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第八十九話 エクストララウンド

(=ↀωↀ=)<漫画版46話が本日更新


(=ↀωↀ=)<ルークVSユーゴー開始です

 □■ケイデンスについて


 <Infinite Dendrogram>を開始したとき、誰もがアバターのメイキングを行う。

 リアルの自分の容姿を基礎にする者や有名キャラクターを模す者など様々だが……その中でも明確に推奨されない(・・・・・・)アバターがある。

 巨人型アバターと小人・妖精型アバターである。

 それらの体躯は、レジェンダリアを除く七大国家の生活様式が対象とするサイズから離れている。

 衣食住や職人の作成する戦闘装備なども対応していないものが多く、リアル同様の五感で生活する<Infinite Dendrogram>において明確に不便を強いられてしまう。

 だからこそ、メイキングを担当した管理AI達もプレイヤーがそれらのアバターを作成しようとした際には警告を出す。

 ただし、禁止はしていない。

 それもまた自由の範疇であり、その選択が他と異なる道を歩ませることにもなりうるからだ。

 結果として反対を押し切ってアバターを作り、不便さを理由にリタイアする<マスター>がそれなりに生まれることとなった。

 しかし逆に……適応した<マスター>も少数だが生まれた。

 ケイデンス、彼もまたその一人である。

 彼の担当となったクイーンが「やめた方がいい」と忠告しても、彼はそのまま突き進んだ。

 理由は、『これなら絶対に驚かせられる(悪用できる)』からだ。

 驚かせる、想定を超える、そして勝つ。彼の行動原理の多くは言うなれば悪戯心に由来するものであり、それは見た目だけでなく思考もティアンの妖精に近いと言える。

 ただし彼と妖精では明確に違う点がある。

 場当たり的な思考が強い妖精と違い、彼は楽しい瞬間のために準備することを怠らない。

 奇襲性能の高い正体を隠すために、小人としての不便な生活も受け入れる。

 他人に雑学や知識を振りまいて「そうだったのか」と驚かせるために知識を集め、より知識を持つ者と情報交換する。

 <Infinite Dendrogram>で未だかつて誰も成し遂げたことのない大事業のために、人を集めて会社(クラン)を創る。

 誰も踏破したことのないダンジョンを密かにソロ攻略するために空中拠点を造る。

 承認欲求とも違う。

 言うなれば、サプライズパーティーの準備に凝るタイプだ。

 他人の心を揺らすことに心血を注いでいる。


 ただし、それは決してエンターテイナーという意味ではない。


 彼が望むのは『驚く他者の反応を楽しむ自分』であり、驚かせた相手の反応や結末は正負どちらでも構わないからだ。

 他人は自分が悦に浸るための触媒に過ぎないがゆえに、悦楽の度合い(メリット)次第ではどう転ぶかも分からない。

 ある意味ではこれ以上なく……『傲慢』な人格の持ち主と言えた。


 ◇◆◇


 □■<ターミナル・クラウド>残骸落着地


「小人型アバター。実物を見たのは初めてや」

「たまーにいるよ。レジェンダリア出身者にはね。まぁ、この小柄(・・)な身体をカバーできる<エンブリオ>が生まれないと、色々大変だけどね」


 羽でも生えるか、生活をサポートしてくれる人間サイズのガードナーを得るか。

 そうでもなければ常に踏み潰される危険と隣り合わせ。食卓やベッドに上がることが絶壁を登るに等しく、ペンを扱うことが丸太を振り回すも同然の生活を送ることになる。

 その不便さはケイデンス自身も身に沁みている。


「世間に知られとるケイデンスはお前のガードナー……いや、アポストルなんやな?」

「正解。《同調者偽装》で僕のステータスの一部を写してたのさ」


 ゆえに、《看破》を受けても【嵐王】ケイデンスとしてステータスが表示されていた。

 《同調者偽装》は情報面で<マスター>の影武者となるスキル。メイデンとアポストルにとって《紋章偽装》同様の汎用スキルに近いものではあるが、習得した者は多くない。

 『<マスター>本人がアポストルの服に隠れ続ける』といった捻くれた使い方を続けでもしなければ、『<マスター>の代役』となるスキルは習得しないからだ。

 ケイデンスのアポストルについては、表情なども彼と連動していた。リンクする彼の感情が閾値を超えるとアポストル本来の表情に戻ってしまうという問題もあったが……些細なことだ。


「ちなみに、<ウェルキン・アライアンス>の誰も知らなかったけどね。リーフには教えても良かったんだけど、あの子ってば悪気なしに広めそうだしさ……」

「せやな……」


 口振りや彼女を守っていた『お手玉』も含め、リーフのことは認めていたのだろう。

 逆に言えば、他のメンバーは何も伝えるに値しないと考えていたということ。

 その行動がケイデンスの冷徹さと酷薄さを示していた。


「しっかし、落っこちる連中の中にも見あたらんはずやで。そんなちんまいナリしとったらのぅ」

「でしょー。隠れて行動するときにとっても便利なんだよ。……まぁ、お菓子を一人で食べきれないのが悩みだね。服の中に落としてもらった欠片だけ食べるとか、間違った可愛がり方されるハムスターになった感じ?」


 クランのメンバーと卓を囲んでいたときも、本物のケイデンスは<エンブリオ>のコートの内側でラングドシャの欠片を頬張っていた。

 いつものことだ。


「……爆発の瞬間、ジブンの影武者やった<エンブリオ>を仕舞って【ブローチ】で爆発を受ける。ほんで、その豆粒みたいなナリで落下しながら、【飛将軍(リーフ)】につけた魔法の制御もしてたっちゅうところか?」

「大体あってるね。……ふぅ、なのに見つかっちゃったよ」


 本来の体躯は純粋に目視が難しく、魔法を使わなければそちらから探知されることもない。

 ケイデンスはそう考えていたというのに、ワイバーンには捕捉されてしまった。

 狙撃用スコープに備わったロックオン機構がケイデンスを捕捉したのである。


「はぁ……いやになっちゃう。私生活の質(QOL)下げてまで隠してた切り札の一つだったのにさ。ドールハウスで寝泊まりする気持ちわかる?」

「夢があるやんけ」

「うん、ちょっと思ってた。牛乳風呂いいよね」


 そんな軽口を交わしているケイデンスだが、内心では本当に凹んでいた。

 代役のアポストルを影武者とすれば、本人は怪しまれることなく動くことができる。

 それこそ、無防備に見せておきながら隠れた本人が大魔法を使うこともできる。

 極めて有効な手札だったが、敵にバレてしまえばこの情報も拡散されて使いづらくなる。

 ケイデンスにとってはクランの全滅や<ターミナル・クラウド>の消滅よりも、余程大きな損害だ。

 こんなことなら生存を悟られるのも構わず、姿を捕捉される前にガンドールを殺しておけばよかったと後悔する。

 ともあれ、時間は巻き戻せないもの。

 ケイデンスは気持ちを切り替えて、ガンドールに一つの問いかけを放つ。


「――で、この時間稼ぎ丸出しの会話をいつまでやるんだい?」

 ――瞬間、機械竜人がケイデンスを踏み潰した。


 巨人の如き機械竜人と小人の如きケイデンス。

 両者の体格差でのこの行動は、それこそ人が蟻を踏み潰すようなもの。地面にクレーターを作りながら、機械竜人はケイデンスの立っていた場所を蹴り砕く。

 機体全体がリーフ戦の過負荷で損傷していた機械竜人は、大地を蹴りつけた反動で機体が軋んでいる。

 それでも、思惑を悟られた時点で攻撃する以外になかった。

 正体が明らかになったからこそ、ケイデンスの戦術的脅威は増した。

 今は捕捉できているが、見失えば確実に攻撃の権利をケイデンスに与えることになる。

 ケイデンスの魔法の規模と威力は防衛戦でも確認できている。この戦争の以降の作戦中にケイデンスの介入・奇襲を許せば皇国は窮地に陥るだろう。

 ゆえにケイデンス生存を後方に報せ、彼を討つために……元は<宝>の逃走を避けるために控えていた戦力が既に動いている。

 いまのガンドールの役割は、時間稼ぎと足止めだ。

 風属性魔法による反撃で自身がデスペナルティになることを覚悟しても、少しでもケイデンスをこの場に留め、あるいはダメージを負わせなければならない。

 だが……。


「何で潰れへんのや……!」

 ――ケイデンスは機械竜人に踏み潰されながら、なお二本の足で大地に立っていた。


 反撃すらせず、僅かのダメージも受けてはいない。

 魔法職の筋力と耐久力で耐えられるものではないはずなのに、何の重さも感じていないかのようにケイデンスは立っている。

 風属性のバリアで防いだ気配すらない。


「さーあ? 何でだろうね」


 潰されない理由を、無論ケイデンスは知っている。

 この状況は彼が保有する手札の一つが齎しているモノ。

 カロンの爆発に耐えたのは【ブローチ】ではないし、先刻のブレスも風で阻んだのではない。同じ原理で阻んでいる。

 だが、それをガンドールに教える気はない。

 アバターの正体だけでも、情報を支払い過ぎている。


「どういう仕組みや……!」


 機械竜人は飛び退き、ドラゴンヘッドからの砲撃を行う。

 しかし放たれた砲弾も、ケイデンスの体表で弾かれて明後日の方向へと飛んだ。


「ッ……!」


 魔法職では……耐久型の前衛でもありえない無敵性が、今のケイデンスにはあった。

 <エンブリオ>によるものか、特典武具によるものか、あるいはそれ以外の何かか。

 いずれにしろ今のガンドールでは……いや、万全の状態であっても歯が立たない。

 今のケイデンスは明確に、規格外の力を持っていた。


(……あーあ。やんなっちゃう。最初のブレスの時点で手遅れだったろうけど、《アッパー・ポジション(この防御スキル)》まで晒すハメになるんだもんなー)


 猛攻をそよ風ほどにも感じていない様子だが、本音を言えばケイデンスは気落ちしていた。

 ガンドールは分からずとも、報告された皇王はケイデンスの防御能力の由来(・・)にも気づくだろう。

 こんな場面で自らの手札が次々に露呈したことに対し、発する言葉以上にショックを受けている。

 サプライズパーティーの準備中に主賓が入ってくるよりも性質が悪い。プロポーズの演出プランが相手にダダ漏れだったような気分だ。

 その憤懣と不満とやるせなさが眼前のガンドールだけでは収まりそうもないので、追加の生贄(・・・・・)が来るのを待っている。

 他の手札まで露呈する危険を避けるならば、ガンドールを早々に倒して去るべきだがそうしない。

 少し自棄になっていると言ってもいい。


(援軍も彼くらいのレベル(・・・)ならパッシブスキルだけで問題ないけど)


 しかしそうして一時の感情に則った行動をしながらも、脳内の冷静な部分では状況の分析を行なっている。


(いったいどんな戦力を持ち出してくる気かな?)


 皇国は空中戦力の全てを今回の戦いに投入した。

 ならば必然、後方に待機していた増援は空中戦力ではない。既に投入された戦力の総数から見ても、戦力分散は初見殺しを躱すための一度が限度だろう。


(<ウェルキン・アライアンス>が王国にとって純粋な味方か、獅子身中の虫か。どちらに分類されるか未確定だった時点で、皇国が警戒していたことは二つ。<宝>が存在していたときに逃走されること。逃してはならない危険戦力があったときに潜伏されること)


 <ウェルキン・アライアンス>は航空クラン。

 そのプランは空路一択であり、パレードのような転移ではない。

 ゆえにその逃走手段は高速飛行によるものと推察される。

 つまりは超音速、あるいはそれを上回る速度で逃げる敵を追うことも、当然予想しただろう。

 また、危険戦力……無視できない<超級>クラスの戦力であった場合、倒すのにも<超級>以上の戦力が必要になる。

 超々音速での追跡。<超級>以上の戦力。

 それに該当する人材が、ケイデンスはたった一人だけ思い浮かんだ。

 しかしまさか、ここに来ることはないだろうと考えたとき。


『――警戒せよ』

 ――自らの<エンブリオ>による警告が聞こえた。


(《インナー・ポジション》、発動(オン)


 瞬間、ケイデンスは自らの保有するアクティブスキルを起動させる。

 その直後のことだ。




 小柄な、しかし今の彼よりも巨大な――()が至近距離まで肉薄した。




『――BAN』

 獣は彼にスキルの一撃を――同時三重爪撃(タイガー・スクラッチ)を放つ。


「ッ……!」


 常ならば身体を三度粉砕されるだろう攻撃。

 しかし、ケイデンスのスキルはそのダメージ(干渉)を無効化して耐えきった。

 自らの攻撃を防がれたことで、獣の目に僅かな疑問が浮かぶ。

 だが、獣はすぐさまその場から飛び退き――ケイデンスには頭上から大質量を叩きつけられる。


「ッ!?」


 それは巨大な怪獣の足。

 発する力は機械竜人の踏み付けの比ではなく、大地が天変地異の如く砕け散った。


『小さすぎて見失ってしまいそうですね』


 巨大な怪獣は、見下すような女の声を空間に響かせた。


『これでは倒したかも判別がつきません』

『Stay Alert(油断しない)』


 鼻で笑うような怪獣の言葉を、獣が否定する。

 そして獣の正しさを示すように、突如空間に発生した黒い球体――圧縮された嵐の球が怪獣に着弾し、着弾地点の表皮を削った。

 同時に、怪獣の足元から幾つもの竜巻が発生した。

 それは尋常な風の色ではなく、青緑色の……明確に毒性を孕んだ竜巻だった。


『MVP Arms(事前情報にあった特典武具。避けて)』

『む……!』


 獣の指示で怪獣は飛び退き、地割れ・地響きと共に後方の大地へと着地する。

 怪獣が退いた崩壊した大地。その底から、風を伴なってケイデンスが浮上する。


「なるほどねー。なるほどなるほど」


 ケイデンスは獣と怪獣を見ながら、何かに納得したように頷いている。


「まさか、君達を投入するとは……ね」


 その獣が何者かを、彼は当然知っている。

 その獣の称号を、知らぬ者はいない。



 獣の……彼女の名はベヘモット。

 西方三国最強、“物理最強”の【獣王】。

 このとき、この戦場において……ついに皇国の切り札が投入されたのである。



(ここには僕しかいない。<超級>がいない。扶桑月夜もいない。それでいて、後々の戦術上の危険度は高い。だから彼女達を投入しても問題ない、かぁ……)


 皇国が今まで【獣王】を投入していなかったのは、王国側の組合わせ(コンボ)次第で落とされる危険があったからだ。

 しかし、たった一人の敵との戦闘であれば……負ける道理がないと考えた。

 ケイデンスに未知の手札があるとしても、勝てると。


「……参ったな」


 元より、移動速度を考えれば逃げられる相手でもない。

 『こうなってはもう仕方がない』とケイデンスは観念した。


「そんな評価をされると……手札を晒しても勝ちたくなる」

 全力でやるしかない、と。


 手札を切れば、勝算の一つや二つはある。

 ゆえに、ケイデンスの感情的な部分は逃走ではなく闘争を選んだ。

 何より……。



「――“最強(・・)”を斃す。きっと世界中が驚くだろうね。どうもありがとう(・・・・・・・・)

 ――これはこれで大番狂わせになって面白い。



 世界に仕掛けるサプライズ。

 自らの秘密を明かす対価としても悪くないと……傲慢な小人(ケイデンス)は笑う。

 彼の挑発ともとれる宣言に対し、怪獣(レヴィアタン)は激昂したように唸る。

 そして【獣王】は……。


『――Try and do it』

 ――静かな表情のまま、『やれるものならやってみて』と受けて立った。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<<ターミナル・クラウド>防衛戦、エクストララウンド


(=ↀωↀ=)<【嵐王】/【■■■■】VS【獣王】












〇《アッパー・ポジション(上位特権)

パッシブスキル。

ある条件下の敵性存在からの干渉を無効化。

《看破》に対してはこのスキルを保有するジョブに関する数値・文言のみを改竄。



〇《インナー・ポジション(対外特権)

アクティブスキル。

ある条件下の敵性存在からの干渉を無効化。

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― 新着の感想 ―
牛乳風呂、ドールハウス ドラえもんのび太のリトルスターウォーズ 懐かしい。
[一言] 「こいつ絶対【傲慢魔王】持ってるだろ!」と叫びました。 ケイデンスみたいなキャラ好きです。
[良い点] 小人アバターでアポストルのマスターで超級職2個持ちかぁ これでもかってくらい珍しい要素の詰め合わせだけど、一応全部前例が無いわけではないのが面白い [気になる点] 〈対外特権〉と〈上位特権…
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