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第四十九話 <デス・ピリオド>VS“不退転”のイゴーロナク 中編

(=ↀωↀ=)<モンスタ○ファーム2が移植されました


(=ↀωↀ=)<早速うちのアニメのOPとEDの初回盤と通常版で再生してみた模様


(=ↀωↀ=)<……流石に二巻特典のサウンドトラックはデータベースになかったか

 ■【突撃銃士(アサルト・ガンナー)】ラージ


 皇国に移籍して何日か経った日の夜、俺は貸し与えられた<叡智の三角>の作業場を歩いていた。

 出歩く理由は特にない。寝つけなかっただけだ。

 俺達が遭ったという事故の後、昼も夜もない暗闇で時間を過ごした。

 そのせいか、時々夜中は眠る気になれなくなる。

 そのまま二度と覚めない不安が、鎌首をもたげる時があるからだ。

 小……妹もそうなるときはあるけど、大抵は俺かヒカルのところに転がり込んでくる。

 しかし兄で男の俺が同じことはできねえ。

 こんなときはどこかでタバコでも吸うのが一番だ。


「…………」


 タバコが吸える、って事実に思うことはある。

 この世界……ゲームでは酒やタバコはリアルで属する国の法律を参照するらしい。

 だからタバコが吸える時点で、俺達は眠ったままそれだけの時間を過ごしたんだろう。

 あいつらは気づいていないし、ヒカルも気づかせないようにしているけど……最低で八年。あるいはもっとだ。

 それだけ眠り続けた俺達じゃ、この後に現実で目覚めることは難しいかもしれない。

 だったらこのゲームを現実にして生きてくしかないだろう。

 少なくとも、此処には俺達に必要だったものは何でもある。……友達もいる。


 正直に言えば、今回の<トライ・フラッグス>とやらには参加したくない。

 俺達はもう足りてる。これ以上得ようとすれば、リスクが勝るのはバカでも分かる。

 ただ、断ったときの相手の出方次第ではより悪い状況になる。

 だから、ヒカルも受けざるを得なかったんだろう。

 そしてヒカルが受けたのなら、異存はない。

 今の俺達が生きているのは、きっと……。


「……ん?」


 灯りを落とした作業場の片隅に光があることに気づいた。

 近づくと、そこで作業をしていたのはめろん……いや、メロだった。


「どーしたよメロ。【紅水晶(ローズ)】の整備の続きは明日みんなでやる手はずだろ?」

「あ、大ちゃん」


 それまで考えていた暗いことを感じさせないように気をつけて、俺はメロに話しかける。

 そうして近づくと、メロの作業対象が【紅水晶】でないと気づいた。


「これは……【壱型】かよ? もう十分に作ったんじゃ?」


 【イゴーロナク壱型】。

 ヒカルの魔力とヴィトーの遠隔操作、そしてメロの修復付与を組合わせて運用するための、“不退転”のイゴーロナクのメインユニットとなる機体。

 それはスペアも含めて既に相当数を用意してある。これ以上は作る必要もないはずだ。


「う、うん。だからこれはー……ちょっと違うの」

「……? ……ああ、たしかに違うな。こいつは……」


 観察していて、理解した。

 目の前の機体は【壱型】と外見はほぼ同一だが、中身が違う。

 これは……。


有人機(・・・)……パワードスーツだな」


 皇国で使われている【マーシャル】……その初代と同様の機械甲冑だ。


「う、うん。もしものために、作っておこうかなーって……」

「ハハハ、もしもってなんだよ。うちの戦闘スタイルからすりゃ、使う場面なんてないだろ?」

「…………」


 俺がそう言って笑いかけると、彼女は少し黙ってから……答えを返してくる。


「もしも、ヒカルちゃんが動けなくなったら?」

「…………」

「もしもヒカルちゃんがいないときや、苦しくてどうしようもないときが来たら……」


 彼女は、俺の目を真っすぐに見て……。


「大ちゃんも……びとうくんも……ジッとしていられないでしょ?」

「…………」


 返す言葉もねえ。

 俺はそうするだろうし、一緒に名前が挙がった親友も同じだろう。

 もしも彼女達や、俺達に比べれば幼いみっちーの奴に窮地が迫り、今までの戦い方ができないのであれば、俺とヴィトーは自分達で何とかしようとする。

 俺が戦闘系のジョブをとっているのもそのためだ。

 ヒカルに頼り切っている俺達でも、もしものときは彼女達を守れるように。

 それが……メロには分かっていたんだ。


「だから、そのときのためにこの子達を作ってるんだよ。生身で飛び出すよりも、安全だと思うし」

「……そうか」


 俺達が彼女達を守ろうとするように、メロも俺達を守ろうとしてくれている。

 やっぱり俺達は友達なんだと……言葉には出さないが……強く思った。


「なんか手伝うことはあるか?」

「……えーっと、……眠いのでコーヒー飲みたいです」

「オッケー。とびきり旨い奴を淹れてくる」


 そうして、眠れずにいた夜は……友達との眠りたくない夜になった。


 ◆


 それから戦争が始まって、


 メロが消えて、


 俺達は……彼女の遺した力で戦っている。


 ◆◇◆


 □■アルター王国北西部・森林


 ルーク達、<デス・ピリオド>迎撃のために“不退転”のイゴーロナクが打ち立てた作戦。

 ターゲットである霞――及び可能ならば仇であるルーク――の排除。

 第一段階である同時狙撃作戦を担うのは、ヴィトーとラージの二人だった。

 ヴィトー本人と、彼が自分の身体と同時に動かすイゴーロナク。

 そして<エンブリオ>が使用不能状態であり、【紅水晶】の中にいても何もできないからと自ら志願したラージ。

 彼らが動かす【装着式壱型】二体とイゴーロナクにより、三点からの同時狙撃を実行し続けている。


(……久しぶりに前に出たけどよ、前より怖いと感じるぜ)


 【装着式壱型】の中で、ラージは冷や汗を流している。

 先刻、彼の機体から少しだけ離れた場所にゴリンのバズーカが着弾した。

 直撃していれば修復能力のある機体はともかく、中身の彼は木っ端微塵だっただろう。

 むしろ、距離を置いた爆圧だけでも骨が軋んでいる。

 それでも機体が手にしたライフルを手放さず、位置を変えながら<デス・ピリオド>の狙撃を続けていた。


(三発同時の超音速狙撃に一人も落ちずに対応するかよ。やっぱり、ヤバい連中だな)


 内心で舌を巻きながら、それでもラージは引鉄を引き続ける。


(……まぁ、ヤバいと言うならうちの連中も大概だけどな)


 ラージはこの森のどこかにいるだろうヴィトーのやっている芸当を思い出す。

 彼は今、自分のパワードスーツで狙撃を実行しながら、思考操作でイゴーロナクによる狙撃も実行しているのである。

 普段、みっちーのモクモクレン越しに動かしているイゴーロナクを、今は自分の視界内で動かしている。

 肉体と遠隔操作の同時狙撃という離れ業だが、『視界にランダムなブレがないだけ遥かにやりやすい』とは本人の弁だ。ラージは内心で『俺の親友は寝ている間に超能力者にでもなったのか?』と思わずにはいられなかった。


『聞こえるな、ヴィトー、ラージ』

「!」


 機体に備え付けの通信装置がヒカルの声を伝える。


『そのまま狙撃を継続、敵の警戒能力を圧迫し続けて欲しい。ただし、無理はしないように。相手が追ってきたなら、即時離脱。相手の警戒を一枚、二枚剥がせればそれで十分だ』

「了解だ」

『了解……、けどよヒカル。アイツは使えないのか?』


 二人は共にヒカルの指示に従うが、ヴィトーは少しの苛立ちが混ざった声で問いかけた。

 アイツ……とは彼らが皇王から貸与された決戦兵器、【ベルドリオンF】のことだ。


『魔力の充填が不十分だ。現状では六〇秒も動かない。停止すれば防御機構(デルヴァスター)も消え、破壊されるだろう』

『その一分でぶっ殺せるだろうが……!』

「……そりゃ無理だぜ、ヴィトー」


 狙撃を続けても未だ崩れぬ<デス・ピリオド>を、確実に崩せる一手。

 それを使わないことにヴィトーは苛立っていたが、ラージが窘める。


「あっちには<超級殺し>がいるだろ。情報通りなら最大六〇秒、この世界から消える奴だ。六〇秒未満の稼動時間じゃ、確実に仕留め損なうんだよ」


 皇王から伝えられた、【絶影】の奥義である《消ノ術》の情報。

 それがあるからこそ、今ここで自分達の最後のカードは使えないとラージとヒカルは理解していた。


『……ッ』


 歯を噛み締める音と共に、ヴィトーとの通信が切れる。

 彼の苛立ちの原因は、やはりメロのことだ。


(ヴィトーの、メロを守れなかった自分への苛立ちは、仇の【魔王】を仕留めるまでは消えないかもな。ただ……)


 はたして、仇を討ったところで心が晴れるかは分からない。

 だが、今はそうするほかにないのだろうと……ラージにも理解できた。


『……ラージ』

「ああ、分かってるって。サポートするよ。それに今回は最悪、ターゲットだけでいいのはヴィトーも分かってるって」

『頼む。こちらはあと……一分ほどだ』


 そうして、ヒカルとの通信も切れる。

 次いで、ラージの方から通信を繋ぐ。相手は地下……【紅水晶】のコクピットだ。


「みっちー。あの囲いの内側はどうなってる?」


 問いかけた内容は、【バルーンゴーレム・トループス】に囲まれた内側だ。

 ターゲットを狙撃しようにも、囲いの内部の配置が分からない。

 先刻も一体を撃ち抜けたものの、ターゲットにも他一名にも命中しなかった。


『不明。こっち対策で目を閉じてるよ。だから今は囲いの外側の視界をチェックしてる』

「目を?」

『多分、その状態で何か準備をしてるね』

「準備?」

『ターゲットじゃない方は地属性魔法の使い手だよ。それも<エンブリオ>で魔法を複数並列起動できるタイプだ。もしかすると、一人で合体魔法(ユニゾンマジック)もできるのかもしれない。目を閉じてるのは、詠唱(チャージ)に視覚は関係ないからかな』


 合体魔法。

 かつてのクレーミル防衛線において【大賢者】の徒弟達によって行使され、あの【グローリア】を拘束するほどの威力を発揮した。

 そのレベルの魔法を単独で実行可能で、なおかつ地属性魔法使いだと言うのならば……。


「……! 【紅水晶(ローズ)】を地中から引っ張り出す気か!?」

『その可能性はあるよ。だから、撃てるようならもう一人から撃って欲しいくらいだ』


 うっすらと、<デス・ピリオド>の狙いが透けて見えた。

 あちらもターゲットであると察した霞を、メンバーと召喚モンスターによる防衛陣の内側に隠している。

 だが、その霞自身もふじのんの護衛なのだ。

 地下に潜む【紅水晶】……そしてスモールを地上に引きずり出す役目を担う者の……。


「任せろ。やらせねえよ!」

『任せるよ。ああ、それとスモールから……』

『お兄ちゃん……』


 通信先の相手が切り替わり、妹であるスモールが通信に出る。


「小」

『お、お兄ちゃん……がんばって……!』


 スモールの声は震えていた。

 彼女は、自分が敵のターゲットであると分かっている。

 だからこそ怯えていたが、兄と友人達を信じてもいた。

 しかし同時に、彼らを危険地帯に送り出すことが不安でもあった。

 まだ然程の時も経っていないメロの喪失を思い出し、またそうなってしまうのではないかと……。


「ああ、心配するな。俺達は勝つし、守るし、三人全員無事に帰ってくる」


 だからこそ彼女の不安を拭うように、ラージは力強く返答した。



 その結末は――。



 ◇◆


『えっと、私達以外は下にⅤが二つ……地上に……Ⅵが二つとⅤが一つ…………離れてⅦが一つ』

「Ⅶの位置は?」

『もっと北の方、かな……。丘のあたり』

「なるほど。ありがとうございます、霞さん」

『る、ルークくん、何か分かった……?』

「相手の手の内は、概ね」


 ルークは霞からの短い報告で、“不退転”のイゴーロナクの動きを看破した。

 タイキョクズが報せた情報は、現時点での敵<エンブリオ>の配置だ。


(合計で六人分。ですがタイキョクズは<エンブリオ>の子機もサーチしてカウントする。あの遠隔操作が子機であるならば、やはり五人。あるいは、あのリングを持った者がいるのか。どちらにしても、やはりこの戦場にはイゴーロナク以外の敵戦力はいません)


 あるいは隠密能力に特化したマリーやガーベラのような手合いならばありえるが、そんな人物が助勢しているならば現時点で誰かが落とされているはずだ。


(中身入りのパワードスーツが二人、それに遠隔操作で一人分といったところ。気になるのは……)


 思考の最中、ルークは飛来してきた弾丸をリズで叩き落とす。


(今、三発の狙撃はいずれも北とは異なる方角だった。これまでもそちらからの攻撃はない。つまり、狙撃で僕達を牽制しながら、<超級>が何かを狙っている……)


 そして、その何か……自分達への攻撃手段としてもっともありえそうなことも、ルークには察しがついていた。


「…………」


 ルークは少しだけ無言のまま、自分の足元の地面を爪先で何度か叩いた。

 それから、共に囲いを守る仲間に話しかける。


「マリーさん」

「はいはい何でしょうかルークきゅん!」


 いつものようにおどけた様子で応えたマリーに対し、


「――お願いします」

 ――ルークはただ一言、それだけを告げた。


「……手薄になりますよ?」

「最悪、後手に回って全滅します。機先を制して潰してください」

「リョーカイ! じゃあちょっと行ってきますねー」


 そう言い残してマリーは消え――直後に欠けた防衛戦力の穴を狙撃が撃ち抜いた。


 残り四体だったバルルンズの一体が撃ち抜かれ、残りは三体。

 露出して垣間見えた囲いの内部では、総勢八つ(・・)の魔法陣がふじのんを中心に回転していた。

 それらの動きは完全に連動しており、みっちーの推測通りの合体魔法の発動準備にしか見えなかった。

 バルルンズは三体で囲いを閉じるが、間を置かずに放たれた銃弾が彼らに迫った。

 それをリズとイオで辛うじて弾く。


(……狙撃で移動よりも連射を重視した。マリーさんがいなくなった上に、こちらの仕掛けの作動が近いと見て、潰すために安全策を切ったんだろうね。さて……)

「――《喚起(コール)》、マリリン」


 ルークは【ジュエル】を翳し、自身の配下を追加する。


「マリリン、疲れてるだろうけど壁役を頼めるかな」

『VAMOOO!』


 地竜の姿のマリリンは力強く頷き、マリーの欠けた穴を埋めるように防衛に回る。


(眷属状態ではないマリリンに銃弾を弾く技量はない。甲殻で受け止めて耐えるしかない。相手の銃弾の威力からすれば、マリリンを倒すまでに必要な銃弾の数は多くなる。必然、勝負を急ぐ相手の狙撃はマリリンではなく、数発当たれば倒せる僕やイオさんの方向に集中するだろう)


 マリリンは肉壁ではなく、射線を制限するための壁だ。

 それを示すように銃弾は二人に集中するが、離れた場所をカバーするよりも弾きやすくはなった。


(あとは、どちらが早いかだけど……僕の推理だと)


 猛威を振るう狙撃に対応しながら、ルークは冷静に……。


(――このままなら確実に向こうが先だ)

 ――冷静に自分達の敗北の可能性を考えた。


 ◆◇


「…………」


 森林部よりもさらに一キロほど北にある、小高い丘。

 今、“不退転”のイゴーロナクのリーダーであるヒカルは、独りでそこに伏せていた。

 周囲に彼女以外の人影はなく、まるで蛍のような小さな光が彼女の周囲を飛び交っている。


 彼女の右手にあるのは一丁の銃器。

 しかし伏せて構えているソレは狙撃銃ではない。

 どうみても拳銃の類であり、尚且つ古びた代物だ。


 だが、地球の拳銃と違い……青い燐光をその銃身から零している。


「…………」


 ヒカルは無言のまま、その銃器に魔力を送り込む。

 風船に息を吹き込むように注ぎ込まれた魔力は、膨大な量だ。

 銃身は悲鳴を上げて、罅割れてもいる。

 だが、銃身に施された刻印――メロが遺したパラノイアのスキルが発動し、修復する。

 それを繰り返して、銃器――魔力式銃器に正規利用ではありえないだけの魔力を注入させていく。

 引鉄を引けば注ぎ込んだ魔力に応じた銃撃……否、魔力砲撃が放たれる。

 その威力は、城一つ吹き飛ばせるだけの大火力だ。

 『小手先の戦法に頼るよりもそのエネルギーをぶつけてくる方が強力のはず』というルークの推測は正しかった。


 ヒカル達の狙いは最初からこの魔力砲撃。

 飛行手段を失った相手が地上に降りるのは想定内。

 そして同時狙撃に対応するために散開するのではなく、守りを固めるのも想定内。

 集まったところを、魔力砲撃で一網打尽にする。

 【ブローチ】で生き残るかもしれないが、逆に言えば【ブローチ】は砕ける。

 何より、厄介な【魔王】の配下をこの砲撃で幾らか消し飛ばせるだろう。

 既に威力は十分。

 あとは拳銃の射程を遥かに超えた先に砲弾が届くよう、更なる魔力を注ぎ込むのみ。


(あのレイスも、MPドレインには吸収速度がある)


 相対したイゴーロナクはすぐに機能停止したが、一瞬で全魔力を喰われたわけではない。

 まずは【鋼裂】の威力が弱まる程度、それから修復に回す魔力を失い、そして動かなくなった。

 秒単位で一定量を吸っているということだとヒカルは推測する。


(私の最大砲撃なら、喰らわれる前に消し飛ばせる。あのレイスとスライム、それに地竜がいなくなれば【魔王】の戦力は壊滅状態。通常のイゴーロナクでも仕留めることは可能)


 読みにおいてルークに劣るヒカルだが、彼女にはルークにはない埒外の魔力がある。

 そのゴリ押しでルークの戦術を叩き潰す心算である。


(あれは詠唱妨害や詠唱中の魔法を破裂させる特典武具を持っているそうだが、私のこれは魔力を用いるが魔法ではない。何より、この距離では動作もしないだろう)


 少なくとも、ルークに対する戦術としては決して間違えてはいない。

 ヒカルに懸念事項があるとすれば……。


(問題は姿を消した……)


 ヒカルが一人の女性の姿を思い浮かべたとき――彼女の周囲の空気が動いた。


 彼女の周りを飛び交っていた蛍の如き光。

 それがまるで花火のように強く発光し、いずこかへと飛び散っていく。

 飛び去った光の先には、


『ギャギギギギギギ!』


 弾丸に手を生やしたような異形の怪物の群れがあった。

 飛翔した光はヒカルに迫る異形――アルカンシェルの誘導散弾を迎撃し、撃ち抜いていく。


「…………」


 その光景を見ないまま、彼女は左の引鉄(・・・・)を引いていた。

 チャージ中の右手銃器ではなく、片手に持ち続けていたもう一丁の銃器――散弾銃。

 ソードオフ・ショットガンから伏せたまま放たれた散弾(ショットシェル)は、銃口の先にあった地面に吸い込まれる直前で光と共に上方へと急激に曲がる。


 そして、先行していた光と合流し、迫る弾丸生物への対空砲火へと変じる。


『ギギャ!?』


 アルカンシェルの弾丸生物は、瞬く間に砕かれて塵に変わった。


「……様子見か?」


 ヒカルは伏せた姿勢から立ち上がり、片手でソードオフ・ショットガンを回転させ、スピンコックで次弾を装填。

 そうして再度、狙いもつけぬまま引鉄を引いた。

 銃口から放たれた光は空中ではなく、丘にほど近い林の中へと飛び込んでいく。


 あたかも、そこに狙うべき()がいると弾丸自身が理解しているかのように。


「あ…………」


 林の中、誰かが撃たれて断末魔の悲鳴を上げる。

 その姿は黒いスーツとサングラスの女性。

 彼女は光の塵になって消えて……。


 ――同時に分身を囮にしたマリーが《消ノ術》を解除し、背後からヒカルに肉薄していた。


 弾丸生物と影分身の二重の陽動。

 察知不可能の《消ノ術》。

 それはマリーのPK戦術の中でも必殺に近いものだったが。


 ――未だヒカルの周囲に残留していた光の散弾が出現した直後のマリーへと飛翔した。


「!?」


 完全な不意打ちだった。

 事実、ヒカル自身はマリーの気配に気づいていない。

 だが、散弾の一粒一粒が意思を持つように、マリーへと襲い掛かる。


「クッ!」


 咄嗟に散弾のアルカンシェルをばら撒いて、自身を守る壁として機能させる。

 それらはほぼ相殺の形だったが、逃れた一粒がマリーの肩に埋まった。


「ッ……!」

「……そこか。流石は名にしおう<超級殺し>。まるで気づかなかった」


 自身の放った弾丸が命中したにも拘わらず、ヒカルは少しの驚きを見せていた。

 ただし、背後のマリーは見ていない。

 今も、一キロメテル先のルーク達の囲いを見下ろしている。


「……明らかに軌道がおかしいとか、寝ながらショットガン撃つのはシュールとか、言いたいこと色々ありますけどー……」


 ヒカルは、マリーを見ない。

 右手銃器の魔力充填は続けたまま、左手のショットガンもマリーに向けぬまま。


「貴女自身より……弾丸の探知能力が上(・・・・・・・・・)ってどういうことです?」


 しかし、マリーには分かる。

 今この瞬間、自分は相手にロックオンされているのだと。


「見る必要はない。引鉄を引けば、望むべき的に飛び、命を刈る」


 マリーに背を向けたまま、



「魔弾とはそういうモノだ」

 ヒカルは彼女に答え(・・)を告げた。



「……えー、つかぬことをお聞きしますが……お名前とジョブ(ご職業)は?」


 内心、嫌な予感――銃器使いの端くれとしての危機感を覚えながら、マリーはできるだけ普段通りの調子で問いかける。

 ヒカルはそんなマリーに対して苛立ちもなければ、危機感もない。

 むしろ、安堵していた。


 ああ、懸念事項がこちらに来てくれた、と。

 これで友人達が殺される危険はなくなった、と。


 ――自分ならばこのPKに勝てるから、と。


「私はヒカル。ジョブは……」


 ヒカルは告げる。

 それは彼女のジョブこそが、彼女への死刑宣告であるがゆえ。

 彼女の放つ散弾は、彼女の言葉の通りに……望めば(あた)る。

 姿を隠そうと、存在を消そうと、最後には必ず当たる。

 そう、彼女こそは……。



「――【魔弾王キング・オブ・イリーガルバレット

 ――如何なるものも逃れえない魔弾の王。



 To be continued

( ꒪|勅|꒪)<中編って書いてあるけど、本当にあと一話で終わるカ?


(=ↀωↀ=)<ふふふ


(=ↀωↀ=)<……例によって文章が膨らむ膨らむ



〇【魔弾王】


(=ↀωↀ=)<魔力式銃器運用特化型超級職――ではない


(=ↀωↀ=)<むしろ弾丸の方がメイン


(=ↀωↀ=)<弾丸に直接エンチャントして特殊効果を持たせるジョブ


(=ↀωↀ=)<ちなみに【魔弾姫】じゃないのは例によって語感優先事象


(=ↀωↀ=)<イリーガルバレット・プリンセスよりも


(=ↀωↀ=)<キング・オブ・イリーガルバレットの方がカッコいいからだよ!(作者の個人的感想)


( ̄(エ) ̄)<バレット・プリンセスなら?


(=ↀωↀ=)<……ちょっと悩むけどやっぱり漢字も加味してこっち



〇【突撃銃士】


(=ↀωↀ=)<銃士系統上級職の一つ


(=ↀωↀ=)<STRとAGIの伸びがよく、重い火器を抱えて走り回るタイプ


(=ↀωↀ=)<あと前方の敵性対象視認能力が上がるスキルもある


(=ↀωↀ=)<分かる人にだけ分かる例えだと


(=ↀωↀ=)<AP〇Xのブラッド〇ウンド


(=ↀωↀ=)<ちなみにラージは【紅水晶】の操縦担当することもあるので


(=ↀωↀ=)<サブは【高位操縦士】

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あれ?メロって王国いたんじゃないの?
[一言] そういえば超級職+超級エンブリオで〈超級〉って呼ばれるんだっけ、失念してましたわ
[良い点] 熱いバトル [気になる点] 特になし [一言] 魔弾の射手の最後は...
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