】展開』


 鉄道車両――ウロボロスの電子音声と共に、ウロボロスに連結されていた車両の内の二つが開く(・・)

 それぞれの車両の内部から迫り出したのは、様相の異なる二種類の砲門。

 かつてツークンフトが撃破し、自らの<エンブリオ>に組み込んだ二種の特典武具。

 人間サイズでは巨大すぎて扱いにくく持ち運ぶのも容易でない武器だが、列車に積むならば何の支障もない。

 そして武器としての性能も、サイズに見劣りするものではない。


『目標、ラピュータ。斉射開始』

『斉射開始』


 ツークンフトの号令と共に、二種の特典武具は自らの攻撃能力――熱線砲とショックキャノンを解き放つ。

 それらの砲撃は上空数千メテルに浮かぶラピュータにさえも届き、直撃すればその構造体である島や城壁を大きく削るだろう威力が込められている。


 無論、直撃を許すラピュータではない。


 事前にラピュータが展開していた十六枚の巨大な亀甲が迫る砲撃に自動的に反応し、ラピュータへの被弾を阻むように壁となる。

 立て続けに飛来する砲弾の全てを亀甲は防ぎ切り――そして傷の一つもない。


『なるほど。これが噂の【霊亀甲】。聞きしに勝る防御力』


 ツークンフトは感嘆するようにそう述べた。

 然り。この十六枚の亀甲こそは超級武具(・・・・)、【霊亀甲 スーリン・サン】。

 <黄河四霊>グレイ・α・ケンタウリの所有する最硬の武具であり、飛行要塞を難攻不落たらしめるもの。

 自律防御形態の【霊亀甲】、砲撃・攻撃に特化していようと凡百の特典武具に超えられるものではない。

 そして、ツークンフトの攻撃を防ぐ間に、グレイの攻撃準備も整う。


『【砲殲火】チャージ完了』

「爆撃開始」


 【砲殲火 フォンシィェンファ】。

 飛行要塞の下部より砲身を突き出したこの特典武具もまた、人が扱うには巨大すぎる。

 されどやはり、飛行要塞に搭載するならば何の問題もない。

 チャージを完了した【砲殲火】が放ったのは、邸宅ほどもある巨大な火球。

 しかし地上四〇〇〇メテルから発射された火球は、地上への距離が半分に達した段階で二分され、四分の一に達した段階でさらに分裂。

 地表へ近づくにつれて、倍々で自らを分散させていく。

 着弾する時、それは数千の……しかし掌に収まる程度の火になるだろう。


 ただし、そのサイズでも――内包する威力は《クリムゾン・スフィア》に匹敵する。


 数千発の《クリムゾン・スフィア》で地上を焼き払うクラスター爆弾(・・・・・・・)

 それが広域殲滅型古代伝説級特典武具、【砲殲火】である。

 地上を走るしかないモノに回避手段はない。


『――勾配設定五〇〇(パーミル)、進行』

『――線路構築』


 ――それが、【鉄道王】とウロボロスでなければ。


 ◇◆


 【鉄道王キング・オブ・レイルウェイズ】。

 【線路工(レール・スミス)】・【鉄道員(レイルウェイ・マン)】系統の超級職。

 線路を生産する【線路工】。列車の運転や線路の保全を含めた全般に関わる【鉄道員】。

 どちらも非戦闘系のジョブである。

 そして、これらのジョブの存在を知る者は決して多くはない。

 ジョブクリスタルの転職先で見たことはあるかもしれないが、就く者はいない。

 理由は簡単で……就く意味(・・・・)がないからだ。


 現在の<Infinite Dendrogram>では、鉄道そのものが普及していない。


 それも当然の話だ。街と街を繋ぐ線路を敷いたところで、モンスターに容易く破壊される。<Infinite Dendrogram>の生物(モンスター)は地球の野生動物ほど文明に優しくない。

 線路が断たれた列車を待つものなど大事故か、停止した列車を襲うモンスターしかない。

 街の外に線路を敷くことは不可能な以上、機械技術のドライフですら首都の交通機関として路面電車を試験運用するに留まっている。

 そう、ジョブこそ用意されてはいても航空技術が発展できなかったのと同様に、鉄道技術も育たなかったのだ。

 これらは<Infinite Dendrogram>の環境と折り合わなかったジョブである。

 必然、『線路の累計作成距離』と『列車運転の累計走行距離』という超級職としてはシンプルな【鉄道王】への転職条件を達成できる者もいない。

 そんなジョブ系統を極める者がいるとすれば、無類の鉄道好きで……尚且つそれに適した力を持つ者に限られる。


 そう、ツークンフト・ツーク・ファーラーでもなければ極められなかった。


 彼のウロボロスは、基本スキルの《蛇の道》によって自らの進む先に線路を形成する。

 最大長に限度はあるが、障害物さえなければどこにでも線路を作り、荒野を進む。

 ゆえに彼は必然のように、【鉄道王】の条件をクリアした。

 あたかも運命が最初から彼を【鉄道王】に選んでいたかのように。


 そして与えられた【鉄道王】の力は、更なる道を切り拓く。

 【鉄道王】の奥義、《不朽の旅路エターナル・ジャーニー》。

 それは線路の強度を著しく上昇させると共に、固定(・・)するスキルだ。

 地震や地盤沈下を受けても、線路が崩れることがない。

 列車に安全な道行きを保証する。超級職の奥義でも極めて穏当なものと言えるだろう。

 むしろ、このスキルがあって初めて<Infinite Dendrogram>で鉄道の普及が可能になる。

 このスキル無しで苦難の道を歩んだ果てに、ようやく鉄道文化が花開き始める。そんな仕様とさえ言えた。


 さて、そんな鉄道ロマンの前置きが済んだところで、一つのコンボの話をしよう。

 この穏当な奥義に、前述のウロボロスのスキルを加えるとどうなるか。

 障害物がなければ線路を形成できるウロボロス。

 線路を強化し、固定する《不朽の旅路》。

 この足し算の答えは簡単だ。


 ――空中(・・)にさえ線路が掛かる。


 ◇◆


 分裂途中のクラスター爆弾(火球)をすり抜けて、ウロボロスは空へと駆け抜ける。

 地上に着弾した【砲殲火】が地上を火の海に変えるが、最早ウロボロスには届かない。

 最後尾車両の過ぎ去った線路は消えて、地上から完全に途切れている。

 だというのに、それでも《不朽の旅路》によって新たな線路は空中に固定され、確かな道となっている。

 まるで銀河を進む鉄道の如く、ウロボロスはその車輪で天空を駆けている。


『壮観だな』


 ツークンフトは冷や汗を流しながら、呟く。

 ウロボロスは【砲殲火】の回避にこそ成功したが、回避が間に合っていなければ今の一射で勝負が決していたはずだ。


(チャージとクールタイムの長い砲撃だろうか。だとしても、かなりの威力だな。あの強固に過ぎる自動防御といい、単純な特典武具の性能だけではない。……ジョブの力(・・・・・)とは恐ろしいものだ)


 ウロボロスを空中でラピュータと並走させながらツークンフトは冷静に考えをまとめる。

 そして結論付ける。


(うむ。やはり――こちらの手に負える(・・・・・・・・・)相手ではない(・・・・・・)


 <超級>として、自身とグレイの間に埋めがたい差があるということを。

 百回やれば百回負ける。それほどに彼我の戦力差は大きいと冷静に判断していた。


(まぁ、そもそもこちらは戦闘力など二の次三の次ではあるが……)


 <UBM>の討伐とて、一体目は半ば事故のようなものであるし、二体目は一体目の特典武具でゴリ押しただけだ。

 等級はどちらも逸話級であり、乗客にブースト(・・・・)を掛けてもらったところで質も数もグレイには劣るだろう。


(こちらの役割は《終わりなき環状線(ウロボロス)》で相手をウィンターオーブ領内から出さないこと。それと、こちらの乗客や貨物(・・)を届けること。どちらもまだ頃合いではないが、このままではウロボロスの方が……おや)


 ツークンフトがそう考える間に、状況は動く。

 必殺のクラスター爆弾を回避されたグレイの次なる手は……。


「――円盤大隊、攻撃開始」

 ――総数一〇〇機を超える円盤の群れ。


 円盤群は飛翔し、空中線路を走るウロボロスへと迫る。

 それらの円盤は黄河にあった先々期文明の<遺跡>……ドローン製造設備をラピュータに取り込み、量産したもの。

 円盤は飛行能力を持つが稼働時間は短く、できることもレーザー照射程度と先々期文明兵器としては然程の性能でもない。

 だが飛行要塞に迫る敵への迎撃兵器としては、十分だ。

 空中に逃れてクラスター爆弾を回避したウロボロスもこれには対応できない。

 四方八方から迫る円盤群は、熱線砲とショックキャノンだけで撃墜しきれる数ではない。

 ウロボロスは熱線砲とショックキャノン以外の武装……近接防御用の機関砲なども外付けで搭載してはいたが、それらは当たったところで円盤に有効なダメージを与えられていない。


(速いし、硬い。やはりこれも【総司令官(・・・・)】のバフスキルが乗っているか……!)


 開戦時点で、両者の情報アドバンテージは五分ではなかった。

 無名の<超級>であり、ジョブも知られていなかった【鉄道王】と違い、【総司令官】グレイは有名だった。

 ゆえに、ツークンフトは知っている。

 グレイのジョブである【総司令官】が【霊亀甲】の強度を、【砲殲火】の威力を、そして円盤大隊の性能を高めていることを。


 それこそが【総司令官】の奥義、《偉大なる(グレイト・)命令(オーダー)》。

 その効果は、『彼の命令に沿って動く生物や物品のステータスや装備性能、与ダメージ量を増加させる』というもの。


 シンプルな性能強化であるが広範囲……それも人員だけでなく武装にまで及ぶ強力な広範囲バフスキルである。

 彼が先刻宣言した『総力を以て護るべき者達を護れ』という言葉。

 即ち、ラピュータにおいて防衛戦を行う限り、アルター・黄河陣営は全てが強化されるということだ。

 結果として、元々あったツークンフトとグレイの戦力差はより大きくなっている。


『やれやれ……』


 これはもうツークンフトでは目的を達成することもできない段階であり……。


『――御一同、準備はいいかね?』

 ――ゆえに、対応するのは彼ではない。


 ツークンフトの言葉と共に、ウロボロスに連なる車両の一つでドアが開く。

 停車もせず、どころか空中を走っている最中。

 扉が開いたところで、外に出るのは自殺行為だろう。

 だが、開いたドアの先には……一体の人影があった。


 ――否、それは人影ではない。


『…………』


 より大きな動物――熊を模した着ぐるみ(・・・・・・・・・・)だ。


 姿を現した熊の着ぐるみを見て、グレイが自らの知人であるシュウと見紛う……ことはなかった。

 なぜなら、その熊は色が違う。

 シュウの着ぐるみは黒色だったが……それは真逆の白色(・・)をしていたからだ。


『――ラピュータ、にどめ、の、かいこう、だ』


 ボソリと呟いた白熊はドアの縁に手を掛けて、巨体とは思えぬ軽やかな動きで車両の屋根へと上る。

 だが、そのタイミングでレーザーの有効射程にまで接近した円盤群が、《グレイト・オーダー》で強化されたレーザーを一斉に照射する。

 それはウロボロスの車体に、そしてのこのこと姿を現した白熊へと向けられていた。

 一瞬の後には車体が走行不能になるほどのダメージを受け、白熊もまたレーザーに貫かれているだろう。

 そこにいる者達が、尋常の存在であったならば。


『――《災厄よ(デア・)我が忠誠の(トロイエ・)輝きを見よ(ヨハネス)》』

 ――客車の内側から生じた光が車体を包み――照射されたレーザーの全てを弾いた。


『――――』

 ――客車の上の白熊は何もせず――無言にして無傷のままレーザーを浴びている。


「……!」


 円盤大隊の攻撃の全てを、ウロボロスと車上の白熊は無効化してみせた。

 無人兵器である円盤大隊は臆することなく攻撃を続けるが、光が消えた後もウロボロスに施された護りは健在なのか照射されたレーザーは全て弾かれてしまう。


(防御スキル! 【鉄道王】や列車の<エンブリオ>とは別種、乗り込んだ<マスター>のものか……)


 白熊が出てきた車両とは別の客車の内側から、光が発せられた。

 恐らくは広域……否、対象指定の防御スキルであろうと察せられる。

 それも一時的な防御ではなく【殲滅王】のセプテントリオンのような完全耐性の獲得だろう。もうウロボロスにレーザーの類は効果がないと判断すべきだった。

 そして、そんなこと(・・・・・)よりも大きな問題は……。


(そして、あの白熊は……()か)


 車上にて佇む、一体の白熊。


『…………』


 白熊は無言のまま、巨大な銛を生やした武器――捕鯨砲を腰だめに構えて連射する。

 特典武具と思われる捕鯨砲は、砲弾である銛を発砲する度に次々と生成。

 放たれた銛は命中すれば強化された円盤であろうと数機まとめて貫通して爆散させる。


 当然、その間も円盤大隊のレーザーは白熊に降り注いでいる。

 白熊は、列車を護る力に含まれていない。

 彼の身がレーザーを弾くことはなく、全て命中している。


 だというのに、彼の身を包む毛皮に傷の一つ、焼け焦げの一つもない。

 一切の、無傷。


 そんな“無敵(・・)”の存在を……グレイは知っている。


 かつて、【彗星神鳥】によって墜とされた<厳冬山脈>で、グレイは目撃していた。

 彼の知人となる【破壊王】と、この“無敵”の<超級(・・)>の一戦を。

 ゆえに、グレイは知る。ラピュータを獲物と見据える、この恐るべき狩人は……。



「――【神獣狩(ゴッド・ハント)】カルル・ルールルー」

 ――“万状無敵”の名で畏れられる最も堅牢な<超級>である、と。



 To be continued


(=ↀωↀ=)<ちょっとチェックも含めて余裕がなくなってきたので


(=ↀωↀ=)<次回更新日はお休みするかもしれません


(=ↀωↀ=)<そうなったときはすみません



○【鉄道王】


(=ↀωↀ=)<「沢山線路作って、沢山運転しないと就けないが」


(=ↀωↀ=)<「そもそもデンドロ世界でそれ達成するのは難易度高すぎる」


(=ↀωↀ=)<「大陸横断するくらい線路作って走らなきゃダメって無理ゲー」


(=ↀωↀ=)<「……まぁ走る度に線路作る<エンブリオ>でもいれば別かな」


(=ↀωↀ=)<「いたわ」


(=ↀωↀ=)<そんな【鉄道王】


(=ↀωↀ=)<なおジョブも<エンブリオ>も戦闘用じゃない


(=ↀωↀ=)<戦闘力はアジャストした特典武具頼り


(=ↀωↀ=)<まぁ火力はあるけどまともに戦うときついよね


(=ↀωↀ=)<それでも理由あって無理して“トーナメント”出ようとしてたけど


(=ↀωↀ=)<カルディナに本当に欲しかった条件でスカウトされてそっち行った


(=ↀωↀ=)<その辺の背景は追々



○【破壊王】VS【神獣狩】


(=ↀωↀ=)<クマニーサンの天地行きとカルルのクエスト


(=ↀωↀ=)<あとラピュータ墜落が被った事件


(=ↀωↀ=)<この二人のバトルの勝敗結果は……


(=ↀωↀ=)<書き下ろし17巻でね!(ダイマ)


( ꒪|勅|꒪)<オイ



○ラピュータ墜落事件


( ꒪|勅|꒪)<……ン?


( ꒪|勅|꒪)<第一次戦争後だから時期的にラピュータには【霊亀甲】あったよナ?


(=ↀωↀ=)<ありましたね


( ꒪|勅|꒪)<使ってなかったのカ?


(=ↀωↀ=)<使った上で【ツングースカ】に撃墜されたんですよ


( ꒪|勅|꒪)<……マジカ

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― 新着の感想 ―
[一言] ツングースカですよね~お約束〜
[気になる点] 司令官系のジョブと将軍系のジョブの違いって何? [一言] 17巻買ってないから分からんのやけど カルルのエンブリオがツングースカてことでおk?
[気になる点] 無理してでも求めた条件……鉄道の開通かな?
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