第八十話 情報整理
(=ↀωↀ=)<久しぶりの本編更新
(=ↀωↀ=)<直前で修正してたら遅れました
(=ↀωↀ=)<本編休載中はAEで更新してたのでそちらもよろしくお願いします
(=ↀωↀ=)<今回は一日目のまとめ回
□【聖騎士】レイ・スターリング
「現在の状況についての報告会を始めます」
戦争二日目。集まった面々に向けて、ルークはそう言った。
場所は王都の教会で主に会議室として使われている部屋で、広さは大学の講義室程度だ。
室内には俺とネメシス、ルークとバビ、ビースリー先輩、ライザーさんとラング、それと<AETL連合>や追撃戦で生き残った人達だ。
王都近郊で活動していた参加者は、既にこの会議室に収まる人数にまで減ってしまったことになる。
「最大三日間の<トライ・フラッグス>、その一日目」
ルークは卓上に広げた地図に俺達の名前が書かれた駒を置きながら説明を始めた。バビが助手として資料も配って回っている。
俺が昨日のダメージを回復している間に、ルークは生存者や<DIN>から情報を取りまとめておいてくれたらしい。
「開戦直後。<墓標迷宮>に陣取っていたレイさん達……<命>の護衛班が“不退転”のイゴーロナクによる強襲を受けました。イゴーロナクは撃退できましたが、こちらの損害も大きなものでした」
ルークの説明に、<AETL連合>の人達が悔しそうな表情を見せる。
あの戦いでパトリオット氏をはじめ、多数のメンバーが犠牲になったからだろう。
俺にも、その気持ちは分かる。
「この後、<デス・ピリオド>と<K&R>を中核とした部隊により、イゴーロナクの追撃戦を敢行。皇国の迎撃戦力と交戦します。イゴーロナク、そして【車騎王】の撃破に至りますが、こちらも<超級>のアルベルトさんをはじめとして多くのメンバーが脱落しています。<超級>に絞ったキルスコアでは二対一ですが、まだ優勢とは言えないでしょう」
<デス・ピリオド>に限ってもアルベルトさんだけでなく、マリーやふじのん達が脱落している。ランカーも狼桜やビシュマルさんが脱落し、王国側の被害も大きい。
……それにここでは言わなかったが、ルークによるとイゴーロナクとの戦いの終盤では謎の乱入者の存在もあったらしい。
<トライ・フラッグス>に目的も不明の何者かが介在していることに、嫌な感触がある。
「二度の大規模戦闘の間に、各地でも準<超級>クラスの戦闘が勃発。皇国の物資集積所や準<超級>を落としています」
<AETL連合>のサブオーナーであるヴォイニッチ氏も単独で動き、各地の拠点や準<超級>の撃破に動いているらしい。今も王都に帰還せず、活動中。
また、ジュリエット達も皇国の討伐・決闘ランカーと激突し、倒しているらしい。
「しかし、こちらの被害もほぼ五分。元より皇国側の方が準<超級>は多いため、ここではやや形勢不利と言えるでしょう」
そう言ってルークが目を伏せる。何でもルークと親交のあるキャサリン金剛氏もこのタイミングで落ちたそうだ。討伐ランキング二位……兄に次ぐランカーの退場は大きい。
「また、王国南西のニッサ辺境伯領ではこの戦争に触発されたのか、神話級と古代伝説級を含む複数体の<UBM>による大規模戦闘が発生しています。幸いニッサ辺境伯領に大きな被害はなく、<UBM>の討伐と撃退に成功しました」
「それは良かった……」
初耳の情報だったが、古代伝説級以上の<UBM>はトルネ村の件を考えても街が滅んでもおかしくないケースだ。ニッサ辺境伯領が無事なら良かった。
「同時期にこの王都でも“常緑樹”のスプレンディダ、“不夜嬢”ジュバによる教会襲撃が発生。回復中のレイさんを狙われますが、スプレンディダを撃退、ジュバを撃破しています。護衛の<マスター>の方々や、居合わせた【光王】が脱落しましたが……まだ良い結果と言えるでしょう」
「…………」
あの瞬間、【光王】が何を考えて俺を庇ったのかはまだ分からない。
だが、彼がいたからこそ、俺はまだ脱落していない。
そのことには……感謝しよう。
『そういえば、【光王】の遺したヒントは一体何だったのだ?』
ネメシスが念話で尋ねてきたのは、デスペナ直前のあいつがレーザーで床に焼きつけた文言のことだろう。
『D-3』、そして『C-1-2』。
あれの答えは簡単だ。Dは決闘、Cはクラン。
要するに決闘三位とクラン一位のナンバー2ということで、それらが指すのは……。
「そして戦争開始から二十四時間経過時、状況が大きく動きます」
と、念話でそこまで説明しかけたところでルークがカタンと音を立てて駒を置く。
王国の地図の一点に置かれたのは、『フィガロ』と書かれた駒。
「王国最強格のフィガロ氏が、皇国の<砦>を強襲。これを破壊しています」
「おお!」
フラッグの破壊。この<トライ・フラッグス>における明確な勝利条件の達成に、会議室にいた人々も沸き立つ。
「防衛には【魔将軍】の悪魔軍団が置かれていましたが、これも撃破。推定で五〇〇体近い伝説級悪魔を葬り、皇国の<マスター>も壊滅させています」
沸き立つ人々がその話の内容に静まる。
……いや、伝説級悪魔って【ギーガナイト】だよな?
俺、以前あれに殺されかけたんだけど……フィガロさんどうなってんの?
皆さんが静まったのも、凄すぎてドン引きしてるんだと思う。
「悪魔軍団が置かれていたって話だけど、【魔将軍】本人は?」
「確認されていません。恐らくスキルを遠隔発動する手段を用いたのではないかと」
ルークの説明に、ビースリー先輩が「《分身人形》、でしょうか。厄介な」と呟いた。どうやら、そういうスキルがあるらしい。
……遠方から悪魔軍団だけ送り込まれたら弱点ないじゃないか、あいつ。
「皇国<砦>での戦いは明確に王国側の勝利と言えるでしょう。ですが、ここでも問題が発生しました」
ルークがそう言うと、バビが追加で紙の資料を配る。
それは<DIN>から齎されたものらしく、一人の男の顔写真や情報が記載されていた。
イライジャという人物。決闘ランカーらしく、<エンブリオ>やジョブ構成も含めて詳細が記載されている。
そして、<トライ・フラッグス>での動きまで記された最新情報を読むと……。
「……マジかよ」
「はい。この戦争において、皇国側に<超級>相当の戦力が一人追加されたと言えます」
フィガロさんに倒された伝説級悪魔五百体からステータスを獲得し、結果としてかつて交戦した【獣王】以上のフィジカルモンスターへと変化している。
先ほどとは性質の違う沈黙が、室内を満たした。
「フィガロ氏の前から逃走したイライジャの行方は不明ですが、その行き先は二つに絞られるでしょう」
「……ここか、カルチェラタンの<遺跡>だな」
それだけの大戦力を得たんだ。フラッグを先取されている皇国ならば、こちらのフラッグを確実に仕留めに来る。
そして、カルチェラタンが王国側の<砦>であることは既に公然の秘密だ。
王国最大クランである<月世の会>が詰め続け、<超級>である扶桑先輩もそこから動いていないのだから。
逆に、そこまでやってブラフならば相手も掛かるだろう。
「ええ。ですが情報からすると発揮したステータスは逆に制限できないようですから、市街戦では否応なくティアンにも被害が出ます。ですので、こちらに来る確率は低いかと」
だが、もしも俺と……<命>と引き換えに脱落覚悟で攻撃されれば防ぐのは難しい。
警戒すべき相手だ。
「フィガロさんは?」
「少し前まで溶岩に沈んでいたそうですが、既に脱出して活動を再開しています」
人間じゃなくて怪獣の説明みたいになってる……。
「以上が、一日目のまとめになります。確認されている王国の残存戦力については別の資料をご確認ください」
俺も含め、会議室に集まった面々は資料を確認している。
資料には王国の残存戦力以外に、各地で確認された皇国側の戦力についても記載されている。
この情報の出どころは各地の参加者だけでなく、<DIN>由来の物も多いらしい。
情報収集力には驚くしかないが……逆に言えば皇国もこちらと同じだけの情報は持っているはずだ。
それに、記載された情報を確認していて気になることもある。
『なぜ、皇国は【獣王】を投入していないんだ?』
ライザーさんの疑問は、俺と同じもの。
しかし俺の場合、もう一人気になる奴がいる。
「フランクリンの改造モンスターも、あまり確認されていないな」
前回の戦争、そしてギデオンの事件では万単位のモンスターを投入したのがフランクリンだ。
だが、今回の戦争では改造モンスターと思しき怪物は、数えるほどしか確認されていない。
それも<DIN>の調査によれば、フランクリンが過去に販売したモンスターらしい。
それなら、奴自身の戦力はどこにある?
奴の<超級エンブリオ>は光学迷彩機能を持った移動工場要塞パンデモニウム。その動きを見逃せば、致命的な結果になりかねない。
そんな俺達の疑問にルークは頷き、考えを口にし始める。
「どちらも機を窺っているのでしょうね。倒されることを警戒しているでしょうから」
『“物理最強”の【獣王】が?』
「と言うよりも、皇王の考えでしょうね。【獣王】は確かに最強ですが、その<エンブリオ>であるレヴィアタンとこちらの【破壊王】……シュウさんは、超級武具を温存した状態でありながら講和会議では互角の戦いを繰り広げました」
講和会議で俺達と<月世の会>が【獣王】本人と戦う間、レヴィアタンは兄が単独で抑え込んでいた。
兄曰く、『デメリットがでかすぎる』超級武具を温存したままだったが、それでも本気の兄と互角に戦った怪物だ。
「レヴィアタンの必殺スキルを考慮しても、超級武具を用いたシュウさんならば互角に近い戦いはしてくれるでしょう。そして……」
ルークはカルチェラタンに置かれた駒の一つ……扶桑先輩の駒を指差す。
「そこに【女教皇】扶桑月夜を加えれば、確実にシュウさんが勝ちます」
講和会議で俺達は【獣王】に敗北に近い引き分けだった。
しかしそれは扶桑先輩のデバフを加味しても、【獣王】の戦力に俺達が届いていなかったからだ。
だが、本気の兄……【獣王】に匹敵する戦力が戦うならば。
「互角の勝負に際し、《薄明》でいずれかのステータスを確定で六分の一に低下。欲張るならばAGIを低下させた上で、STRで勝るだろうシュウさんが動きを抑え込み、圧縮デバフを命中させて全能力を六分の一。この展開ならばほぼ確実に【獣王】を倒せます」
『両者の力が互角であり、特殊性の薄い武力の衝突だからこそ六分の一のデバフは致命的になるということか』
ライザーさんの確認に、ルークが頷いた。
「フランクリンがモンスターを展開しないのも、似た理由と推測されます。もっともあちらはかつてシュウさんに五万体を殲滅されています。そちらも警戒しているのでしょう」
「つまり、皇国の切り札の対抗策になりうる兄貴達が落ちるのを待ってるのか?」
「ええ。彼らこそが“最強”に勝ちうる手段。逆に言えば、二人が落ちた時点でこの戦争は【獣王】による蹂躙劇に変わります。……いえ、扶桑月夜が落ちた時点で、でしょうね。仮にシュウさんと【獣王】が相討ちになっても、皇国にはまだ投入できる規格外がいますから」
規格外とは破格のステータスを獲得したイライジャであり、フランクリンだ。
それに、【魔将軍】もまだ切り札の神話級悪魔召喚を使っていない。
「こっちの戦力を削って勝負を決めに掛かるつもりか」
「既にフィガロさんの戦力に縛りを掛けられました。それも、<超級>ならざる者達の手によって。王国側で同じことができる人員の脱落を待つ上でも、皇国はまだ様子見なのでしょう」
思い浮かんだのは、ジュリエットの友人で即死状態異常使いの【闇姫】曼殊沙華死音。
彼女なら、攻撃が当たりさえすれば【獣王】も落とせるかもしれない。
「このことからもう一つ推察できることがあります」
そう言って、ルークは一つの駒を手に取った。
スプレンディダの駒だ。
「スプレンディダ。不死身の<超級>として知られる人物ですが……彼は皇国の<命>ではありません」
……だろうな。
「どんな能力の持ち主が残っているかまるで不明な初日に、フラッグの持ち主を少数で特攻させるのはリスクが高いためです。イゴーロナクのような運搬手段ですらなく、フラッグ本人が出てくるのはあまりにも軽率。だから、彼は<命>ではない」
死んだらお終いの<命>のフラッグに、不死身の<マスター>を就けない。
ならば皇王は一体誰を<命>のフラッグに据えたのか。
倒されない力を持ち、皇王の信頼を寄せられた<マスター>は誰か。
……思い浮かぶのは一人だけだ。
「皇国の<命>と<宝>は不明。ですが現状でフラッグの数はこちらがリードしています。このまま全フラッグが残れば、三日経った時点で王国の勝利です」
ルークのその発言に、会議室の空気が少し明るくなる。
被害の多い初日だったが、リードしているという事実が気を紛らわせたのだろう。
「…………」
ただ、俺やビースリー先輩はルークの言葉の真意……士気を保つために濁した言葉の裏を察した。
『このまま』などありえない、と。
◇
「我々は早急に王都を離れる必要があります」
会議の後、<デス・ピリオド>だけで集まった部屋でルークはそう述べた。
「俺がいた場合、皇国が最悪王都ごと<命>を消すからか」
「はい。先のスプレンディダとジュバの奇襲は、ルールに抵触しないやり口です。それが失敗したならば、次はより危険な手を打ってきます」
「……だろうな」
<墓標迷宮>と教会、この二度の奇襲でもやり方が荒くなっている。
次は『広域殲滅型で俺のいるエリアごと消す』くらいはやりかねない。
国家の未来が掛かった戦争、そのために『許される』線引きは人によって大きく違う。
「私も賛成です。教会を襲撃された時点で危険でしたから。ですが、王都の外に彼を逃がす手段がありません」
「うむ。王都の中は王国の<マスター>が多いが、外に出られる者は限られるからのぅ。こちらの位置が掴まれている以上、出た瞬間にあちらが大挙してくるかもしれぬ。王都周辺のランカーは数が少ない。敵の数次第では危ういぞ」
先輩の言葉に、ネメシスが頷きながら続ける。
王国と皇国の<マスター>数の違いが、ここで響いてくる。
「何より、どこへ逃げますか? 本拠地のあるギデオンも危険でしょう?」
「ああ。ギデオンでも街ごと攻撃されるリスクは消えない。もっと別の、ティアンを巻き込まない場所があれば……」
自然、フィールドのどこかとなるが……そうなれば相手の狙いやすさも増す。
フラッグを落とされないこと、ティアンを巻き込まないこと。
それを両立できる場所なんて……。
「――移動先はカルチェラタンです」
――そう考えていた俺の脳に、ルークの言葉が刺さる。
「選定理由はありますし、移動手段も既に考えてあります。……そろそろ紹介しましょう」
戸惑いを見せる俺達にそう告げて……ルークはパンパンと手を叩いた。
すると扉が開き、誰かが部屋に入ってくる。
「何者で、……え?」
先輩は警戒して盾を構え……そして驚きで目を見開いていた。
扉を開けて入ってきたのは、
「ドーモ、<デス・ピリオド>さん。はじめまして! よろしく! <Wiki編纂部・連合王国支部(仮名)>のオーナー(予定)のパレード・W・デッドとは私のことですよぉ!」
なんかマフィアみたいな服装をした変なテンションの人だった。
To be continued
(=ↀωↀ=)<パレードについてはAEのロボータ編でね!