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第七十三話 エイリアス

(=ↀωↀ=)<週一と言いましたが


(=ↀωↀ=)<昨日の更新後に書いてたら一話分上がったので投稿します


(=ↀωↀ=)<長くお待たせした分とGW特別更新ということで


(=ↀωↀ=)<あ、次は本当に来週です



追記:

(=ↀωↀ=)<……時間ミスった

 ■王国某所地下・皇国<砦>


 間もなく、<Infinite Dendrogram>内部での時計が0時を回ろうとしていた。

 三日間の拠点防衛という、平時なら<マスター>の受け持つ類ではない長期間クエストであるが……何とか無事に一日目を終えられた形だ。

 <砦>を囲む地下防衛拠点に詰める<マスター>達にも、一息つく者が多い。


「…………」


 そんな中、この<砦>防衛の中心人物の一人であるイライジャはずっとあることを気にかけていた。

 言うまでもなく……この<砦>に配された唯一の<超級>、【魔将軍】ローガン・ゴッドハルトのことだ。

 実力はあれど高慢な態度で他の<マスター>から白眼視されていた<超級>。

 だからこそ、昼の『えいえいおー事件』はそれまでの彼にはありえない言動だった。

 彼にしかできないことを、彼ではありえない人物がしているような……強烈な違和感。

 イライジャはそれが気になって仕方がなく、交代の仮眠時間も眠りが浅くなるほどだ。

 そうして一日目が終わろうかというときまで悩み続け……覚悟して立ち上がる。


「……少し、良いか? 一つ、聞きたいことがあるんだが」

『何かな! 目的を同じくする仲間なんだ! 何でも聞いてくれ!』

「…………」


 今日より前には罵倒と嘲笑しか聞いたことのない声音が放つ、あまりにも真っ当で朗らかな返答にイライジャはよろめきそうになった。

 ローガンが模した顔以外似ていないとあるゲームの主人公……よりもさらに明るく主人公らしい。

 それでも、イライジャは聞かねばならない。


「……お前は何者なんだ?」


 意を決し、『偽者ですよね?』と問いかけた。

 受け取り方によっては失礼と思われるだろう。

 かつてのローガンなら気分を害してイライジャをデスペナルティするところだ。

 それでも、防衛時の不安要素は排さなければならないと……イライジャは問うたのだ。

 対する、ローガンの答えは……。


『私はエイリアス二号! ローガン・ゴッドハルト君が作った《分身人形(エイリアス)》さ!』


 至極あっさりと自分の正体をバラしたのだった。


 ◆◆◆


 ■<トライ・フラッグス>開戦数日前・ゴッドハルト邸


 その日、ローガンは自宅に拵えた工房で一体の人形と向かい合っていた。

 ゼタからジョブのビルドを指南されてから磨き続けた錬金術。

 それと並行して、彼は人形師系統も伸ばしていた。


「……できた」


 その一つの成果が今、彼の前にあるモノ。

 彼と酷似した顔を持つ、等身大の人形である。


「上出来。とても良い仕上がりですね」


 人形とローガンを見比べて、ローガンの師匠ポジションであるゼタはそう評した。


「人形の出来栄えもスキル依存である程度は弄れたからな。顔の方は自力で頑張ったけど」

「健闘。大したものです」

「それで、ここからあのスキルを使えばいいんだよな?」

「肯定」


 ローガンが述べたのは、【高位人形師】のレアスキル……《分身人形(エイリアス)》である。

 端的に言えば、自律稼働する影武者の人形だ。

 しかし特徴として……製作者のジョブスキルを一つ貸与(・・)することができる。

 ローガンであれば、ルンペルシュティルツヒェンで拡張して十のスキルを貸与可能だ。

 ステータスは本人に及ばないが、遠隔式のスキル発射装置として使用できる。

 ローガン本人を戦場に置かないまま、ゼタの考案した伝説級連続召喚戦術を行使でき、【魔将軍】に限らず軍団使役型のネックとなる本体を護る極めて強力なコンボと言える。


 しかし、欠点が三つある。 

 其の一、人形に貸し与えている間、本人はそのスキルが使えない。

 其の二、人形がスキルを使う際のコストは遠隔で本人から消費される。

 其の三、人形が破壊された場合、本人も四十八時間は貸与したスキルが使えなくなる。


 それゆえ、ローガンの切り札であり、緊急時に彼を護るために必要な……《コール・デヴィル・ゼロオーバー》は貸与すべきではないだろう。

 しかし、使い方に気をつけていればメリットが大きく上回る。

 MPやSP消費、コストが本人から消費される問題も……ローガンならば問題ない。


「習得まで結構大変だったぞ……」


 使い方次第では非常に強力なスキルであるが、習得するハードルがある。

 それは習得に人形師系統だけでなく【傀儡師】と召喚師系統又は精霊術師系統も必要になるということ。

 そのため、彼はこっそりとレベル上げも頑張っていた。


「賞賛。その頑張りを認めます。きっと報われますよ」

「……だな! よし、それじゃあ早速試すか。貸与スキルを設定して……と」


 ローガンは《分身人形》……エイリアス一号の初期設定を済ませていく。


(戦闘テストもするから《ギーガナイト》と《多重同時召喚》と……あ、そうだ。《錬金術》もやれるなら俺の代わりに仕事させられるな)


 そうして準備を整えて、実験を開始する。


「……《分身人形(エイリアス)》!」


 ローガンは人形の顔を掴みながら、スキルを発動する。

 彼の右腕に光が宿り、それが人形に移っていく。

 やがて人形自体がカタカタと動き出し……。


「この手をどけろ」


 パシリと、自分の顔を掴むローガンの手を払った。


「……?」

「ククク、貴様が俺の製作者か? 何とも間抜けたツラだな。どうやら俺を作る際には随分と美化したらしい」

「…………」

「ハハハ、うん? まさか言葉も喋れんのか? おいおい、これではどちらが木偶か分からんぞ」

「……………………」

「フッ。貴様は精々この部屋の隅で震えていろ。俺が貴様に代わり、全ての凡愚をこの力で蹂躙してやろう。まずはそこの包帯女を」

「オラァ!」


 ローガンの振るった【ヴォルトガイザル】は、エイリアス一号を一刀両断した。

 曲がりなりにも超級職が放った攻撃に、エイリアス一号は抵抗もできずに砕け散った。


「ローガン?」

「……あっ!? やっちゃった……!」


 あまりの無礼さに面食らっていたが、途中で我慢できずに自ら破壊してしまった。


「いや、でも、あそこまで言動のおかしな奴じゃ影武者にもならないだろ!?」

「…………」


 ゼタは『酷似。あれ、以前の貴方にそっくりでしたよ?』という言葉を呑み込んだ。

 空気の読める空気使いである。


「……無作為。《分身人形》は精霊をランダムに召喚して宿らせ、自律思考の核とするスキルです。それゆえ、ああいった性格の人形になってしまうこともあるのでしょう」

「ガチャかぁ……」


 しかもその度に人形を作り直さなければいけない。

 性能を担保する素材も決して安くないので、中々に時間とコストのかかるガチャだった。


「また素材を集めに行かないとな……」

「……懸念。一つ、心配事があるのですが」

「何だ?」

「今、スキルを持たせた人形を破壊しませんでしたか?」

「…………あ」


 《コール・デヴィル・ギーガナイト》や《多重同時召喚》、《錬金術》を持たせた人形を壊してしまい、ローガンは丸二日活動できなくなった。


 ◆


「できた!」


 前回の失敗から数日後、二体目の《分身人形》……エイリアス二号が完成した。

 なお、戦争開始の時期が迫っていたため、作り直した《分身人形》の顔を似せる時間が無くなっている。

 結果として顔は人に似せた凹凸があるだけのシンプルなものとなり、このエイリアス二号は常にフルフェイスの兜を装着することになった。


「今度はまともな精霊が来いよ……《分身人形》!」


 ローガンのスキルが発動し、エイリアス二号が動き出す。

 その結果は……。


『おはようローガン!』


 実に朗らかな第一声だった。


『私を作ってくれてありがとう!』

「お、おお」


 自分の手を両手で握りながら礼を言うエイリアス二号に、ローガンは前回とは真逆のベクトルで面を食らう。


「お前、自分の役目は分かってるよな?」

『任せてくれ! <砦>の防衛だろう! 必ず任務を全うしてみせるさ!』


 自分の胸を叩きながら、エイリアス二号は強く頷いた。


『君の期待に、必ず応えてみせるよ!』

「……おお、今度は中々忠誠心がありそうじゃないか! 気に入った!」

『ありがとう!』


 その後、エイリアス二号に様々なテストを施し、性能的には問題なくローガンの代役が務まることを確認した。


「よし、上出来だ。俺を演じながら王国、そして皇国の連中に力を見せつけてこい!」

『承知した! 粉骨砕身頑張るよ! えいえいおー!』


 強く頷きながらそう言って、フル装備のエイリアス二号はローガンの部屋を出た。


「…………」


 その一部始終を、ゼタは包帯の内側で何とも言えない顔をしながら見ていた。

 《分身人形》の性格は、ランダムに入る精霊によって変わる。

 しかし共通点もある。

 宿る精霊の思考はシンプルなので……TPOに合わせた性格の差異はないのだ。

 つまりローガンの前だからあのような言動をしているのではなく、エイリアス二号の言動は常にあれである。

 どう考えても……喋った瞬間に別人だとバレる。


(……けれど、バレても問題は……ないですね、多分)


 別人だとしても、持たされた力は本物。

 貸与中の《多重同時召喚》と《コール・デヴィル・ギーガナイト》、そしてローガンから供給されるコストがあれば、防衛戦力としては極めて有力だ。

 この戦争において、間違いなくエイリアス二号は皇国屈指の戦力である。

 それが分かれば皇国側は様子がおかしくても受け入れるしかないだろうし、王国にとっては恐るべき強敵である。

 ならば、影武者とバレても問題ないとゼタは判断した。


 ◆◆◆


 ■王国某所地下・皇国<砦>


『という訳だよ!』

「…………」


 そして今、エイリアス二号から誕生経緯や能力の一切を聞かされたイライジャは、まさしく『受け入れるしかない』状態だった。

 イライジャも『あいつ、来てないのかよ!』とは当然思う。

 しかし、エイリアス二号には代わりとなる実力がある。

 むしろ人格を考慮すれば本人が来るよりも円満に防衛体制が回るだろう。

 人形ならば本人よりも冷静かつ的確に動くかもしれない。(……『えいえいおー』のために【ギーガナイト】を呼ぶ時点でもう的確とは言えないが)

 しかしやはり、この土壇場に代理を寄越すのは国家の代表たる<超級>としてあまりにも無責任と、イライジャが考えかけたとき……。


「……いや、そうか」


 イライジャは思い直す。

 エイリアス二号がこの秘密を包み隠さず話した、ということの意味を。

 これは重大な秘密だ。今後のローガンの生命線とも言えるほどの秘密だ。

 しかし、ローガンはエイリアス二号に口止めをしていなかった。

 それは……話しても問題ないと判断してくれたということだとイライジャは受け取る。

 皇国のために、自分達に手の内を明かすことも辞さなかった。

 この場のローガンは別人であったが、自分はローガンという人間を見誤っていたのかもしれないと……イライジャは反省した。



 なお、真相はローガンが口止めを忘れていただけである。



「……何にしても、お前とローガンは防衛に全力を尽くしてくれるんだな?」

『もちろんだとも! コストに糸目はつけないさ! 今もローガン君はコストを用意してくれている。私は【ギーガナイト】をガンガン召喚して<砦>を護るよ!』

「そうか。それが聞ければ……十分だ」


 この場にいなくともローガンは本気で防衛に取り組んでくれている。

 そしてエイリアス二号も、人形であろうとも志を同じくする仲間だとイライジャは判断した。

 これならば、如何なる敵が来ても迎え撃てる。

 そう確信したとき……。


 ――巨大な地震が<砦>を安置した地下空洞を襲った。


「!」

『《コール・デヴィル・ギーガナイト》!』


 イライジャが地震に反応したとき、エイリアス二号は【ギーガナイト】を召喚している。

 それは、この地揺れが敵の攻撃かもしれないと判断してのことだ。


「地形班!」

「地震じゃない! 外部からの地形操作だ! この空洞ごと圧し潰そうとしてる……!」


 この地下空洞を成形し、また外部から攻撃があった際に維持するための地属性魔法職や<エンブリオ>の<マスター>達が、悲鳴のような声を上げる。


「持ちこたえられるか!?」

「こっちは特化の第六込みで十八人だぜ? やってやらぁ!」

「《国土改造計画(デイダラボッチ)》!」


 皇国の<マスター>達は地形操作の<エンブリオ>の必殺スキルも含め、外部からの圧力に対抗する。

 だが……。


「何だ、この圧力……! 俺達に拮抗……いや、上回る……!?」


 敵の圧は、彼らのそれを上回ろうとしていた。


「まさか、【地神】か!? またカルディナが介入を……?」

「……ハッ! 奴が来てたらとっくにお陀仏してるぜ!」


 皇国本土に侵攻してきたカルディナ相手の防衛戦に参加していた<マスター>の一人が、かつての記憶を想起しながらそう言い放った。


「だから、こいつはそれ以外の、……!?」


 唐突に、空洞を潰そうとする圧が消えた。


 否、反転(・・)した。


 綱引きで急に手を離す……否、一斉に相手側へと駆け出しでもするように。


「まずっ……!?」


 圧に抗しようとする彼らの力と、今ここに反転した敵側の地形操作能力。

 それが組み合わさったとき……。


 ――空洞の天蓋が弾け飛んだ。


 地上までの一〇〇メテルはあろうかという岩盤が、外界に向けて放出される。

 地底深くにあったはずの<砦>が……瞬く間に露天掘りのような地形に変じていた。


「チィッ……!」


 <砦>のフラッグが外界に晒され、イライジャが舌打つ。

 だが、分からない。

 地下に<砦>を置くと決めた時点で、最も警戒したのは地形操作能力者だ。

 しかし、王国のランカーにそこまで目立つ地形操作能力者はいないはずだ。

 それこそ、あの【破壊王】や【狂王】の<超級エンブリオ>ならば無理やりに岩盤を破壊することは可能だろう。

 だが、そんなものが接近すれば、探知班が気づく。

 探知班に気づかれず接近し、そしてこれほどの地殻変動を引き起こす。

 そんな力の持ち主は王国に――、



「綺麗な月明かりだ。君達のフラッグも……よく見える」

 ――いる(・・)



 皇国の<マスター>達が見上げる先に、その男の姿は在った。

 羽付き帽子を被り、蒼い外套を羽織る彼の装備はどこかチグハグで。

 黒曜石の色をした……機械の馬に跨っていた。


 機械の馬――【黒曜之地裂】は、男を乗せたまま地下空洞に飛び降りる。


「ふぃ、フィ……!」

「…………!」


 言葉を失う者、迎撃をせんとする者。

 数多の視線を浴びた男の手元からは……ジャラリという鎖の音。


 そして着地の寸前に――六本の紅い鎖が近くにいた<マスター>に伸びた。


「げぁ……!?」


 男の二つ名の由来の半分でもある鎖が、常軌を逸した暴力で彼らを粉砕する。

 二発。確実に一発で【ブローチ】を粉砕し、二発目で人体を血霧に変えていく。

 瞬く間に、幾人も死ぬ。


「お前は、まさか……!」


 狼狽が収まらない皇国勢の前で男は穏やかに笑う。


「もうすぐ、一日目も終わるね」


 笑顔と共に、恐ろしいまでの闘気と威圧感を放つ男こそは――。



「――まずは一本、フラッグを折らせてもらうよ」

 ――王国最強の決闘王者、【超闘士】フィガロだった。



 To be continued

(=ↀωↀ=)<第一日目、最終戦


(=ↀωↀ=)<【超闘士】フィガロ


(=ↀωↀ=)<VS


(=ↀωↀ=)<エイリアス二号(【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト) &皇国<砦>



〇【黒曜之地裂】


(=ↀωↀ=)<地形操作要員として初めて輝いた煌玉馬


(=ↀωↀ=)<だけど普通はこんなに地形操作できない。


(=ↀωↀ=)<うん、普通はね


(=ↀωↀ=)<…………決闘と戦争の違いってなんだと思う?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 馬鹿な…面白閣下とフィガロとか俺たちはどっちを応援すればいいんだ…
[一言] 現状の閣下は、自身と異なる顔のエイリアスを複数作成し、複数拠点を同時に制圧することが可能ですよね。 召喚可能な悪魔の種類が10あれば最大10箇所可能とか、超級屈指の戦略兵器。 皇王が知ってい…
[良い点] 閣下の株・本人の知らないところで急上昇中
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