第十二・五話 地獄門の先を行く
(=ↀωↀ=)<今回は区切りの都合で短めです
□■<北端都市 ウィンターオーブ>・研究所
「……何だ、この頭のおかしい機体は?」
そこは、大小様々な機械が並んだ工房のような場所だった。
ウィンターオーブの市庁舎の離れにある施設であり、<遺跡>から発見された物品をはじめ、先々期文明技術の研究を秘密裏に行っている。
ここの職員も衛兵や使用人と同じくジョブにはついていないが、逆を言えばジョブ無しで機械技術の調査や整備ができるプロフェッショナルでもある。
そんな彼らは今、目の前にある白い機体を前に首を捻っていた。
今朝方、衛兵に捕まった議会のスパイの所持するアイテムボックスに入っていた代物らしく、あまりにも得体が知れないのでこの研究所に回されてきた。
「<マジンギア>……ですよね? あのバカに高い値段で売ってる……」
彼らも機械系の研究者である以上、市場の<マジンギア>……【マーシャルⅡ】のことは知っているし、戦力として運用できないかと検討したこともある。
パワードスーツや魔力式銃器とともに見つかった、<遺跡>のバッテリー技術。これを用いて、他の機械兵器も扱えないかという意見が出たのだ。
しかし、結果は問題だらけ。コストの高さ、メンテナンスの敷居、《操縦》スキルがない場合の操縦難易度など、兵器として無視できない点が余りにも多かったのだ。
それゆえ、『これならば<遺跡>の生産するパワードスーツをそのまま使った方が良い』と判断されたのである。
翻って、彼らの前にある白い機体は……。
「……兵器としての分類は、<マジンギア>だろうな」
しかしそれは「【キング・バジリスク】も【ティール・ウルフ】も『魔獣』だから同じもの」と言う程度には乱暴な区分になるだろう。
この白い機体の兵器としての性能は、明らかに【マーシャルⅡ】とは隔絶している。
何より、【マーシャルⅡ】にあった問題点全ても桁違いにして積んでいる。
この機体の生産コストは数百億リルを超えるだろう。
技術的にも手が込み過ぎて、整備しろと言われれば匙を投げる。
そして……。
「腕が六本、足は四本、内蔵した武器は……数えるのも面倒になるな」
より多くの武器を扱うためなのかその機体には主腕の他に四本の副腕がある。
足は重装甲且つ過積載した兵器のバランスをとるためなのか、人に近い二足の後ろに車輪を付けた脚部が二本。
そしてそうまでして積んだ兵器は装甲の中にも外にも満載。まるで花束だ。
「コクピット内部は……パイロット用のシート一つとサブシートが一つか」
「複座機でもこれの操縦は無理では?」
「よく見ろ、サブシートには操縦系が積まれていない。操縦は一人用だ」
「……これをどうやって二本の操縦桿とペダルで操縦するんですかね?」
「見当もつかん」
同僚の疑問に、研究員は理解を拒むように首を振った。
理解できないのは内蔵火器や機体の動作に消費するMPもだ。
兵装は妙に魔力変換式のエネルギー兵器が多い。これではウィンターオーブの<遺跡>から出たバッテリーでは三十秒も動けない。超級職でも十分持つかどうかだ。
「仮にこれを運用するなら、どんなものが必要になると思います?」
「……尽きないMPと考えただけで機体を動かせる人間だな」
彼らも機械系の研究者であるため、該当する者は思い浮かぶ。
前者は先々期文明の動力炉。しかし希少品であり、生憎とウィンターオーブの<遺跡>では発見されなかった。
後者は【超操縦士】の奥義、《マン・マシン・インターフェイス》だ。
しかし、件の超級職は先日の【エルトラーム号】の事件で死亡し、続く【超操縦士】が生まれたという話も聞かない。
捕まったスパイにしても、【装甲操縦士】だったと聞いている。
(しかし、後者はともかく前者はありうる……か?)
なにせ議会がこの街に送り込んできたスパイだ。
間抜けに捕まりはしたものの、装備は超一流でもおかしくない。
というか、動力炉を積みでもしていなければ、これだけのコストをかけて作ったものがガラクタになる。
(<遺跡>内部の例の巨大兵器……動力炉と人工知能を喪失していたが、動力炉をこの機体から補えば……)
「どうしました?」
「……この機体、解体して確かめるか」
研究者は自らの考えを確かめるべく、白い機体の解体を決める。
これが<遺跡>から産出したものならば慎重にするところだが、スパイの持ち物だ。壊れても惜しくはない。
そう考え、解体用の作業重機を【ガレージ】から出して準備を始める。
「綺麗な機体だから勿体ない気もしますね……」
「だが、兵器を鑑賞用に置いておくほど我々にも余裕はない」
「そうですね……あれ?」
同僚は白い機体を見上げ、何かに気づいたのか首を傾げた。
「どうした?」
「今、この機体のカメラアイが動いたような……」
「コクピットは見ての通りに空だ。気のせいだろう」
そうして話している内に、研究施設の扉が開いた。
またぞろ何か運び込まれてきたのかと研究員が扉に目を向けると、
――光るパワードスーツの集団が彼らに銃器を向けていた。
「…………は?」
その疑問の声を発した直後、彼と同僚は魔力式銃器の掃射によって蜂の巣となった。
パワードスーツ集団……【フーサンシェン】の支配下にある奴隷達は研究施設に押し入り、そして他の場所でもそうしてきたように、自らに宿った光を室内の死体や機械に分け与えていく。
研究員達の死体が修復されて起き上がり、他にも研究中だった機械群や使われようとしていた作業用重機が独りでに動き出す。
かくして【フーサンシェン】はさらに手駒を増やし、研究施設の外へと破壊を広げに……。
『?』
しかし、パワードスーツや研究員の死体は立ち止まった。
この研究施設内部は既に【フーサンシェン】の光が充満している。
光はMPの代わりにもなるため、魔力で動く機械類は問題なく稼働する。
だというのに……動かないものがある。
それは、研究員達が調べている最中だった白い機体だ。
光を帯びても、まるで動く気配がない。
『…………』
【フーサンシェン】の奴隷……それに宿った疑似的な魂は、論理的かつ言語的な思考こそないが、シンプルな感情的な思考はする。
ゆえに動かない機体に対して、『自力で動く力がないのだろうか』、『光が足りていないのだろうか』というニュアンスの疑問を抱いた。
そして光の奴隷は集まって、『足りないならば』と白い機体に光を注ぎ込む。
すると、彼らの期待通りに白い機体は重々しく動き出し……。
『――《ペイント・ナパーム》』
――室内の全てを焼き尽くした。
◇◆
黒煙を空に立ち昇らせながら、炎上する研究施設。
焼け焦げていくその外壁を砕き、内部から白い機体が傷一つなく歩み出てくる。
動き出す前との違いはコクピットハッチが閉じていることと、多少の煤がついている程度だ。
『全く……煩わしいものだ。私には無意味だというのに、群がって擦りつけてくるとは……』
白い機体は外部スピーカーから男の声を発するが……その内部は無人のままだ。
『しかし、パイロット君は問題を起こすのも無駄に死人を出すのも御免だろうと大人しくしていたが、こうなってしまっては仕方がない。レーダーで探る限り、生存者もいなかった』
研究施設を全焼させた白い機体は『火葬になってしまったのは申し訳ないが、アンデッドへの対処のため必要な行為だった』と言いながら、今度は市庁舎を囲う壁を破壊して通りへと出る。
周囲を見れば、研究施設内部と似たような有様だ。
光を帯びた命なきものに、生者が襲われている地獄絵図。
『さて、私が消えていない以上はパイロット君もまだ生きてはいるのだろうが……さて、いつまでもつものか。機体のない【操縦士】など脆いものだ』
白い機体は『やれやれ』という風に首を振る。
そんな白い機体を敵対者と見たのか、周囲のパワードスーツが四方から発砲してくる。
『しかし、これは当機の初陣になる。こんな形で撤退となれば、あまりにも間が抜けているな……。間抜けは私をまんまと押収されたパイロット君だけでいいだろう』
白い機体は独り言を述べながら、重厚なフォルムとは裏腹に軽やかな動きで銃弾を回避する。
紙一重に、まるで超人的なパイロットが乗っているかのような機体捌きだ。
『《サーマル・ミサイル》』
そして白い機体は一発も被弾することなく、自らを攻撃してきたパワードスーツ群に返礼の光弾を叩き込み、焼き尽くした。
『……やれやれ、パイロット君不在時の行動内容の確認に必要とはいえ、音声ログを残す必要があるのは煩わしい。特典として生成されてから然程の時も経っていないはずなのに、嫌な記憶が蘇りそうになる』
人間ならば溜息を吐いているような声音で、白い機体はそう愚痴をこぼした。
『ともあれ、こんな状況だ。勝手に死なれる前に、パイロット君を捜すとしよう』
そう述べて、白い機体は何処かへと進んでいく。
ウィンターオーブの地獄の惨状を、まるで脅威とも思っていない。
地獄など、既に通った道とでも言わんばかりに。
To be continued
○白い機体
(=ↀωↀ=)<描写から分かるように大幅改造すぎるくらい大幅改造した
(=ↀωↀ=)<「折角の動力炉とアムニール。エネルギー有り余ってるから武器沢山積もう」
(=ↀωↀ=)<「武器扱うために腕増やそう」
(=ↀωↀ=)<「トップヘビーすぎるから足増やそう」
(=ↀωↀ=)<「他にも色々!」
(=ↀωↀ=)<「操縦が複雑になり過ぎてセンススキルでも扱えないんですけど……」
(=ↀωↀ=)<ってユーゴーとカリュートが悩んでたら今回の奴が喋り出した
(=ↀωↀ=)<何者かはお察しと思うけれど追々




