第七十七話 戦死者よ、此処に / 闘争は死して終わらず
(=ↀωↀ=)<明日は漫画版が更新予定です!
(=ↀωↀ=)<16巻も月末から6月1日にかけて書店に並ぶと思われます!
(=ↀωↀ=)<なので告知も兼ねて久しぶりの四日更新です!
( ꒪|勅|꒪)<なんかテンション高いナ。良いことでもあったのカ?
(=ↀωↀ=)<二次出荷の抽選販売でイー○イズセット当たった!
( ꒪|勅|꒪)<デンドロ関係ねーのかヨ
追記:
(=ↀωↀ=)<数値を一部書き間違えていたので修正
■???
クラウディアの予期する皇国の<砦>の失陥。
悪魔軍団が守護する拠点でそれを為しうる存在は、二通り考えられた。
第一に、扶桑月夜。
対集団デバフを得手とする彼女の力であれば悪魔軍団の力を引き下げ、集団戦で勝利しうる。
しかし、彼女は王国の<砦>の守護に回される公算が高いため、皇国の<砦>攻略には乗り出してこないだろう。
第二に、極めて高い攻性能力の持ち主。
これははっきり言って王国の<超級>の殆どが当てはまる。
元より王国の<超級>の過半数は対集団殲滅能力に秀でた存在だ。
【獣王】と比肩しうるシュウ・スターリング。
殲滅能力で比類なきアルベルト・シュバルツカイザー。
集団の連携を削いで圧殺するハンニャ。
周囲の生物を自壊させるレイレイ。
そして、個人戦闘型だが王国最強であり、その力の底も見えないフィガロ。
これらの<超級>はいずれも悪魔軍団相手でも大きな被害を齎し、<砦>の破壊を成し遂げる恐れがある。
悪魔軍団の補助に格上を殺しうる能力や<砦>を守る能力を持つ<マスター>を配しても、悪魔軍団が蹂躙されて<砦>が破壊されるという恐れは消えない。
ならば、それを前提とすればいいとクラウディアは考えた。
◇◆◇
□■皇国<砦>
地下空間を極限の凍気が包み込み、少しの時間が過ぎて……《絶界》は解除された。
今、地下空間に立つのはフィガロ唯一人。
他には誰もおらず、フラッグさえも立っていない。
殺風景になった地面は、凍気に触れたのが先か結界に包まれたのが先かで凍結したか否かで凍結度合いが変わっており、模様はアートのようだった。
(流石に、彼らも強かったな……。【クローザー】も使ってしまった)
《絶界》という手札を切らされたのは、フィガロとしても痛恨だった。
《絶界》は【ブローチ】と並んでフィガロの生命線だが、『七倍返し』と『移動制限』が重なっては使うしかなかったのだ。
等倍から二倍で『移動制限』だけなら炎武器と耐性装備で相殺した。
『七倍返し』でも移動できれば回避可能だった。
しかし七倍の威力で返された上に避けられないのならば、まともに受け切る手段は《絶界》をおいて他にない。
そういう意味では、皇国側がフィガロの想定を超えたとも言える。
なお、巻き添えによる皇国勢の全滅はフィガロとしても事故のようなものだ。
(お陰で時間は余ったけれどね)
《生命の舞踏》はケイシーによって封じられた。
これによって再発動は出来ず……スキルによる『戦闘継続』の再判定もできない。
今の強化はあと二〇〇秒前後で切れ、以降は戦闘時間比例強化のない状態となる。
強化終了までに悪魔軍団が残っていれば危うかったかもしれない。
もっとも三〇〇秒もあれば皇国を全滅させることは可能だとフィガロも考えており、実際にそれよりも早く終わっている。
(まだこの魔法陣から出られないけれど、鎖ならこの周辺に敵がいれば削れるかな)
パンドラの効果は有効であり、フィガロはまだ動けない。
しかし、限界強化状態の【紅蓮鎖獄の看守】ならば、相当に広い範囲で見敵必殺を実行できる。
それこそパンドラで閉じ込め、メデューサで封じた後でも……他と併用して皇国勢を逃がすことなく殺しきることができただろう。
(さて、新しい鎖を装備しないと)
今まで使っていた鎖は戦闘で伸ばしていたために結界内に入らず、凍気に触れて粉砕されている。
しかしフィガロにとって【紅蓮鎖獄の看守】は愛用品。スペアの鎖は大量に確保してあり、装備を付け替えれば問題ない。
そうして、フィガロが新しい鎖六本を装備すると……。
――その全てが一斉に反応した。
「……おや」
六本の鎖は一斉に地下空洞の凍った地面の一点へと伸びる。
その場所は凍結してもなお、少しだけ他とは土の色が違った。
戦闘中は悪魔軍団が囲いになってフィガロも気づかなかったが、それが何であるかはすぐに察せられた。
フィガロの出現場所を埋め立てていた土砂。
そもそもあれは、どこから持ってきたのか。
地属性魔法は鉱物の操作であり、無から有を生み出すものではない。
つまりは……。
(地下にいたのか)
地下空洞の、さらに地下。
そこに穴を掘り、空洞を作り、蓋をする。
掘り出した土で、『迷宮』の出口を埋める。
限界強化状態の【黒曜】相手でも地形操作の力比べをできる<マスター>達がいたのだ。その程度の土木作業は、フィガロが『迷宮』から脱するまでの短時間でも可能だろう。
そうして作成したシェルターのような地下空間に……退避していた者がいる。
だがそれも、限界強化された鎖に嗅ぎつけられた。
多少の土砂や岩盤の天井など、鎖にとってはないも同然。
凍った土砂を粉砕し、獲物に飛び掛かる蛇のように六本の紅い鎖が殺到する。
ゆえに隠れていた者も多くの仲間達と同様、フィガロの鎖によってその命を散らせ、
「――噴ッ」
――ない。
露わになった地下シェルターの中に隠れていた男。
彼に超音速で迫る六本の鎖。
だが、全ての【紅蓮鎖獄の看守】は例外なく、破砕された。
隠れていた者の振るった、手刀で。
「…………」
今のフィガロ……未だ《生命の舞踏》が切れていない王国最強のフィガロの攻撃を完全に迎撃し、素手で破壊する。
それが可能な者が、はたしてこの<Infinite Dendrogram>にどれほどいるものか。
恐らくは<超級>にもそうはいないだろう。
皇国の<マスター>であれば、【獣王】や全力の【車騎王】ならばできるだろうか。
しかし今、隠れていた男もまた……それをやってみせた。
<超級>最上位に匹敵する芸当。
それを為したのは、
「――ありがとう」
――イライジャという男だった。
◆◆◆
■数分前
そのとき、皇国勢は動揺の只中にあった。
フィガロが『迷宮』を苦にすることもなく、出口へと直進していることが明らかになったからだ。
「……!」
イライジャはダーガスの端末を見て、光点の移動速度とゴールまでの距離を測って……悟る。
残り時間は三分前後。
その程度の時間であれば、強化が切れることなくフィガロが出てくる可能性は高い。
『《コール・デヴィル・ギーガナイト》』
『《コール・デヴィル・レジメンツ》』
エイリアス達は既に悪魔軍団の展開を始めている。
フィガロの踏破までに、自分達に可能な最大限の戦力を用意しようとしている。
だが、即座に動いた人形たちと比べ、人間達の動きは遅い。
それは目論見の崩れた心理的なショックによるもの。
仲間達を紙切れのように千切ったあの人の形をした怪物が、力衰えぬままに『迷宮』から脱出してくる。
それは絶望以外の何物でもない。
「……やれるか?」
「通じるとしたら<エンブリオ>だけだろうね。あたしの地属性魔法も姉さんの風属性魔法も効く気がしないヨ」
「超級職の奥義か必殺スキル、それと特典武具でもなければ、傷一つつけられないと思うべきだろうさ」
「…………それも通じるか、怪しくない?」
怯えと竦み、そして『勝てるわけがない』という諦観が生存者達の心を占める。
その空気を振り払う術は、イライジャも持っていなかった。
未来予知など持たずとも、自分達が敗れて『砦』が破壊される未来が見えてしまった。
(切り替える、しかないのか)
だからこそ、その未来が見えた上で動き出さねばならない。
まだ、できることがあるのだから。
しかし、イライジャは表情に迷いを滲ませながら、動けない。
(この状況と俺、そしてエイリアス達……。皇王達はこうなると分かっていたのか?)
自分にどのような役割が求められてるかを理解している。
だからこそ……苦悩していた。
それが今の自分達にとって、残酷な選択だったからだ。
「イライジャよぉ」
「……ファウンテン?」
苦悩するイライジャに、カウンターの使い手であるファウンテンが声をかける。
「こうなったら仕方ねえ。例のプランに移そうぜ。クラウディアから聞いてた奴だ」
「……!」
ファウンテンの口にした言葉に、イライジャの顏が強張る。
「<砦>は壊される。俺達は死ぬ。フィガロも倒せない。俺達はここで完全敗北する」
ファウンテンは全員が共有しかけている敗北のヴィジョンを口にした上で、
「それでもまぁ、俺達が死んでも……戦争には勝てるだろ?」
元より自らの致死と引き換えにした戦いを得意とする男は、決意を込めた瞳でイライジャを見た。
「運良く、まだそれができる程度にはこっちのメンツも残って、何よりお前が生きてる。お前だって俺が言い出す前に分かってたはずだぜ?」
「それは……」
イライジャの苦悩を察し、だからこそファウンテンは自分から切り出した。
イライジャ自身からは、とても口にできないと知っていたから。
「それによ、このプランならただ全滅させられるよりいいさな。何せ俺達は全滅しない」
なぜなら、クラウディアから授けられたプランは……。
「――お前が生き残る」
――イライジャだけが生き残るプランだからだ。
目的を同じくする仲間達を、見殺しにして。
イライジャにとって、何より残酷な選択である。
「だが……!」
「気にすんなよ。ただの役割分担だ。お前の方が後からよっぽどな修羅場を潜ることになりそうだしな。他の連中も、同じこと考えてるだろうぜ。ほら」
ファウンテンが促した先では、生き残った<マスター>達がイライジャを見つめていた。
「土木作業でまだ小細工はできるな。任せろ」
「……生きてる内は、僕とママで<砦>を保護するよ……。怖いけどね……。」
「あたしはアイツを此処から逃がさないようにしないとね。<砦>壊してすぐにトンズラされたら、目も当てられないし」
「…………」
「あ、姉さんは『たとえ首一つになっても、アイツのスキルを封じるわ』だってさ。縁起でもないヨ」
「で、まぁ、俺はフィガロを道連れにしてみようかね。駄目でも責めんなよ?」
彼を囲む仲間達の中に、恨みがましいものはない。
ただ、託すように……彼を見ている。
「みんな……」
「犠牲を無駄にしないのがお前の<エンブリオ>だろ? だったら、俺達は後を託すだけだ」
そうして、ファウンテンはイライジャの胸を拳でトンと叩き、
「頼むぜ、――“死闘英雄”」
――二つ名と共に後を託す仲間を激励した。
そのとき、イライジャの覚悟も決まった。
◆◆◆
■???
皇国の<砦>は、悪魔軍団と皇国の<マスター>の全滅が前提。
であれば、悪魔軍団の……大量の伝説級悪魔や神話級悪魔の死を前提として、それを無駄にしない能力の持ち主を配置すればいい。
幸いにして皇国には、正にそのような能力の<マスター>が存在した。
超級職でも、<超級エンブリオ>でもない。
一介の決闘ランカー……イライジャこそ、皇王が初日最大の策とした存在。
彼こそが、二日目以降に勝つための準備。
準備とは、戦力の作成。
王国が最も警戒する皇国の大駒、【獣王】。
それに比肩する戦力を作成する準備である。
そのきっかけは【魔将軍】ローガン・ゴッドハルトであり、要はイライジャだ。
なぜなら、イライジャの<エンブリオ>は――死を糧とする。
◇◆◇
□■皇国<砦>
「…………」
地下シェルターから現れ、フィガロの前に立つ男は……その総身に圧倒的な力を漲らせていた。
それこそ、未だかつてフィガロでも遭遇したことがないほどの、力。
彼の、イライジャの<エンブリオ>の銘は……【死闘戦域 ヴァルハラ】。
TYPE:テリトリーであり、その能力特性は『死者ステータス吸収』。
――領域内で死亡した生物のステータスの一部を、一時的に自らに足し込む力である。
《戦死者よ、此処に》、そして《闘争は死して終わらず》。
世にも珍しき二段構成、二つで一つの必殺スキル。
《戦死者よ、此処に》の発動と共に、イライジャの周囲半径一〇〇メテル以内で死亡した生物のステータスの五%を、彼の中に蓄積。
そして《闘争は死して終わらず》を発動することで、蓄積したステータスを彼に加算する。
しかしスキルの性質上、彼の<エンブリオ>が真価を発揮するのは難しい。
最も効果を発揮するのは大量殺戮の現場だが、この<Infinite Dendrogram>においてそれを引き起こすのは往々にして広域殲滅型だ。
そして<ノズ森林>やギデオンでの【破壊王】の殲滅劇で分かるように、広域殲滅範囲と比べれば彼の周囲一〇〇メテルは狭く、拾いきれない。
それに、彼自身も殲滅に巻き込まれかねない。
だからこそ、時間や範囲の条件をクリアした上でイライジャとヴァルハラの力が最大限発揮される条件は限られる。
多数の生命体がいて、
狭い範囲に密集し、
それらがいずれも高いステータスを持ち、
そんな集団を一方的に瞬殺し続ける猛者がいる環境。
――つまりは今で、此処だった。
今の彼のステータスは皇国の仲間達と【ソルジャーデビル】、そして【ギーガナイト】の屍を積み上げたもの。
加算されるステータスは倒された者の二〇分の一だが、二〇体倒されればそれは同一となる。
そして二〇〇体斃されれば……十倍だ。
かつて、ローガンはレイとの戦いで【ギーガナイト】についてこう述べた。
『AGIは亜音速! STRとENDは一万オーバー! そしてHPに至っては三〇万オーバー! これを倒せるものなら倒してみろ!』、と。
この戦場で斃れた【ギーガナイト】は、五〇〇体オーバー。
さらには無数の【ソルジャーデビル】や防衛に参加した<マスター>も含めた力の一部を……一部と言うには莫大なソレを引き継いだ。
「……凄まじいね」
《看破》など使わずとも、眼前の相手の馬鹿げた力のほどがフィガロには分かった。
だが、あえて物理ステータスを数値化するならば……。
【硬拳士】イライジャ
HP:18050(+8937682)
STR:1833(+326952)
END:616(+405004)
AGI:1600(+194801)
フィジカルの三値――STR・END・AGIの合計でレヴィアタンさえも大きく上回っている。
「ありがとう、みんな。…………ありがとう、ローガン」
イライジャは、昨日までの彼ならば決して言わなかった言葉と共に、手刀を構え、フィガロを見据える。
今の彼の力は、かつて幾度も彼を蹂躙した神話級の悪魔さえも凌駕している。
そしてその力の全ては、仲間達に託された勝利のためにある。
◇◆
戦争における皇王の秘策。
それは……【獣王】に匹敵する怪物をもう一人生み出すことだった。
To be continued
(=ↀωↀ=)<死んでいった仲間達に託された力で強大な敵に挑む構図
( ꒪|勅|꒪)<……どっちが敵sideだっけナ?
○イライジャ
(=ↀωↀ=)<厳しい条件付きで最強格になる男
(=ↀωↀ=)<だから二つ名で最強とは呼称されないし、そもそもこんな数値になったのが初
(=ↀωↀ=)<ちなみに《戦死者よ、此処に》と《闘争は死して終わらず》はどっちも時間制限がある
(=ↀωↀ=)<ただ、蛇口閉めるみたいに残り時間ある状態で《闘争は死して終わらず》を止めて、また後で再起動&カウント再開とかはできる(デメリットあるけど)
(=ↀωↀ=)<ジョブスキル含めて詳細は次回以降
(=ↀωↀ=)<ちなみに決闘では仲間達に協力してもらってステータス溜めても
(=ↀωↀ=)<強化神話級悪魔には普通に負けるくらいが限界だった
(=ↀωↀ=)<ちなみに講和会議前はチャージとかない状態でクロノに殺られた
(=ↀωↀ=)<そして今回やばいステータスになったのはフィガロとローガン(エイリアス)のせい
(=ↀωↀ=)<何よりこれ狙って配置したクラウディアのせい
(=ↀωↀ=)<まぁ前回も含めて言えるけど
(=ↀωↀ=)<全員がオンリーワン持ってる環境だと
(=ↀωↀ=)<人数多い方がドンピシャな能力持ってる可能性高くなるよねって
(=ↀωↀ=)<次回更新は6月1日
(=ↀωↀ=)<AEの方でキャンペーンSSを投稿いたします
(=ↀωↀ=)<15巻まではTwitterキャンペーンとして担当KさんがDMしてくれていましたが
(=ↀωↀ=)<作業量と手間が尋常じゃなくなったので今回はAEで公開します