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第五十一話 【絶影】VS【魔弾王】 後編

(=ↀωↀ=)<告知ー


(=ↀωↀ=)<10月1日に14巻発売


(=ↀωↀ=)<今回の挿絵は<デスピリ>というかレイ君パーティ勢揃い


(=ↀωↀ=)<店舗特典SSはこんな感じです


とらのあな様:Before怪獣女王(下級の頃のレヴィアタンの話)

メロンブックス様:Before物理最強(【獣王】とる前のベヘモットとクラウディアの話)

BookWalker様:殺人機械という名の男(特務兵団の話)


(=ↀωↀ=)<あとツイッターキャンペーンは今回もFGログですが


(=ↀωↀ=)<新規で大きめの情報出してます


(=ↀωↀ=)<そして今月発売のアライブからクロウレコード新章開始


(=ↀωↀ=)<内容は見てのお楽しみコメディ中編です


(=ↀωↀ=)<時期はガイリュウオウ事件の翌日でまだ三月


( ꒪|勅|꒪)<エイプリルフールイベント編は?


(=ↀωↀ=)<プロット時点でガイリュウオウ編より長い二~三巻分になってるので


(=ↀωↀ=)<そこまで巻数出せるだけの安心感(意訳)ないとダメって言われました


(=ↀωↀ=)<原作だけでなくクロレコもよろしくね!


(=ↀωↀ=)<来月発売の書下ろし短編&カバー裏漫画付き三巻(と既刊)とか!(切実)

 □■アルター王国北西部・森林


「……フゥ」


 森の中……爆発に巻き込まれたと思われたマリーは、九死に一生を得たという風に息を吐いた。

 彼女は両目を閉じており、モクモクレンの視界ジャックによる位置把握を避けている。


(……危うく今までで一番マヌケなデスペナをするところでしたよ)


 爆発に巻き込まれた瞬間、ダメージ量ゆえに即座に【ブローチ】が機能して大したダメージもなく生存できた。

 しかしその代償は大きく、致命ダメージを防ぐ【ブローチ】は砕け散った。

 何より切り札の一つであるデイジーが不発同然で終わり、コストによって爆裂弾と誘導弾が使用不可能に陥ったのである。


(……あんまりにもあんまりすぎて《消ノ術》の発動間に合いませんでしたねー)


 想定外のカウンターでデイジーが死んだことか、あるいはその死にざまがかつての自著を連想させたがゆえか。彼女は《消ノ術》の使用が間に合わなかった。

 お陰で、元より不利だった状況が【ブローチ】分だけ悪化したとも言える。

 だが……


(魔弾の仕様、なんとなく掴めましたね)


 この最悪の結果の中には、相手の正体への手がかりもあった。


(目も耳も鼻もない弾丸。気配を遮断していた私への誘導。そして、遠距離狙撃で本体である私ではなく、発射直後のデイジーを狙ったこと。ここから察するに……)


 これまでに見てきた魔弾の動きを基に、マリーは……一宮渚は自分の知識にある定番(・・)の性質に結び付ける。


(――熱源探知)

 魔弾は、単純に熱量へと向かっているのだと。


(サーモグラフィーだかピット器官だかの性質を付与して、熱を持つ物体に飛ぶ。木々に突っ込んでいないから、温度のハードルはある。それに接近してくるモノや高温のモノを優先している。だからアルカンシェルやデイジーが先に撃たれた)


 ヒカル自身の探知能力を上回る動きを見せた弾丸の動きを、思い出してそう結論付ける。

 また、マリーに反応できたのも道理だ。気配を消そうと熱量は消えない。

 《消ノ術》ならばまだしも、《隠形ノ術》では探知から逃れられない。

 最初の三重狙撃の後、単発の狙撃でオードリーが撃たれたがそれもヒカルによるものだったのだろうとマリーは考える。

 火属性の怪鳥であるオードリーならば誘導も容易かったはずだ。


(多分、オートで動く魔弾はそこまで賢くないんでしょうねー。目も耳も鼻もなく、それを処理する頭脳もない。ドローンではなく、熱源に吸い寄せられるだけの代物。敵味方の識別もできないから、今は他の仲間と距離を取っている。バルバロイ(彼女)から聞いた<墓標迷宮>の戦闘でも同じ。噂のゲート越しに援護射撃しようとしても、きっとガトリング砲やチェンソーの排熱で味方のパワードスーツに当たるから使えなかった)


 ヴィトーがメロを助けようとしたときも同様だ。

 ルークの体温次第で、メロやコクピットの仲間に当たる。

 だから、ヒカルは<墓標迷宮>で一度も援護射撃をしていなかったのだ。


(彼女自身は体表温度を下げる装備でも着けているのか、それとも流石に彼女だけは避けるようになっているのか。けど、そうなると魔弾を撃つ銃自体も発砲時に生じた熱で……いや、魔弾として機能するのは発砲した後でしたね。ならば銃自体をオーダーメイドで温度変化を極力抑えたカスタム銃にすれば……うん?)


 銃器のカスタムは<Infinite Dendrogram>では珍しくない。

 特に、連射時のブレや故障を抑える温度変化抑制はメジャーな改造の一つでもある。

 だが……。


(そうなると銃自体は火薬式ってことですかね?)


 今現在、<Infinite Dendrogram>で魔力式銃器を作成する生産職はロストジョブになっている。

 【カタログ】でも、まだ魔力式銃器生産職が解禁されたという話は聞かない。

 魔力式大砲ならば職人も存在するが、散弾銃もライフルも大砲ではない。

 今存在する銃器を生産できるジョブは……火薬式だけだ。


「ッ……」


 マリーは自分の肩の傷……先刻魔弾が命中した箇所に指を突っ込み、体内の弾丸を取り出す。

 取り出した散弾の粒も、今は込められた魔力が消え……ただの金属だった。


(魔力式銃器を運用するジョブは弾道を曲げますが、火薬式銃器でそれはできない。だからあれは完全に魔弾自体の性質……。魔弾自体が追尾能力を付与されたミサイルに近くて、銃器はただの発射台。極論、彼女も引鉄を引くだけの人で……ああ、そっかー)


 そこまで考えて、マリーは更なる事実に気づく。


(彼女、<超級>で超級職ですが――生産職(・・・)なんですね)


 ジェム貯蔵連打理論に近いと、マリーは察した。

 ヒカル自身は魔弾を作る生産職であり、直接戦闘力はないのだと。

 魔弾の作成。ロストした魔力式銃器の生産職に片足を突っ込んで、マリー自身も寡聞にして知らないジョブ。

 だからマリーも最初は同様の名前の【魔砲王】に近い戦闘職だと考えていたが、剣呑な名に似合わず生産職だったのだ。

 そう考える根拠はもう一つある。


(ずっとこっちを見なかったのはルークきゅん達を逃がさないため……そして、AGI型超級職を『視線ですら追えない』のを悟られないため。戦闘速度がまるで追いつかないことを隠すためですね)


 予め魔弾を作成し、戦闘中は引鉄だけ引いて魔弾任せ。

 それがあのヒカルという<超級>の戦闘スタイルの正体だ。

 マリーを相手に余裕を持っていた態度も、一種のブラフ。

 弱点を隠し、強く、無敵に見せる。

 奇しくもと言うべきか、当然と言うべきか……“不退転”のイゴーロナクの戦闘スタイルと同じである。


(けど、彼女自身の戦闘速度がこっちより遥かに遅くても、魔弾は届く。どう攻略するか、時間もありませんし……)


 逃れてから実時間はほとんど経っていない。

 AGIによる戦闘速度の差――戦闘時の思考速度の差も考えればまだ大丈夫だろうが、マリーが奇襲を仕掛けた時点で随分とチャージは進んでいたようだった。


(熱源探知の仕様からすると、あの右手の魔銃も熱や光の類じゃありませんね。もしかすると固定ダメージの魔銃とか? それならリズや実体のないタルラーちゃんにも効果覿面ですからねー)


 <墓標迷宮>で散々ルークが敵をかき回したとはマリーも聞いている。

 ここで手を打ってくるなら、ルークの防御手段も加味したものになるだろう。


(考えるべきは二つ。どうやって魔弾の防空圏にいる彼女にこっちの攻撃を届かせるか、そしてこっちがやられる前に相手の魔銃を封じるか。……彼女も倒したいですけど、【ブローチ】ありますしねー)


 今は、火力に秀でる爆裂弾と射程に秀でる誘導弾のどちらもが使用不能。

 必殺弾も現在用意している三色使用は、黒と赤が封じられたので使えない。

 撃てる必殺弾は緑+銀の“貫殺”のウルベティア、青+白の“毒殺”の白姫御前。


(ウルベティアは射程距離が短いし、突っ込むだけだから魔弾で蜂の巣。白姫は風向き次第で魔弾の外から毒が届きますけど、無生物の魔弾には効果がない上に彼女本人にも【快癒万能霊薬】一つで無力化される)


 単体への攻撃力ならばデイジーを上回るウルベティア。

 広域にデバフを含んだ病毒系状態異常を散布する白姫御前。

 そのどちらも、現状にはそぐわない。


(……極論、魔弾の防空圏の突破だけならできる。半径二〇〇メートル、《消ノ術》と超音速機動の組み合わせなら一秒足らずで辿り着ける)


 問題はその後だと、マリーは考える。


(こっちの攻撃を当てるために実体化した瞬間に、魔弾が殺到する。こっちと魔弾の速度はほぼ等価。彼女を一発撃つなり斬るなりする間に、蜂の巣。それじゃ意味がない)


 相手には【ブローチ】があるため、ウルベティアの直撃でも無効化される。

 銃器にしても、修復可能なダメージならばパラノイアの刻印で復元してしまうだろう。

 跡形もなく焼き尽くすデイジーの火力は既にないのだ。


(熱源探知じゃ【朧邪魔】の索敵スキル無効も通じないし、身体を冷やす都合のいい装備やアイテムは持ってない。【痺蜂剣】の遅効性麻痺狙いもー……時間的にも厳しいなー。攻め手はどう考えても時間が足りない。おまけにタイムリミットも迫ってる……)


 マリーが打てる手は、一手のみ。

 その一手で【ブローチ】を装備したヒカルの撃破、修復能力のある魔銃の破壊、このいずれかを達成して砲撃を阻止しなければならない。


(これじゃ手の打ちようも…………いや?)


 そこまで考え、マリーは一つの策を思いついた。

 はたして本当に、選択肢はこの二つだけなのか、と。


(もしも相手の魔銃が推測しているとおりの代物なら……)


 マリーはとある妙案を思いついて……顔を引きつらせた。


「感化されてるなぁ……」


 自分の属するクランのオーナー……彼がログインした初期から見てきた<マスター>を思い出し、マリーは苦笑しながらため息を吐いた。


 だが、それしかないと判断して、最後の攻防に向かった。


 ◆◆◆


 □■アルター王国北西部・丘


「……?」


 遙か後方から聞こえてきた爆音と、背を揺らす爆風の余波をヒカルは疑問に思う。

 散弾の手応えがなく、射程外に逃れたと思われるマリーを仕留めるため、左手の武器をライフルに《瞬間装備》で切り替えた。

 長距離の魔弾で牽制する心算だったが、なぜこんな爆発が起きたのかはヒカルにも不明だった。

 振り返って確かめたい気持ちを抑え込み、視線をルーク達の囲いにのみ向ける。

 念のために後方へと数発撃つが、反応がない。


(ライフル弾の有効射角から外れたか、あるいは既に死んでいるのか)


 滞空して全周を索敵可能な散弾型と違い、ライフル弾型の魔弾は追尾可能な範囲を発射方向に制限している。

 理由は射程が長すぎるために、全周索敵にすると最悪ヴィトーやラージを撃ち抜くためだ。

 代わりに射程距離と威力、弾速で勝る。


「もうすぐ、終わる」


 右手の魔力式銃器――固定ダメージ型魔銃【命削り(スラッシャー)】のチャージは既に九割方完了。

 固定ダメージゆえに変換効率が悪く、魔力充填もケリドウェンではなく銃把から正規の方法で注ぐ必要があったために時間が掛かったが、威力は十二分。

 防御困難の固定ダメージ砲弾。《カウンター・アブソープション》でも決して吸いきれず、着弾箇所から伝播してあの場にいる全員に致死ダメージを流すことが可能。

 あるいはもっと早く、<墓標迷宮>でこれを使えばよかったのかもしれない。

 だが、固定ダメージ弾であるがゆえに、ほんの僅かなミスで自爆しかねない。

 もしも発射時にブレて【紅水晶】のコクピットに掠りでもすれば、仲間達の【ブローチ】と【紅水晶】を破壊し、仲間達は土中で生き埋めになって死ぬことになる。

 全員デスペナルティの引鉄を彼女が引くことになる最悪の可能性が、一%でもあるならば彼女にはとても実行できなかった。

 今は、仲間と離れて単身だからこそ扱えるのだ。


「これで……後顧の憂いを断つ」


 彼女が【命削り】を手にそう呟いたとき、


「――ボクの仲間を後顧の憂い呼ばわりしないでもらえますー?」

 ――そんな言葉がヒカルの背にかけられた。


「…………」

「あー、良かった良かった。まだ撃ってませんでしたねー。いやー、爆発の後に結構考え込んでたからちょっぴり駄目かと思ってましたよー。でも、時計見たら最初の狙撃から五分くらいしか経ってませんねー。AGI高いと時間間隔狂います」


 それは先刻も相対した敵であるマリーの声。

 しかし、今回は……魔弾が反応していない。

 今も散弾型の魔弾が数百発、周囲に滞空しているが……いずれも声の主に向かう気配がない。

 その一事でヒカルは察する。


「……幻術か?」


 ヒカルが考えたのは【幻術師】と呼ばれるジョブのスキルだ。

 実体のないホログラムや音を発生させることが可能なものだが……。


(<超級殺し>の超級職は【絶影】。天地(あの国)の忍者……隠密系統の超級職。親和性の高さでサブに置いた【幻術師】のスキルを使えているのか。それとも似通った忍者系統のスキルか)


 マリーは元より、実体を持って言葉を話す影分身を運用している。

 今はそれから実体が消えたダウングレード版と言えるが……。


「実体がなければ探知もされない、か。それとも、これは魔弾が音や光に反応するか見るための牽制か?」


 あるいは魔弾の攻略手段がないための……苦し紛れの場外戦術の一種か。


「いえ、そういう意図では全然ないですよー? もう熱源探知って分かってますし?」

「…………」


 ヒカルは相手が既に魔弾の秘密を見抜いたのか、カマをかけられただけなのかは分からなかったが、内心の動揺を表に出さないように努めた。


「この分身ちゃんはあなたと話すために出したんですよ。魔弾にたかられちゃ落ち着いて声も掛けられません」

「話すことなど何もないが?」

「こっちから質問したいだけなので。……でまぁ、早速聞きますけど」


 マリーの分身は普段の彼女らしくヘラヘラと笑っていた顔を、真剣なものに変えて問いかける。


「――――貴女、仲間をお荷物だと思ってません?」

「――――ハ?」


 マリーの質問は、ヒカルの想定にないものだった。


 考えたこともない――考えるべきでない――質問だった。


 あまりにも見当違い過ぎて、ヒカルはマリーに振り向いていた。


「それは、どういう意味だ?」

「だってそうじゃないですかー。貴女が<超級>。貴女が“不退転”のイゴーロナクの全魔力担当。貴女がいなければ、パーティが成立しない」


 それは<墓標迷宮>での初戦後、クランが集まったときにルークから聞いていた推測を交えたモノ。

 『MP特化型の<超級>が、メンバーにMPを貸し与えている。それが“不退転”のイゴーロナクの根幹だ』と、既に読んでいたルークからの受け売りだ。


「長距離転移も、装備復活も、魔力式武器に掛かる魔力も全部貴女のお陰。仲間の面倒を見てばかり。なーんかお金持ちの友達にたかる小学生みたいなパーティですよねー」

「…………」


 その言葉に、ヒカルは怒りのあまりに言葉を失う。

 ずっと昔に、周囲から似たような言葉を吐きかけられたことはあった。

 実際、かつてのヒカルと友人達はそう見えることもあっただろう。

 それでも、今もそうだと言われたことに……言い知れぬ不快感を覚えた。


「そんなにひっついてやってたら窮屈なんじゃないですか? 離れてみることもオススメしますよ。仲間も貴女がいなければ生きられない(・・・・・・)訳じゃありませんし」


「――――」

 しかし続くその言葉は――不快感を凌駕していた。


 ◆


 ――貴女がいなければ生きられない訳じゃありません。


 否、友人達は彼女がいなければ生きられない(・・・・・・)

 かつて子供だったあの日に、事故に遭って植物状態となった友人達。

 そんな彼らを生かすための入院費の全ては、ヒカルの家が負担した。

 親に懇願し、親の指示した生き方をし、親の会社の一部を継ぐことを約束して、莫大な入院費と治療費を負担してもらった。

 今は経営者となった彼女が友人達の命を繋いでいる。


 彼女の生き方は、あの事故で決まった。

 かつて友人達と夢見た将来の全てを、彼女は友人達の未来のために捨てた。


 それを窮屈だとは思わない――思ってはいけない――。

 友人達の存在を負債だとも考えてはいない――考えてはいけない――。


 彼女は友人達を見捨てない。

 リアルでも、こちらでも、友人達は自分が護るのだとヒカルは決意している。


 友人達とこのゲームで再び言葉を交わせたときは、自分の生き方が報われたと思ったーー友人達の命を背負っていると再確認させられたーー。


 子供の頃の心の友人達と触れ合う日々は楽しく――しかしどこか歯車のズレた日々に疲れ――、戻ってきた眩しい日々のために――本当の自分はもういない日々のために――、彼女は今を生きている――過去に憑かれている――。


 だから、マリーの言う間違ったこと――目を逸らしてきたこと――を、彼女は許さない――認めたくない――。


 ◆


「妄想に熱中して、長話が過ぎたな」


 ヒカルは怒りの形相のまま、ルーク達の方へと向き直る。

 視線の先、射線の先に囲いはまだあり、――既に【命削り】はそれに届く。


「仲間達について好き勝手なことを吐き捨ててくれたが――時間を無駄遣いした代償は貴様の仲間だ」


 そしてヒカルは口元を歪ませながら、【命削り】の引鉄に力を込める。


「こっちこそ――お陰様(・・・)で」

 そして――マリーはこの瞬間こそを待っていた。


 ヒカルの背後の分身が消え去った次の瞬間。


 ――《消ノ術》を解いたマリーが【命削り】の銃口に自分の眉間(・・・・・)を押しつけていた。


 ◇


 全ては、この瞬間のため。

 一手足りないのならば、相手の一手を利用する。

 発砲前に潰すのではなく、発砲の瞬間に彼女自身を遮蔽物に変える。

 分身の言葉で挑発したのは、会話と怒りによって発砲のタイミングを読みやすくするため。

 そしてヒカルに発砲の前兆が見えた時点で、魔弾の防空圏の外で姿を消していたマリーが《消ノ術》を使用して距離を詰め、引鉄を引く瞬間に実体化したのだ。


 膨大な破壊を巻き起こす魔銃の前に、自身を晒す。

 それはレイにも似た、身を切る戦術であった。


 ◇


 熱源()の出現に反応して魔弾が一斉に動くが、最早それらが決着に関与する余地はない。


「――!?」

 突如出現したマリーにヒカルは驚愕するが、既に引鉄を引く指は止まらない。


「――《虹幻銃(アルカンシェル) 》」

 同時に、マリーもまた単発式大型拳銃の銃口をヒカルの腹部に押し当てて、引鉄を引く。


 二つの魔銃から、弾丸が放たれたのは同時。

 二色弾丸単発最大火力の“貫殺”のウルベティアが、ヒカルの腹部に槍を穿つ。

 必殺弾は【ブローチ】によって阻まれるが、【ブローチ】は砕け散る。


 そして【命削り】の固定ダメージ弾がマリーの眉間に命中。

 【ブローチ】のないマリーの身体は、膨大なダメージ量によって崩壊して一瞬で塵となる。


 だが、崩壊はマリーだけに留まらない。

 固定ダメージ攻撃の特性は――接触点からダメージ量に見合った崩壊の伝播。


 彼女の身体から溢れた固定ダメージの余波が、接触している地面や――【命削り】とそれを握るヒカル自身にも伝播する。

 ヒカルの膨大な魔力を込められ、城塞一つ消し飛ばす固定ダメージ弾。

 それは誇張ではなく……、


 ――彼女達のいた丘の全てを消し飛ばした。


 無論、……彼女達も含めて。


 ◆


「――――」


 消失の瞬間、ヒカルは何も考えることができなかった。

 突然すぎて理解できなかった。

 最期に思ったことは……。


(――お荷物なんかじゃ、ない)


 仲間を否定する言葉の、否定だけだった。


 ◇


(……これで退場ですかー。まさかの初日アウト。しかも<デスピリ>最初の脱落とか、あとでバルバロイに笑われますね、これ)


 マリーもまた、消滅の中で少しだけ考える。

 しかし、あの状況ではこれがベストだったのだから仕方ない。


(まぁ、全滅どころか犠牲が一人。おまけにあっちの<超級>を道連れですから、大金星ですよね。……まーた、刺し違えですけど)


 かつて【疫病王】を倒したときを思い出して苦笑しようとして、既に口は消えていた。


(それにしても……作戦とはいえ、ちょっとひどいこと言い過ぎましたかね。戦争終わって、機会があったら謝りましょうか)


 あんまりにもゲスな挑発だったなと反省しながら、やがてマリーの意識は完全に<Infinite Dendrogram>を離れていき……。


(じゃあ――あとはお願いしますね、<デス・ピリオド(ボクの仲間達)>)


 <超級殺し>マリー・アドラーは二度目の<超級>撃破を成し遂げた後、未来を仲間に託して<トライ・フラッグス>から脱落した。


(貴方達なら、きっと何とかするでしょうから)


 最期の思考は、仲間の肯定だった。


 To be continued

〇ヒカル


(=ↀωↀ=)<…………


(=ↀωↀ=)<彼女、仲間と行動しているときはキリッとしたリーダー口調ですけど


(=ↀωↀ=)<七章第八話みたいな『仲間と離れて目上や同等の相手と話すとき』は丁寧口調です


(=ↀωↀ=)<それは『大人』になった彼女の普段の喋り方であり


(=ↀωↀ=)<仲間といるときはあえて子供の頃の喋り方をしているのです



〇マリー


( ꒪|勅|꒪)<そういや別戦場のアルベルトとどっちが先に落ちたんだこれ?


(=ↀωↀ=)<僅差でマリー



〇【魔弾王】


(=ↀωↀ=)<魔弾生産超級職


(=ↀωↀ=)<事前に魔弾作り置きしてそれ撃って戦える(MP以外の戦闘ステータスが高いとは言わない)


(=ↀωↀ=)<要するに【ジェム】貯蔵連打理論の弾丸版


(=ↀωↀ=)<ただ、【ジェム】と違って【魔弾王】だけで意味がある


(=ↀωↀ=)<あ、「【ジェム】と違って」で思い出したけど


(=ↀωↀ=)<ついでに【ジェム】の生産についても下で情報開示



〇【ジェム】


(=ↀωↀ=)<魔石職人系統が作成


(=ↀωↀ=)<【魔石職人(ジェムマイスター)】や【高位魔石職人ハイ・ジェムマイスター】は


(=ↀωↀ=)<材料となる鉱石に『サブジョブの魔法スキル』を込められます


(=ↀωↀ=)<鉱石の素材やスキルレベル、DEX、そして元スキルの強さによって成功率は変動します


(=ↀωↀ=)<上級職奥義とか成功率低めで


(=ↀωↀ=)<希少素材使うか試行回数増えるのでお高くなります


(=ↀωↀ=)<そんな訳で魔法系上級職で【紅蓮術師】が一番普及しているからこそ


(=ↀωↀ=)<《クリムゾン・スフィア》の【ジェム】が沢山出てくるのです


(=ↀωↀ=)<超級職奥義とかになるとそもそも【高位魔石職人】では難しく


(=ↀωↀ=)<魔石職人系統超級職【魔石王(キング・オブ・ジェム)】と魔法系超級職のダブルじゃないとまず無理です(<エンブリオ>が介在しない場合)


(=ↀωↀ=)<ちなみに【ジェム】作成だけ考えるならサブジョブは【賢者】おすすめ


(=ↀωↀ=)<まぁ、ティアンだとそれができる人すごく少ないけど

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いやさすがにあそこまで内心を害される言葉による攻撃を受けた直後に否定の否定。 即ち攻撃的なマイナスの言葉(反撃)だったことを引き分けに持ち込めた心の理由として上げるのは違うくない? …
[良い点] ヒカルが最後に思ったのが仲間の否定の否定なのに対して、マリーが思ったのは仲間の肯定。仲間には注意を引かせて自分が決着をつけようとしたヒカルに対し、身を犠牲にして後を仲間に託したマリー。だか…
[一言] 仮に紅水晶組が生き残ってもガス欠して地上に上がれないのではないだろうか 紅水晶にセーブポイント機能あればいいけど無かったら生き埋めのまま・・・
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