挿話 友達
(=ↀωↀ=)<短めだけど前話とは別にしたかったので連続更新
(=ↀωↀ=)<本日二回目なのでまだの方は前話から
〇告知
(=ↀωↀ=)<クロレコ三巻は明日発売!
(=ↀωↀ=)<クロレコだからこそできる展開もまだまだあるので
(=ↀωↀ=)<応援よろしくお願いいたします!
□■地球・日本N県N市
今までも幾度か聞いたアナウンスが聞こえてヒカルの身体が砕け散った直後、彼女の意識はリアルへと引き戻された。
カーテンも閉ざした自宅の寝室、ベッドの上で彼女は目を覚ます。
「……っ」
額や頸筋には、暑さによるものではない汗が流れていた。
戦闘の最中の、デスペナルティ。
ヒカルの思考は、友人達の安否に占められる。
あの後、友人達はどうなってしまったのか。
地下にいる二人はともかく、地上にいたラージとヴィトーは……。
言葉にできない不安が、彼女の中で首をもたげる。
「ログイン、は……!」
藁にすがる思いでハードを手にしても、ハードの側面のディスプレイには再ログイン可能となるまでの時間が表示されるだけだ。
脳波による本人認証であるため、ハードを変えても意味がない。
リアルでは会えない友人達の安否をヒカルが知ることができるのは、リアルでの明日だ。
「…………ッ」
だが、そのときにはもう誰も残っていないかもしれない。
二度と言葉を交わすことができないかもしれない。
<Infinite Dendrogram>を始めるまでに抱き続けた恐怖が、再び彼女を苛んでいた。
「……?」
不意に、点滅する光が目に入った。
それは<Infinite Dendrogram>のハードではなく、彼女の携帯端末だ。
自分達の今後に関わる大事な戦いであったために、着信通知との連動機能は切っていた。
携帯端末の画面のロックを解除すると、短時間で何件もの着信が入っていた。
最初の着信は10分ほど前。
だが、その時間は……三〇倍加速中の<Infinite Dendrogram>では意味が異なる。
換算すれば、それはちょうど<墓標迷宮>での戦闘を終えた頃……メロが死んだ頃だった。
電話の発信元は――病院。
友人達がずっと眠り続けている……病院だった。
「…………」
それがどちらの電話であるかを、確認するのが彼女は怖かった。
しかしそうする間に病院から再度の着信があり、彼女の指は通話を押していた。
間もなく、彼女は家を飛び出した。
◇
ヒカルは自ら車を運転して、県内の病院に到着した。
幾度となく通った病院の中を、いつもとは違う病室へと歩く。
心臓は脈打ち、顔には先刻の戦い以上の緊張がある。
そうして彼女はある病室の扉を開けて……。
「そっ、よか、たぁ……」
そうして、彼女は友の声を聴いた。
痩せた女性だった。
筋肉が衰え、細まり、自力でベッドから体を起こすこともできない。
十年以上も眠っていたことによる、身体の衰弱。
喉もずっと使っていなかったために強張り、声は震え、聞こえにくい部分もある。
けれど、病室に駆けつけたヒカルが見た彼女は、笑顔だった。
その笑顔は、とても懐かしく……けれど二度とこちらでは見れないと思っていたもの。
「メロ……」
子供のころと変わらない、彼女の……甜瓜の笑顔だった。
ヒカルがログイン中に病院から届いたのは、彼女が目を覚ましたという報せだった。
彼女だけではない。
ログアウト後の連絡で、ラージ……大も目を覚ましたと伝えられた。
ずっと眠り続けていた友人達が、立て続けに。
そのことと<Infinite Dendrogram>を繋げて考える余裕は、今の彼女にはない。
今の彼女はその奇跡に……目からは涙をこぼし続けていた。
溢れる感情が何であるかも、今は判別がつかない。
目覚めたことへの喜びか。
再び言葉を交わせることへの安堵か。
失われた時間を話すことへの躊躇いか。
あるいは……彼女が眠る間に子供から大人に変わった自分を見せる不安か。
「あっ……」
ヒカルがただ涙を流して立ち尽くす内に、甜瓜が彼女に気づいた。
そうして、涙するヒカルと笑顔の甜瓜が向かい合う。
「……っ……」
何を言えばいいか、分からないまま、ヒカルは歩み寄る。
細い細い甜瓜の手を、ヒカルは自らの震える手でとった。
そうして……。
「……良かった……!」
ヒカルの口からようやく発せられた言葉は、それ一つ。
今は本当に心の底から、その言葉しか出てこなかった。
自分の手を取る彼女の姿を見上げながら、ヒカルは……笑顔を浮かべる。
「ぅん、ぁりがとぅ、ヒカルちゃ」
最後に会った頃から倍も年をとった彼女を、甜瓜は穏やかな笑みで労った。
甜瓜は、最初からヒカルがヒカルだと分かっていた。
自分達のためにずっと頑張ってきた友達のことを、彼女はちゃんとわかっていた。
そうして、ヒカルも泣いたまま……笑った。
◇
そんな二人を、同じ病室の奥から大が見ていた。
彼は思う。
自分達は大丈夫だ、と。
未だ妹を含めた三人は目覚めていない。
意識を失ったままであれば、デスペナルティ後の再ログインの可否もまだ不明だ。
あるいは、より大きな困難が彼らを阻むかもしれない。
それでも、友人達とならばそれを乗り越えて、いつかはこちら側で全員が笑い合えるはずだと彼は信じた。
彼の、涙で滲む視界が見せる奇跡は……未来を信じさせるには十分だった。
To be continued
(=ↀωↀ=)<“不退転”視点だと第一部完からの第二部突入
〇覚醒
(=ↀωↀ=)<デスペナ=目覚め、ではない
(=ↀωↀ=)<むしろデスペナ直前の心理状態が理由
(=ↀωↀ=)<メロにしてもラージにしても精神が大きく揺さぶられた状態でのデスペナにより
(=ↀωↀ=)<脳が体を起こすきっかけになった
(=ↀωↀ=)<近いのは六章前半でのプロポーズ後フィガロ(心臓発作)
〇告知
(=ↀωↀ=)<商業作業と書き溜めするべく一時休載に入りますー
(=ↀωↀ=)<休載期間は現時点では未定ですが
(=ↀωↀ=)<再開はブックマークの更新通知ONにしていただければすぐ伝わると思います




