第五十三話 魔弾
(=ↀωↀ=)<休む気でした
( ꒪|勅|꒪)<今年何回目だヨ
(=ↀωↀ=)<書くテンションになっちゃったから
(=ↀωↀ=)<発売中の14巻の宣伝も兼ねて更新です
(=ↀωↀ=)<ツイッターキャンペーンも実施中ですよ!
(=ↀωↀ=)<ちなみにこの話を書き終わった後は徹夜でプラモ作ってました
(=ↀωↀ=)<なおゾック
( ꒪|勅|꒪)<なぜゾック
(=ↀωↀ=)<ちゃんと表裏両面にモノアイが移動するの好きです
追記:
(=ↀωↀ=)<あれが効かない理由を分かりやすくするために文章追加
■???
彼の鼓膜の内側で声がする。
――役立たず。
彼を責める声がある。
――護ると言いながら誰も護れなかった。
誰かから投げかけられる言葉ではなく。
――この手と力は何のためにあったんだ。
他ならぬ、彼の心が生む幻聴。
――みんなが死んだ原因もお前じゃないのか。
何も見えない目があって、誰にも届かない手があって、彼を責める耳がある。
彼自身は既に彼の味方ではなく、彼の味方……友人も一人として残っていない。
だから彼は……数年ぶりに独りになった。
「――――」
だからもう、彼に言葉は要らない。
敵に悪態をつく必要はなく、友達に強がる必要さえない。
絶叫する必要も、心の動きもなく。
今の彼はただ……すべきことのために手を動かしていた。
何のためにそうするのかも、白紙化した思考の中にはない。
◇◆◇
□■アルター王国北西部・森林
――霞が死んだ。
言葉もないまま、彼女は死んだ。
自らの<エンブリオ>で地下の二人を倒し、緊張が少しだけ解れた笑顔をルークに向けた瞬間に。
この世界から、跡形もなく消えた。
――ふじのんが死んだ。
何も分からないまま、彼女は首だけになった。
彼女もまた自らの仕事をやり遂げて息を吐き、しかし振り向いた場所にいるはずの霞がいない。
それを不思議に思った次の瞬間に。
この世界から、首から下が消えた。
――イオが死んだ。
彼女には、見えていた。
自分の友人二人を倒したソレが見えていて、怒りと恐怖で刃を振るう。
防御スキルを破る必殺スキルの刃を叩きつけた瞬間に。
この世界から、武器ごと抉り消された。
――マリリンが致命傷を受けた。
壁役を務めていたマリリン。
その体に人間サイズの――人間の形の穴が空いていた。
咄嗟にマリリンを庇おうとしたネメシスの《カウンター・アブソープション》が、音もなく破られた瞬間に。
穴の形に内臓と骨格を消されて、血を吐いた。
直後、彼女は【ジュエル】の中に引き戻された。
――ネメシスが死にかけた。
マリリンを貫通したソレは、軌道を曲げて傍にいたネメシスを狙う。
《カウンター・アブソープション》では防げないソレの接近を、ネメシスは回避しきれず。
「変わってー!」
耳元で聞こえた声に従って、その身を大剣へと変化させた。
そして彼女の刃の一部を抉りながらソレが過ぎ去った直後、見えない何か――ルークの指示で《透明化》したバビが抱えてその場から退散した。
バビが逃げながら目くらましも兼ねて火球を放つも、炎はオーロラに呑まれて消えた。
ネメシスとバビを見失ったソレは、次の目標に向かった。
――ルークが左手を失った。
自分の眼前で三人を殺し、一体に致命的な傷を与えたソレ。
ルークの目で辛うじて追えるソレは、超音速機動で彼に迫った。
ルークはソレを回避しようとした。
ソレが一種の体当たりで三人を殺したのが見えていたから。
オーロラの如き光を纏うソレに触れてはいけないと、一瞬で理解できたから。
だが、リズの回避機動で逃れようとしたルークをソレは執拗に追う。
そうして追いつかれた瞬間に。
左手がオーロラに触れて消し飛ばされた。
「……ッ!」
紋章は無事な部位に移ったが、左手の【断詠手套】は消し飛んだ。
しかしリズがルーク自身もダメージを受けるほどの高速移動を実行しなければ、全身がそうなっていた。『右手……従魔の収まった【ジュエル】ではないだけ良かった』と考える暇もない。
左手から滝のように流れ落ちる血を、リズで強引に止血する。
(…………こうなりますか)
瞬く間に、彼以外は全滅した。
完全に盤面をひっくり返された現状、ルークは自分の表情がどうなっているかも分からない。
それでも、戦いはまだ終わっていない。
『――――』
ルークを過ぎ去ったソレは音もなく反転し、再び迫ってくる。
一度遠ざかったことで、ソレの形がハッキリと分かる。
ソレは人型をしていた。
オーロラの光が人間の表面に張り付いたようなシルエット。
しかし光に目を凝らして見える凹凸は少しだけ人間からズレていた。
まるで、パワードスーツか何かのように。
(この敵は……彼の力か)
ルークの加速する思考が、眼前の脅威を分析する。
ルークから見て、ソレの可能性は二つ。
“不退転”のイゴーロナクの切り札か、この戦場を監視していたという正体不明の存在。
そして、前者であると理解する。
なぜなら、ルークの視界の端で……ヴィトーが動いている。
しかし、彼の姿は異常だった。
身に纏っていたパワードスーツを脱ぎ捨て、両眼を忙しなく動かし、それよりも激しく両手の指を複雑に折り曲げている。
オーロラを纏うソレを、ヴィトーが動かしているのは明白だった。
「…………」
だが、思考は読めない。
否、今のヴィトーは思考していない。
何も考えないまま、無念無想で、ルーク達を全滅させんとしていた。
(追い詰め過ぎた)
今回の戦闘は、ほぼルークの想定内で推移した。
ターゲットの討伐も含め、既に勝っていると言っていい。
そして……勝ちすぎたのだ。
ルークは<墓標迷宮>とこの場での戦闘、言動から推理して、容易く感情を発露するヴィトーを最も与しやすい相手と判断した。
しかし、自身以外の一切を失ったがために……ヴィトーが変貌した。
異常な切り札を使いながら、これまでの戦闘で彼にあった無駄が一切ない。
驕らない。迷わない。何もない。
周辺の情報を受け取り、ほぼ反射でオーロラを纏う機体の遠隔操作を実行している。
ヴィトーは元々他者の視界、セカンドパーソンシューティングとも言うべき状態でイゴーロナクを動かし続けた異才の持主。
考えて動かすのではなく、映像から受け取った不安定な情報で動かしてきた男。
今の彼は自身の五感で情報を得ながら、ロスとなる自身の感情を排して操縦している。
いや、感情があれば心が壊れてしまうからこそ……自己防衛と最優先すべき行動が合わさった結果が今か。
しかしそれはルークに対しての最適解だ。
今の彼はルークに決して読めない存在になった。
仲間の死に怒り悲しみ、それを言動に表すならばいくらでも手の打ちようはあった。
会話を通して隙を作り、あるいは罠に嵌めることも可能だった。
だが、今のヴィトーはそうではない。
彼の喪失があまりに大きかったがゆえに、もはや言葉を交わすこともない。
目に映る敵を抹殺することしか見えない機械と化したのだ。
ルークにはもう、ヴィトーの打つ手が読めない。
それでも、推理は止めない。
自分も含めたこれまでのダメージ痕を思い出し、高速で思考を重ねる。
(三人とも【ブローチ】は発動しなかった。ネメシスさんのスキルも無効化された。これらのことから、前提としてイオさんの必殺スキルと同じく防御スキル無視か、それ以上の性質を持つ)
自らの被弾時の感覚も思い出しながら、攻撃の正体を探る。
(熱はない。物理的な衝撃もない。固定ダメージのようだけど、違う。拡散しない。本当に触れた部分が、触れた形に抉られる。触れた部位だけを持っていかれた。……持っていかれた?)
ルークは自らの思考に混ざった――自らの直感の声に耳を傾ける。
「…………」
自らを追うソレから必死に距離を取りながら、その言葉が訴えかけるニュアンスに思考を回す。
飛翔するソレは、掠めた地面に痕跡を作り、ルークとの間にある木々を自分の形に消し飛ばしながら一直線にルークへと向かう。
そうしてできた移動の痕跡……断面には何らかのエネルギーを受けたようなダメージ痕がない。
ルークの傷口と違い出血もないのでよく分かるが、本当に触れた部分だけがなくなっている。破壊されたのではなく……まるでどこかに消えてしまったかのように。
まるでどこかに――飛ばされたかのように。
(転移?)
自らの頭の中で推理を組み立てたルークは、自分達がこの追撃を実行した理由でもある事象を連想した。
そしてそれは……正解だった。
◆◆◆
■決戦兵器について
決戦兵器五号、【ベルドリオン】。
かつて三強時代に<遺跡>内部から出現し、【覇王】ロクフェル・アドラスターと交戦した巨大な人型兵器。
その固有能力の銘は、《デルヴァスター》。
【ベルドリオン】の両手で触れたモノを、接触面から分子単位で亜空間に飛ばす超攻性防御機構であった。
両手に触れたものは、敵の身体でも攻撃でも構わず、強度はおろか実体非実体さえも関係なく亜空間に削り飛ばされる。
バリアの類など意味をなさず、【ブローチ】も接触面が端から少しずつ削り飛ばされる超速連続攻撃であるために発動しても意味がない。
何者にも干渉されず、一方的に滅ぼす。
最強の盾にして最強の矛。
仮に【グローリア】と相対していれば《終極》さえも防ぎ、その存在を抉り殺していただろうと九代目のフラグマンが考える程の超兵器だった。
【覇王】に敗れはしたが、その格は【アクラ・ヴァスター】に劣るものではない。
だが、基礎設計をした初代フラグマンから見ればこの【ベルドリオン】は本来の仕様とは程遠かった。
最初、フラグマンはこの機能を人間サイズの機体に持たせるつもりだったのだ。
《デルヴァスター》の展開範囲は両手ではなく、表面装甲全体に施す。
圧倒的な攻防性能を持つがゆえにサイズは問題ではなく、むしろ高速で敵の機能中枢に飛び込み、殺傷するための機能だからだ。
だが、フラグマンといえども、この超兵器を動かすだけの超大出力動力炉を人間サイズに収めることはできなかった。
ゆえに動力炉は最初から欠損しており、外部充填で短時間稼働するバッテリーのみを実装した。
その短時間の稼動でも優に超級職一〇〇人分以上の魔力が必要となる上、チャージにも時間がかかる。
エネルギー以外にも、問題がある。
本当に表面装甲全体に《デルヴァスター》を展開した場合、周囲の光や音も含めた全てを亜空間に転送してしまうため、【ベルドリオン】の人工知能は外部状況を判断できない。
外部から操作する際も同様だ。魔力でも電波でも、《デルヴァスター》に吸われてしまう。
そうした当時解決不能の問題点からフラグマンは完成を一時諦め、試作機を研究施設に安置した。
試作機の頓挫後、自動で決戦兵器を開発するプラントがこの機体をベースに再設計したモノが決戦兵器五号【ベルドリオン】と呼ばれたモノである。
機体を動力炉が搭載できるだけ大型化し、本体の内部構造の大部分を大出力動力炉が専有した。
しかし大型化した機体の全面で《デルヴァスター》を使用することは出力的にできず、外部把握ができない問題も解決しなかった。
それゆえに展開箇所を両手に限定したのである。
エネルギー面とコントロール面を解決する苦肉の策とも言えた。
結果として無敵にはならず……【覇王】に破壊された。
そうして、決戦兵器五号は歴史にさほどの影響を与えなかった。
◆
そして現在、【ベルドリオンF】と名付けられたものこそが、先にフラグマンによって開発された試作機だ。
皇国内の<遺跡>で発見された機体を、【機械王】ラインハルトが調査した。
ラインハルトは<遺跡>の記録と文献で得た【覇王】との戦いの逸話から、これを【ベルドリオン】の試作機と知った。
経年劣化による欠損部分を、<遺跡>内のデータを基に再設計・レストアした。
結果としてエネルギー効率はやや悪化したものの、性能は本来のモノと同等に達した。
そしてラインハルトはレストアした機体を、ある意図によって“不退転”のイゴーロナクに預けたのである。
意図とは別に、彼らならば運用できるという算段もあった。
魔法超級職の三〇〇倍の魔力を持つヒカル。
電波でも魔力でもなく、完全に空間として隔離された<墓標迷宮>の内外を隔ててもなお遠隔操作ができるヴィトー。
この二人がいれば、試作機は動く。
否、充填さえ済んでいれば、ヴィトーだけでもこれを扱える。
ゆえに現状は……ラインハルトの想定内とも言えた。
◆
余談だが、決戦兵器の銘には意味がある。
かつてレイ・スターリングとアルティミア・A・アルターが倒した二体一対の決戦兵器。
それらには、先々期文明の古語で銘がつけられていた。
【アクラ】は『殻』、【ヴァスター】は『空』。
そして【ベルドリオン】は、『王殺し』という意味の言葉だ。
最も巨大にして強固な“化身”を殺すためにつけられた機能と銘である。
では、それをレストアしたラインハルトの付け足した【F】とは何か。
それは先々期文明の古語ではない。
主人格であるクラウディアが親友のベヘモットから聞いた、地球のとある物語から付け足した名前だ。
放たれれば狙い通りにターゲットを撃ち抜き、やがて破滅を呼ぶ悪魔の弾丸。
その物語の名は、Der Freischütz。
即ち、『魔弾の射手』。
【魔弾王】ヒカルに、そして彼らの運命に準えて……ラインハルトは銘を付け足した。
ゆえに彼の兵器の銘は――真決戦兵器五号【ベルドリオンF】。
◆
かくして、王殺しの魔弾は飛翔する。
怨敵の命を……【魔王】の命を確実に奪うために。
To be continued
〇【ベルドリオン】
(=ↀωↀ=)<対バンダースナッチ用決戦兵器
(=ↀωↀ=)<硬い・デカい・強いで通常の攻撃手段効かない奴なので
(=ↀωↀ=)<強度無視でコアまで突っ込める【ベルドリオン】が開発された
(=ↀωↀ=)<まぁ、完成しなかったけど




