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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
蒼白詩篇 五ページ目 & Episode Superior 『命在る限り』

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第十一話 狭間の戦争

 □【未確認飛行要塞 ラピュータ】


『国境付近にお住いの方々は、行政の指示に従った行動をお取りください』


 ウィンターオーブを出発し、黄河を目指して一路東へと進んでいたラピュータ。

 グレイはその司令室で、カルディナ内の情報を収集するためのラジオから流れてきた戯言(・・)を冷めた目で聞いていた。

 まだしもその顔を隠す着ぐるみの方が温かみのある目をしていただろう。


『……なるほど。流石は噂に聞こえた魔女。タイミング良く……何より下劣だ』


 その声もまた冷たく、ロールも忘れている。

 高度三〇〇〇メテルを飛行するラピュータの高精度外部カメラは、既に一〇〇キロ以上も後方にあるウィンターオーブの様子を捉えていた。迅羽と獅子面の戦いの様子も然り。

 それゆえ、グレイは黒幕(・・)を除けばこの場で最も状況を把握している。

 そして、その黒幕がカルディナであろうことも。


『迅羽が追っていたのは、我々に関係のある回復の珠ではなかった。その回復の珠はウィンターオーブに留められ、本体を直接狙える迅羽を市外に誘き寄せた後に解放。解放された<UBM>はウィンターオーブにとって致命的となる能力を持ち、今は衛兵の身体と装備を使った手駒が暴れている。そしてカルディナの議長は実にスピーディーにこれを問題視し、この付近を自国から切り離した』


 テンポが良いにも程がある。

 未来が読めて、尚且つふんだんな悪意がなければこうはいくまい。


『しかし、一連の行為が黄河とカルディナの誓約に触れるかと言えば……触れない(・・・・)


 自分が持っている【誓約書】の写しを見ながら、グレイは述べる。

 黄河の条件は、珠の所有権の放棄。

 カルディナが約したのは『国内におけるラピュータによるツァンロン達の護送を妨げない』、『国内で護送の協力を要請された場合は引き受ける』といった二点。


 しかし無論のこと、書かれている内容はこれだけではない。

 国一つが天災を受けるかどうかという重大な文書だ。実際はより細かく、『例外』となるケースが定められている。

 今回の迅羽のような『護衛がカルディナ国内で皇子達の護衛以外の活動(・・・・・・・)で事件に遭遇し、自主的に解決に動いたため、護衛業務に加われなかった』場合。

 これは、カルディナの妨害(・・)には当たらない。

 ご丁寧に例題として挙げられている。

 取り決めの際に『王国や黄河の<マスター>は善良な人が多いでしょう? 治安が悪い地域のトラブルで国全体が被害を負う恐れがありますから。ほら、貴国から流入した珠(・・・・・・・・・)で幾度も事件が起きていますし。責める訳ではありませんよ? 国を預かる者としての危惧です』などと言われてこれらのケースを呑まされたらしいが……要はこのためだ。

 今回はそのまま例題のケースに当たる。獅子面が黄河に譲渡されるはずだった回復の珠を持っていなかった以上、尚更だ。


 では、その回復の珠が破壊されたケースはどうか。

 これも誓約には反しない。

 なぜなら、黄河側の条件が『カルディナ国内における珠の権利の放棄』だ。

 それこそ煮ようが焼こうが砕こうが、黄河はカルディナに何も言えない。

 壊された時点では迅羽が受け取っておらず、珠の所有権はウィンターオーブ……当時(・・)はカルディナの加盟国にあったのだから。


 その後の<UBM>の解放による混乱は妨げになるのか?

 やはり、ならない。

 ウィンターオーブが混沌の坩堝と化す前に、ラピュータは出発している(・・・・・・)

 現時点でラピュータは<UBM>による被害は一切受けておらず、妨害もされていない。

 『テロや犯罪などで危険な状態の都市に故意に近づいた』場合もやはり例外に設定されているため、今からウィンターオーブの救援に動いても妨害にはならない。


『…………』


 グレイは『よくもここまでの綱渡りを仕掛けたものだ』と、侮蔑と共に感心していた。

 例外条項や捕捉条項はいくつかあるが、総じて言えば『偶然や不可抗力』での制裁発動を封じる形になっている。

 それでも今回は匙加減一つ違えば、カルディナに天災が降りかかっていただろう。

 まるで、『そうなればそうなったで構わない』とさえ考えていたのではないかというほどの無茶だった。

 流石に為政者がそうはしないだろうと思いはするが、相手の手口が不気味すぎて否定もしきれない。

 しかしそれでも、グレイは一つのことを確信している。


 ――カルディナはこのラピュータにも仕掛けてくる、と。


 回復の珠を使ってウィンターオーブを嵌めるだけならば、ラピュータの到着前にいくらでも実行できたはずだ。

 わざわざグレイと迅羽の動きを誘導して、このタイミングでウィンターオーブ周辺をカルディナの領土外にした理由は一つ。

 【誓約書】の範囲外(・・・)にラピュータを置くために他ならない。

 国内の安全な航行を保証した【誓約書】も、国外にまでは及ばない。

 最初からここまでやるつもりで、【誓約書】に罠を仕掛けたとしか思えない。

 むしろ、ラピュータへの罠とするためにウィンターオーブを切り捨てたとさえ考えられる。


(だが、書面上は問題がなくとも対カルディナの国家感情は確実に悪化する。これでは『【誓約書】に引っ掛かりさえしなければ戦争になってもいい(・・・・・・・・・)』……むしろ『戦争にしたい(・・・・・・)』と言っているかのようだ)


 何かを仕掛けたという疑念を抱かれた時点で、【誓約書】の制裁は下らずとも国交は破綻する。大陸の東西を繋ぐカルディナにとって黄河との断交は大きな痛手だ。

 まして、グランバロアという敵を持った状態でさらに黄河とやり合うのは、国を滅亡させるために愚策を選び続けているとしか思えないレベルだ。


(友好関係にあったウィンターオーブへの沙汰といい、銀龍皇子もカルディナを敵視するだろう。それに、今この船には王国の第二王女も乗っている)


 元々皇国と敵対状態である以上、襲撃を実行すれば西方における戦争の結果に拘わらず、カルディナは三方に敵を持つことになる。


(そこまでのリスクを負ってまで、何を目的とする……?)


 黄河の皇族……【龍帝】や婚約者である王女を殺すことは、黄河と王国に多大な衝撃を与えるだろう。地球におけるサラエボ事件のように世界大戦の引き鉄にすらなりうる。

 だが、それは商業国家であるカルディナにはダメージにしかならない。


(そもそもこの動き、誓約前から我々のウィンターオーブへの寄港を知っていることが前提。噂の未来予知かもしれないが……それだけではない恐れもある)


 カルディナの……そして自国(・・)での奇妙な動きが、グレイの脳裏をよぎる。


(次期皇帝である第一皇子との敵対も厭わない。ならば第二皇子か第二皇女の後援にでもつきながら、銀龍皇子を殺めて継承順を動かす気か? ウィンターオーブでの策謀もその一環と?)


 そのために比較的第一皇子に近いグレイや、【龍帝】ゆえに継承権はないが影響力の高いツァンロンをここで落とすというのは……理由としてなくはない。

 皇帝の座を狙うのがありえない(・・・・・)第一皇女以外の二人は、それを目論む可能性はある。

 兄と弟にコンプレックスを持つ第二皇子と、自らの楽しみのために生きている第二皇女だ。魔女に唆される恐れはある。


(……むしろ、その二人が唆されているならばまだマシ(・・)か)


 グレイは、より最悪の可能性についても考える必要があった。

 帰還した後は同じく第一皇子の派閥に属する者達と協力して調査する必要があるとも。


『……む』


 そう思考したタイミングで、レーダーが国境(・・)への接近を告げる。

 ウィンターオーブから半径二〇〇キロ。

 広大な範囲ではあるが、飛行するラピュータにとっては然程の距離でもない。

 国境が切り替わる前から動いていたこともあり、カルディナは目と鼻の先だ。

 カルディナが誓約の範囲外で勝負を決めようとしたならば、二〇〇キロどころか二〇〇〇キロは必要だっただろう。

 現に、何も起きないまま(・・・・・・・・)ラピュータは二〇〇キロを移動し終えた。


(仕掛けてこない……?)


 アクティブレーダーも起動するが、周囲に敵影はない。

 精々でこの近辺に普段から生息するモンスター程度で、それにも怪しい点はない。


(逆に不気味だが)


 それでもツァンロン達の安全を考えればこのエリアに居座るわけにはいかないと考え、ラピュータはそのまま東進を進める。

 そうしてラピュータは国境を越えようとして、


 ――周囲の景色が一変した。


『!?』


 景色自体はカルディナの……ウィンターオーブ周辺によく見られるもの。

 北には<厳冬山脈>が聳え、砂漠と雪原が同じパノラマに見えている。

 だが、モニターに映っていた周辺の景色全てが、コマ落としのように切り替わっていた。

 ラピュータの監視網も一時的な混乱状態。

 グレイが答えを座標に求めれば……それはすぐに明らかになる。


『現在地……ウィンターオーブ西方(・・)一九五キロ地点だと?』


 ウィンターオーブから東の国境に進んでいたはずが、今は西の国境にいる。

 さしものグレイも、大きな驚愕を抱く。


(このラピュータを瞬時に四〇〇キロメテルも転移させただと? バカな。転移魔法ではありえな……待て。たしか蒼龍皇子の参加したイベント(愛闘祭)で似たケースが……)


 グレイは自分の読んだ資料の記憶を掘り起こし、類似した現象を引き起こした<エンブリオ>について思い出そうとする。

 しかしそれよりも先に、混乱から回復したラピュータの監視網が更なる情報を伝える。

 その情報とは……。


『下方に高速走行する車両……?』


 飛行するラピュータと並走するように――大地を駆けるモノが在る。


 ソレは一見すると、黒い新幹線のようだった。

 連なった車両は先頭と最後尾が流線型をしており、施された意匠から長い蛇のようにも見える。

 しかし、よく見ればそれは蒸気のように白い気体を噴き出してもいた。

 新幹線のカタチをした機関車とでも言うべき奇妙なものだった。

 だが、より奇妙なのはソレの走る線路だ。

 ソレの周囲に、線路など敷かれてはいない。

 先頭車両が走る数メテル前に線路が現れ、最後尾が走り去った後には消えている。

 道なき荒野に、一時の線路を作って駆け続ける。

 ソレは明らかに尋常な乗り物ではなく、<エンブリオ>であることは確実だった。


 そしてグレイが謎の列車型<エンブリオ>にラピュータのセンサーを向けたタイミングで、司令室にベルが鳴り響いた。


『!』


 音源はラピュータがカルディナ領内を飛行する前に、カルディナ側から預けられた通信装置だ。

 緊急時の連絡、それとラピュータ側から支援要請が必要な際に使うためのもの。

 無論、カルディナという国を完全には信用していなかった黄河側は、きちんと通信装置についても調べた。

 調査の結果、正真正銘『ただの通信装置』であることは明らかであった。

 しかし、このタイミングで『通信装置』が使われるということが如何なる意味を持つかは、グレイも理解していた。


『……こちらラピュータ』


 それでも、彼は通信に出ることを決めた。

 不可解な状況で()の目論見を把握するために。


『突然の通信、失礼する』


 通信装置から聞こえてきたのは、低めの男性の声だった。

 加工などはされていないが、グレイには聞き覚えがない。

 ゆえに、次に聞こえた言葉にはいささかの驚きがあった。


『こちらはカルディナ議会直属クラン<セフィロト>のツークンフト・ツーク・ファーラー。<超級>の一人であり、【鉄道王キング・オブ・レイルウェイズ】に就いている』

『!』


 <セフィロト>と未知の超級職の名に対し、着ぐるみの内でグレイが目を見開く。


(そんなメンバーはいなかったはず……いや、【殲滅王】の後釜か)


 戦争開始以前、“トーナメント”の時期に【殲滅王】アルベルト・シュバルツカイザーが王国に移籍した。

 通信先のツークンフトは、その後で<セフィロト>に加入したのだろう。


『自己紹介承った。私は黄河所属、グレイ・α・ケンタウリだ』

『知っているとも』

『それで、なぜ通信を? 緊急の用件とお見受けするが』


 十中八九、相手の言わんとすることを察しながらも、グレイは会話を続ける。

 同時にラピュータの防衛設備の稼働準備を進めながら、館内放送でこの通信内容を全館に流す。

 それは護衛の<マスター>に迎撃準備を促すため。

 既に到達点の決まっているこの会話は、態勢を整える時間稼ぎだ。


『ああ。そちらの言う通りだ。こちらの恥を晒すようでいたたまれないが……カルディナに含まれる都市の一つで武装蜂起が発生した』

『……穏やかではないな』


 既にラジオで聞いた戯言と同じ言葉をツークンフトが口にしたことに対し、グレイは努めて失笑を隠した。


『議会直属の諜報員が反乱計画を掴んだのだがな。一足遅く、止められなかった』

『それで?』

『この事態を重く見た議長は緊急時の権限を行使。当該都市及びその半径二〇〇キロ圏をカルディナの敵対国家であると定めた』

『……それで(・・・)?』


 声の温度を下げたグレイが先を促すと、ツークンフトは本題を切り出す。


『――当該都市ウィンターオーブの市長とその親族は指名手配(・・・・)となった』


 その言葉に、グレイは目を細める。


『そして貴船にはスペクトラル・ローグ市長の息女であるエイリーン・ローグが乗船しているはずだ。彼女を引き渡してもらいたい』

『…………』


 グレイはモニターの一つに視線を向ける。

 ラピュータの生活ブロックでツァンロンやエリザベートと共に、エイリーンがいた。


『…………』


 グレイは銀龍自身から三人を護ることを頼まれている。

 しかし、護衛対象についてグレイが優先順位をつけるならば、ツァンロン、エリザベート、エイリーンの順だ。黄河所属の<マスター>であるならば当然のことだ。

 逆に王国で護衛に加わった者達も、ツァンロンとエリザベートの位置が変わるだけで同じだろう。

 二人よりも、エイリーンの護衛対象としての優先度は下がる。


 しかし、彼と彼女にとってはどうか。


 モニターの中のエイリーンは聞こえてきたカルディナの要求にも狼狽えてはいない。

 まだ十を過ぎたばかりの少女だというのに、その顏には悲壮な決意と覚悟が見える。

 けれど、その手は努めて怯えを隠そうとしていたが、震えている。


 そんな彼女の手を……エリザベートが握っていた。


『…………』


 そしてツァンロンはそんな二人を見守り、不意に室内に設置されたカメラに目を向けた。

 それは、モニター越しに自らの意思を伝えるものだ。


『返答は如何に?』

『…………』


 グレイは自らのクエスト……友人でもある銀龍から頼まれた事を思い返す。

 彼の弟と、弟の婚約者と、友人の娘。この三者を無事に黄河まで送り届けること。

 そして、銀龍からは『非常時に誰を切り捨てろ』などとは言われていない。

 それは『何事も起きない』と高を括っていたのではない。


 何事が起きようと(・・・・・・・・)――グレイならば彼らを護り切れると信頼されてのことだ。


 ゆえに、グレイの返答は決まっている。



『――断る』

 ――引き渡し要求の拒絶、と。



『こちらは黄河帝国第一皇子銀龍殿下の依頼で彼女を護送している。彼女の引き渡しを求めるならば、まずは銀龍殿下に話を通してもらおう』


 明確に、カルディナの要求に『否』と突き返す。


『彼女は我が国における極めて重要な事件の関係者だ。速やかにお引渡し願いたい』

『断る、と言っている』


 互いの言葉は平行線。

 ゆえに、この話の終着点は決まっている。


『ならば、こちらも任務を果たすために強制捜査(・・・・)の必要が生じるが?』

『そうなるだろうな』


 ラピュータに乗り込もうとしているカルディナとの戦闘。

 だが、それは既に覚悟の上だ。――どちらにとっても。


(最初からこうなると考えて要求していたのならば……)


 グレイは敵の戦力を予測する。

 眼下の<超級エンブリオ>は列車型(・・・)だ。

 見れば、明らかに客車や貨物車と思しき車両も車列に組み込まれている。

 ならば当然、多くの兵員を乗せていることだろう。


(相手はカルディナ。それこそ、<超級>を複数人投入してくるケースもありえる)


 黄河側にはグレイと迅羽、そして<超級>と同等以上の【龍帝】がいる。

 迅羽を獅子面で抑えたとしても、なお二人。

 そんなラピュータに攻め込むのならば、当然それと同等以上の戦力を用意してくるはずだ。


『ここは既にカルディナ国内ではない。貴国とカルディナの間で交わされた【誓約書】は効果を発揮しない、と言っても?』


 そう思考するグレイに対し、ツークンフトが最後通牒を突きつける。

 グレイにとっては案の定の脅迫だ。

 何らかの手段でウィンターオーブの領土内にラピュータを閉じ込めているのもそのため。


『無論だ。そもそも……貴様らは勘違いをしている』


 しかし、それでもグレイの選択は変わらない。

 彼はモニターに映る鉄道車両を睨みながら、自らの意思を口にする。



『あの子達を護るのは貴様らの寄越した【誓約書(紙切れ)】ではない――私達だ』

 それは断固とした――徹底抗戦の宣言である。



 決裂した両者の間に沈黙が流れる。

 しかしやがて、通信装置の向こうから『フハハハ』という笑声が届いた。

 それはグレイを嘲笑うものではなく、むしろ愉しげですらあった。


『敵ながら気持ちの良い台詞だ。こちらが言わされた(・・・・・)お仕着せの茶番劇よりも余程良い』


 それまでとは少し違った様子で、ツークンフトが喋り始める。

 彼も今回の一幕に思うところがあったということなのだろう。


 そうであろうと――ツークンフトのすべきこともまた変わらない。


『それでも敵は敵。任務(クエスト)任務(クエスト)だ。こちらも本気でやらせてもらう』


 その言葉で、通信は断たれた。

 眼下の列車型が一際大きな汽笛を響かせ、白煙を放出する。


 それこそが――戦いの狼煙だった。


全館(・・)――戦闘態勢』


 グレイは司令室のマイクを通し、ラピュータに指示を出す。


『【霊亀甲】、自律防御形態オート・シールド・モードで展開。円盤大隊(バタリオン)順次出撃(スクランブル)。空対地クラスター砲【砲殲火】、照準開始(ターゲットロック)


 グレイの指示に従い、彼の<超級エンブリオ>がその姿を変じさせていく。

 空を飛ぶ優雅な城だったラピュータ。

 しかし今、その外観が変貌する。

 船の甲板よりも巨大な十六枚の漆黒の亀甲がラピュータを囲うように出現。

 島の側面に開口した発進口から直径三メテルの円盤が次々に出撃。

 そして最下層の岩壁を砕きながら、巨大な火砲の特典武具が迫り出す。


 その有り様は――銘が示す通りの飛行要塞(・・・・)


『本館はこれより、カルディナとの戦闘に突入する』


 そして、グレイは共に戦う者達に呼び掛ける。

 ラピュータの内部監視モニターは、護衛の<マスター>達を映し出す。

 彼らはいずれも緊張と……決意を込めた表情をしていた。


『敵戦力には<超級>も確認している。厳しい戦いになるだろう』


 <マスター>の多くは<AETL連合>だ。

 かつての皇国との戦争で<超級>の恐ろしさを知る者も多く、グレイから告げられた情報に驚愕と恐怖を表情に浮かべる者もいた。

 けれど彼は自らの頬を叩き、気を引き締め、恐怖を打ち消した。

 そして、自らの意思でかつての敗北の記憶を乗り越えんとするのは、彼だけではなかった。

 立ち向かう勇気を示す<マスター>達の姿がグレイには見えていて、だからこそ彼は着ぐるみの内側で笑みを浮かべた。


『だが、誰が相手でも私達のすべきことは変わらない』


 グレイは、目的を同じくして共に戦う心強い仲間達に呼び掛ける。


『――総力を以て護るべき者達を護れ!』


 彼の呼びかけに、ラピュータのそこかしこから応じる声が轟いた。

 ゆえに、彼は改めて宣言する。


『これより私達の防衛戦を始める……トド!』


 そして、ようやく語尾をつけることを思い出しながら、グレイは宣言した。


 ◇


 王国と皇国の戦争、その二日目と三日目の大規模戦闘の狭間とも言うべき時間。

 西方と東方の狭間で――黄河アルター連合とカルディナの戦争が始まった。


 To be continued

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― 新着の感想 ―
デン◯イナー…だなぁ…頭の中でCLIMAXJUMP流れたよ
[一言] で、デン〇〇ナー!?夢の対決じゃねぇか…
[一言] ひどいマッチポンプだ
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