第五十話 【絶影】VS【魔弾王】 前編
( ꒪|勅|꒪)<タイトル……
(=ↀωↀ=)<区切りの問題で絶対に話分けなきゃって思ったから
(=ↀωↀ=)<それにここだけほぼタイマンだから
(=ↀωↀ=)<あと本日は区切りの都合もありますが
(=〇ω〇=)<作者が土曜から風邪で寝込んでたので短いです(38.8℃)
□■アルター王国北西部
マリーに背を向けたまま、ヒカルがショットガンの引鉄を引く。
ショットガンを回しながら二度三度。装填してすぐに狙いもつけずに引き金を引く。
明後日の方角に向けられた銃口から次々に飛び出した散弾は、光を放ちながらマリー目掛けて飛翔した。
「~~~~!?」
一粒一粒が高性能ミサイルの如き有様の散弾。
超音速機動の戦闘速度に入ったマリーはそれらの飛来を目視できてはいたが……同時に自分が対処可能な数を超えているとも理解した。
(うわぁ……。あのときのレイってこんな気分?)
かつてレイをPKしたときに散弾のアルカンシェルを用いたマリーだったが、自分が体験する側に回ると素の思考でドン引いていた。
それでも体は既に動いている。
全力での後退。そして身代わりとなる散弾のアルカンシェルの発砲だ。
ヒカルを仕留めようと近づけば、先に弾幕によってハチの巣にされる。
【死兵】も【殿兵】も持っていないマリーでは刺し違えることも難しく、それ以前に数多の散弾に殺到されれば致死ダメージ時点でまともな部位が残るかも怪しい。
あるいはビースリーのような防御力でもあればまた違ったかもしれないが、マリーにはない。むしろ彼女の耐久性は上級職と比較しても高くはないレベルだ。
(相性最悪じゃないですかー……!)
常に散弾を周囲に滞空させ、近づく敵を撃つ。
さらにサーチして、捌ききれない数で攻める。
奇襲戦法を得手とし、紙装甲のマリーに対しては極めて有効だ。
(大体あの散弾、何をどうやって追尾してくるんですか!? ボクが奇襲したときも、《消ノ術》は切っても《隠形ノ術》は使ってたのに狙ってくるし! 気配サーチならそれで躱せますよね!? それとも光学か音!? 弾丸には目も耳も鼻もないでしょうが!)
自分の奇襲が通じない相手に、マリーはテンパりながらも思考を重ねる。
リアルの彼女が数年間描いていたのは、こういった理不尽な戦闘条件を突きつける相手を攻略するバトル漫画。考察して対策を練るのはある意味で職業病だ。
しかし、今回は考察しても攻略手段を用意する時間がない。
かつて似たような手合い……より極悪な『自身の周囲一帯を充満した細菌で皆殺し』という<超級>を討ったマリーだったが、今回は前準備も条件も足りていない。
(今回も飛んでくればよかったー!? やっぱり自分で天竜仕入れましょうかねぇ!?)
そうして穏やかでない心中で必死に離脱していたマリーだったが、ふと気づく。
(……あれ? 案外余裕ありますね?)
時間がないはずなのに、いつまで経ってもヒカルの散弾が彼女に到達しない。
だが、その理由にマリーは気づく。
「あ、射程距離……」
いつしか、彼女は大きく位置を動いていた。
今のマリーから見たヒカルは、ヒカルから見たルーク達より倍は遠い距離にある。
実時間は、ほんの数秒。
しかし超音速機動はその短時間で二キロほどマリーを移動させていた。
「……まー、そうですよね。散弾銃です。それにこんな遠距離でも届くなら、狙撃と一緒に撃ってきているでしょうし」
噂に聞く【魔砲王】の絶対命中&防御無視の砲撃とは違う。
あくまでも、散弾銃は近接火器なのだ。
(陽動の分身が撃たれた距離から推測するに……彼女の周囲二〇〇メートルってとこですかね?)
リアルの散弾銃と比べて三倍強の有効射程だが、その程度。
しかし逆に言えば、二〇〇メテル圏内は数百発の魔弾が飛び交う絶対防空圏だ。
(散弾銃をオフェンスに使わず、右手のやばそうな銃を準備しているのは……あー、タルラーちゃんの広域ドレイン警戒ですかね。散弾の一粒に纏わせた程度の魔力なら、速攻で食べちゃうでしょうし)
<墓標迷宮>でタルラーの能力を見ていたからこそ、ヒカルは近づかない。
逆にタルラーがこの場にいなければ、あの散弾だけで全滅していた恐れもある。
「…………」
マリーは悩む。
少なくとも、射程距離ならばアルカンシェルの方が上だ。
《黒の追跡》を含んだ弾丸生物は、かつて<ノズ森林>で初心者を撃ち抜いて回った。
確実にヒカルの魔弾よりも射程が長い。
だが、威力と数では大きく劣る。
(だったら、いっそデイジーを撃ちますか? デイジーならここからでも届きますし、散弾で殺される前に半径一〇〇メートルの爆発圏に彼女を捉えられる)
“爆殺”のデイジー・スカーレット。
一種のミサイルの如き必殺弾であり、【奏楽王】戦も含めマリーが愛用しているキャラクターだ。
右手の魔力式銃器の状態を見るに、このままでは遠からずルーク達が危ういことは確実。
ならば、必殺スキルのデメリット――対応する弾丸の二四時間使用不能――を受け入れても、ここで確実にヒカルを倒すべきだとマリーは考えた。
(まだ【ブローチ】の破損前ですけど、あの右手銃器は壊さないといけませんしね)
最悪、本人がノーダメージでも武器破壊だけは達成する。
そう考えたマリーは、アルカンシェルを六連弾倉拳銃から大型単発拳銃形態に変形。
左手の紋章からデイジーの姿を描いた必殺弾を取り出し、装填。
「《虹幻銃》――“爆殺”のデイジー・スカーレット!」
そしてマリーは自らの必殺弾を放ち、
『――?』
――発砲直後にデイジーの眉間が撃ち抜かれる瞬間を見た。
スローモーションになる視界の中、マリーは視線をデイジーから……彼女が飛翔するはずだった相手を見る。
ヒカルは今も背を向けている。
右手の青い光を放つ拳銃にも、変化なし。
左手は――切り詰めた散弾銃から二倍ほど銃身の長い銃に切り替わっていた。
(え? あれ? ライフル?)
考えてみれば、当たり前の話だ。
散弾銃で届かないならば、別の銃を使う。
散弾の礫よりもサイズが大きいライフル弾ならば、込められる魔力も……射程距離も変わるだろう。
それでもタルラーならば魔力を吸収して無力化できたかもしれないが……。
――マリーとデイジーにそんな芸当はできない。
『…………』
一宮渚の漫画、イントゥ・ザ・シャドウにおいて、デイジー・スカーレットは爆炎に変じる不死身の吸血鬼である。
最初の長編のボスであり、主人公であるマリーに倒された後はバトル漫画らしく仲間となった。
そして不死身であるがゆえに、初見の相手と戦ってかませ犬になることが作中で多々あり、そういう意味でも作者に愛用されていたキャラクターだが……。
「……デンドロでも?」
作者が思わず呟いた直後、召喚体の死亡と同時に自らの身体を爆炎に換えて周囲を吹き飛ばした。
――作者ごと。
To be continued
( ꒪|勅|꒪)<何でちょっとコメディなんだヨ
(=ↀωↀ=)<戦わせたらなぜかちょっとコメディになったんだよ