幕間 『正しさ』を貫く
(=ↀωↀ=)<久しぶりの本編更新
(=ↀωↀ=)<本当は昨日更新したかったけどボリュームが膨らんで間に合わなかった
(=ↀωↀ=)<なお、一月から四月上旬まではAnother Episodeを更新してました
(=ↀωↀ=)<七章との関わりも強いので
(=ↀωↀ=)<まだの方はAEのロボータの冒険からお読みください
(=ↀωↀ=)<今後も『本編更新しないな』と思ったら
(=ↀωↀ=)<まずはAEと活動報告をご確認ください
余談:
(=ↀωↀ=)<全然関係ないけど今日は作者のワンコの一歳の誕生日でした
(=ↀωↀ=)<ふかふかの犬用ケーキを与えたところ
(=ↀωↀ=)<食感から食べ物ではなくぬいぐるみか何かと思ったらしく
(=ↀωↀ=)<しばらく食べませんでした
(=ↀωↀ=)<ケーキを咥えたままあちこち移動するのが面白かったです
■旧ルニングス領・皇国拠点
旧ルニングス領の王国国境から少し離れた場所に、皇国の拠点があった。
【光王】に潰された物資集積所よりも国境との距離はあるが、それゆえに襲撃も免れた場所だ。
拠点には皇国の<マスター>だけでなくティアンも詰めており、戦場である王国に向かう者達の補給所として機能している。
<トライ・フラッグス>の一日目が終わろうかという時間だが、王国領から一時撤退してきた<マスター>の治療などで拠点全体は動き続けている。
その拠点の一角に、濃緑色のテントが建てられていた。
テントには<LotJ>……皇国第三位クランの所有であることを示すマークが施されている。
「現在、皇国と王国の戦争は皇国のやや劣勢で推移しています」
防音処理が施されたテントの中、テーブルの上に広げられた王国の地図を前に一人の男が状況を説明している。
地図上には駒が並べられ、戦況が見る者に分かりやすくなっている。
「「…………」」
ただ、テントの中でそれを聞いている一組の男女はその説明を聞いているのかどうかも不透明な顔であり……何より食物を咀嚼していた。
「“不退転”のイゴーロナクによる<墓標迷宮>襲撃。これは<AETL連合>を中心とする多数の<マスター>に損害を与えました」
王都に置かれた駒の内、『パトリオット』という名前の駒と一定の戦力単位を示す複数の名無し駒を取り除く。
「しかし、北西部の戦闘では<叡智の三角>戦闘部隊を中心に布陣した皇国側の<マスター>が貴方を除き壊滅。<超級>であるマルチネス大佐とイゴーロナクも落ちています。他にも<地雷クラフト>等の拠点が襲撃されており、被害は甚大」
男は説明と共に、皇国サイドの駒を取り除いていく。
「こちらも【殲滅王】をはじめとした<デス・ピリオド>のメンバーや、<K&R>の中核戦力を壊滅に追い込みましたが……北西部は負けですね。落ちた<超級>の数に差ができたのが痛い」
「うん。俺も負けちゃったしね」
そうして説明を受けていた男……【喰王】カタは何でもないようにそう述べた。
「アイテムも、手元に戻ってきた特典素材以外はなくなってしまったし」
「……そうですね。貴方の全開戦闘を衆目に晒せない以上、撤退がベストでした」
「でした?」
「結果論ですが、秘密を維持した判断は正しかったということです。これを」
そうして説明を続けていた男は一枚の写真をカタに見せる。
それは……爆発した山がそのまま凍りついたような奇妙な風景写真だった。
また、巨大な岩の塊のようなドラゴンの写真もある。
「……地竜かな? それも、<厳冬山脈>の奴だ」
「はい。ニッサ辺境伯領に【凍竜王】と【塊竜王】が出現し、領軍と街の<マスター>、正体不明のモンスターの群れ、そしてあの方の同盟相手である【鮮血帝】と交戦したようです。この戦いで、付近で戦闘を行っていた<編纂部>との連絡が途絶えました」
「パレードの仕業かな?」
「いえ、流石にこんな自殺行為はしないでしょう。偶然か……地竜達が何かを捜していたのかも」
そう言う男の視線は……カタを真っすぐに見ていた。
「…………」
カタはそれに対して何も言わず、新調したアイテムボックスからかつて【恐竜王】と呼ばれた個体が遺した素材を取り出し、噛み砕いた。
その後も男は各地での戦況の説明を続け、カタはそれを聞いていた。
「以上で一日目の報告を終わります。フラッグは結局一つも落ちていませんね」
「そうだね。まぁ、俺達にはもう関係ないことだけれど」
カタはそう言いながら、皿に盛られた金属を咀嚼する。
彼が各地の戦況を聞いていたのは介入するためではなく、むしろその逆だ。
「本当にアイテムの補充が済んでも動かれないので?」
「うん。俺は……もういいかな。やっぱりね、疲れるよ。敵も、味方も……本気の人達の中で本気じゃないのは疲れる」
「……<厳冬山脈>が動いているならば、猶更にあれが使えませんしね」
「それもあるけどね。俺は多分……誰かの思いを背負うのが面倒になったんだ。今は自分の舌と胃袋を満足させるだけでいい。それだけの方が、きっと楽しい」
手の中に残る特典素材の欠片を見ながら、カタは疲れたように息を吐く。
「戦争は複雑で、決闘の方がシンプルだなって思ったよ」
「そうですか。まぁ、それは貴方が決めることですからね」
「俺のことよりも、君は本来の所属に戻らなくていいのかい?」
「…………」
「君の本当のオーナーの縄張り、厄介な連中が攻めてきたんだろ?」
「まだ帰還の指示はありません。私は他国での情報……知識の蒐集を任された身ですから。それに相手が相手です。私程度にどれほどの意味があるかも分かりませんよ」
「謙遜だなぁ……」
カタが感心と呆れの混ざったような声音でそう言ったとき、テントの入り口傍のベルが鳴った。
関係者以外立ち入り禁止のテントへの、来客の報せだ。
「この時間に我々に来客ですか。……へい、どちらさんでげすか?」
そしてそれまで説明を行っていた男は、テントの入り口を開けながらまるで別人のような口調で話し始めた。
しかしながら、彼の見た目にはそちらの口調の方が似合っているかもしれない。
彼のファッションがモヒカンにゴーグル型サングラスという……世紀末の三下のような代物だったからだ。
むしろ、オーナーとその<エンブリオ>にだけ見せていた理知的な喋り方に違和感があったと言える。
<LotJ>サブオーナー、モヒカン・エリートとは彼のことである。
「おや? これはまた珍客でやすね」
そうして、ゴーグルの奥の目を細めながらエリートは来客を迎える。
テントに入ってきたのは、軍服の男だった。
だが、その軍服は傷つき、纏う男も傷だらけだ。
右目は戦闘で失ったのか眼帯をしており、左足は着けたばかりの義足。
満身創痍の重傷者が病院を脱走してきたかのようなその男は……。
「……ヘルダイン」
「久しぶりだな、カタ」
皇国第二位クラン、<フルメタルウルヴス>オーナー……【魔砲王】ヘルダインだった。
「驚きでげす。あの【光王】と【嫉妬魔王】にやられたって聞いてやしたが……」
エリートは【鮮血帝】同様に『自分の本当のオーナー』の同盟相手である【魔王】が、まさか獲物を取り逃したのかと驚いていた。
「ミレーユ……我々のサブオーナーの<エンブリオ>のお陰だ。事前にマーキングした対象を、設定したホームポイントに転送するスキルがある」
ロワゾブル。青い鳥の名を冠する童話モチーフの<エンブリオ>。
転移能力らしく、使用に際する制限は多い。
事前準備が必要であり、自分自身の離脱には使えず、消費は大きく、クールタイムもある。
それでも……自分達のオーナーを死地から逃がす力はあった。
「なるほど。それで本拠地に転送されて、秘密裏に治療を受けていたってことでやすね」
<マスター>であるはずのヘルダインがこの有り様なのは、デスペナルティによる回復を選ばなかったからだ。
死ねば戦争に参加できない。
ゆえに、治療を経ても満身創痍といった状態でも生きることを選んだ。
(重傷の身を押してここまでやってきた。それは復讐のためか、それとも……)
「カタ。私はこれから王国に……戦場に向かう」
エリートがヘルダインを推し量ろうとする中、ヘルダインは真っすぐにカタを見る。
カタはヘルダインが入室してからも、椅子に座ったまま。
ヘルダインに返す視線も、どこか気怠げだ。
「……行けば?」
「力を貸してくれ」
ヘルダインの言葉に、カタもエリートも驚きはしない。
わざわざ出征の挨拶をする必要はないからだ。
この<LotJ>のテントに来たということは、他の必要があったのだ。
「俺はもう降りるつもりだけれど」
「ジュバが落ちた」
「聞いたよ」
【流姫】ジュバは共通の知人である。
皇国の準<超級>の猛者を五人選べば、カタとヘルダインとジュバの名は入るだろう。
あとの二人の内一人はクロノであり、五人目はその時々で変わる。
「うちの戦力も結構落ちてるね」
<LotJ>屈指の実力者だった【掻王】ドミンゴスも何者かに倒された。
前回の戦争とは、状況がまるで違う。
「ああ。勝てる戦いと考えていた遊戯派の中には、腰が引けている者もいる」
「まぁ、俺達は負けたら報酬もないからね。損耗した上で負けたら大損。遊戯派はギブアンドテイクで集まったんだもの。そうもなるよ」
「だからこそ、信頼できる実力者達と共に……王国に痛打を与える。潮目が変われば、日和見に走ろうとしていた遊戯派も動く」
カタはヘルダインの言葉を聞いて、首を傾げた。
「それで、信頼できるのが俺? 本気で言ってる?」
「ああ。お前だ」
カタがヘルダインの正気を疑っても、ヘルダインはその隻眼でカタの目を見る。
「あの餓竜事件において、私やジュバと同様に人々を護ったお前を信頼している」
「――――」
カタはヘルダインの言葉に目を見開く。
『知っていたのか』という驚きと……かつての自分の行動を聞いた心の痛みで。
「……偶々だよ。今はもう、同じことがあっても同じようには動かないさ」
「それでも、だ。お前の心根が正しいものだと……私が信じている」
「君が俺の何を知っている?」
苛立ったように、カタがヘルダインに問う。
「……皇国の<マスター>は、ティアンに対して高圧的な者も多い。それは、この国が<マスター>なしでは立ち行かない国になったからだ。弱い立場の者を見下す者は、どこにでもいる。遊戯派が主であり、ある種の特権を与えられた<LotJ>では特に多い」
「そうだね」
「だが、そのオーナーであるお前はティアンを虐げなかった」
「…………」
「そうして人の食い物ではないものを食っているのも、『何でも食える』自分が飢餓にあえぐ皇国の民の食料を減らさないためだろう?」
ヘルダインは卓上の皿……そこに盛られた金属素材を指差した。
「……気持ち悪いほど、よく見ているね」
図星を指されたことを誤魔化すように、カタが顔を逸らす。
「だからこそ、私はお前と共に戦いたい。今までは<フルメタルウルヴス>のオーナーとして仲間達を率いる立場だった。だが、私はもう私一人になった……」
戦闘型のクランメンバーは先の拠点襲撃によって脱落し、他のメンバーも皇国内の村落の警護から外せない。
この戦争に投入できる<フルメタルウルヴス>の戦力は、もはやヘルダインだけだった。
「だからこそ、一人の<マスター>としてもう一度、この戦争に……皇国の未来を賭けた戦いに臨みたい。お前と、共に」
「…………」
カタは、ヘルダインを見る。
一つだけ残ったその瞳には、嘘偽りのない輝きが宿っていた。
この男が本心からそう言っているのだと、カタにさえも理解できた。
「……さっき、君は俺の心根が正しいと言った」
だからこそ、カタはヘルダインに問うことにした。
「だけど、正しいならば……本当に間違っていないのかな?」
「何?」
「正しいと思って行動しても誤りだったり、望まない結果を呼んだりも……するだろう?」
過去の出来事を、振り返りたくない記憶を想起しながら……カタが言葉を紡ぐ。
「何より……正しいものがいつまでも正しいとは限らない。皇王もね」
「…………」
ヘルダインは、カタの言わんとすることが理解できた。
◆
皇王ラインハルト・C・ドライフ。
彼は民衆から見れば……英雄だ。
妹以外の親類を殺し、内戦を起こした悪逆の王と言われているが、この飢餓の国で自分達だけが肥えていた貴族の多くを排した。
民に食を与え、さらにヘルダインのような<マスター>を広く雇用してモンスターからも守った。
その代表例が、餓竜事件だ。
それゆえ、内戦においてスプレンディダのように敵対した<マスター>もいたものの、多くの<マスター>は中立を保った。
そして、内戦後の王国との戦争までの治世は客観的に見ても、リアルの倫理観で見てさえも善政だった。
権力の掌握が『貴族を減らした』ことでできていたとはいえ、民を第一に考えた政策。
そうした姿は、民のための正しい王とも捉えられるもの。
これは、その後の王国との戦争も含めてのものだ。
直接の原因は王国側からの一方的な同盟破棄。
以前からも皇国の前首脳陣と王国の【大賢者】の交渉に不透明な点があり、皇国では『元々先代皇王や第一、第二皇子派閥との繋がりが強かったのだ』と考えられている。
同盟破棄の結果、バルバロス辺境伯領やエルドーナ領を介した資源と食料の交換貿易が破綻。王国と敵対関係に陥り、海路が使えない皇国はレジェンダリアとの交易もできない。
原因不明の土壌汚染により食料自給率が著しく低下していた皇国にとっては致命的。
言わば、皇国は生命維持装置を唐突に切られた形だ。
当然、民衆の不満と怒りは王国に向かう。
この時点でラインハルト皇王の施策がなければ、餓死者の数は跳ね上がっていただろう。
だからこそ、王国との戦争でも声高に否定するものはいなかった。
皇国民衆の視点では、王国が肥え太った外道に見えている。
そして戦争となり、遊戯派……<LotJ>をはじめとする<マスター>が雇われて皇国戦力として参戦。護民戦力であった世界派も投入される。
戦争の結果、皇国はルニングス領を実効支配した。【グローリア】襲来で環境に大きなダメージは受けてはいたが、皇国の大部分よりはマシな土地だ。
……少なくとも<エンブリオ>でも修復できず、拡大を続ける重汚染地帯よりは。
このとき、カルディナの介入で王国を攻め落とせなかったことは……幸か不幸か、だ。
【破壊王】や【女教皇】といった者達が反抗勢力となった場合、皇国の被害も大きい。
カルディナは彼らのセーブポイントを消さないであろうとも予想された。
<超級>の無限テロは皇国側も【獣王】で同じことができる。
だからこそ、二度目である<トライ・フラッグス>は、その後の処理を選ぶことが可能なルールのある戦争になった。
ここまで……前回の戦争までは、『戦争自体がNG』という主張を除けば民衆や世界派から見ても皇王の問題点は見えない。
問題は、その後の王国への度重なるテロと講和会議。
戦争に至らないために、テロという盤外戦術で王国を降伏に追い込む。
王国が皇国に逆転する戦力を得ないように、<遺跡>を攻撃する。
それらはまだ理解されないでもないが、『そうなってしまった』戦争と違い能動的で乱暴な手段とも言える。
『皇国の出血を少なくするために、王国に犠牲を強いる』選択。
ここまでは、まだギリギリで理屈が通る。
だから、本当に疑問視されるべきは……皇王が次に打った手だ。
◆
「皇王が講和会議で王国を嵌めようとした話、君は聞いているんじゃないかな。俺は、講和会議に参加したメンバーから聞いたけれど」
「…………」
「講和会議。皇王はどうして罠を張ったんだろうね」
あの日、講和会議が決裂したのはレイ・スターリングによる物言いがあったためだ。
皇国の報道機関からは言いがかりとしてクローズアップされて、彼は皇国民衆には嫌われている。
だが、報道機関以外に情報を得る術のある人間ならば、彼の発言が言いがかりとも言い切れないと知っている。
一種の、罠を含んだ条約だった……と。
「講和会議に合わせて、皇国から出奔したゼタが手勢を引きつれて王都でテロというのは、キナ臭いにも程があるよ」
【盗賊王】ゼタはかつてグランバロアから出奔した前科があるため、出奔自体は不思議ではない。
だが、そんな彼女だからこそこうした盤外戦術に使う要員として囲っていたのではないか……とも<マスター>の間では噂されている。
それに、講和会議に参加したメンバーは皇妹クラウディアの不可解な発言も聞いている。
「皇王は、ただ皇国の飢餓の解決と安寧以外に……他の目的があるんじゃないかな。それは、君にとっても正しいことなのかな?」
「…………」
ヘルダインはメイデンの<マスター>。
この世界を世界と認識し、そして皇国に生きる人々を護るために動いている。
皇国の世界派の中でも良識派の代表格であり、彼の行動を指針とする世界派も多い。
彼が戦争に賛同して参戦しているからこそ、参戦している<マスター>も多数いる。
そうした状況はカタでも知っていることであり、だからこその疑問だ。
はたして、今のヘルダインは間違えてはいないのか、と。
「皇国の人々は、今も皇王を支持している。一種の……バイアスかな。『正しかった』から『今も正しいはず』って。バイアスは、君達にもあるんじゃないかな。正しかった者に従っていたから、今も正しいままだと思って従っているんじゃないかな?」
「…………」
カタの言葉に対し、ヘルダインは無言だ。
返す言葉もないのか、真剣に考えている最中なのか。
あるいは、既に返すべき言葉を決めていて……彼の話が終わるのを待っているのか。
二人の会話に、エリートもニーズヘッグも口を挟まない。
「だけど、正しいものがいつまでも正しいとは限らない」
そうして、カタは再び先刻の言葉を繰り返す。
「俺はそう思っていて、今の皇国が正しいという確信なんか持てない。だから聞きたいんだ。君には、今の皇国が正しいという確信があるのかな。そしてそれは……根拠のあるもの?」
それがカタからヘルダインへの問いかけだ。
助力するか否かも、カタがヘルダインをどう見るかも、全てがこの返答で決まる。
この問いに対して、ヘルダインは……。
「――皇王陛下には他の目的もある」
カタの推測を、はっきりと肯定した。
推測ではなく、事実を言うように。
皇王は、皇国を救う以外の目的があると断言したのだ。
だが……。
「だが、皇国を救うことを捨ててはいない。もう一つの目的も、そのために避けては通れないことだと仰っていた」
「……仰っていた?」
ヘルダインの言葉を、カタは驚きと共に聞き返す。
その言いようはまるで……。
「まさか」
「私が直談判した際に、陛下御自身が語ってくれたことだ」
「…………」
ヘルダインの続けた言葉に、カタは絶句した。
(直談判、かぁ……)
『語ってくれた』……とは如何なる形で語られたのだろうか。
直談判と言うが、皇王が彼に語るような何かがあったのだろう。
それはひょっとすると、ヘルダインも今のカタのように皇王へ問いかけたのではないだろうか。
それもフェンリルを突きつけ、返答が嘘偽りや望まぬもの……皇国の民衆の害にしかならないと断じたのであれば、皇王殺しの大逆者となることも辞さぬ覚悟で。
「陛下は暴君ではない。ただ、この国のために誰よりも足掻いている。それが分かったからこそ、私も陛下を信じることを貫き続ける。この国の未来のために戦う」
それを盲信という者もいるだろう。
だが、ヘルダインの瞳は……カタと同様に『この世界をゲームだとは思わない』メイデンの<マスター>の瞳は曇っていなかった
「…………」
<エンブリオ>の能力は<マスター>のパーソナルに由来する。
あらゆる護りを超えて突き進み、敵を食い破る砲火こそがフェンリルだ。
それは何を相手にしても自分の正しさを貫くパーソナルの具現とも言えるだろう。
そして彼の正しさは、普通の『正しさ』だ。
護りたいもののために、それ以外を犠牲にする……誰でも抱く取捨選択の『正しさ』である。
ただ、彼はそれを貫き続けるのだ。
世界派で、メイデンの<マスター>であろうとも。
(ヘルダインも頭がおかしいんだな、……俺と同じで)
カタはヘルダインの在り方に罵倒のような感想を抱き……親近感を覚えた。
「皇国の未来のためにお前の力も貸してほしい」
だから、だろうか。
「……俺という戦力をどう使う気なの?」
カタの答えは、少し前と変わっていた。
「オーナー!?」
それまでと感触の違うカタの返答に、横で聞いていたエリートが声を上ずらせた。
エリートは皇王絡みの情報の重要性に気を取られていたが、しかしある意味ではそれ以上に、カタが態度を変えたことに驚愕した。
「カタ……」
「一応、聞くだけ聞くよ。君は何をする気?」
感じ入るように彼を見るヘルダインに、カタは先を促すように指差す。
そして、ヘルダインが問いの答えを口にする。
「――三人で王国の<砦>を落とす」
「…………ごめん、もう一回言ってくれる?」
カタは自身の想定を超えた返答に、思わず聞き返していた。
◆
そうして、ヘルダインは自身の持ってきた作戦の詳細をカタに説明した。
「……なるほど。うん、そのコンボが決まれば……うん」
ヘルダインの語った作戦は、納得と拒絶の中間にあった。
机上の空論、砂上の楼閣、あまりにもここにいる以外の人間と……敵に依存する作戦。
しかし嵌れば……恐ろしい。
「あのー、この作戦ってもしかして皇王の提案でげすか?」
「ああ。私が皇都の本拠地を出る際に、通信でお伝えいただいたものだ」
「……すごいな、皇国の命運掛かった戦争でこんなにイカレた作戦やるんですか」
エリートが素の口調で感想を呟くほど、皇王立案の作戦は頭がおかしかった。
前提条件と準備内容が、あまりにも……だ。
「この作戦、準備が整わなかったら?」
「そのときは遊撃として動き、<砦>の攻略は他の動きと連動する形になる」
「そっか。…………」
瞼を閉じて、カタは思考する。
(皇王はもう知っていたのか、俺のこと。それでも……)
一分か、二分か。彼は瞑目して考え続け、ヘルダインもそれを待った。
そして……。
「分かった。その準備が整ったら、俺も協力するよ」
「……! 感謝する!」
ヘルダインはカタの手を両手で握りながら、首を垂れて礼を述べた。
「……オーナー」
「そういうわけだから、俺達は移動を始めるよ。北東のカルチェラタンは少し遠いからね」
カタは椅子から立ち上がり、彼の隣のニーズヘッグもそれに続く。
そうして、カタとヘルダイン、ニーズヘッグは<LotJ>のテントを出る。
「エリート。じゃあね」
「了解でげす。……お達者で」
二人とも暗に別の意味を含ませて、言葉を交わす。
お互いに……この戦いが終わったときには王国にも皇国にもいないだろう、と。
◆
「しかし、協力を持ちかけてなんだが……今日は驚いた」
「何が?」
「まさか、カタがここまで深く皇国について考えていてくれたとは」
「バカにしてる?」
「そうではないが、普段とのギャップがな……」
「……ろくに考えない方が楽だからね。だけど、皇国については考えなきゃいけないことがあったから……考えてただけだよ」
「……そうか」
「兎に角、俺がどうするかは状況次第だからね」
「ああ。分かっている」
王国の<砦>を落とす前段階。
そのための準備は……。
「――皇国の<砦>、陛下の読み通りになるか否か」
――自国の<砦>の攻防に掛かっているのだ。
To be continued
(=ↀωↀ=)<状況整理回
(=ↀωↀ=)<次回は一日目最後の場面
(=ↀωↀ=)<まだまだWEB以外の作業が同時進行なので
(=ↀωↀ=)<更新ペースは落として週一くらいになります
(=ↀωↀ=)<ご了承ください
(=ↀωↀ=)<ちなみにAE最新話と本編最新話の間の非WEB作業は
(=ↀωↀ=)<文庫換算100ページくらい書きましたがまだ全然終わりません
〇皇王の目的
(=ↀωↀ=)<嘘は全くついていない
(=ↀωↀ=)<【邪神】の成長と<終焉>の起動は、皇国ごと世界が滅ぶという爆弾なので
(=ↀωↀ=)<それに対処することはイコールで皇国も救うこと
(=ↀωↀ=)<管理者警戒で<マスター>に詳細を伝えられてはいないけど
(=ↀωↀ=)<多分伝えていてもヘルダインは賛同した




