第四十五話 【車騎王】マードック・マルチネス
(=ↀωↀ=)<14巻著者校正でかなり疲れたので休む気でした
(=ↀωↀ=)<でも昨日、HFを観に行ったら
(=ↀωↀ=)<「何か書かねば」
(=ↀωↀ=)<という謎の衝動が発生したので一日で書きました
(=〇ω〇=)<オーバーヒート……(白目)
追記:
(=〇ω〇=)<…………
(=〇ω〇=)<投稿時間設定してなかった
□■アルター王国北西部・平原
「でいやぁ!」
皇国陣地に突入した部隊の半数が、自爆に限りなく近い砲撃に巻き込まれて消えたときも、狼桜は一人の敵と戦い続けていた。
『ぬぅ! やるな!』
眼前の相手は機械虎の<エンブリオ>に騎乗していた<マジンギア>、【武后】。
しかし今は騎乗しておらず、必殺スキルで<エンブリオ>を鎧と化し、合体している。
あたかも中国の武人像の如き有様と化した機体を相手に、狼桜は上手く立ち回りながら戦っている。
STRは敵が勝るが、AGIは狼桜に分がある。必殺スキルで狼桜が纏った骨鎧と、敵機の強度は同程度だろう。
「他の連中は対人戦に慣れちゃいなかったけど、アンタは違うみたいじゃないか!」
『愚問! 我こそは皇国の決闘ランキング五位! 対人戦など重ね飽きたわ!』
機体から発せられる声は若い……むしろ幼い女性のものだが、言葉に重ねられた自負は確かなものだった。
「へぇ!」
彼女の言葉に、狼桜の口角が上がる。
「動画と機体や形態が違うから分からなかったよ! アタシは王国の決闘五位さ!」
『ほう! 面白い!』
言葉と共に振り下ろされた両刃斬馬刀を、狼桜は槍を斜めに受け流す。
『我が名は虎櫻! <叡智の三角>最強の乗り手!』
「アタシは狼桜! <K&R>のサブオーナーにして最強の女さ!」
そうして名乗り合い、互いの武器を激突させる。
奇しくも巡り合った同格の敵手に、二人は楽しく刃を交えていたが……。
((ランクとか、必殺スキルとか、名前とか……色々被ってるような?))
内心で少しだけキャラ被りを気にしていた。
そんな二人を他所に、混迷を増す皇国陣地での戦いはさらなる局面の変化を迎える。
◆◆◆
■【車騎王】マードック・マルチネス
さて、現状の把握だ。
黒三鬼の最期の奮戦で、陣地内に侵入した敵戦力の大半が消えた。
最高の仕事だ。俺の所有物である【電波大隊】もいくらか消えたが水に流そう。
そもそも本来はあんなに必要ないものだし、どうせゲーム内マネーで手に入れた産物。必要なら<叡智の三角>に再発注もできる。
だから彼我の損害を比較すればこちらがかなり良い。
それでも、状況は皇国の劣勢と言うほかない。
陣地内の敵の大半を消しても、半分近く残っている。
まして消えたのはあくまでもう入ってきていた連中の半分だ。陣地外の戦いで皇国戦力が討ち取られるほどに、陣地に侵入する敵も増えてくる。
リアルタイムストラテジーゲーム、あるいはタワーディフェンスゲームなら泣きが入ってくる状況だ。
彼我の戦力は、俺と【殲滅王】をトントンとすればほぼ互角のはずだった。
しかし結果はこれだ。その差が何かと言えば……まぁ頭の差だろう。
相手の降らせた雨で欠点を突かれ、【電波大隊】が稼働不能に陥っていた。
相手が愚かならこの欠点に気づかなかっただろうし、並の頭でももう少し時間が必要だったはず。
だが、確実に決まる初弾の後、即座に対策を打たれてこの有り様。
この対応の早さで俺の利点を潰され、俺が考えていたこちらが有利になる戦術は最低限の成果だけ残して使えなくなった。
そこから五分の勝負に持ち込まれて、相性差で傾いた。
俺の頭が相手ほど良ければ、また違う手も打てただろう。
だが、無理な話だ。俺はあくまでもゲーマーであって、アバター通りのベテラン軍人でもなければ、天才軍師でもない。
バルバロス元帥みたいな本物の軍人とは違うし、王国側のやたら頭が良い奴とも違う。
自分の頭と財力と<エンブリオ>の性質でようやく立てた戦術が【電波大隊】だ。その虎の子以外の策なんて一つしか持ってないし、そのやり方じゃこの戦場での皇国劣勢を覆せない。
だからまぁ、俺の指揮下で戦ってる連中には悪いけど……多分アイツらデスペナだな。
陣地内はもう壊滅したし、外で戦ってる連中もかなり減った。
俺もデスペナるかもしれない。
後方にいるイゴーロナクの連中は守らないとまずいかな?
「だがなぁ……まだ落ちたくねえなぁ」
半ばこのゲームの勝ちを諦めてしまいそうだが、思うことが二つある。
一つは『ここで落ちると戦争で最初に落ちた<超級>』などと、不名誉な呼ばれ方をしばらくされるかもしれないってことだ。それは少し悔しい。
もう一つは……まぁ言うまでもなく、『まだ遊びたい』だ。
折角大人数が集まった大舞台。二度あるかも分からない最高のシチュエーション。
やりたいこともやれず、遊び足りずに終わっては勿体ない。
まだまだ、みんなと遊びたい。
味方と遊び、敵と遊ぼう。
「雨も晴れたし、やるか」
自分に確認するように独り言を呟いて、両手の指を一振り。
――残存する【電波大隊】の内九両が王国の<マスター>にレールガンを叩き込む。
砕け散る奴ら、貫通して二人で死ぬ奴ら、【ブローチ】で耐える奴ら、中には防御系の<エンブリオ>でガードする奴までいる。
だが、全員驚いた顔だ。
「な!?」
「馬鹿な! 送電線はもう外れているんだぞ!?」
送電線?
ああ、使ったな。流石に一〇〇台ともなるとああいうオプションが要るとも。
だがまぁ、――両手の指の数なら無線で送電できる。
俺の<エンブリオ>、それも特性の一つらしいからな。
さて、数を減らすか。
「レールガンの連射、来ます!」
「こいつ、電力は無尽蔵なのか!?」
無尽蔵の電力?
馬鹿を言うな、そんなバカげた<エンブリオ>じゃない。そう見えるだけだ。
俺の<エンブリオ>は発電・蓄電・送電・帯電の四原則。発電は言うまでもなく、送電はご覧の通り、帯電は……今は電磁バリアだな。
で、蓄電が無尽蔵に見える理由だ。
なにせ、皇国に来てから暇で遊んでばかりだったから、ちょいと電力を蓄積しすぎた。
だから使っても問題ない。遊び終わるまでなくならねえよ。安心しろ。
「と……」
そうする間に相手も反撃の姿勢だな。
必殺スキルや高火力の魔法……《クリムゾン・スフィア》を使ってくる。
「だけどなぁ……」
必殺スキル食らった車両は壊れたが、《クリスフィ》やその【ジェム】を当てられた車両は健在だった。
「効いてない!?」
「強度がさっきとは格段に……!?」
混乱してるな。わざわざ教えてやらねえがちゃんと理由はあるぜ。
【電波大隊】の装甲はミスリル製。耐魔法のコーティングもないし、さっきまでも《クリスフィ》でバンバン壊されてたしな。
だが、今はもう無理だ。
【車騎王】は東方の操縦士系統超級職の一つ。
スキルはレベルEXの《騎乗》と奥義、《無敵戦車》。
言うほど無敵じゃないが、俺が特殊装備品とした戦車の強度と攻撃力を跳ね上げる。【大提督】の奥義の単体版&戦車版だな。倍率も増えてる。
さて、単体対象のスキルだが、今は【電波大隊】にも掛かってるわけだ。
見た目おかしいが……ギミックはシンプルだ。
俺が、わざわざ無人戦車として【電波大隊】を作らせた理由でもある。
【電波大隊】は――【トールハンマー】の副砲に過ぎないからだ。
自動で敵を照準して撃ち抜く、リアルで言う近接防御火器システムに近い代物だ。ちと射程は長いが。
システムは【トールハンマー】とリンクしているし、稼働のエネルギーも俺が賄っている。
そのため、システム的にも副砲であると認められ、《無敵戦車》の効果範疇にある。
《無敵戦車》自体の消耗もあるので長期戦には向かないが、今からなら決着まで足りるだろう。
「壊れた一両の代わりにもう一両、と」
送電先を切り替えて、再び一〇両編成に戻す。
九両の【電波大隊】は無限軌道を回し、それぞれに戦場を駆ける。
それは一糸乱れぬ動き……には程遠い。
てんでバラバラで連携も何もあったものじゃない。
だが、プログラムによってリンクした車両間での激突と誤射のみを防ぎ、敵を撃つ。
もはや皇国陣地に俺以外の<マスター>はいない現状、それで何の問題もない。
無線送電。電磁投射砲。遠隔自動操縦。そして、《無敵戦車》。
「生憎だったな王国勢。俺は一〇〇両編成より一〇両編成の方が強いぜ?」
……言ってて思ったが、やっぱ一〇〇両は作り過ぎだったかもしれねえ。
初戦争だからって張り切っちまったせいだな。
惜しくはないが反省はしよう。
「さて、頭上の【殲滅王】は……」
載ってる飛行機が速すぎて一時的に上空を過ぎ去っていたが、またUターンして戦場に舞い戻ってきた。
そして即座に【トールハンマー】と【電波大隊】の一両を、黒三鬼の機体を破壊した大砲みたいな巨大ライフルで狙撃してくる。
電磁バリアと《無敵戦車》の合わせ技で防いだ【トールハンマー】の損傷は軽微だが、【電波大隊】の方は強化された防御力も突破されて沈む。一両追加。
「やっぱり広域殲滅は撃てねえわな」
今もライフルを使ってきた。
あいつの殲滅は範囲が雑だ。確実に仲間を巻き込むし、仲間を巻き込んで攻撃できる性質でもないらしい。
……あいつイイ奴だな。
フレンドリーファイア気にしない奴よりは好きだ。他のゲームだと結構いたし、腹も立つ。それよりは余程良い。
「まぁ、敵なら利用するけどな。火力の低い敵に接近した状態で、他の奴を撃ちまくろう」
あいつが大火力を使いづらい立ち回りをしながら、俺は【電波大隊】全車両の照準を、
「――お前とかな」
――空中の【殲滅王】にロックオンして砲撃を実行する。
【殲滅王】は【トールハンマー】を破壊できる火力の代表。
狙えるなら真っ先に狙うに決まってる。
『……!』
迫る九発のレールガンを、【殲滅王】は機体を捻らせて回避しようとする。
「――ここだろ?」
――そのタイミングで、俺が未来位置を予想した【トールハンマー】の砲撃が貫く。
【撃墜王】のスキルとは違うが、俺も俺で的当てゲームは得意だ。
砲弾は飛行機を貫き、【殲滅王】自身も胴体の真ん中から千切れて飛んだ。
バラバラになった機械の残骸が、地上に降り注いでいく。
「さって、どうせ復活して耐性獲得だろうがな」
……ワンチャン、今ので死んでるかもしれんが。
あいつは自分のコアを体から分離させられるらしいが、あんな速度で飛行中はそれも無理だろ。
体内に収め直したはずのコア。さっきの砲撃で壊れた目もある。
まぁ、期待しすぎずキルレを上げるか。
「……ん?」
不意に頭上から空の鳴る音が聞こえて、次いで車体の表面を雨音が叩き始める。
「また雨が降りだすか。構わねえけどな」
周囲に電気をばら撒きながら、【電波大隊】は手近な目標にレールガンをぶっ放す。
「どうせ味方はもう誰もこの陣地にいない。漏電感電知ったことかよ。……ッ」
……あー、何だな。
こうしてやってるとよく分かるけど、俺やっぱりソロの方がやりやすいな。
「そういうの、認めたくはなかったんだけどな……」
みんなでこの<トライ・フラッグス>を楽しみたかったのは、間違いなく俺の本音だ。
それとは別に、俺の<エンブリオ>が示す俺の本質が見え隠れする。
結局俺が必要としたものは……。
「?」
少し気が滅入ることを考えていたが、頭上の動きがおかしいと気づく。
再開した雨の勢いがさっきより随分と弱く、スコールには程遠い。
これでは【電波大隊】の照準の阻害もままならないだろう。
黒三鬼の砲撃でそれだけのダメージを受けていたのか?
それとも……。
「切り替えたか」
攻撃手段の切り替え。頭上を覆う巨大モンスターは、雨による妨害ではなく直接的な攻撃手段で俺を排除すると決めたのだろう。
だが、天候の怪物がどうやって俺を倒す気だ?
この平原では雨で沈めるのは難しい。電磁力を用いれば強風で吹き飛ばされないし、そもそも飛ばされても大した傷にはならない。雷は言うまでもない。
「どうせこっちの攻撃は効かねえし。何をしてきても、耐えながら他の戦力を潰すだけだ」
そう考えて相手が何をするかと観察していると……雲の形が変わっていく。
中央の眼球が消えて、まるでドーナツのように自らの中心に大きな穴を広げていく。
翡翠色の雲の中心から何もかもなくなったように見えて……しかし薄く広がる膜がある。
それは、水の膜。
雨の水滴を集めて、それを雲の身体の中心で薄く広げている。
まるで、――レンズのように。
「てめ……!」
雲が何をする気か理解した俺は、咄嗟に【トールハンマー】をスライドさせてその場から退く。
直後、空中から光が降り注ぐ。
それは地表を灼く天の柱。
――太陽光を巨大レンズで集束したソーラーレーザー。
「黒三鬼にやられたことの意趣返しかよ!」
まるでSF映画かアニメのような代物は、俺を狙って地上に光の痕跡を焼き付ける。
【殲滅王】と違い、フレンドリーファイアもお構いなしにレーザーで地上をなぞり、味方ごと俺の【電波大隊】を融解させていく。
リンクしている機体との衝突と同士討ちを防ぐだけの単純なプログラムしかない【電波大隊】、上空からのレーザーなんて考慮しているわけもなく、自らレーザーに突っ込んで破壊される車両も多い。
装甲材質が違う【トールハンマー】はレーザーを食らっても容易く破壊されることはないが、中にいる俺が蒸し焼きになるケースはあり得る。
だが、【トールハンマー】の速度なら注意していればレーザーを回避することは可能だ。
この平原、逃げる場所はいくらでも……。
「……あ?」
そう考えて周囲を見回せば、いつしか壁が出来ていた。
それは降り注ぐレーザーに対する、王国勢の支援。
地属性魔法か、<エンブリオ>によるものか。いくつもの岩壁が立ちはだかり、レーザーから逃げる【トールハンマー】の進路を潰した。
中には、自分の身体を壁として立ちはだかるタンクまでいる。
この戦場で最も厄介な俺を、確実に倒すために。
「面倒な真似を!」
《電磁跳躍》で上方に跳ねて飛び越えることも考えたが、それをすれば空中で的にされる。
だったら、レーザーの照射に耐えながら岩壁をレールガンで破壊して突破すればいい。
「装備はある……!」
自分の装備を軍服から耐熱装備に変更し、レーザーの照射に備える。
あとは俺が限界を迎えるか包囲網を突破するかのチキンレース。
【トールハンマー】はレールガンをタンクや岩壁に撃ち続け、俺はレーザーに身構える。
そうして【トールハンマー】はレーザーに呑まれ、
――光の中で、何かが【トールハンマー】に飛び乗った。
「!?」
レーザーの照射を人間大のシルエットで遮る存在。
シルエットの正体は……。
「……【殲滅王】!?」
俺が撃ち落としてバラバラにした【殲滅王】が、五体満足で【トールハンマー】の上に立っている。
その体は、レーザーの中でもまるでダメージを受けていない。
「まさか……!」
まさかこいつ、地上に落下してからレーザーの中に隠れて俺を狙っていたのか!?
耐性を獲得して!?
「チィ!」
電磁バリアを攻性に切り替え、近接防御の電撃を【殲滅王】に叩き込む。
落雷に匹敵する大電力を受けた【殲滅王】は……。
『――《ζ星》』
そう宣言して、自らの傷を消していった。
耐性獲得――データ通りならこれで六度目。
あと一度、耐性のない攻撃を叩き込めば復活を使い切らせられる。
俺がそこまで考えたとき、
『――《η星》』
――奴は七度目の復活宣言を行った。
――同時に、凶悪な様相の大鎧に身を包みながら。
その特典武具は、知っている。
全身鎧の特典武具、【紅徹甲 エグザデモン】。
【超闘士】との試合でも用いられた、【殲滅王】最強の鎧。
瀕死と引き換えに、莫大な攻撃力と防御力を装着者に与える特典武具。
そんな悪夢の如き大鎧が――【トールハンマー】の真上で拳を振り上げた。
こんなシチュエーション、笑うしかない。
「……アメコミじゃねえんだぞ」
『――殲滅実行』
――巨大な拳が戦車の天井を突き破り、車体ごと俺を叩き潰した。
To be continued