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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第七章 女神は天に在らず

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第九十六話 ゲームプレイヤー

(=ↀωↀ=)<12月も残すところあと10日


(=ↀωↀ=)<まだこのエピソード書き終わってはいないけど


(=ↀωↀ=)<書き溜めが七話分できてラストまで固まっているのと


(=ↀωↀ=)<そろそろ開始しないと年内終了間に合わなそうなので


(=ↀωↀ=)<スプレンディダ編開始

 ■とあるプレイヤーについて


 彼を一言で述べるならば、『プレイヤー』だった。


 遊びたい。

 面白いことをしたい。

 けれど、危ない目に遭いたくない。

 多くの者が抱く感情、通常の『ゲーム』に伴う思いの複合を彼も持っていた。


『ンンン……』


 それまでやっていたゲームの大会である意味『出禁』になって暇をしていた彼は、話題のゲームだからという理由で<Infinite Dendrogram>を開始した。

 そんな彼が初めてログインしたときの感想はシンプルだ。


『思ってたのと違う』


 鮮明でありながら高速で変わる視界。

 自身が落下する際の空気との擦過音。

 触れ合った上空の大気の冷たさ。

 嗅いだことのない風の匂い。

 そして不自然にも何事もなく着地してから……戸惑い転んだ後の土の味。


 その現実(リアリティ)は『ゲーム』を求めていた彼にとっては余分過ぎた。


『夢のゲーム? このキャッチコピー考えた人は過労で悪夢でも見てるのかな?』

『これじゃあ、余計にややこしくなった『現実』だよ』


 身体を動かす感覚がある。

 痛覚はなくとも疲労感はある。

 移動には時間が掛かるし、戦いは毎回アスレチックより面倒くさい。

 少なくとも、彼が求めた遊びではない。大会の賞金が削れるくらいのプレミア価格で購入したので出費は惜しいが、好みに合わない。

 『まぁ噂の<エンブリオ>の孵化ガチャでも見てからやめるか』と考えた。

 これでひどいものが出ればネタにもなる。


 しかし結論から言えば、彼がここで<Infinite Dendrogram>を去ることはなかった。

 彼の性質がそうだったからか、あるいは去ろうとする彼を引き留めるためか。

 孵化した<エンブリオ>は、<Infinite Dendrogram>を彼の求めたものに近づけた。


『……? うろ(・・)のある木? いや、椅子かな?』


 人を一人乗せるためのスペースがある樹木。

 <エンブリオ>というには何とも現実にありそうな見た目だったが、彼はひとまずそのうろ(・・)に座ってみた。

 すると樹木は彼を乗せたまま地中……否、樹木そのものの影へと沈み込む。

 驚くべき状況変化を、彼は動じずに受け入れた。

 あえてそのときの思考を言語化するならば、『別にリアルで死ぬわけでもなし』、『ゲームなら驚きや恐怖だって楽しいものさ』といったところだろう。

 そうして影の中、無明の暗闇に包まれながら彼は少しだけ『これからどんなイベントが起きるのか』とワクワクした。

 すると、樹木の枝から果実が落ちて、跳ねて、影の水面から地上に浮上する。

 果実はヒト型になり、まるで植物系のゴーレムのような人形に変わる。

 その時点で、彼の視覚と聴覚は人形のそれとリンクした。


『へー。なるほど。これなら『ゲーム』だ』


 <Infinite Dendrogram>自体がダイブ型VRゲームという触れ込みなのに、まるでVRゲームをしているような感覚。

 ゴーレムの身体は彼の思ったように動くし、疲労もない。

 自分で歩かないならば、熱砂の砂漠でもそれなりに楽しく進めよう。

 誰にも攻撃されない場所で椅子に座って、自分の分身とも言える人形を動かす。

 その在り方はとてもゲーム的で、<Infinite Dendrogram>をやめるつもりだった彼をその後も引き留める原動力となった。


 ◆◆◆


 ■王都東・宿場町


 それは王都の東側、<イースター平原>の交易路に沿って作られた町だった。

 限りなく村に近い規模でセーブポイントもない小さな町だが、王国東端の<アジャニ伯爵領>との中間にあるため、交易商人用の宿屋が多いことで知られている。

 そんな宿場町にある『食事が美味い』と評判の宿屋の二階に、とある男の姿があった。

 装備効果もないだろう簡素なシャツとジーンズを着た男は、【猛毒王】スプレンディダ……が動かす分身である。

 本体は分身の足元の影の中、無明の異空間で木のうろの中に座り込んでいる。

 本体は常にそこから動かず、分身も作り直せば身ぎれいになるのだからわざわざ宿に泊まる必要はない。

 スプレンディダが宿に泊まったのは作戦の一環……ではなくただの気分の問題だ。

 カルディナで最高品質の客船が、とある大事件で台無しになる前に満喫していたのと同じである。

 王都の教会でエフを殺害して逃走した後、『そういえば評判のいい朝食を出す宿屋があったな』と思いついた。

 王国自体がどうなるか分からないので、食べられなくなる前に泊ったのである。

 戦時中でも自らの仕事を投げ出さない見上げた宿であり、彼が分身との味覚リンクで味わった朝食も満足に足る味だった。戦後も経営が続いていればもう一度来ようと思ったほどに。

 なお、分身の左手からは<マスター>であることを示す紋章も消えており、着ているのも<マスター>が扱うような質の良い装備でもないため、ただの一般人(ティアン)にしか見えない。

 彼を泊めた宿の従業員やこの街の人々も、まさか彼が皇国の<超級>だなどとは夢にも思わない。


 他の<超級>と比べ、スプレンディダは随分と――戦争参加についてこの表現が正しいかは別として――のんびり(・・・・)と参加していた。

 彼は皇国の作戦の全体像……どころか皇王の思惑も把握していない。

 そも、スプレンディダは他の<超級>とはスタンスが違う。

 【獣王】のように親友のためではなく、【魔将軍】のように師匠の指示でもなく、【大教授】のようにクランと報復のためでもなく、【車騎王】のように憧れのためでもなく、【魔弾王】のように仲間のためでもない。


 スプレンディダの理由は――面白半分(・・・・)である。


 戦争という一大イベントに<超級>という特殊なポジションで参加できれば面白いと思い、皇国のクエストを受けた形だ。

 無論、協力者の【水晶】からあれこれデータを集めるように依頼(クエスト)を受けてはいるが、それも付随目標(サブ)であってメインではない。

 彼は<Infinite Dendrogram>を楽しむためにここにいる。

 だからこそ、皇王は彼の生存能力を知りながらも、<命>そのものではなくデコイとしてしか運用しなかった。

 半ば脅して従えていたイゴーロナク同様、<命>を預けるほど信用するには危険と判断したのである。

 逆に、大抵の場合はホイホイと指示に従って動くと判断されているため、死ににくいことも含めて戦力としては使いやすい。

 今の彼に任されているクエストは、手段を問わずレイと王国の<超級>を討つことだ。


「ふむふむ……」


 そんなスプレンディダの分身はベッドに腰かけて座り、通信機を耳に当てている。

 分身の聞いている()を、聴覚リンクした本体もまた聞いていた。


『予定通り、東の国境に向かいます。外側で待機していてください。はい。手筈通りに』


 分身が耳に当てた通信機から聞こえるのは、<デス・ピリオド>のバルバロイ・バッド・バーンの声。

 正確に言えば、通信を傍受した皇国の偵察班が王都付近に潜伏している唯一の<超級>……スプレンディダに流してきた録音だ。

 報告はそれだけではなく、さらには王都から四台の竜車が東西南北に向けて出発した。

 しかも、東に向かって出発した竜車の御者はバルバロイ本人で、レイ・スターリングらしき人物が乗り込む様子も確認されたという。他の三台は<AETL連合>の<マスター>だ。


「……さてさて、これって露骨ですネ?」


 派遣された偵察班は通信魔法を傍受できる<エンブリオ>と、人工衛星の<エンブリオ>の持ち主。通信を介さない会話は不明で、屋内の様子も窺えない。

 それに情報を収集できる<エンブリオ>がいても、全てを把握できるわけではない。

 <超級>に届かない一般の<マスター>であり、何より人間の耳目は一組しかない。

 <エンブリオ>が補助しても一地域から目的の情報をゲットできるかどうかだ。

 そもそも数がまるで足りない。情報担当は元々の絶対数が少ない上、相当数が戦争前は王国に近い物資集積所に待機していたため、【光王】エフと【嫉妬魔王】ジーに狩られている。

 今回は王都内部に<命>のレイ・スターリングがいるため、皇国は残っている情報収集の<マスター>を派遣して動きを探っていたが……。


「この動き、とても罠っぽいですが……」


 そう見せかけて本命、という線もあるのが悩ましい。

 他に悩む点として、通信の内容は把握できるがバルバロイが誰に宛てて通信を送ったのかも不明ということもある。

 バルバロイは一方的に通信で言葉を伝えただけで、相手方の返答もなく切っている。

 このことからあちらは通信傍受を警戒しているように思える。

 だが、警戒しているならば……そもそも具体的な行動予定を口にするだろうか?

 それこそ、通信傍受を読んであえてウソの情報を通信で流すのもありえる。


「この通信の前に<ウェルキン・アライアンス>に警告メッセージ送ったそうですけどね……。ていうか、そっちの情報を仕入れることができたなら王国にも情報収集の<エンブリオ>がまだいるんですかネ? 厄介な奇襲潰ししてくる<デスピリ>のレーダーさんは落ちたそうですけど」


 王国側も数少ない情報収集型を大分減らしているはずで、数が減るにつれて手札だけでなく探る手段も減っているはずなのだ。

 何より大戦力にして情報収集も得手とするエフを仕留めたのはスプレンディダである。


「とはいえ、レイ・スターリングを王都に残しておくのが最悪の選択なのは向こうも重々承知でしょう。移動させる算段なのは間違いない。しかし、東……東ですかぁ」


 東の国境となると、王都の東にあるアジャニ伯爵領のさらに東。元は小国メイヘムだった地域だ。

 なぜ、そんな場所に向かっているのか。


「彼は間違いなく大きなダメージを負っている。なら、【女教皇】のところを目指すはずで、普通なら北上するはずですけど……」


 ターゲットが移動するなら、それを狙うのは当然だ。

 まして目的地と思しき場所が分かっているなら、それを封じるように動く。

 一日目の会戦、加えて【抜刀神】、【鎌王】、【堕天騎士】といった機動力のある準<超級>戦力が王国中を徘徊して戦力を削っている。

 対応できない速度で攻撃してくる【抜刀神】。

 正体不明の即死攻撃を放つ【鎌王】。

 元より高い力量と対応力を持ち、二つの特典武具で戦力を増し、さらには他の決闘ランカーと連携して動く【堕天騎士】。

 準<超級>を含む戦力が狩られて回っても仕方のない手合いではある。生存しているランカーでも、<超級>を除けば最上位の者達だ。

 皇国にも対抗できる準<超級>は残っているが、それは<砦>や<ウェルキン・アライアンス>の攻略に動いているはずだ。


「四方に向かうにしても、バルバロイは東ですか。まぁ、北と西は選べないのでしょうが」


 前哨戦と一日目でお互いにランカーを潰し合い、死人の数で言えば皇国の方が多い。

 しかしそもそも、ランカー……ランカークランのメンバー数で言えば皇国が勝る。

 本国に待機していた<LotJ>の残存メンバー達が、補給物資と共に西のルニングスや北のバルバロスから王国に流れ込んでいる。

 戦力追加を王国も察知しているだろうから、その二方面での行動は躊躇うだろう。


「戦力……ランカー……ふむ」


 ふと、スプレンディダはあることを思いつく。

 ランカーは言うまでもなく有力者だ。

 しかし、有力者が必ずしもランカーとは限らない。

 実力はあれどランキングに入れなかった、入る必要のなかった者も多数いる。

 そうした者の中には戦争結界が展開される前に国外へと退避し、この三十倍加速のボーナス時間を過ごす者も多い。

 王都に店を構え、自ら素材を集める料理人として知られる超級職【天上料理人】ダルシャンなどもその一人だ。


「国境の外で非ランカーの有力者と合流。戦域外のカルディナを通り、彼らに護送されながらレイ・スターリングを治療可能な扶桑月夜のいるカルチェラタンに向かう、とか?」


 皇国の方は元々可能な限りの<マスター>を<LotJ>などの受け入れ用クランに集め、この戦争に参加させていた。

 国外、それもカルディナ側で待機している戦力などない。

 それに、最大戦力だが<命>の【獣王】は範囲外に出られない。

 もしも彼女が戦域外にいる間に残る<宝>を砕かれれば、皇国の敗北が確定するからだ。

 対して、王国はレイ・スターリングが戦域外に出てもまだ二つのフラッグが残っている。

 こう考えると、大回りだが戦力を補充しつつ警戒の薄いルートではある。


「空路を使わないのは、飛行戦力や予定外の強モンスターに捕捉されることを警戒しているから?」


 それでも機動力次第では、二日目の内にカルチェラタンまで移動できるだろう。

 今から脱出行を阻止するならば、国境を抜ける前に止めるべきだ。


 ◆


 このときのスプレンディダの思考は、皇国側の思考としてはいたって順当なものだ。

 ただし、転移ゲート能力を持つ【扇動王】パレードの裏切りという、予想できない要因が抜けた状態での順当であった。


 ◆


「非ランカーの件が考え過ぎだとしても、バルバロイ・バッド・バーンの竜車が(こちら)に向かっているのは確定。町から少し離れたポイントで待ち伏せましょうかね。まずは一当てし、足止めし、本命であれば援軍を呼べばいいでしょう」


 狙いが外れていたとしても、罠だとしても、東にバルバロイはいる。

 ならば何事か(イベント)は起きるだろうと判断して、スプレンディダは分身を動かす。

 リスクがないからこそ、彼のフットワークは軽かった。


 強いて今の彼に懸念があるとすれば、王国側がエフの遺した暗号の意図を理解しているだろうこと。

 だが、解かれただけならば問題ない。

 それだけで揺らぐほど、彼の安全圏(ティル・ナ・ノーグ)は脆くない。

 それを確信していたからこそ、彼はぶら下げられた釣り餌に食いつくと決めた。


 そして彼の安全圏を揺るがす策があるならば……それはそれで面白いとも思った。


 To be continued

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゲームのなかでゲームをする能力とでも言えばいいのか… あの舐め腐った性格もそう考えると納得かー というかそういえばゲームだもんね、デンドロ
[一言] 醤油抗菌は極めてリアルに近いのが正に「夢のゲーム」として感動してもう一つの世界として考えるようになったのに対してスプレンディダは極めてリアルに近いのが「こんなんゲームじゃなくてもう一つのリア…
[一言] スプレンディダやカタみたいに「デンドロみんな必死で面倒くさくて疲れる」って人はそれなりにいそうですね
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