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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第七章 女神は天に在らず

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第六十三話 ロックデッキ

(=ↀωↀ=)<終盤のコスト関連表記が意味合い違ってたので一部修正

 □■???


「この場の人数が十分の一になればスキルは解除されますヨ!」


 スプレンディダの発した言葉に《真偽判定》は反応しない。

 つまりは真実であり、その意味は深刻だ。

 三十人以上の人間が集まったこの場においては、生存できる者がたったの三人ということなのだから。


「…………」


 その言葉を聞いた直後に、エフはゾディアックをゆっくりと動かした。

 黒い球体群はスプレンディダではなく、王国の<マスター>――この《冷たい方程式》に巻き込まれた部外者達の後頭部(・・・・・・・・)にレーザーの照準を合わせ……。


「待ってください」


 小声で話しかけたビースリーによって制止された。


「……今の内に不確定要素は減らすべきだと思いますが?」


 エフがしようとしたことは、口減らし。

 解除方法が人数の減少しかないのであれば、残す三人を選ばなければならない。

 不死身のスプレンディダと鉄壁のジュバを倒すとしても、三人しか生存できない。

 王国側から三人を選ぶ場合、戦争に無関係な部外者達を残す余地はない。

 そして、部外者達がその事実に気づいて生存意欲を発揮して抵抗する前に殲滅すべき、とエフは判断した。

 不意打ちの初撃で数を減らし、【ブローチ】で生き残る者も追撃をかけて仕留める。

 PK行為を含めた合理的な判断と言えるが、それを同じくPKであるビースリーが止めた。


「他の解除方法があるかもしれません。あるいは、彼らの中にスプレンディダとジュバのカウンターになる<エンブリオ>の持ち主がいる可能性もある。何より……乱戦になれば危ういのはこちら側の重傷者たちです」


 今も意識不明のレイを含め、元々教会にいた王国側の<マスター>は負傷者も多い。

 エフの攻撃によって部外者も含めた三つ巴に発展すれば、彼らのデスペナルティが懸念される。特にレイの脱落は皇国側の目論見通りだろう。


「……分かりました。彼らへの対応はお任せしますよ。私はあちらを」


 エフは部外者達のことをビースリーや<AETL連合>に委ね、自身はスプレンディダやジュバへの対抗手段を編むことにした。


(とは言ったものの、どう手を打つべきか。あのバリアは《グリント・パイル(上級職奥義)》でさえ揺るぎもしない。必殺スキルでも破れるかは不明、そして破ったところで致命傷になる公算は低い。……範囲攻撃力ではなく、貫通力で言うならば私よりも彼の特典武具の方が上)


 ジュバの【黄水晶】のバリア強度は異常だ。

 単純なエネルギーバリアに見えるが、集中砲火を受けても破れる様子がない。

 闘技場結界のソレを優に超えているだろう。


(<Infinite Dendrogram>は全体的に防御スキルの方がコストは安い傾向にあるが、それでも超級職奥義に匹敵するコストを払い続けなければああはならない。どこからMPを捻出しているのか……。それはスプレンディダにも言えること)


 スプレンディダもまた、【黄水晶】同様に集中砲火を浴びている。

 先刻の発言ゆえか、その火力の集中はむしろ彼の方が多い。

 しかし、全身を砕かれても再生し、どこ吹く風で笑みを浮かべている。


(噂通りの不死身ぶり。殺され続けても気にする様子がないことから、【殲滅王】のような回数式の蘇生ではない。同様にコアが別にあるタイプでもない。それならばかつて【獣王】がこの空間に閉じ込められた際、無差別に暴れ回る内に破壊しているはず。流石にこの空間の外にコアがあるパターンはない……はずだ)


 しかし、エフ自身が今も外に置いたゾディアックと視界を連結できているため、その可能性を完全には否定できない。

 だが、今はより可能性の高い仕組みの予想が出来る。


(十中八九、黄河の【龍帝】と同じく自己再生能力が極まっているタイプ。あちらはWEBに上がっていた決闘記録では全身燃焼や心臓摘出からも復活したが、スプレンディダはそれ以上。完全に肉体が消滅したHP0状態からでも肉体を修復できると言われている。恐らくは自己再生と【死兵】のコンボが、スプレンディダの再生の仕組み)


 細胞増殖どころか存在自体を復元してしまっているのは異常だが、徐々に体が再生していることからも自己再生の一種だろう。


(だが……再生の原動力は?)


 ジュバのバリアと同様、現象を引き起こすコストが必要であるが……それが分からない。

 MPやSPを消耗するありきたりな形であれば、あれだけの猛攻で既に尽きているはず。

 なぜなら、<超級>であってもスプレンディダ自身は合計レベル五〇〇の【猛毒術師】……カンスト勢に過ぎないのだから。


(何かでコストを支払っているはず。コストの正体が明らかにならなければ、スプレンディダは倒せない。そうでなければ、再生不可能なダメージを与えるしかないだろう。だが細胞に依存しない再生では、死蠍(スコーピオ)でも厳しいか)


 エフは己の対再生能力用召喚を思い浮かべたが、塵一つ残らない状態からでも復活するスプレンディダには効果が薄いと踏んだ。


(特定属性のみに弱い……というケースもなさそうだ)


 スプレンディダは王国勢からの集中攻撃を受けている。

 元より魔法職の耐久力しか持たない彼は、上級職の攻撃でも容易く体が砕けていた。

 エフのゾディアックが放つレーザーでも身体の表面を焼かれている。

 だが、そのいずれのダメージも瞬く間に回復しているのだ。


(ともあれ、攻撃を継続して探るしかないか。ゾディアックの光量チャージは問題ない。むしろ、この空間は外よりも陽光が強いほどだ。攻撃だけでなく、後々のために小細工(・・・)をする余裕もある。だが……)


 エフは気づかれないように自らは動かないまま、視界を担当するゾディアックを操作して頭上を見上げる。

 そこにあるのはこの空間の異常性の一つでもある太陽。外では既に陽が沈んでいるだろうに、あの太陽のお陰でこの空間は今も真昼よりもなお明るい。

 エフはこの隔離空間のギミックの一つと考えていたが……そこに違和感が生じる。


(口減らしを要求する隔離空間と、太陽)


 エフは、一つの特典武具のギミックとして疑問を抱いた。建築物も自然物もない平面の空間であるのに、太陽だけはしっかりと存在していることも含めて収まりが悪い。


(尽きないジュバのMP。スプレンディダの再生コスト。沈まない太陽)


 エフは頭の中で答えを組み上げていく。

 だが、確かな答えに至るまでにあと一つか二つ……情報が欠けている気がした。


 ◇◆


 エフが考察を重ね、スプレンディダへの攻撃を続行する中。


「三人しか生き残れないとはどういうことだ!」

「戦争ごっこならあんた達だけでしててよ! ただでさえマップに出れないのにさ!」

「ヒャッハー! ボーナスタイムに<墓標迷宮>で稼ごうにもトラブルだったしよー! あれもお前らのせいかよー!」


 王国勢の中で不満を口にする者達が現れていた。

 聖堂でスプレンディダが発動した《冷たい方程式》に巻き込まれ、ビースリー達や<AETL連合>と共にこの空間に送り込まれてしまった部外者達。

 その一部が特に強い不満を訴え、徐々にその意識が広まっているようだった。


「言わせておけば……!」

「よせ! 倒すべきはスプレンディダとジュバだ! 王国同士で争っても皇国を利するだけだぞ!」


 部外者達の言いように<AETL連合>の中でも怒りを抱く者が出始める。それをまだ冷静なメンバーが抑えている形だ。


「…………」


 空気が悪化していく<AETL連合>と部外者達。

 その中で、ビースリーはレイを護りながら……一つの確信を抱く。


(いますね、サクラ(・・・)


 部外者達の中に、不満と対立を煽るため予め指図されている者達がいる、と。


(スプレンディダ本人とジュバだけじゃない。王国勢と見せかけた……いえ、実際に王国所属でも寝返った<マスター>が含まれている。本当に巻き込まれただけの<マスター>と私達の対立を煽り、隙を見て(レイ)を仕留めるための要員)


 悪辣であるが、皇国らしい手口とも言える。

 かつてのギデオンでのテロでも、使い捨ての駒として金銭や立場で王国の<マスター>を寝返らせて用いていた。


(厄介なのは、サクラが囃し立てる言葉は本当に巻き込まれた部外者の本音(・・)でもあるということですね。デスペナやアイテムロストも覚悟で戦争参加しているランカー組と、三〇倍加速を楽しみたいカジュアル層の意識の違いはありますから)


 それは世界派と遊戯派とも違う枠組みだ。


(問題は、カジュアル層だから『弱い』わけではないということ)


 誰しもが<エンブリオ>を……自分だけのオンリーワンを持っている。

 ああして不満を抱く部外者の中に、ビースリー達を殺傷できる<エンブリオ>の持ち主がいないとも限らない。

 そしてサクラを断定して排しようと、それがきっかけで戦闘が発生するリスクは高い。

 現状、ビースリーやエフといった戦闘可能人員が十二名。レイを始めとする重傷者が七名。

 そして部外者が十四名。

 数の上では王国と皇国で三十三対二だが、実際は重傷者を除いた十二対十四対二。

 乱戦になってしまえば、不利とさえ言える。


(エフの言うように先手を打っての排除が次善。最善は彼らの中にこの状況を打破できる者がいることですが……)


 ここに放り込まれてからそれなりに時間は経っている。

 脱出やスプレンディダの撃破が可能な者がいれば、既にそれを実行しているだろう。


「……はぁ」


 ビースリーは息を吐き、警戒しながら王国勢に向けて言葉を発する。


「ひとまず落ち着いてください。この空間からの脱出手段は『数を減らす』以外にもあるかもしれません。仮にそれしかないのであれば、スプレンディダは『人数を十分の一にするしか脱出する手段はない』と明言し、《真偽判定》で確定情報にするでしょう」


 実際にスプレンディダが口にした内容は、『この場の人数が十分の一になればスキルは解除される』だ。他の手段がないとは言っていない。


「時間経過での解除やこの現象を引き起こしているモノの破壊でも脱出できる可能性はあります。そのためにまずは落ち着いて、情報共有と確認をしましょう」


 ビースリーの言葉に、部外者達も少し落ち着きを見せる。

 紛れたサクラも空気を読み、ここでの主張は一時止めたようだった。


「ビースリーさん、助かりました……」

「いえ、ですがこれは一時しのぎです。今の内に状況を好転させるものを見つけなければ、遠からず対立構造になるでしょう。あなた達も、第二の脱出手段を探してください」

「了解です!」


 話かけてきた<AETL連合>の<マスター>にそう告げて、ビースリーはレイを護りながら自身も脱出手段を考えることにした。

 レイは今も起きる様子もなく眠り続けていたが……。


「……よし、真っ二つ……両方再生……どっちが本物か分からない……。《看破》でも見えない……。プラナリアかよ……」

「どんな夢なんですか?」


 眠るレイのあまりに具体的な寝言に苦笑して、……ビースリーはそっと彼の髪を撫でた。


 ◇◆


 王国勢は仲間割れを一度控え、それぞれにこの空間の探索、及びスプレンディダやジュバへの攻撃に集中している。


「ンフフフ♪」


 スプレンディダはポーションを片手に、彼らの抵抗を笑顔で眺めていた。

 被弾しても構うことなく、他人の不幸は蜜の味とでも言いたげに。


無駄無駄無駄(ノンノンノン)君達(ヴォイ)じゃジュバ嬢の防御は破れないし、ミーも殺せない。君達がすべきは誰を生かすかを選ぶことですヨ。ほら、ミー達以外にあと一人生還できますし?」

「うるせえ!」


 王国勢を煽って顔面に火球を食らい、頭部が弾け飛ぶが……再生したスプレンディダの表情はやはり笑顔だった。


(他の脱出手段? 時間経過での解除? ええ、ええ。あります(・・・・)ねぇ)


 王国勢の足掻きを見ながら、スプレンディダは内心でビースリーの発言を肯定する。


(《冷たい方程式》はコストを消費して維持される仕様。起動コストで一万、維持コストで秒間一〇〇。ミーかパーティメンバーがコストとしてHP・MP・SPのいずれかを支払えなければ、その時点で解除される。ええ、そういう意味では彼女の発言は大正解)


 バトルロイヤル空間を形成しながら、使用者や仲間に三種いずれかのスリップダメージを要求しているようなもの。

 コストは誰の、何から支払うかはスプレンディダが選べても、自動的で加減はできない。

 決して自分が有利になる特典武具ではないというのに、コストは一方的な不利を強いる代物だ。


 ただし、それは使う人間がスプレンディダでなければの話。

 彼のHP回復速度は、秒間一〇〇〇ポイントを優に超える。コストを払い続けても、文字通り痛くも痒くもない。

 仮に攻撃され続けてHPを一〇〇以下にされたとしても、その間はMPを払えばいい。

 だからこそ【獣王】も脱出できず、スプレンディダ自身が特務兵団の失敗を悟り、SPを対象にして自らコスト不足に陥るまでこの空間から出られなかった。


 余談だが、その戦いの後に【獣王】がMPも攻撃可能な神話級特典武具【双月爪刻 クレッセント・グリッサンド】を入手したことで、もう【獣王】には《冷たい方程式》が通用しなくなってしまっている。


(しかしジュバ嬢がいる限り、ここにいる方々では絶対に破れませんねぇ)


 スプレンディダはチラリと、今もバリアを展開した【黄水晶】の中に引き籠っているジュバを見る。


(ミーのティル・ナ・ノーグと【ディバイダー】。そして、彼女のジョブとダジボーグ。果たして君達はこのコンボに気づくことができるでしょうかね?)

「――気づいても、どうしようもありはしませんが」


 無駄な抵抗を続ける者達を見て、スプレンディダは安全圏から嫌らしく微笑んだ。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<ダジボーグの欠点


(=ↀωↀ=)<名前検索すると今回の話とセットでコンボギミックが半分バレる



○《冷たい方程式》のコスト


(=ↀωↀ=)<軽く見えるとしたら恐らく《瘴焔姫》あたりの維持コストがべらぼうに高いせい


(=ↀωↀ=)<でもこれは本来なら『自分が有利にならない能力』でこのコストなのです


(=ↀωↀ=)<あと上級職一つあたりのHP・MP・SPって特化したもので一万くらいが関の山なので


(=ↀωↀ=)<カンスト特化型でも二万ちょっとしかない計算ですね(補正抜き)


(=ↀωↀ=)<つまりカンスト勢が使うと起動で半分消えて数分で枯渇する


(=ↀωↀ=)<すごいスピードで自動回復する奴でもなければね!


(=ↀωↀ=)<ちなみにこのコスト関連は「解除できる」とは違って


(=ↀωↀ=)<「支払えないから解除されちゃったヨ(棒)」って感じです


(=ↀωↀ=)<辛うじて嘘ではない系の《真偽判定》回避術



○追記


( ꒪|勅|꒪)<ところでカンストと言いつつ下級職計算に入れてねーゾ


(=ↀωↀ=)<……最近【死兵】とか『ステータス増えない下級職』ばかり扱ってたので素で忘れてました


(=ↀωↀ=)<下級もフル特化で埋めると三〇〇〇前後×六が加わるので四万弱です


(=ↀωↀ=)<それでも起動から五分くらい、他ステ込みでも七分かからず解けますが

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― 新着の感想 ―
[一言] クマにーさんの攻撃力が一般マスターにとってどれだけオーバーキルなのかわかりやすい。 触れれば消し飛ばせるクマにーさん!
[良い点] 天蓋と星が太陽を射つ!
[一言] ダジボーグ。wikiによれば富を与える太陽神。キツネーサンとは逆で昼を展開するテリトリーで能力はステータスの増幅とかかな?
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