第九十五話 Result Ⅴ 後編
(=ↀωↀ=)<書き下ろし17巻本日発売
(=ↀωↀ=)<なお17巻発売記念SSは今回一冊丸々書き下ろしだったので
(=ↀωↀ=)<ネタバレや読了タイミング考慮して一週間後くらいにAEで投稿します
( ꒪|勅|꒪)<本音は?
(=ↀωↀ=)<もうちょっとスパロボ30やってから書く
(=ↀωↀ=)<うちのTOP3はエルガイムMK-IIとイカルガとグリッドマンです
(=ↀωↀ=)<あとFF14がもうちょっとで5.5まで終わるので……(今5.1)
□【聖騎士】レイ・スターリング
時間が正午を過ぎた頃、俺達は王都の教会でアット氏からの連絡を待っている。
彼とパレード氏はビフロストの門を建造した後、カルチェラタンに出発した。
なお、パレード氏から齎された特別攻撃隊の情報は、<ウェルキン・アライアンス>が襲撃される前に届けられたらしい。
しかし直後に戦闘が始まり、<ウェルキン・アライアンス>からは『敵の母艦が突っ込んでくる……!?』という通信を最後に連絡が取れなくなった。
王都から情報を探っても、どうやら壮絶な戦いの末に敗れてしまったということしか分からない。
あるいはデスペナルティになったメンバーがネットで情報を出しているかもしれないが、ログアウトしなければ確認もできない。
そこで教会内に残っていた<AETL連合>メンバーの一部がログアウトし、リアルでも連絡を取り合っている<ウェルキン・アライアンス>メンバーから情報を受け取りに行っている。
カルチェラタンからの報告、<ウェルキン・アライアンス>の情報収集。
どちらにしても待つしかない。
「……待つしかないっていうのも、ちょっとしんどいな」
「重傷者は大人しくしておれ。まだまだここからが大変なのだからな」
俺の左側に立って身体を支えてくれているネメシスが「やれやれ」というふうにそう述べた。
今の俺は回復魔法やアイテムで傷口こそ塞がっているものの、イゴーロナクとの戦いの後遺症は残っている。
左の太腿が抉れ、左腕も斧の反動で肩から吹っ飛んだ。
ついでに言えば、ジュバ戦でビームを防いだときに輻射熱で焼けた皮膚にもまだ火傷の痕が残っている。
体のバランスも悪いので、歩いていて転びそうになってはネメシスに助けてもらっている形だ。
「大人しく部屋で寝ておればよいではないか」
「それもそうなんだけど。だけど、待ってる間に皇国がまた攻めてくるかもしれないだろ」
「……まぁ既にやられておるしの」
「そうなったときのために、この状態でも少しは動けるように体の状態に慣れておこうと思ってさ」
ジュバや寝返り組との戦いでは、ほとんど動かずに戦っていた。
試練を突破して起きた後も基本は寝たフリ。
その後は《地獄瘴気》、《グランドクロス》、頭を狙ってきた剣の回避、《シャイニング・ディスペアー》、そして黒円盾でのガード。
立ち位置はほとんど動いていない……というか左足がまともに動かなかった。
今はこの足でも多少は動けるようにリハビリ中だ。
「この短時間のリハビリに効果があるかのぅ……。カルチェラタンに行けば治してもらえるのだし」
「今は待つことしかできないしな。それに体が不自由な状態で動くコツは覚えていて損はないさ」
今回は死んだらアウトの立場だが、【死兵】で死体状態の身体を動かす機会は多いだろう。部位欠損にも慣れておくべきだ。
……これまでも頻繁にボロボロになってて今さらという気もするが。
実際、足はともかく腕のバランスはそこまで気にならない。
「ところでレイ。朝は途中で情報整理に意識が向いたので聞きそびれたが、結局スプレンディダに関するヒントとは何だったのだ?」
「ああ。あれな」
そういえば、ネメシスに俺の考えを伝える前だった。
また襲ってくる可能性が高い相手でもあるし、今のうちに伝えておこう。
エフが遺した『D-3』、そして『C-1-2』という文言。
それらが意味するのは決闘三位とクラン一位のナンバー2。
「あのヒントはトムさんと月影先輩のことだよ」
「む? その二人があのスプレンディダと何の関係があるのだ?」
順を追って説明するか。
「スプレンディダの不死身がどういうものかは覚えてるか?」
「光を浴びると体が再生する。しかも恐らくは【死兵】とのコンボでHPゼロの状態からでも蘇る、であろう?」
「ああ。エフの奴がそれを読んで光を遮断して閉じ込めていた。だが、現実空間に戻ったときに奴は復活していたし、奴を閉じ込めていた場所には干からびた果実があった」
「閉じ込めた方は偽物……いや、分身だったということか」
ヒントの内容と関連付け、ネメシスがその答えに至る。
自分の分身を作り出すトムさんのグリマルキンを連想すれば分かりやすい。
「復活して【猛毒王】の最終奥義っぽい魔法を撃ってきた方もだな。あんな手を使ったのも、分身を創る能力と考えれば腑に落ちる」
あの干からびた果実からして、恐らく分身の正体は植物の類なのだろう。
再生時、そして戦闘時に木の枝や根に似た部位が体から伸びている状態も確認されているしな。
また、同時に複数人出してあの最終奥義を連打……という戦法を使ってこないのは何かしらの制限があるのだろう。
例えば、『一度に動かせる分身は一体のみ』などだ。
「なるほど。それがトムの……では月影の要素は」
「あいつの本体がどこにいたのか、だろうな」
影を操り、影に潜り込む月影先輩のエルルケーニッヒ。
これをグリマルキンの特性と組み合わせると、どうなるか。
「……まさか」
「そう。あいつは『影の中から分身を送り込んできてる』んだよ」
トムさんと違って、一度に一体の分身。
月影先輩と違って、影に入るだけの力。
だが、二つを合わせれば干渉できない影の中から不死身の分身を送り込む力だ。
安全圏から一方的に、毒の爆弾でもある分身を送り込める。
もっとも【猛毒王】のジョブは隠し玉だったらしく、最後だけ使ってきたが……手の内がバレたので今後は連発してくるかもしれない。
「分身が光で再生するのは植物の光合成か、それとも光が強いほどに濃くなる影の性質か。どっちにしても『影に潜みながら植物製の分身を動かす力』で良いと思う」
分身には【死兵】や【猛毒王】といったジョブも付属している。
本体と同じ能力の分身に光による再生機能がついていると見るべきだ。
「そんな安全圏から最終奥義を連打してくるような奴にどう対処すればよいのだ……」
「さあな。……だけど、間違いなく対策はある」
「何?」
そう。この情報さえ知っていれば、確実に対処はできるのだろう。
なぜなら、スプレンディダはこのヒントを確認した直後に逃げ出した。
「何をどうしても影に隠れたあいつに手出しできないなら、あそこで俺達が死ぬまで【猛毒王】のスキルをばら撒けばいいだけなんだ。だが、バレた時点で奴自身が退却を選んだなら、あの場には奴を倒す手段があったはずだ」
ヒントが見えた時点で奴自身には自分の『詰み』が見えていた。
俺達には分からずとも、だ。
「……そういえば、かつて誘拐されたときは《銀光》で影に隠れていた月影を攻撃できたのぅ」
「ああ」
同じ手段がスプレンディダに通じるかは不明だ。
しかし、通じずとも他に手の打ちようはあるのは間違いない。
あとはそれが何か分かれば……。
「レイ君」
「先輩?」
スプレンディダ対策を考えていると、後ろからビースリー先輩に声を掛けられた。
「パレード達がカルチェラタンに到達しました。先ほど一時的に門が開いて声だけ送ってきましたよ。十分後に再び門が開くそうなので準備をお願いします」
「あ、分かりました!」
通信魔法ではなく、ビフロストの門で連絡を取ったのは通信傍受の対策なのだろう。
けど、飛べる従魔を使ったとはいえ到着が速いな。
「もう着いたんですね」
「幸か不幸か皇国が<ウェルキン・アライアンス>との戦闘に注力していたため、航空警戒が非常に薄かったそうです。既に<編纂部>の二人は<遺跡>内部に到達し、会長も門の前で待機しているそうです。移動したらすぐに治してもらってください」
「はい。……今回って何か要求されますかね?」
前に聞いたとき治療一回目はサークルへの入会で、二回目からは入信とか言われたけど。
……珠への挑戦を条件に入会してるから次は入信になっちゃうんだよな。
「今回は戦争中の治療活動ですからね。もう王国と報酬の契約を結んでいるはずなので、大丈夫でしょう」
それは助かる。……アズライトに代わりに治療費払ってもらったようなものだけど。
「もしも何か言ってきたら私からも抗議しますので安心してください」
「先輩……」
すごく頼もしい……。対女化生先輩でビースリー先輩ほど頼れる人はいない。
「門を通ってカルチェラタンに向かうのはレイ君とルーク君の二人です。この教会にいる他の<マスター>は私も含めて囮として動きます」
「え、先輩?」
「私は貴方達と違って身体のダメージは大したことがありませんし、<デス・ピリオド>のメンバーが誰一人として王都周辺に残っていなければ皇国も怪しむでしょう」
「それはそうだが、大丈夫かのぅ……」
「大丈夫とは言えませんね。恐らく、スプレンディダとの再戦になります」
ネメシスが心配そうに尋ねると、先輩はメガネを押し上げながら答える。
「<命>……この戦争の勝利条件の三分の一が掛かった戦いです。あちらも<超級>クラスの戦力を投入するでしょう。そして、最適な人材はまだ王都近辺に潜んでいるはずのスプレンディダです」
「先輩、スプレンディダは……」
「ええ。相手の性質、影と分身植物については私も理解しています」
俺が思い至ったことに、先輩もまた考えついていたらしい。
「ですので、これを」
先輩はそう言いながら手紙の入った便箋を俺に手渡した。
「これは?」
「会長への伝言です。直接話せればよかったのですが……。通信は傍受されるかもしれませんし、あの門も一日一回しか通れないそうなので」
なるほど。それで手紙という古風な手段で。
「内容は?」
「相談ですよ」
そうして先輩は笑みを浮かべる。
しかしそれは、ビースリー先輩としての穏やかな笑みではない。
「――スプレンディダを倒すためのな」
一人のPK……昨晩の借りを返さんとする獰猛な<マスター>の笑みだった。
To be continued
(=ↀωↀ=)<リザルト
(=ↀωↀ=)<皇国側も<ウェルキン・アライアンス>戦で大変だったので
(=ↀωↀ=)<無事にパレード達はカルチェラタンに辿り着きました
(=ↀωↀ=)<そして次戦はちょっとお休みしてからですが
(=ↀωↀ=)<【猛毒王】スプレンディダ戦です
(=ↀωↀ=)<今年中にやります




