第七十話 願いの拮抗
(=ↀωↀ=)<レイとエフについて
(=ↀωↀ=)<以前にも書きましたが書籍版12巻みたいな戦いを
(=ↀωↀ=)<WEB版世界線では別イベントでやりました(ということになっています)
(=ↀωↀ=)<戦いの詳細は12巻でね!
( ꒪|勅|꒪)<ダイレクトマーケティング
(=ↀωↀ=)<もっと言うと童話分隊やクロレコ、漫画版、クロレコもよろしくね!
(=ↀωↀ=)<年末年始のお休みは電子書籍もおススメだよ!
( ꒪|勅|꒪)<なりふり構わねーナ
(=ↀωↀ=)<宣伝、大事
(=○ω○=)<それはそれとして作者はお正月明けは締め切りが盛り沢山だけど(白目)
・店舗特典SS
・15巻あとがき
・クロレコ21話脚本
・漫画8巻のロボータ短編
(=○ω○=)<明日の分を書き終わったら即こっちの作業に移ります……
(=○ω○=)<お正月休み? 何のことです?
( ꒪|勅|꒪)<南無
□十五分前
それはエフとビースリーが推理ショーを始める少し前。
「ですので、そちらは頼みます」
「ええ。あなたも抜かりないように」
そのように言葉を交わした後。
『だそうですよ、レイ君』
『分かりました』
ビースリーは、【黒纏套】の中で既に目を覚ましていたレイと【テレパシーカフス】での会話を行っていた。
◇
実を言えば、エフとビースリーの相談の前には、レイは目を覚ましていた。
精神空間での【死霊王】との戦いで、1%の制御権を手に入れてから間もない頃だ。
目覚めたとき、彼は【黒纏套】に包まれていたために視界が閉ざされていた。
起き上がろうとしたが、なぜ自分がこのように処置されているか状況が読めなかった。
そのため、まずは【テレパシーカフス】を使い、自分と共に戦っていたはずのビースリーに呼び掛けたのである。
ビースリーとはすぐに念話が繋がり、彼女の指示でまだ眠っているフリを続けることになった。
皇国やサクラを欺くためであったが、同時にレイの起床という条件の変化がエフの行動に及ぼす影響も無視できなかったためだ。
エフはレイが眠っている内に退場するのがつまらないからこそ、護衛を担っている。
レイが起きたと知られれば、最悪の場合はエフが自分の欲求に従って第三勢力になる恐れすらあった。
そのあたりのエフの厄介さというか、自分の興味と好奇心を最優先する性質はかつて相対したレイもよく理解している。
ゆえに、レイは狸寝入りをすることになった。
途中から寝言がなくなったのは、本当の昏睡から狸寝入りに切り換えていたからだ。
まさか自分が寝言で夢の中の戦況報告をしていたとは思わず、そこまで含めての寝た振りは出来ていなかったのである。
◇
そうして眠ったふりをしながら、レイはビースリーから念話で状況や空間について判明した情報を聞いていた。
声を漏らさないように注意しながらも……レイは聞かされた情報に内心で唸っていた。
『皇国、いくらなんでも王都に殴り込み過ぎだろう……』、と。
戦争範囲外とは何だったのかというくらい、ルールの隙をついてレイを襲ってくる。
だが、ティアンに被害が生じていない以上は、ルールの範囲内であるし受け入れるしかない。
そんな皇国に対して、反撃に転じるエフの策もレイは聞いていた。
『スプレンディダとジュバは彼に、サクラは私に……。しかし、流石の彼もあの二人を相手取るのはやはり厳しいように感じます。ですがスプレンディダの再生を止めるのはエフでなければ難しく、そしてジュバの防御を破るには私でも厳しいでしょう』
バリアを全開にされれば、《解放されし巨人》を使っても十秒の効果時間中に倒せるかは分の悪い賭けになる。
相手の防御が薄まった瞬間を見極めて、一瞬で相手に到達する超火力攻撃。
それができるのは、レーザー使いであるエフのみである。
否、正確にはもう一人いるが……。
(彼の《シャイニング・ディスペアー》は、<墓標迷宮>の戦いで使ってしまっている)
貫通力に秀でたあのレーザーならば、【黄水晶】のバリアも突破できたかもしれない。
しかし、再チャージに膨大な光を要求するあのスキルの、短時間での再使用は難しいとビースリーにも分かっていた。
だが……。
『貫く手は……あります』
「え?」
他ならぬレイから、そう申し出があった。
『《シャイニング・ディスペアー》は、もう使えます。だから、あのバリアが弱まった瞬間を狙って……俺が撃ちます』
『いったい、いつの間に……』
『…………』
ビースリーは信じられないという表情で念話を送った。
しかし、当のレイには……誰がお膳立てしたのかも分かっていた。
(あいつ……本当に気づいてないんだろうな?)
疑念を抱きながらも、レイは……起死回生の瞬間を待つことになった。
◇◆◇
□■???
ダジボーグの強烈な閃光が隔離空間を照らし、動きの止まった獅子や<マスター>をビームブレードで両断していく。
閃光はレイとビースリーにも降り注ぐが、ビースリーは咄嗟に盾を掲げ、レイは――生き物のように動いた【黒纏套】が日除けのように彼の目を護っていた。
「――モノクローム」
次いで、黒布は彼の失った左腕を補うように渦巻き――砲身へと姿を変える。
黒い砲身の内部に光が満ちるも、その光はダジボーグの閃光の中に紛れる。
光学センサーの感度を落としている【黄水晶】とジュバには、レイの姿は見えない。
レイは白に染まった視界の中で――巨大な獅子や<マスター>達を屠った機影が、自身に向き直る様を光の中で幽かに見る。
あとほんの数秒後に、レイへと突撃してくることは明白だった。
だからこそ、レイはその瞬間を待った。
上空から敵機にエフのレーザーが降り注いだ瞬間に、
明確に、バリアの濃淡が見えた瞬間に、
――彼もまた、切り札を切る。
「――《シャイニング・ディスペアー》」
必殺の貫通力を持つ光条が黒い砲身から放たれ、
薄まったバリアを破り、
――【黄水晶】の正面装甲を貫いた。
◇◆
「これ、って……!」
被弾した際、ジュバはそれがレイ・スターリングの切り札の一つだと分かった。
彼が目覚めたことも察し、そして……。
(チャージが早すぎる……)
それが撃てないはずの一撃だとも、理解していた。
<墓標迷宮>の戦いで使用し、再チャージには時間が必要だったはずのもの。
そのチャージが短時間で為せたのは、この空間がダジボーグの光に満ちていたから……だけではない。
(ああ、そっか……)
ジュバは、一体誰が【黒纏套】の一撃を再チャージさせたのかを察する。
それは、当然の連想。
この場にはもう一人……光のスペシャリストがいたのだ。
【光王】エフという、比類なき光の使い手が。
かつてレイはエフと戦った際にも《シャイニング・ディスペアー》を使用した。
だが、【黒纏套】と同様に《光吸収》を有するゾディアックによって阻まれ、ゾディアックのチャージを手助けする結果に終わった。
今回は、その逆。
エフのゾディアックが蓄えた光エネルギーを【黒纏套】に供給していた。
この空間に閉じ込められてから、密かに。
起死回生の一手となることを期待しての、お膳立て。
だからこそ、一日に二度目の《シャイニング・ディスペアー》を放つことができた。
それは、頑強なバリアと機体装甲、そしてジュバを諸共に貫く一撃となった。
「けれど、まだ……!」
しかし、ジュバ自身にも命中したが【ブローチ】によって防いでいる。
HPを超過する火力ゆえに一発で【ブローチ】が破損したが、彼女自身は健在だ。
【黄水晶】も装甲を破られたが、制御システムや内部のエネルギー流路、変換機に支障はない。
あと三秒もあれば、バリアの穴を塞ぎ、全開状態に戻せる。
そうすれば、今度こそレイ・スターリングを……王国の<命>を獲れる。
ラインハルトの勝利に一歩近づける。
「まだ、まだ……!」
されど……。
レイの《シャイニング・ディスペアー》が貫いたバリアと機体装甲の穴。
その一瞬の勝機を、クライマックスの瞬間を――【光王】エフは見逃さない。
◇◆
【黄水晶】を貫くレーザーの輝きを見て、エフの口元が笑みに変わる。
実を言えば、確証はなかった。
エフはレイが起きていることを知らされず、気づいてもいなかった。
だが、『そうなれば面白い』と期待した。
番狂わせ。敵味方が護衛対象と思っていた人物による、起死回生。
そんなクライマックスが楽しそうだったから、ゾディアックの光を【黒纏套】にチャージした。
そして今、彼の望んだクライマックスが目の前にある。
だからこそ、彼もクライマックスシーンを彩る。
「――射手」
笑みを浮かべる彼の視界の中には、既に呼び出されている召喚モンスターの姿があった。
それは、機械と生物を混ぜたような多脚の射手。
光の矢をつがえ、光速の一射を持って目標を狙い撃つモノ。
――《天に描く物語・射手》。
それは上空からのレーザー照射の直前には召喚されていた。
召喚場所は、エフから分散して配置したゾディアック群の一つ。
本来であれば上方にバリアを集中させた後、側面から撃ち抜いて相手に損傷を……荷電粒子砲を使用不能に追い込むために配した駒。
しかし今、先にレイによって【黄水晶】のバリアが破られ、装甲も、その内のコクピットにさえも一撃が届いたというのならば。
狙うべきは、別の場所だ。
『…………』
射手は、弓を引き絞る。
主から受けたオーダーは、たった一つ。
――【黄水晶】のバリアに空いた穴を通して敵機を射貫け。
それは、光速のピンホールショット。
バリアの穴が閉じるまでの僅かな間に、針に糸を通すような狙撃を完遂しろと主は言う。
だが、射手はそれに異を唱えない。
狙撃こそが彼の存在理由であり――それを可能とする機能が自身にはあると知っていた。
『――――』
ゆえに彼は光速の矢を放ち、――完遂する。
閉じかけたバリアの穴を、その先の機体に開いた欠損を正確に貫く。
そして光の矢は、《シャイニング・ディスペアー》の徹した穴を飛んで、
――【ブローチ】を失くしたジュバの身体に命中した。
静寂の一瞬。肉の灼ける音だけが、周囲に鳴る。
ジュバの左胸に命中した光の矢は、彼女の身体と腕の連結を焼き飛ばし、致命傷を与える。
――しかし、彼女の命を絶つには至らず。
「ッ……~!!」
直感か、偶然か。
ジュバは咄嗟に自らの身体をずらし、心臓に命中するはずだった一撃を……即死から致命傷に変えていた。
「……く、ぅ……」
ジュバは自らの腕が吹き飛ぶ感覚と、自らの肉が灼ける臭いに吐き気がした。
それでも、まだ生きている。
受けたダメージと幾重にも重なる傷痍系状態異常ゆえに、もう一分と生きてはいられないだろう。
それでも……。
「な、め、る、なあああああ!」
ジュバは、己の全身全霊を込めて戦いに臨む。
普段のポーズもかなぐり捨てて、吼える。
本気の思いのために、彼の依頼を果たさんとする。
「シトリィィィィンッ!!」
『了解』
ただ、機体の名を呼ぶ。
彼女が駆り、彼女の想い人が整備した機体はその一言ですべきことを理解した。
尾部の砲身が展開し、残されたエネルギーを回路に回す。
最大威力、ではない。
長時間チャージする猶予がない。魔力も然程込められない。
既に生存者は少なく、彼女自身の魔力もない。
最大威力には、遠く及ばない。
それでも――今の彼女に残された全てを叩きつける一撃だ。
「まずい……!」
それを阻むように、盾を構えたビースリーがレイの前に出る。
だが……。
「邪魔ぁ!!」
ジュバはそれを拒むように、コクピット側面のスイッチに拳を叩きつける。
瞬間、【黄水晶】の鋏が本体から分離――爆炎を噴出しながらビースリーへと飛翔する。
「!?」
再整備で取り付けられたロケットアンカーがビースリーを捉え、彼女を遥か後方へと連れ去っていく。あたかも、ビースリー自身がライザックに行った戦術と同じように。
「これで……もう!」
邪魔者を排した。もう防がせはしない。
彼女にとっての、最後の一手。
防げるものならば防いでみろと、守りも矜持もかなぐり捨てたジュバのラストアタック。
「《グリント・パイル》……!」
上空からエフのレーザーが降り注ぎ、バリアの解けた【黄水晶】の装甲を灼く。
それでも、荷電粒子砲の稼動は止まらず、
「――《抹、消》ォ!!」
――ジュバと【黄水晶】の、願いを込めた一撃が放たれる。
王国の<命>を――レイ・スターリングを抹殺するために。
◇◆
戦争とは願いの激突。
望む未来があるからこそ、その可能性を掴むためには退けない戦い。
それはこの世界を、『世界』と認識する者同士だからこそ……より顕著になる。
レイとジュバ。
共に自国の王と親しく、その力になりたいと考えた二人の<マスター>。
しかし、お互いの人物像については知らない。
互いの王に、向けられ、向けた想いなど知る由もない。
それでも一つの因縁として、此処に二人の戦いは決着する。
今このとき、ジュバが放つ一撃はレイにとって必殺だった。
エフの攻撃は照射前に止めること叶わず、ビースリーは彼を護れる位置にない。
レイの持つ【黒纏套】や斧でも、荷電粒子砲を防ぐことはできない。
王国勢を薙ぎ払ったときに比べれば遥かに劣る熱量だが、生身のレイ一人蒸発させるには十分。
ゆえに、レイには打つ手がなかった。
――レイ、だけでは。
「――彼女は来ている!」
上空からエフが叫ぶ。
照射まで間もなく、伝えられる言葉は少ない。
その意味を理解できる者は、決して多くはないだろう。
レイには──レイにだけは理解できた。
ゆえに、呼ぶ。
「ネメシィィッス!!」
その名を呼んだ瞬間、隔離空間を貫いて――黒と白の光の粒子が彼の紋章に戻る。
それは、エフが実証したことの一つ。
<エンブリオ>の回収は、この空間といえど阻むことはできない。
そして、外界にも視界を残していたエフだからこそ知っていた。
――既に彼女達が帰還していると。
――姿を消したレイ達の手掛かりを求めて教会にいると。
ゆえにエフが伝え、レイは……彼女の名を呼んだ。
数多の窮地を、共に乗り越えてきた相棒の名を。
『応!』
そして名を呼べば、それ以上は不要。
何をするかは、二人ともが通じ合っている。
光が紋章から溢れ――盾を象る。
レイは己が右手で、己が最も信頼する守りを翳す。
一瞬後、漆黒の盾に荷電粒子砲が激突し……激しい光の拡散が巻き起こった。
「っ……!」
『く、ぅうう!!』
体勢を崩せば、そのまま命ごと持っていかれる熱量の奔流を凌がんとする。
レイは歯を食いしばって堪え、ネメシスもまた彼を護って、荷電粒子砲の圧力に抗う。
既に《カウンター・アブソープション》を使い切った彼らは、自分達の力と強度でこの光の猛威に立ち向かうしかない。
もはや誰も彼らを護ることができない舞台に彼らはいた。
それでも彼らは立って、抗い続ける。
自分達の望む、未来のために。
◇◆
その拮抗が……どれほど続いたか。
やがて、【黄水晶】の尾から放たれる光が、完全に消えて……。
その光の先には、黒い盾とそれを構える一人の男の姿があった。
輻射の熱で全身を焼かれ、盾を握る手や踏みしめた足から血を流し。
それでも、絶死の光の中でも、折れることなく……立っている。
「…………」
ジュバは、その姿を見る。
ほんの少し、あとほんの少しだけ力が足りなかった自分の結果を見届ける。
そして、自分の死力を乗り越えた男の、死力を尽くした表情を……知る。
その有り様に、少しだけシンパシーを感じた。
想いが負けたとは思わない。
けれど、今回の勝敗は……彼女も理解していた。
「……そっかぁ」
ジュバはバイザーを操作し、そこから一部のパーツを取り外す。
記録と情報伝達を兼ねたパーツを、自身の所有権から外す。
そうして、最後の……託された仕事で唯一果たせるものを実行して……。
「ごめんね……負けちゃった……」
【流姫】ジュバは光の塵となって……<トライ・フラッグス>から退場した。
To be continued




