第七十八話 地を穿つ / 天を貫く
□■皇国<砦>
イライジャが発動した《闘争は死して終わらず》の効果時間は999秒。
だが、二〇万に迫るAGIによって加速したイライジャの思考の中で、そのカウントは止まっているかのようにひどくゆっくりとしていた。
だから……少しだけ考える時間がある。
「…………」
クラウディアのプランでは、この力を獲得した時点で離脱する手筈だ。
獲得したステータスの全力で逃げ、<砦>を攻めた王国戦力を振り切り、姿を隠す。
その段階で、一度強化を止める。
発動中の《闘争は死して終わらず》は強化を一時停止させる度にカウントを30秒ロスするが、『ここぞという時』までこの力を温存できると考えれば安いもの。
そして『ここぞという時』は、今ではない。
カルチェラタンにあるという王国の<砦>を攻めることがプランの終着点だ。
「…………」
ましてや襲撃してきた王国戦力……フィガロは現在動けない。
パンドラに囚われ、強化時間が尽きるまでここにいることになる彼は、イライジャを追うことができない。音速の二十倍で遠ざかればすぐに見失うだろう。
プラン通りに、事を進められる。
「…………」
イライジャがフィガロの前にいる時間は皇国にとって無駄だ。
ヴァルハラの強化がなければ鎖や衝撃波剣によって一瞬で殺されるため、フィガロの前では常時強化を解くわけにはいかない。
だが、今のイライジャであっても限界強化状態のフィガロは簡単に倒せる相手でもない。
フィガロを捨て置き、この場から離脱し、強化を停止し、共に<砦>を攻略する者達と合流する。
それがイライジャの為すべきことであり、道理だ。
だが……。
(…………みんな、すまない)
――道理で敵に背を向けられる男ではない。
彼は仲間の死を背負う男。
だからこそ、仲間を殺し尽くした敵に……道理を理由に背は向けられない。
それを馬鹿だと嗤う者もいるだろう。
先が見えていない愚かな男だとも罵るだろう。
だが、それで折れる男であれば、闘技場で悪魔を前に折れている。
幾度も神話級の悪魔に体を砕かれようと、挑み続けた男。
意地であれば、皇国の如何なる決闘ランカーにも譲らない。
それが、“死闘英雄”イライジャだ。
「――往く」
「――いいね」
決意を込めて踏み出した男に、迎える敵は笑みを浮かべる。
既にその手に鎖の残骸はなく、手の中にあるのは一振りの白剣。
黒刀は使わない。彼を相手取るには強度が足りない。側面を打たれれば砕けてしまう。
ゆえに握る武器の選択は、自身の最強最高である超級武具のみ。
「――《高速思索》」
フィガロに駆けるイライジャが最初に使ったのはサブジョブ、【哲学者】のスキル。思考時間のみをAGIによる高速思索のさらに三倍に早める補助スキルだ。
ただし、使用条件として武器を持っていては使えない。素手状態に限定される。
だが、元より……今のイライジャは武器を使わないため、デメリットはない。
むしろ、必殺スキルの度にステータスが激変する自らの肉体をコントロールするためにこのスキルは必須だ。
「《ぺネンスドライブ:フィジカル》――」
次いで使用したのもサブジョブ【苦行僧】のジョブスキル。
自らのHPを捧げることで、STR・END・AGIの物理ステータスを10分間高めることができる。
だが、スキルレベルを上げてもその変換率は悪く、スキルレベル五でHPを100捧げても三種のステータスは2ずつしか上がらない。
カンストした上級職でもHPは一万から三万、時に四桁にも届かないことを考えれば扱いが難しいスキルだ。
さらに言えば、こちらのスキルもやはり素手が条件に含まれる。
だが、前提としてモンスターを多数撃破して必殺スキルを用いるイライジャは、人間よりもHPが高くなる傾向にある。
そして今この時は――九〇〇万近いHPを保有している。
「――六〇〇万」
――ゆえに彼は、HPの三分の二を捧げて物理ステータスを十二万ずつ引き上げた。
STR:1833(+326952)+120000 → 448785
END:616(+405004)+120000 → 525620
AGI:1600(+194801)+120000 → 316401
爆発的なステータスの膨張。
だが、まだだ。
「――《窮鼠、猫を噛む》」
――さらにスキルを重ねる。
サブ上級職【獣拳士】齧歯類派生の奥義、《窮鼠、猫を噛む》。
自らのHPが三分の一未満になっている間、与ダメージを倍化する。
【苦行僧】の《ぺネンスドライブ》とのコンボにより、既に条件は満たされている。
ゆえに、彼の攻撃のダメージは……破格のステータスからさらに倍化する。
このスキルの使用条件も、素手に限られる。
そう、素手をスキルの条件とする【哲学者】と【苦行僧】、【獣拳士】をサブに置き、<エンブリオ>との多重強化で戦う徒手格闘こそがイライジャのビルド。
<エンブリオ>の強化値が増すほどに、最終的な戦闘力も跳ね上がる。
しかし、今のイライジャでも、まだフィガロには及ばないものがある。
それはフィガロが手にした剣――超級武具【グローリアα】。
この武器は、今もなお限界強化に達していない。
《生命の舞踏》は停止しているが、現状の一〇〇倍超強化さえもこれの限界ではない。
ゆえに、発揮される攻撃力補正は凄まじく、一斬で百数十万の生命を削る。
今のイライジャの身体でも破壊されうる超攻撃力。
手刀を放てば、断ち切られるのは彼の手になるだろう。
それは今、イライジャが手刀を振り、もはや速度で劣るはずのフィガロが正確に合わせたことですぐに現実の光景となる。
だからこそ、イライジャはもう一つスキルを重ねた。
甲高い音が響く。
それは今まで誰も聞いたことがない音。
静かで、激しく、しかし美しい音色。
それは武器同士を打ち合わせた音に似ていたが、決定的に違う。
なぜならそれは、王国最強が振るった超級武具の放った音であり、
――それと打ち合った素手が鳴らした音だからだ。
「――――」
珍しく、フィガロがその細い目を見開く。
口を開いたならば、『驚いた』と素直な感想を述べていたかもしれない。
だが、その間隙はない。
今の彼よりも速い男が、その手刀を振るい続けているからだ。
一〇〇倍超の強化を受けた【グローリアα】と打ち合った手刀。
それこそは【硬拳士】の奥義、《我が拳、巌となりて》。
素手に限り、ENDの三倍の数値を自らの両手の攻撃力と防御力に足し込むスキル。
破格のステータスと化した今のイライジャが振るえば、攻防共に二〇〇万オーバー。与えるダメージは《窮鼠、猫を噛む》でさらに倍。
イライジャの手刀は神話級をも凌駕し、超級武具にも届く。
そしてその刃は――二刀流。
フィガロは一方を剣で受け、もう一方を回避する。
低い姿勢から振り抜いた一撃が地を掠めると、地面が大きく裂けた。
手が直接触れれば、フィガロでも砕け散るだろう。
だが、イライジャはフィガロの身体を砕けない。
(なぜ、折れない……!)
速度に勝る両手での連撃を防がれ、そして避けられている。
《高速思索》によりクロノの速度域にすら達したイライジャでも、フィガロの動きの全ては見切れていない。
それでも今の攻撃力ならば超級武具でも破壊できるとイライジャは考えていた。
しかし、彼の思惑はフィガロのもう一つのスキルで阻まれている。
《武の選定》。
装備数を減らすことで、その分の強化を他の装備に回すスキル。
全身が限界強化状態だった今までは使う意味もなく、フル装備だった。
だが、イライジャの力と振るわれる手刀の威力を察したフィガロは咄嗟に耐性装備の幾つかを外し、――その分の強化を未だ限界に達しない【グローリアα】に回したのだ。
尋常ならざる強化を施された手刀を、こちらも尋常ならざる強化の剣で防いでいる。
「ッ……!」
「フフ……!」
振るわれるごとに、数百万の攻撃力を湛えた刃がぶつかり合う。
一手しくじれば、どちらの身体が消し飛んでもおかしくはない。
お互いの命を狙わんとするが、深く踏み込めばその隙に自分の命が砕け散る。
かつてない戦いにイライジャは冷や汗をかき、フィガロは笑う。
(ここまでの強化を施しても、まだ……!)
どんな敵でも倒せると確信するほどの強化値だった。
だが、眼前の【超闘士】は彼の確信を超えている。
イライジャはAGIで上回り、さらに三倍の思考速度を得た。
だが……フィガロはバトルセンスだけでそれと渡り合っているのだ。
(これが、フィガロ……!)
イライジャにとって、性能上の優位を超える資質との戦い。
だが、性能においても一部で優位が覆る。
血の飛沫が、凍った地面に散る。
打ちつけ続ける両手が、最強の手刀が、――超級武具によって傷を負った。
「……!」
二〇〇万オーバーの攻撃力を上回られ、さらに防御力までも貫通し始めている。
また一つ装備が減って、強化値が増したのだ。
(この男には、限界がないのか……!)
眼前の男の“無限連鎖”という二つ名を、イライジャは思い出す。
フィガロ自身は『限界があるなら“無限連鎖”の二つ名は返上しなきゃいけないかな』などと悩んでいたが……彼の最強に未だ限界は見えていない。
「……くっ!」
時間を前に逃げるべきかという思考が、イライジャの脳裏に浮かぶ。
しかし同時に、理解する。
距離を離した瞬間に、自分が死ぬという事実を。
なぜならば……この【グローリアα】はただ強力な剣ではない。
――《終極》。金色の大魔竜の、最強の攻撃スキルが備わっている。
それを使わないのは……彼から見て水平の位置にイライジャがいるからだ。
今、フィガロはパンドラによって位置がほぼ固定されている。
数百倍の威力になった《終極》を水平に放ちなどすれば、何百キロメテル先にまでその光が届くか分かったものではない。
範囲内の地盤は全て蒸発し、広範囲の鉱物蒸発は地上や周辺環境に甚大な被害を齎し、付近に街や村落があれば壊滅するだろう。
それでも、真上に放つ切り上げ式ならば撃てるが、肉体と思考の両面の速度で勝る今のイライジャならば発動の予兆を見て回避できる。
だが、避けられない形が存在する。
それは、イライジャがこの洞窟を出ようと岸壁を登り始めた瞬間。
街を巻き込む心配のない斜め上の角度での薙ぎ払い。光速照射を浴びせられれば、イライジャは一瞬で蒸発する。
最初に計画通りの逃走を選択していれば……そうなっていただろう。
《終極》を使える位置関係になった時点で、イライジャは撃ち抜かれる。
(だが……)
しかし同時に、イライジャは疑問に思う。
なぜ、《終極》の前段階……超熱量を剣に纏う《極竜光牙斬》まで使わないのか、と。
(何を狙っている。俺は、どうすべきだ……!)
焦燥と疑問がイライジャの加速思考を苛んだ。
◇◆
(さて、どうしようか)
相対するフィガロも、イライジャと似て非なる考えを抱く。
これほどに強化された【グローリアα】を扱う機会など、フィガロでもそうはない。
まして、これだけの強化を経ていれば、本来ならば《終極》を使う必要などない。
ゆえに以前この域にまで達したとき……<墓標迷宮>の深度記録を塗り替え、帰還時にレイと初対面したあの探索。
そのときのフィガロは、《極竜光牙斬》までしか使うつもりはなかった。
――だが、結局は使用した直後に《終極》まで発動することになった。
超強化によって、あまりにもエネルギーが高まりすぎてしまうからだ。
《極竜光牙斬》の時点で纏う光が巨大すぎて保持していられず、即座に《終極》で放出しなければフィガロにまでダメージが及ぶ。
それゆえ、迂闊に《終極》を撃てないこの場面では前段階も使えない。
水平に撃てば街が壊滅。垂直に撃てば回避され、使用後の隙に仕留められる。
使用するタイミングを間違えば、敗れるのはフィガロだろう。
そうでなくとも、じきに《生命の舞踏》の強化が消えて状況は一気にあちらに傾く。
フィガロの強化のリミットを把握しきれていないイライジャにとっては、いつ完全に自分の強化が上回られてしまうかという戦い。
だが、リミットの見えているフィガロにしてみれば、既に外せる装備は外し尽くし、時間切れまでに仕留めるのも難しいという状況だ。
追い詰められているのは、フィガロである。
(彼も強い)
《高速思索》というフィガロのスタイルでは取りえないアドバンテージがあるとはいえ、限界強化状態のフィガロとこうも打ち合う相手はこれまでいなかった。
そんな相手を残り時間で倒せる確率は高くない。
何かしらの、博打を打つ必要がある。
手刀を受けるために【グローリアα】は外せない。《瞬間装備》のクールタイムは明けておらず、追加の武器をアイテムボックスから取り出す余裕はない。掛かっているスキルの効果で移動して距離を取ることもできない。速度は相手が勝る。【ブローチ】を頼りに被弾し、カウンターで斬りつける。ただし、イライジャにも確実にブローチがあり、攻撃の手数はあちらの方が多い。互いの攻撃力がHPを大きく上回ってしまった現状では、限界強化した【ブローチ】でも一撃破損のリスクが高い。そうなればこちらの一撃が相手の【ブローチ】を砕いた後に今度はカウンターの二連撃で危うい。単純な斬り合いでは分が悪い。
そうした推考と結論をフィガロのバトルセンスは一瞬で直感し、
(――じゃあ、こうしようか)
――手にした剣が光を纏う。
◇◆
「……!?」
イライジャは息を呑む。
即座に手を引き、バックステップで距離を取る。
超級武具が纏う光の意味を、彼もまた知っているからだ。
――《極竜光牙斬》。
(ついに使ったか! だが、これは正常なのか!?)
膨大な光は剣そのものよりも数倍大きく、もはや剣という形状に収まっていない。
破裂寸前の風船。決壊寸前のダム。そのように喩えられるものの気配がある。
迅羽との決闘の動画で見たものとは、まるで違う。
だが、続くフィガロの行動はその驚愕を超える。
「――《終」
「……な!?」
限度を超えた驚愕で、ついにイライジャの声が漏れる。
この位置関係である限りは使われないはずの、フィガロの切り札。
その発動態勢に入っている。
(何を考えて……!? この位置関係では……まさか、俺ごと射線上の地形を吹き飛ばす気か!! だが、その規模は……!)
あれほどのエネルギーを解放されれば、王国の地図が変わる。
加速した思考の中で、イライジャが焦燥を抱く。
(今、俺の後方……数十キロの地点には村があったはずだ。水平には撃てない、撃てないはずなんだ。だが、もしも撃ってきたら……?)
強くなり過ぎた自分と引き換えに、村一つ消し飛ばす覚悟を決めたのでは?
そんな疑念が、イライジャの臓腑を苛む。
(まさ、か、こいつ、自国の村を人質にしているのか? その結果を齎したくなければ、垂直照射の間合いに戻ってこいと……!?)
そこまで悪辣な手を使う王国の<超級>は、扶桑月夜くらいのものだと考えていた。
だが、イライジャがどれほど彼ら……フィガロについて知っているのか。
どれほどにも言葉を交わしたこともなく、イライジャにとってフィガロは襲撃者で、殺戮者で、敵である。
(どうする、どうする……!?)
仲間に託された力、皇国の明日。
自分が背負っているものと、今自分の背にあるものが天秤に乗る。
イライジャとて、王国のティアンに犠牲を出したいわけではない。
むしろ平和に片付くならばそれが一番良かった。
だからこそ、講和会議前に王国でPKを繰り返したクロノを諫め、殺されてもいる。
ゆえに今この時も悩み、しかし時間は過ぎた。
(っ……!)
その時に至り、彼の身体は本能で必殺の光を避けることに集中していた。
「――極》」
結論を言えば、彼の悩みはただの杞憂である。
脳筋な男であるフィガロにそんな悪辣さはない。
村の位置関係は把握していないが、水平に撃つ危険は理解している。
だから彼は《終極》を水平に撃つような真似はしない。
垂直に――――眼前の地面に向かって振り下ろした。
「は…………!?」
何度目かのイライジャの驚愕。
だが、【グローリアα】から放出された光の奔流は真っ直ぐに大地を穿つ。
光の中だけに熱量を齎す【グローリア】の性質ゆえに、光の奔流の被害が照射範囲外に及ぶことはない。
しかしこの光は一瞬で地殻を貫き、照射された範囲内の全てを消滅――蒸発させる。
『地下数十キロメテル』に渡り、『射線上の鉱物全て』を、『超高温かつ膨大な気体』に変える。
結果、何が起きるのか。
地下空洞は――より地下深くからの大爆発によって消し飛んだ。
◇◆
人為的に引き起こされた地殻変動と噴火現象、そして地中大爆発による地形の隆起。
後の、<フィガロ山>の誕生である。
◇◆
「イカレている……!!」
壁を駆けて弾け飛ぶ大地から退避しながら、イライジャは至極真っ当な言葉を叫ぶ。
純粋な爆発力で飛散する岩塊だけではない。
熱された岩石蒸気や地下のマグマ溜りまで混ざり、もはや地下空洞は灼熱と猛毒の地獄。
人間どころか、生物の存在できる環境ではない。
しかし、今のイライジャのAGIと思考速度であれば爆発もマグマも躱し、退避することはできる。
ステータスだけならば、フィガロも可能だが……。
「何を、考えて、いる……!」
降り注ぐマグマを、満ちていく溶岩を避けながら、イライジャは叫ぶ。
彼には理解ができなかった。
噴火を呼び起こした規格外ぶりは驚くべきものだが、愚策にも程がある。
なぜならば……。
「お前は……動けないだろう!?」
今もパンドラに囚われたままのフィガロは、爆発とマグマの中に消えた。
イライジャは逃げられるが、フィガロは逃げられない。
これは、完全な自殺行為だった。
(何だったんだ……)
疑問を抱く間にも地下空洞に溶岩が満ちて、イライジャにとってさえ致命的な領域になる。
イライジャには【獣王】のような耐熱・耐毒装備はない。溶岩に呑まれれば状態異常と共に死ぬことになるだろう。
こうなっては溶岩に呑まれたフィガロの生死を確認することもできない。
いや、常識的に考えればすでに死んでいるだろう。
「…………」
納得のいかない決着だが、こうなっては仕方がなかった。
イライジャは一刻も早く、この死地から逃げ出すべく壁を駆け上がる。
溶岩に沈む地下空洞からの脱出。
今のイライジャの脳裏に在るのはこれだけであり、
――先刻自分が考えた位置関係の危険性は消えていたのだ。
「――《極竜光牙斬》」
その声は、マグマの噴出と煮えたぎる音に紛れていた。
だが、その輝きはマグマを消し飛ばして余りあるもの。
マグマを上回る熱量が周囲のマグマを蒸発させ、その中に埋もれていた者の姿を露わにする。
「なっ!?」
斜め下方からの輝きに気づき、イライジャがこの夜最後の驚愕を覚える。
マグマの中に沈んだはずのフィガロが、再び光り輝く剣を構えている。
最初の《終極》の狙いは二つ。
一つ目は、地下空洞を溶岩に沈め、強制的にイライジャを上へと追い込むこと。
二つ目は、装備変更の時間を稼ぐこと。
溶岩に沈むことを見越した熱耐性と【窒息】耐性のアクセサリー。
「――《終極》」
――再び……否、全力でイライジャに《終極》を放つ機会を得るために。
光速の輝きを前に、イライジャを以てしても回避は間に合わない。
光の軌跡がフィガロと、イライジャと、夜空を一直線に繋ぐ。
夜空を貫いた光は射線上の雲を余さず消滅させ、
狙い過たず――イライジャの右腕も消し飛ばした。
「っァ……!?」
消し飛んだ右腕を押さえながら、それでもイライジャは懸命にその場を離脱する。
ジグザグに走り、再び狙い撃たれないように注意を払いながら……原形を留めていない自分達の陣地を後にした。
超々音速で駆け抜けて、地平線の果てまで逃走する。
「くっ……うぅ……!」
仲間達の遺した力を以てしても撃退された自分の不明を恥じながら……それでも今の彼には逃げるしかなかったのだ。
◇◆
逃走するイライジャを、フィガロは追わなかった。
無論、パンドラがあるために追うことはできず、何よりこれまでの戦闘と二度の《終極》でアクティブスキルを行使する余力もなくなっている。
「うん、これでいい」
だからこそ、次のための布石として腕を狙った。
致命ダメージでは、【ブローチ】で防がれてしまう。
それならば彼らには治せない重傷を負わせた方が良い。
講和会議のクラウディアが義手だったことから、皇国には扶桑月夜のような回復能力の持ち主はいないと考えられている。
そうした後の戦いの下準備はここで退場するフィガロから仲間達への後押し……ではない。
「――また後で」
――自分が再戦するときのための、下準備だ。
「さて、この移動制限……いつまで続くのかな」
一度は吹き飛ばしてもまた満ちてくる溶岩に、フィガロは沈んでいく。
ちょうどこのタイミングで《生命の舞踏》が切れたためか、耐熱装備の強化値が落ちてダメージを受け始めた。
溶岩に身を焼き始めながらも、しかしフィガロは微笑む。
その楽しそうな顔は眼前の危機についてではなく、あの恐るべき力を持つ強敵に《生命の舞踏》を封じられた状態でどうやって勝つかを考えている。
自分がここで死ぬ可能性は、微塵も考えていない。
こんな環境は<墓標迷宮>の深層ではザラにあり、慣れたモノだからだ。
ゆえにフィガロは生存し、確実にイライジャの前に立ちはだかるだろう。
右腕を失ったまま逃走する男と、微笑と共に溶岩に沈んだ男。
勝敗はつかず、決着は……彼らの次の戦場に持ち越された。
To be continued
( ꒪|勅|꒪)<……あいつ、頭おかしいよナ
(=ↀωↀ=)<何を今さら
(=ↀωↀ=)<あ、次回はResultですー
○フィガロ
(=ↀωↀ=)<地中大爆発のとき、マグマとか蒸気は耐熱装備で耐えたんだろうけどさ
(=ↀωↀ=)<爆発する岩塊はどうしたの?
≡・ェ・≡<全部弾き落とした
(=ↀωↀ=)<……え?
≡・ェ・≡<彼の手刀より遅いんだから簡単だよ
( ꒪|勅|꒪)<その理屈はおかしイ
○イライジャ
(=ↀωↀ=)<あえて言うならば
(=ↀωↀ=)<「<フィガロ山>爆誕!」してなかったら
(=ↀωↀ=)<フィガロでも負ける確率の方が高いくらい追い詰めてた
(=ↀωↀ=)<でも流石にこれは読めなかったので片腕持ってかれた
○<フィガロ山>
(=ↀωↀ=)<プロット段階では存在しなかった
(=ↀωↀ=)<書いている内にできた文言
○素手ビルド
(=ↀωↀ=)<昔、最強を模索して検討されたビルドの一つ
(=ↀωↀ=)<デメリット『素手』のジョブばかり集めて
(=ↀωↀ=)<デメリットに対するメリットを最大化するのが目的
(=ↀωↀ=)<ただし、そういうジョブってステータス微妙なのが多くて
(=ↀωↀ=)<よっぽどステータスに秀でてないと強化する元の値が弱すぎて駄目だった
(=ↀωↀ=)<イライジャは必殺で前衛超級職と同等以上になること前提で組んだ
( ꒪|勅|꒪)<前にサクっと出てサクっと死んだステータス特化さんは?
(=ↀωↀ=)<あれはむしろレベルアップ時のステータス上昇補正するんだから
(=ↀωↀ=)<ステータス上昇高いジョブに就くべき人ですよ
(=ↀωↀ=)<あ、ヴァルハラはお察しの通り素のステ補正がわりと死んでます
○《我が拳、巌となりて》
(=ↀωↀ=)<素手状態に限り使用可能
(=ↀωↀ=)<手首から先の攻撃力をSTR+END×3
(=ↀωↀ=)<防御力をEND×4にするスキル
(=ↀωↀ=)<普通はそんなに威力が出ないというか、上物の武器の方が強い
(=ↀωↀ=)<拳士系統が打点上げるために取るかな、って感じ
(=ↀωↀ=)<ただ、今のイライジャみたいに一定以上のステータス持つ奴が使うと威力がバグる
(=ↀωↀ=)<分かる人に分かる喩えだと山羊座の黄金聖闘士状態
(=ↀωↀ=)<エクスカリバー(手刀)
(=ↀωↀ=)<ちなみに【獣王】は非実体&防御特性をある程度無視できる爪型特典武具ゲットしたのと
(=ↀωↀ=)<ステータスが過剰火力なのもあって
(=ↀωↀ=)<『一撃の威力よりもタイガースクラッチで攻撃回数増やして【ブローチ】潰す』ために獣戦士系統以外の上級職は【爪拳士】選んでる
(=ↀωↀ=)<クマニーサンは【破壊王】のENDが微妙なので取らなかった
(=ↀωↀ=)<防御も《破壊権限》あるから攻撃力勝ってれば問題ないし
○【苦行僧】
( ꒪|勅|꒪)<クマはこれ取らないのカ?
( ̄(エ) ̄)<んー、他のでも言えるけどバルドル使った時点で素手判定消えるクマ
( ̄(エ) ̄)<それに俺自身のHPはそこまで多くないクマ
( ̄(エ) ̄)<あと、バルドルに関しても『もう持ってる』ようなもんクマ
○【哲学者】
(=ↀωↀ=)<拳士系統の人がサブに選んだり選ばなかったりするけどステータスは低い
(=ↀωↀ=)<あとティアンの場合は適性の問題で併せて取れない人がほとんど
(=ↀωↀ=)<ちなみに杖とか本も駄目なので魔法職も選ばない
(=ↀωↀ=)<なお、イライジャと同じく素手縛りのエルドリッジパイセンは
(=ↀωↀ=)<【哲学者】だけは取るか迷ってました
( ꒪|勅|꒪)<つーか戦闘職使えるのかこれ? 【記者】みたいに非戦闘限定じゃねーの?
(=ↀωↀ=)<まぁ普通は思索のためのスキルなんだろうけど
(=ↀωↀ=)<有名な哲学者であるプラトンは元レスラーだったらしいですよ
( ꒪|勅|꒪)<マジかヨ
○【獣拳士】
(=ↀωↀ=)<前に情報出したか出さなかったか忘れたこと
(=ↀωↀ=)<【獣拳士】など一部の上級職はジョブの中で派生(流派)がある
(=ↀωↀ=)<で、奥義も派生ごとに違ってどれか一つだけ習得できる
(=ↀωↀ=)<この辺、先代管理者(<斡旋者>)の
(=ↀωↀ=)<『形意拳ごとに上級職なんて作りませんわ』って声が聞こえてきそう
○“物理最強”
(=ↀωↀ=)<ちなみに最強とか物理殴りトップ3とかは
(=ↀωↀ=)<『単独』且つ『自分の意思』で『それなりにいつでも』再現できる場合の順位付けなので
(=ↀωↀ=)<イライジャとか追撃者レイ君とか某<超級>はステータス爆発しても入りません
( ̄(エ) ̄)<『常時』ではなく『それなりにいつでも』な理由は
( ̄(エ) ̄)<クールタイムだったり、俺の必殺スキルみたいにアイテムを生成しておく必要があるからクマ
(=ↀωↀ=)<まぁ、それはそれとして
(=ↀωↀ=)<…………お気づきになられましたでしょうか