第一〇四話 Result Ⅵ
(=ↀωↀ=)<本日三話目!
(=ↀωↀ=)<これで終わりだ!
□■【楽園遊偽 ティル・ナ・ノーグ】内部
「劇的、だねぇ……」
「…………」
どこかしみじみとした声音で、スプレンディダは呟いた。
彼の眼前ではエルドリッジが倒れ、命尽きようとしていた。
右腕は溶け落ち、全身は毒に侵されている。
もはや体は動かず、言葉も発せない。
「敗北の可能性がある中で勝利を目指すからこそ、ゲームは面白い。だから今回は本当に劇的で、楽しかった」
対するスプレンディダはその四肢を損なっている様子もない。
エルドリッジを見下ろしながら、どこかしんみりと、スプレンディダは死に掛けている男を前に言葉を漏らす。
「ああ、本当に楽しかった。勝敗は二の次ってほどに、……でも、まぁ……」
彼の言葉の途中で、HPがゼロになってエルドリッジが消える。
スプレンディダは消えゆく彼に……。
「やっぱり勝ちたかったな……」
少しだけ悔しそうに、敗者から勝者への憧憬でもある言葉を贈った。
スプレンディダの腹には、エルドリッジの拳のカタチが刻まれている。
しかし致命傷ではない。致命傷であれば、【ブローチ】が発動して無傷だっただろう。
今のエルドリッジには一撃で彼を殺す力はなかった。
だからこそ、彼は負けたのだ。
「……前も視覚や聴覚ではリンクはしていたけど、フルだときっついなぁ、これ……」
スプレンディダもまた、腹部の傷跡から【極毒】に汚染されていた。
エルドリッジが罹患した【極毒】を、接触によって移されたのだ。
それこそハイドラの《毒装態》の如き使用法。【極毒】そのものが《運命》によるものであることを考えても、完全に自分の力を利用された形だ。
「ごふっ。《病毒耐性》が仕事しない、っていうか……昨日よりも進行早くない……? ……ああ、私自身には再生能力ないもんなぁ……」
血を吐きながら、スプレンディダがぼやく。
【猛毒王】のスプレンディダであっても、自らのスキルが生み出した【極毒】からは逃れられない。
最終奥義とは本来そういうものだ。
それを代行する分身ではなく、自身の身で受けるのは彼にとって初めてだ。
耐性スキルも多少は仕事をしているのかまだ生きているが、遠からず彼の命は尽きるだろう。
「……その前に」
彼には、やり残したことがある。
「…………」
木のうろから身を乗り出して、後ろを振り向く。
そこには今も眠ったままの、少女……ペネロペ・ボロゼルの姿があった。
「……ティル・ナ・ノーグ」
彼の<エンブリオ>は、自らの主の言葉に対し……静かに一つの果実を落とした。
◇◆◇
□■王国東部・交易路・森林地帯
「オーナー! 大丈夫っすかぁ!?」
エルドリッジが影の内部に飛び込んで一分足らず。
ペリカンの後部ハッチから身を乗り出しながら、フェイが眼下に呼び掛ける。
その眼下の様子は、あまり良いとは言えない。
『VvvvVVVVVvvvv!!』
一〇〇体のティル・ナ・ノーグは動きを止め、毒の散布も止めている。
しかしそれ以外の戦力、まんまと出し抜かれたハイドラが機械らしからぬ様子で怒り狂っているためだ。
しかし、自らを破壊したビースリーも、果実を奪ったエルドリッジも既にいない。
そのため、唯一の生存者である月影を攻撃せんとしたが、彼はさっさと影の中に潜んでしまった。もしかすると重傷であるために彼も力尽きたか、あるいは既にカルチェラタンへの帰路に就いたかもしれない。
それゆえ怒りをぶつける先としてその場に残っていた《ファイティング・ファルコン》を破壊し、それからもメチャクチャに暴れて周囲の木々を粉砕していた。
周囲の毒を全て吸収した結果、長大で凶悪な蛇頭が無数に生え、今までで最も恐ろしい姿になっている。
その様子にニアーラは『最近は爬虫類のメカが暴れる光景をよく見ますね』などと思っていた。
ペリカンにも敵意を向けるため降下することもできず、声しか届けられない状態だ。
そうして手をこまねいていると……。
『―――vv』
不意に、ハイドラが動きを止める。
同時に一〇〇体のティル・ナ・ノーグが次々に枯れ果てていく。
それら全てがエルドリッジ達の求めた枯れた果実に変わり、荒れ果てた交易路に転がる。
それは、必殺スキルにあるデメリット。
一体の分身を一〇〇体に増殖させるスキル。
それが果実に変わるのは一〇〇体全てが死に絶えたときだけだが、もしそうなれば一〇〇体全てが果実……通行権に変わる。
倒されれば後がないスキルでもあったのだ。
「あっ! あれを見るっす!」
フェイがニアーラに指し示したのは、影の中から浮かび上がってきた男……スプレンディダだ。
それは毒に侵されたスプレンディダ本人ではなく、新しい分身。
そう、今回の一〇〇体はそれ自体が倒されたわけではない。
四体目を動かし始めたがゆえに、元は三体目であったティル・ナ・ノーグ達が全て機能停止したのだ。
四体目は、一人の少女を抱きかかえながら……上空のフェイ達に手を振った。
そして『降りてきてほしい』とジェスチャーしている。
「…………」
ニアーラは一瞬罠かとも思ったが、戦闘を続けるならば一〇〇体の分身を消し、エルドリッジ達の目的であった果実を大量に遺す意味がない。
そしてたった今、暴走を止めたハイドラを彼が格納したことで戦闘の終了を感じ取った。
注意深く、いつでも急上昇できるように心がけながらペリカンを降下させる。
分身は攻撃行動をとることなく、彼女達二人を出迎えた。
「降りてきてくれてありがとう」
「……オーナーは?」
「毒で死んだけれど、私と刺し違えた。私の本体はもうすぐデスペナ。君達のオーナーはついに<超級>を倒した。それは私が保証するし、『【獣王】でも倒せなかった<超級>の私を、初めて倒したのは【強奪王】エルドリッジだ』と公言してもいいよ」
「そうですか……」
「オーナーぱないっす!」
ニアーラはオーナーの本懐が遂げられたことに安堵し、フェイは素直に感動していた。
「で、こっちの用件。時間がないから手短に言うけれど、この子をしばらく預かってもらえないかな? デスペナが明けてログインできるようになったらすぐ迎えに行くから」
「え?」
そう言って、分身は抱きかかえたペネロペをニアーラとフェイに差し出した。
予想外の申し出にニアーラは面食らい、フェイは「わぁ、可愛いっすね。お姫様っぽいっす」などと呑気なことを言っている。
そう、それがスプレンディダのやり残したことだ。
皇国の<超級>として参戦した今回の<トライ・フラッグス>での脱落は決定した。
しかし、ペネロペの亡命クエストは残っている。
それも彼がこのまま何もせずにデスペナルティとなれば、間違いなくペネロペが死亡して失敗する。
だからこそ、誰かに預ける必要があるのだ。
相討ちに近い敗北であっても、敵である彼女達が生き残ったことは幸いだった。
「保育費は応相談だけど、絶対損はさせないよ」
「……《真偽判定》は問題ありませんが、しかしなぜ敵である私達に?」
「戦った相手であっても、君らはもう王国の人間じゃないだろ? この子は王国には預けられないからね、クエストの都合で」
「…………」
ニアーラは少し考える。
オーナーが残っていたらどうしたか、と。
そして傭兵クランを営む今ならば、依頼として引き受けるだろうと判断した。
それも、<超級>に貸しを作れる依頼。受けて損はないと判断するはずだ。
「それにさ。君達は彼のために頑張れる子達だから。彼のプラスになると分かっていれば、この子を保護してもらえると思ってね」
「……?」
スプレンディダは【エルトラーム号】の事件でもこの二人と出会い、言葉を交わし、パーティーへの参加チケットを譲っている。
もっとも、そのときのスプレンディダは化粧で印象を変えており、今はロールプレイを解いて口調も変わっているため、二人はまだ気づいていないようだった。
「……げ、本体のHPが尽きた。あとは《ラスト・コマンド》分の猶予時間しかないので返答お早く! 手付金いるなら今渡すから! あとこれ連絡先!」
「……分かりました。ひとまず預かります」
分身はペネロペと高額貨幣の袋、メモを差し出し、ニアーラはそれらと共に依頼を受諾した。
ともあれ、これで<ゴブリン・ストリート>とスプレンディダの間に一つのコネクションが繋がった形となる。
「ありがとう。これで安心して落ちれる……。あ、そうだ! まだあった! 君!」
「え!? あたしっすか!?」
安堵して消えようとした分身だが、思い出したようにフェイの方を向く。
「君に盗まれた妖刀は買い戻したいので売らないでネ! 相場より高く引き取るから!」
そう、戦闘の最中に彼の【死蛍】は《スティール》されたままであった。
盗難や破損を恐れて普段使いせず、運用する場合も気をつけていたというのに、盗まれてしまった逸品である。
「えぇ……今はお金困ってないっす。それより強い装備が欲しいから返したくないっす」
「妖刀欲しいなら他の属性の妖刀あげるから! 最上級の光属性妖刀はミーのメインウェポンで代えがないから! 返して! 妖刀返して!」
それまでの雰囲気がぶち壊しだが然もありなん。
レア装備をロストしかけているゲーマーとしての悲哀と焦燥感がそこにあった。
「んー、同じくらいの奴を二本ならいいっすよ!」
「強欲ぅ……!」
そんな締まらないやり取りの途中で、《ラスト・コマンド》の効果時間が終了し……スプレンディダに連なるものは全て光の塵になった。
ティル・ナ・ノーグの座も、分身も、落ちた果実も……彼自身も。
あとに残ったのは……ついに勝利者となった男に寄り添う二人の女性。
そしてスプレンディダが助け、彼女達に預けられた少女だけであった。
◇◆
こうして“常緑樹”のスプレンディダは脱落し……<トライ・フラッグス>はまた一人の<超級>を欠く。
これ以降、二日目には<超級>が関わる事態は発生せず、準<超級>クラスかそれ未満の交戦を各地で重ねながら、<トライ・フラッグス>は決戦の三日目へと移行した。
なお、状況の推移を示す上記の文面に、強いて付け足すことがあるとすれば……。
――『<超級>が関わる事態が発生しない』とは王国内部の話に過ぎないということだ。
To be continued
(=〇ω〇=)<書き終えました……(この話はプロットだけの状態から一日で書いた)
(=〇ω〇=)<正月はプラモ作ったりFF14暁月始めたりするんだーい……
(=ↀωↀ=)<ともあれ、これにて二日目が終了
(=ↀωↀ=)<お休みと活動報告を挟んだ後は、ついに三日目に突入
(=ↀωↀ=)<――する前に2・5日目だよ
( ꒪|勅|꒪)<2・5日って何すんだヨ……
(=ↀωↀ=)<君の出番
( ꒪|勅|꒪)<…………エ?
〇付記
(=ↀωↀ=)<下記の内容は二話前の後書きに入れる予定だったけど
(=ↀωↀ=)<作者が執筆の方で忙しすぎて入れ忘れた奴です
(=ↀωↀ=)<……今回誤字含めてミス多かったけど大目に見てもらえるとありがたいです
〇名刀百選
天地にて高名な百振りの刀。
特典武具などは含まれず、鍛冶師が打ったもののみ。
しかし性能は特典武具にも匹敵する。
〇妖刀四十二染
天地にて広く名を伝えられる特に強力な妖刀四十二振り。
選出の「選」ではなく汚染の「染」であるのは、怨念に染められたからである。
効果は強大だが、死に直結するクラスのデメリットを持つ。
振るう度に命を半減させるスプレンディダの【死蛍】はその典型例。
余談だが、刀が人斬りに使われ続ける天地では名刀百選かつ妖刀四十二染である刀も多い。
書籍17巻登場の重兵衛が持つ四振りの妖刀もその類である。




