第三話 心の一歩
○告知
(=ↀωↀ=)<四月一日に発売の18巻
(=ↀωↀ=)<こちらが表紙となります
( ̄(エ) ̄)<久しぶりの表紙登場クマ
( ꒪|勅|꒪)(こいつまた顔出ねーな)
(=ↀωↀ=)<ちなみにクマニーサンは今回挿絵多いし
(=ↀωↀ=)<18巻は挿絵登場キャラ数では過去最高かもしれないよ
(=ↀωↀ=)<そして本編
(=ↀωↀ=)<時系列的に前話の一日前(戦争一日目)
□■【装甲操縦士】ユーゴー・レセップス
王国と皇国の間で二度目の、そして最後になるだろう戦争が始まった日。
私はカルディナ北部の砂漠……目的地であるウィンターオーブに近いエリアにいた。
街に入る前に、ここで珠の回収を担当する人と落ち合う予定になっている。
今回も私はお手伝いで、回収のメインはカルディナの有力<マスター>の人だ。
ただ、今回は師匠でもマニゴルドさんでもなく、<セフィロト>の誰かでもない。
彼らは南部の戦闘や他の重大クエストに関わっていて、ウィンターオーブの珠は別の人が担当すると言われている。
それならば師匠……【撃墜王】AR・I・CAの弟子の私が関わる必要はあるのだろうかとは思い、実際に尋ねてみたところ……必要であるらしい。
キューコの《地獄門》や同族撃破数のカウントを探る感覚は、珠の回収に関わってくる指名手配の<マスター>……<IF>に対してはカウンターになると考えられているからだ。
探知機で、彼らへの特効武器。それが私の立ち位置。
【殺人姫】……エミリーには対策されていたけれど、彼女のように復活できない【器神】ラスカル・ザ・ブラックオニキスはニアーラさんの協力もあって抗えた。
けれどその結果から、限定的ながら<超級>に対抗できる戦力と見做されてしまっていた。
(グランバロアと交戦中の南部に派遣されなかったのは、指名手配犯でもない<マスター>との戦闘に駆り出さない恩情かな。それとも……完全な身内でもない私には見せたくない機密があるのかな)
<超級>の戦力や能力など、他国には教えられない情報もある。
実際、グランバロアの<七大エンブリオ>は『七人いる』という情報は示されていても、一部は名前や能力が伏せられているほどだ。
カルディナにもそういった機密情報は当然あるのだろう。
(……実際に南部のクエストを頼まれたら、断っていただろうけれど)
姉妹と友人の戦争にどう加わるかも決意できずにここにいるのに……無関係な戦争で何をする資格もない。
それでも、珠の回収クエストは断らなかった。
コルタナをはじめ、各地で事件を起こす<IF>と相対することは間違っていないと思うから。
ただ、<IF>の対処とは別に……今回の回収クエストそのものには疑問が生じていた。
「ごきげんよう。あなたがユーゴーちゃんね」
考え事をしている内に、いつの間にか近づいてきていたらしい人に声を掛けられた。
「あ、はい」
「私が今回、君と同じクエストにつくザカライアよ」
「……ユーゴー・レセップスです」
相手は今回のクエストに協力して当たる人だけれど、対面した私は少し面食らっていた。
今回は<セフィロト>の人達ではなく、ザカライアさんという準<超級>の人だ。
「あら? あなたの<エンブリオ>のキューコちゃんは一緒じゃないのかしら?」
「あの子は、最近少し調子が悪いみたいで……紋章の中で眠ってます」
「あらまぁ……。そうなの、大丈夫かしら?」
「はい。起きていると疲れるみたいですけど、戦闘になれば問題なく……ここまでも無事に移動できましたし、クエストでも動けると思います」
「そう。それなら良かったわ」
頬に手を当ててこちらを心配するザカライアさんは、溜息が出そうになるくらい美人。
けれど、事前に貰った資料によると……ザカライアさんの性別は男性だ。
ザカライアさんの口調と見た目は女性のそれ。ただ、服装については別に女装などもしていないので、昔の言い方だと『オネエ系』というものになるのかな?
長身だし女装などはしていないけれど、化粧や髪の手入れがされていて一般的な女性よりも美人に見える。
……少なくとも、ユーゴーのアバターやリアルのユーリより美人だ。
「あぁ。驚かせちゃったかしら? ごめんなさいね」
私の反応で察したのか、それとも慣れているのか、ザカライアさんはそう言って微笑んだ。
「昔、友達にクランの雰囲気が堅苦しくなるって言われたからこんな喋り方にしてるの」
どうやらキャラ作りの一環らしい。私もキャラ作りと言えばキャラ作りだから親近感が湧くんだかなんなんだか……。
「うちのクランって変わり者が集まるから、オーナーの私も変わり者っぽい方がみんなやりやすいみたいなのよね……」
頬に手を当てて溜息を吐く仕草もなんか美人で、ちょっとリアルのわたしが自信失くしかける。
けれど、大事なのは彼の仕草ではなく、話の内容だ。
「クラン……<メジャー・アルカナ>、ですね」
「ええ、知っていてくれて嬉しいわ」
それは、カルディナの第三位クランの名前だ。
議長直下の<超級>を集めた第一位クラン、<セフィロト>。
カルディナ最大人数を誇る第二位クラン、<ペンタゴン・キャラバン>。
それらに続くクランこそが、<メジャー・アルカナ>。
議長直下の準<超級>を集めたクランで、設立は<セフィロト>よりも前。
初代オーナーは<セフィロト>に移籍した“魔法最強”のファトゥムさんで、彼の後を継いでクランオーナーになったのがザカライアさん……“世界”のザカライアだと聞いている。
「私もユーゴーちゃんのことは噂に聞いているわ。かの【殺人姫】の天敵で、<IF>のラスカルやドライフ正統政府のカーティスを倒した凄腕だってね」
「周りに助けられたからです……」
ニアーラさんがいなければ<IF>を撃退することも、カーティス・エルドーナや彼の死によって生まれた<UBM>を討つことも叶わなかった。
それにエミリーについては……。
「そうかしら? 私はそれだけとも思っていないけれど。今回はカリュートちゃんの仕上げた機体もあるのでしょう? クエストのパートナーとして申し分ないわ」
「……ありがとうございます」
カリュートさんによる【ホワイト・ローズ】の改修は、つい先日完了した。
実機テストも済ませたけど……色々な意味でトンデモナイ機体に仕上がっていた。
この機体を乗りこなせば、【エルトラーム号】で遭遇した<IF>の機体にも対抗できる。
準備は万端だ。
けれど……、
「あの、今回のクエストについて少し……お聞きしたいことがあります」
「何かしら?」
それはクエストを受諾して資料を受け取った後……それを読んでいる内に生じた疑問。
クエストを開始する前に、クエストの担当者であるザカライアさんに尋ねなければならないこと。
それは……。
「ウィンターオーブにある回復の珠は、回収の必要があるんですか?」
クエスト自体の必要性だった。
黄河との取り決めでもう珠の所有権はカルディナに移った。
回収して返還や交渉を行う必要もなく、カルディナ国内で好きにしていいということ。
それは既にカルディナが回収した珠だけでなく、このウィンターオーブの珠も同じだ。
資料によれば回復の珠は使い減りしない回復アイテムのようなもの。蛆や人化、そして今のグランバロアとの紛争原因である土の珠と違って悪用しづらそうに思える。
実際、珠が流入してから今まで問題も発生していないと書かれている。
むしろ、命を救われた人も多い……と。
先だってウィンターオーブでは事故や災害が立て続けに起き、医療体制が崩壊。
その急場を凌ぐために突如として齎された珠を活用し、結果として多くの命が救われたらしい。
そして今も医者・司祭系統の不足は解消しておらず、特に重傷者に対しては珠による治療が重要になっている。
これらの情報をここに来る道すがらで読んで、私は思った。
『医療器具として利用されているだけなら、ウィンターオーブに一任してもいいのでは』、と。
「ユーゴーちゃんは今回のクエストに納得がいっていないのね」
「…………」
カルディナ議会の決定は珠の回収。
資料があるということは、カルディナ議会もウィンターオーブの現状を知っているはずなのに。
「でもねユーゴーちゃん。現状で問題が起きていないとしても珠は珠よ」
ザカライアさんは私から視線を逸らし、砂漠の先に見えるウィンターオーブの街に視線を向けながら……私の疑問に否定を返す。
「いつ<UBM>が街中で解放されるかも分からない危険物であることは変わらないの」
「それは、そうですが……」
迂闊に関わって、逆に<UBM>を解放してしまうのではないかという不安も首をもたげる。
それに危険があるとはいえ、『街の人々の治療に使われている道具を奪うことが正しいのか』という思いもあった。
「ユーゴーちゃんや私の見た資料はウィンターオーブから提出されたものよ。『昨今の医療環境の問題もあって件の珠を活用している』、『状況が落ち着き次第、適切に処理する』ってメッセージと一緒にね。ただ、あちらの資料と言葉を鵜呑みにするわけにもいかないわ。コルタナの例もあるもの」
「…………」
コルタナの市長は珠を私的に用い、多くの人命を犠牲にして不老不死を得ようとしていた。
このウィンターオーブでも同じことが起きていないとは言い切れない。
「何より珠としての能力が本当に穏当でも、本体もそうとは限らないわ。若返りの珠と言われていたデ・ウェルミスがどんな危険物だったかは直接見ているはずでしょう?」
市街の中心地に出現した、巨大な蛆の集合体。
周囲のあらゆる傷を蛆へと変える醜悪な悪夢のような大怪物だった。
【冥王】ベネトナシュがいなければ、どれほど被害が拡大していたか分からない。
「もしかすると治療の裏で、何かの悲劇が芽吹いているかもしれない。起こるかもしれない悲劇の芽を事前に摘む。ユーゴーちゃんはその方が良いと思わない?」
「……そう、ですね」
たしかに、悲劇が起きてしまっては手遅れだ。
そうなってしまうよりは、事前に手を打つべきだろう。
それが、ウィンターオーブの医療手段の一つを奪ってしまうとしても。
「…………ッ」
けれど、この決断は過去を思い起こさせる。
大きな悲劇の前の小さな悲劇を容認する。
どうしても……かつての事件と重なって見えた。
――悲劇の片棒を担いで……それでいて『仕方がない』、『こうするしかない』って、
――誤魔化しが声と態度から溢れてきて鬱陶しい。
あの日に相対した銀髪の<マスター>の言葉が脳裏にリフレインする。
あのときと今では事情が違う。同じではないはず。
そう思っているのに、心にはブレーキが掛かる。
どうすべきか迷って、今も答えを出せずに踏み込めない。
「…………」
不意に、姉さんから連絡のなかった携帯端末を思い出す。
結局、自分では動けなかった。選べなかった。
私は……わたし自身はあのときからどれほど変われているのだろう。
「……でも」
変わるために、選ぶために、旅に出たのならば……。
いつかは、心も一歩を踏み出さなければいけない。
そうでなければ私は、あの頃の私からステータスと装備が変わっただけになってしまう。
「ザカライアさん」
だから今、勇気を出して……自分から踏み出す。
「なにかしら?」
「サポートに過ぎない身で、クエスト方針に口を出すのは失礼とは思いますが……、私に、調査の時間をくれませんか?」
「調査?」
ザカライアさんは頬に手を当てて、首を傾げる。
……今から、無茶なことを言おうとしているのは私自身でも分かっている。
それでも……。
「今日一日、私の目で直接ウィンターオーブと珠の調査を行わせてください」
それでも、私は自分から提案する。
「珠の危険度やこの街での管理体制を実際に確認して、問題がないかを確かめたいんです」
「……調査して、資料と違って問題があるならば?」
「回収は事件の発生を未然に防ぐことに他なりません。私も……憂いなく動けます」
「じゃあ情報通りで何の問題もないのなら?」
「ウィンターオーブの珠をどうするか、再考してください」
「……すごい申し出ね」
自分でも、無茶なことを言っているのは分かっている。
私は<超級>の弟子で、クエストを受けた身だけれど、カルディナ所属ですらない。
それが国のトップの決定を覆そうとしている。
『今すぐ帰れ』と言われて、カルディナを追放されても仕方のないことを言った。
けれど、流されるままに小さな悲劇を容認する真似を繰り返さないために……これは踏み出すべき一歩だった。
「それがあなたの納得に必要なのね?」
「……はい!」
ザカライアさんは頬に手を当てたまま怒りもせず、私をじっと見つめていた。
そうして、彼は暫し考えて……。
「……いいわ。私もクエストを請け負っただけの身だけれど……調査して珠と管理体制に問題がなければ、議長に上申して改めて指示を仰いであげる」
私の無茶な申し出を受け入れてくれた。
彼の言葉に、心が軽くなる。
「あ! ありがとうございます!」
「ん。良い顔ね!」
ザカライアさんは柔和な笑みを浮かべ、私の肩をポンと叩いた。
「そうと決まれば早速調査の段取りね。今日一日、情報収集にバラけて動きましょう? 私は<エンブリオ>で忍び込んで裏から探るから、ユーゴーちゃんは街で人から情報を集めてちょうだい。明日の正午、ウィンターオーブの公園で待ち合わせね」
「はい!」
「じゃあ、また明日ね」
ザカライアさんは話を切り上げるようにそう言った直後、――忽然と姿を消した。
「え?」
ログアウトとも違う。超音速機動のような空気の動きもない。
ただ、私の目の前からテレポーテーションのように消えていた。
「<エンブリオ>で忍び込むと言っていたけれど……これがザカライアさんの<エンブリオ>の?」
貰った資料にはザカライアさんのジョブや<エンブリオ>の情報は載っていなかった。
まぁ、議長直下の戦力だから秘密にしていることも多いのだろう。師匠にしても「公的なデータにはアタシの持ち札の半分も書いてないよ」と言っていた。
「さて、申し出は受けてもらえたのだし、調査を頑張らないと」
ウィンターオーブにある珠が穏当な治療器具か、危険の種か。
それを今日一日で見定めなければいけない。
「んー……」
丁度そのとき、これまで紋章の中に籠もっていたキューコが出てきた。
「キューコ、起きたの?」
「……うん」
その目は今もまだ眠そうだった。
ログアウトする前からずっとこんな様子だ。
話に聞いていた<エンブリオ>の進化前の変調かなとも思ったけど、明らかに上級への進化よりも変調が長いし、重かった。
まさか改修した【ホワイト・ローズ】とあいつが、キューコにとって重荷になっているとか……?
「大丈夫?」
「だいじょうぶ。それで、はなしはどうなった?」
「受けてもらえた。今日一日、実態調査をしてから結論を出すことになったよ」
「そう」
「キューコにもカウントで警戒してもらいたいけど、できそう?」
「……がんばる」
頷いてくれたキューコと共に、私はウィンターオーブに入った。
◇
このウィンターオーブの珠が危険かそうでないか。
それを確かめるために、一日を通して街の調査をした。
珠の所有者であるローグ市長の情報を集め、実際に珠の治療を受けた人を捜して話を聞いて、珠があるという診療所の警備状況を外から確認した。
内心、『操縦士じゃなくて探偵の仕事じゃないか』とか『またあのルーク・ホームズの方が向いてそうなクエストかぁ……』と思いもしたけど、それでも頑張って調べた。
そうした調査の結果、私から見るとある一点を除いて問題はないように思えた。
代々この街を治めているローグ家当主のスペクトラル・ローグ市長は市民からの評判も良く、コルタナのダグラス・コイン市長のような後ろ暗い噂もない。
珠の効果についても、治療を受けた人も回復魔法のように傷が治っただけで目立った異常はない。珠そのものが破壊されて<UBM>が解放されない限りは、安全と言えた。
珠のある診療所そのものは常に武装した衛兵が警備していて、市民用の身分証明がないと入れないので内部は調べることができなかった。逆にその警備の厳重さが安心要素と言えるかもしれない。
でも……。
「<IF>とか、つよいれんちゅうからまもれるとおもう?」
「……うん、それが問題」
夜に宿の自室でキューコと話していても、珠の管理体制で一番の問題点……というか避けては通れない点の話になった。
「強さはどこまであっても足りないのが、この世界だからね……」
強い力、特殊な能力。どれだけ厳重に警備をしようと、奪われるときは奪われる。
それこそ、珠を元々保管していた黄河の宝物庫からだって盗まれている。
「せっとくできそう?」
「……内部の警備状況次第、かな」
それこそ、ドラグノマドに置くのと同等の警備であれば問題ない。
ただ、ドラグノマドは都市に住む<超級>も含めた警備だ。
あれを超えるのは容易じゃない。
「……ザカライアさんもこのことが分かってたのかな」
『珠と管理体制に問題がなければ』という言葉は、珠そのものと同様に珠を護れるかも重要だと考えていたからなんだろう。
私達が回収せず、その後に犯罪者に奪われることこそが最悪の結果だと知っていたから。
「ザカライアさん……ううん、議長を説得できるくらいの管理体制じゃないと、やっぱり議会で回収ってことになる……よね」
だけど、この街からあの珠を取り上げることには、やはり賛同できない。
街の人から聞いて回ったけれど、【司祭】や【医師】が不足しているという話も本当だった。
理由はここ数年の発掘中の不幸や事故。
市政が悪かったわけではなく、不幸が重なったという話。
一年と少し前、この街の【司祭】さん達が亡くなった。
採掘現場で事故が起きて、その救助中のことだったという。
そのときは老齢の【司教】さんが一人街に残ったけれど、程なくして寿命で亡くなって……この街には司祭系統の人がいなくなった。
こういうことが起きても、普段なら王国にある宗教の総本山から派遣されてくる。
王国の名前のない国教。人々の間ではジョブ教ともクリスタル教とも言われるこの宗教の教えは、『ジョブの力で人々を助けること』だ。
それは傷病者の治療であり、作物の生産であり、人に仇為すモンスターの討伐。
ゆえに、必要とする者達のいる場所に聖職者が派遣されることは当たり前だった。
でも、タイミングが悪かった。
約一年前……王国における【グローリア】襲来と時期が重なってしまったから。
国教の聖職者はクレーミル防衛戦で壊滅に等しい打撃を受け、とてもではないが他国に派遣できるほどの人材が残っていなかった。
……この話は皇国でも聞いたことがあるから間違いないと思う。
司祭系統以外……医師系統の人は何人かいたけれど、基本的に【医師】のスキルは回復魔法や回復アイテムのような即効性がない。
状態異常以外の疾患には効果的だけど、外傷の類は治療に体力と時間が掛かる。
発掘作業や<厳冬山脈>から降りてくるモンスターへの対処で怪我人の多いこの街にとっては、由々しき問題だった。
深刻な司祭不足に陥り、カルディナの他都市に支援を求めるも結果は芳しくなかった。
多くの都市は鉱石で外貨を稼ぐウィンターオーブの資産を如何に削るかを考えていた。
そして最悪なことに、一部の援助を約束してくれた都市から派遣された者達は……誰もウィンターオーブに辿り着けなかったのだ。
カルディナの他の都市から派遣されるはずの医者や届けられるはずだった医薬品は、砂漠を移動する最中に運悪くモンスターに遭遇、全滅してしまったという。
怪我人に対してあまりにも足りない治療手段。
それがこのウィンターオーブの現状だった。
「……はぁ」
そんなウィンターオーブに差し伸べられた救いの手こそ、回復の珠に他ならない。
何度でも使えて、重傷でも回復できる珠。
黄河から盗まれた珠は、『それを使うのに適した人物』の下に送りつけられると考察されていたけれど、今回は最も顕著に示された形だ。
「警備体制の不安がぬぐえないなら……珠がなくなってもいいようにするべきなのかな?」
悩んでも内部の警備状況は私じゃ確認もできない。
だから、一度考え方を変えてみよう。
「警備が十分でないなら珠の回収……でも単に回収するんじゃなくて、お医者さんや回復アイテムをウィンターオーブに輸送することと引き換えで……。ウィンターオーブはカルディナの都市だし、人化の珠の取引みたいに交換条件はカルディナとしてもアリなはずだし……道中のモンスターがリスクなら私も護衛に参加して……。でも結局ウィンターオーブや議長に受け入れてもらえるかが問題で……ウィンターオーブは珠の方がコストも効き目も良いし……議長にしても強制回収なら出費不要だし……わたしに権限なんてないけど……でもこのままだと……」
「……んふー」
私がどうしようかと悩んでいると、キューコが眠そうな目をしながらもどこか嬉しそうに微笑んでいた。
「キューコ? どうしたの?」
「すなおでおばかでながされやすくてだまされやすいユーゴーも、ちょっとはかんがえるようになったなとおもって」
「……ありがと」
……毒舌まじりでバカにされてるみたいな言葉だけど、キューコは褒めてくれているみたい。
「じゃあ、わたしはねむるから」
「うん。おやすみ、キューコ」
キューコは就寝の挨拶をして紋章に戻った。
私も一人で思案しているだけじゃどうしようもないと思い、明日ザカライアさんに相談しようと考え、そのまま眠りについた。
◇
そして、翌朝。
「スパイ容疑で拘束する!」
宿の部屋に押し掛けた衛兵達によって、私は逮捕されていた。
To be continued
(=ↀωↀ=)<姉と友達の決戦になるであろう戦争当日まで自分で決断できなかったことは
(=ↀωↀ=)<流されるばかりだったユーゴーにとって自発的な一歩を踏み出すきっかけの一つとなりました
○逮捕
(=ↀωↀ=)<市長や珠のこと嗅ぎ回ってる余所者いたらそれは怪しいし目立ちます
○ザカライア
(=ↀωↀ=)<カルディナ第三位クラン<メジャー・アルカナ>オーナー
(=ↀωↀ=)<“世界”のザカライア
(=ↀωↀ=)<なお、世界と言っても時を止めたりするわけではない
○【グローリア】
(=ↀωↀ=)<はい。大きな爪痕を遺す【グローリア】ですが、これもその一つです
(=ↀωↀ=)<そりゃジョブに就くのに適性問題があるティアンの聖職者がクレーミルだけで六百人以上
(=ↀωↀ=)<他にも《絶死結界》で移動する【グローリア】のせいで数多く死んでおり
(=ↀωↀ=)<結果として人員不足に陥りました(その後は戦争でさらに減少)
(=`ω´=)<大変やねぇ
(=ↀωↀ=)<…………
(=ↀωↀ=)(そこそこの人数の聖職者になれるティアンを<月世の会>が持っていったのも要因だけどね?)




