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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第七章 女神は天に在らず

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504/716

第四十四話 期待と花火

(=ↀωↀ=)<作者の近況というか作品近況


(=ↀωↀ=)<14巻のカラーページですが上級版ネメシスが確定しました


(=ↀωↀ=)<なおキャラデザ指示に「霊〇再臨」とか書いてた模様


(=ↀωↀ=)<気になるデザインは是非14巻でお確かめください(2020年10月1日発売予定)

 ■二〇四五年三月上旬


 その日、<叡智の三角>のテストパイロットである黒三鬼は髪の毛をパーマにした状態で本拠地の廊下を歩いていた。


「ゼルバールさんは本当にもう……」


 彼が挙げた名は、彼の髪の毛がこうなった原因である。

 新型の電撃兵装付き<マジンギア>、【ゼルバールTypeE】なる機体のテストを任された結果、内部に漏電してこうなったのだ。

 危うくデスペナになりかけたが、髪が犠牲になって辛うじて生きている。

 こうしたケースはこれまでにも何度かあった。

 しかしそうしたテストの危険も込みで、製作費の高い機体を乗り回せているので文句は言えない。


「お疲れ様。大変だったようだね」

「あ、ユーゴー」


 施設内のリクライニングルームに入った彼を迎えたのは、彼と同時期にルーキーとして<叡智の三角>に入ったユーゴー・レセップスだった。隣には彼のメイデンであるキューコの姿もある。

 パイロットもそれなりに多いクランだが、同期であるため比較的よく話す。


「コーヒーでいいかい?」

「ああ。ありがとな」


 黒三鬼は黒い液体の入った紙コップを受け取り、そこに砂糖を七つ入れてかき混ぜる。

 そうして三人でコーヒーを飲みはじめる。(キューコのみコーヒー抜きミルクだったが)


「…………」


 そうしながら、キューコは感情の読めない目で黒三鬼の頭に注目していた。


「……何か言いたいことでもあんのか?」

「そのかみ、ハゲにしたほうがよくない?」

「流石にデンドロでも丸坊主はふんぎりつかねーよ!?」


 突然の致死的アドバイスに、黒三鬼は椅子から飛び退く。


「……いや、それもありだな」

「主従揃って何言ってんだ!?」


 黒三鬼は自分の頭を守るように抱えながら後ずさった。


「なに、簡単な話だ。一度全部カットしてから、ポーションなりで回復した方がいいのではないかということだよ」


 それを聞いて、黒三鬼も納得した。


「ここに、(ねえ)……オーナー謹製の毛髪回復ポーションもある」

「…………何であるんだ?」


 アイテム自体はありがたいが、同期がなぜそんなものを持っているかの方が気になった。


「新しい耳の薬の副産物らしい」

「耳の薬が何で髪の薬になるんだ?」


 その薬こそ、後にとある<マスター>を苛むことになる【ケモミミ薬】である。

 しかしユーゴーの説明は薬の説明であって、所持理由の説明ではない。


「私が持っている理由は……まぁ、いいじゃないか」

「ユーゴー、カミガタかえようとしてシッパイした。まえがみしんで、なきついた」

「キューコ!?」


 背中を刺すように主の醜態を暴露した少女に、ユーゴーが驚愕の表情を向ける。

 黒三鬼はそんな二人のやりとりを見ながら、『とりあえず効果は確からしい』と考えてポーションを貰うことにした。


 剃髪、そして服用後、少しの頭痛の後に彼の髪はフサフサに戻った。


「ありがてぇ……デスペナも考慮に入ってたぜ」

「髪のためにデスペナは流石に……」

「……いやまぁ、ゼルバールさんのテストしてたらどっかで死にそうだし」

「あぁ……」


 遠い目をしながらそう述べる黒三鬼に、ユーゴーもなんと答えていいものか分からない顔になった。

 ゼルバールはアイディアと基本設計に優れるが、形にするときの技術力が絶妙に足りない技術者である。

 結果、途中まで稼働してからアクシデントが起きてテストパイロットが被害を受ける。

 そしてその役目は、最近だと主に黒三鬼である。


「同期なのに、君にばかり危うい機体を任せてすまないな」


 ユーゴーもパイロットとしてテストに参加はしているが、彼の扱うのは【スモーク・ディスチャージャー】のように危険度の低い物が多い。


「いいって。MP消耗式の兵装は俺じゃないときついし。まぁ、容量はカンストの人達よりちょっと多いくらいだけどさ」


 当時のアポロは第二形態であり、貯蔵できるMPも少なかった。 

 それでもクラン内に操縦士系統超級職不在の現状では、最も運用できるMPが多いのが彼だ。


「それに色んな機体に乗ってれば、いつか俺にピッタリのすっげえ専用機も貰えるかもしれんし」


 ロボットアニメのパイロットに憧れ、<Infinite Dendrogram>を始めた理由も<叡智の三角>がネットにアップロードした動画を見たからだ。

 ログインしてすぐに<叡智の三角>の門を叩き、<エンブリオ>の性質と将来性から入団を許可されて仲間入りした。


「フッ。そう言ってもらえるなら、私も寝覚めの悪い思いをしなくて済む」

「そうそう気にするなって。……でもまぁ、正直言うと専用機に関しちゃユーゴーが羨ましいよ。最初から専用機があるようなもんだし」


 キューコ……コキュートスは<マジンギア>と合体してその性能を引き上げる<エンブリオ>だ。

 姿も変わり、特殊かつ強力なスキルも行使可能。黒三鬼にとっては憧れだった。


「ありがとう。だが、君のアポロも決してキューコに劣らない良い<エンブリオ>だ」

「そうかなぁ」


 ユーゴーの言葉は黒三鬼には少し納得しづらいものだ。

 けれど、ユーゴーは確信をもって言葉を重ねる。


「君のアポロは、人と繋がる<エンブリオ>だからな」

「繋がる?」

「任意のMP供給能力。搾取ではなく、協力を求める<エンブリオ>だ。つまり、その力を発揮するときはいつだって仲間がいるということさ」


 その言葉に、黒三鬼はユーゴーの顔をまじまじと見る。


「預けられる魔力は、『期待』とも言い換えられる。みんなが君に期待し、テストの成功とプロジェクトの達成を願い、託しているんだ。モチーフとなったアポロ計画と同じようにね」

「…………ユーゴーはすげえカッコいい見方すんな」


 自分の<エンブリオ>への賛辞に、黒三鬼はこそばゆくなった。


「ユーゴー、きざのちゅうにびょうだから」

「キューコ!?」


 しかし、再度ユーゴーの<エンブリオ>がその背中を刺した。


「もってまわったカッコイイせりふまわしをけんきゅうちゅう。ちょっといたい」

「やめて!? いや、やめたまえ! 崩れるから! 私の色々が!」


 そんな二人のやりとりを、黒三鬼も笑って見ていたのだった。


 ◇◆


 同期の友人との、何気ない会話。

 ユーゴーはこの後、オーナーと共にとある計画に参加し、間もなく<叡智の三角>を去った。

 それでも、この日の会話で受け取った言葉を……黒三鬼は今も覚えている。


 ◇◆◇


 □■アルター王国北西部・平原


 狼桜を筆頭とした王国<マスター>と、<叡智の三角>パイロット部隊をはじめとする皇国<マスター>の激突。

 両軍の数・総戦力に大差はない。

 しかしその状況で……明確に王国が有利になり始めている。

 理由は、経験値の差だ。

 レベルではない。『敵と似たような相手』とどれだけ戦ってきたかという話だ。

 パイロット自身が言っていたように、人間サイズは的が小さい。

 模擬戦で戦う<マジンギア>よりも、素材やクエストのために戦う亜竜クラス以上のモンスターよりも、遥かに小さい人型の敵。

 その不慣れがある皇国に対し、王国にしてみれば<マジンギア>と同程度のモンスターとの戦闘経験はいくらでもある。

 アルベルトを除けば最大戦力である狼桜と交戦する機体はまだ健在だったが、それ以外の戦いで王国は同数戦闘で少しずつ<マジンギア>を撃破していく。

 そうして生じた数の優位で、騎乗していない者をも撃破し始める。

 あるいはこの場に特筆すべき戦力……【喰王】カタや【車騎王】マードックがいれば話は別だっただろうが、カタは<バビロニア戦闘団>と戦い、マードックは【電波大隊】の傍で<K&R>と戦っている。


 そうして戦いの趨勢は傾き始め……やがて別の形でも戦況は大きく動き始める。


 ◆


 【殲滅王】の広域殲滅攻撃と、それを阻む【FSC】の広域バリアシステム。

 その拮抗は、五回目まで続いた。

 二度目までは恐るべき威力だったが、機体と幾十ものシールドが悲鳴を上げながらもなんとか凌ぎ切った。

 それでも、三度同等の火力を放たれれば凌ぎきれなかっただろう。

 だが、三度目以降は明らかに【殲滅王】の火力が落ちていた。

 その理由は特典武具の品切れか、皇国陣地に侵入した王国勢を巻き込むことを恐れてか。

 あるいはどちらでもない理由があったのかは不明だ。

 しかし、威力は落ちても殲滅攻撃は続き、黒三鬼は防御に全霊を尽くすことでそれらを防ぎ切った。


 ――砲弾が【FSC】の胴体を貫いたのは、五度目の殲滅攻撃を防いだ後だった。


 面の殲滅攻撃ではなく、点の砲撃。

 防御が広がり、態勢が硬直したタイミングでの本体狙撃にバリアは貫かれ、【FSC】は主要機関にダメージを負って膝をついた。


『してやられた……!』


 アルベルトと対峙していた黒三鬼は、口の端から血を零しながらそう呟く。

 彼自身も、コクピットに飛散した破片で腹部を損傷していた。


(五回の攻撃はこっちの隙を作るため? それにしては回数が多……それよりも!)


 黒三鬼が機体状況をチェックすると、【バックラー・プラネッツ】への接続機構が破壊されていた。

 コントロールを失い、魔力供給を断たれたシールドが地上へと落下していく。


『……ッ!』


 メインの機構が破壊されたため、シールドを再装備しても作動させることができない。

 この時点で、【FSC】は防衛用機体としての機能を喪失していた。

 次の攻撃は、何が来ようと防げない。

 だが……【殲滅王】の追撃はない。

 その理由を考えて、すぐに察する。

 スコール外の戦いで優勢になった王国勢が、追加で皇国陣地に乗り込んでいる。

 味方の方が多くなったため、殲滅攻撃を取りやめたのだ。今後は黒三鬼の機体を撃ち抜いたような点の攻撃にシフトする心算なのだろう。

 そして、皇国陣地に乗り込んだ者達は、このままマードックとの戦闘に加勢する動きを見せている。


(通常の【マーシャルⅢ】に乗り換えて応戦、……それも無理か)


 彼が血の滲むパイロットスーツを見下ろすと、深々と機体の破片が突き刺さっていた。

 一撃で死ぬような致命傷ではなかったが傷は深く、【出血】と【左腎損傷】の状態異常も見える。

 遠からず、命尽きるだろう。


「ここまで、かよ?」


 黒三鬼がこの戦場でなしたことは、<超級>を相手に五度防御したこと。

 十分と言えば、十分なのだろう。

 だが……。


「――これだけじゃ、終われんよな」

 ――その結果で満足するほど<叡智の三角>のパイロットは謙虚ではなかった。


「装備換装、【FBC】」


 黒三鬼の宣言と共に【FSC】の背部ユニットが外れ、新たな装備が装着される。

 それは巨大な魔力変換装置と大口径の砲身を繋げた武装。

 銘を、【フル(F)ブラスト(B)カスタム(C)】。【FSC】の防御兵装と同時開発された、粒子加速砲兵装である。

 ただし……【FSC】以上の欠陥機として、完成さえしなかった代物だ。


「チャージ開始……」


 アポロに残る魔力が、【FBC】の魔力変換装置に流し込まれていく。

 それは膨大な熱量へと変換され、砲身の中で集束され……ない(・・)

 熱量変換の出力が高すぎて集束せず、ビームとして放つに至らないまま……砲身の中でエネルギー総量のみを増大させていく。

 やがて、耐熱処理された砲身さえも歪み、融け始める。


 それこそが【FBC】の欠陥。エネルギーの制御がまるで利かず、エネルギー不足で放てないか……エネルギーの過剰変換で自爆(・・)するかの二択。

 かつて実験場で大爆発を起こし、周囲一帯を焦熱地獄と化した上でテストパイロットだった黒三鬼をデスペナルティに追い込んだ。

 苦い経験であり、今回も技術者達から持たされてはいたが使う気はなかった。

 だが、もはや自分の退場は確実。

 それは自分に預けられた<叡智の三角>のMPも同時に消えることを意味する。

 こんなとき、彼の仲間……愛すべき技術バカ達ならば何と言うか。


 ――負けるくらいなら、相手の勝ちも消すべきだよねぇ。

 ――100%吹っ飛ぶけど、それだと逆にそういうものとして受け入れられるよなっ!

 ――溶融するときにどっから壊れるかのデータよろしく。

 ――芸術が爆発じゃない。爆発が芸術なんだ。特にこのアニメの二七話の……。

 ――派手にやろうぜ! ド派手に!


 どれもありえそうで、黒三鬼は笑ってしまう。


「ハハッ。それじゃあまぁ……デカい花火を打ち上げようかァ!」

 笑いながら、吼える。


 きっとこうなることを期待して、仲間達は魔力と装備を預けたのだと確信しているから。


 ――その力を発揮するときはいつだって仲間がいるということさ。



「ああ、まったくだ!」

 かつての友の言葉を脳裏にリフレインしながら、黒三鬼は最後のトリガーを引いた。



 光の奔流が収束されないまま砲身から放たれる。

 砲口から発射された以上の光が、砲身の側面を融解して溢れ出す。

 四方八方へとうねり進む幾本もの光の奔流は、最初に黒三鬼の機体の右腕を蒸発させる。

 次に皇国陣地に乗り込んだ王国の<マスター>の半数と、残存していた【電波大隊】の三分の一を呑み込む。

 光の中で、電磁バリアを展開した【トールハンマー】だけが耐えている。


 そして地上を薙ぎ払った光は空へと達し、アルベルトを掠めながら更に上空……翡翠雲を貫いた。


『――――――』


 これまで自然の権化の如く振舞っていた翡翠雲の一部が円形に蒸発し、声にならない悲鳴と共に表出した巨大な眼球が苦痛に歪み、スコールが止む。

 届かず、物理攻撃も効かぬエレメンタルであっても莫大な熱量の直撃は堪えたらしい。

 黒三鬼の引いたトリガーは、明確に戦況を動かす一手となった。


「へ、へへ……」


 全方位へ光の軌跡と破壊をまき散らした後、戦場を混乱に叩き込んだ機体は……仰向けに倒れて瓦解していく。

 機体の損傷がパイロット諸共、限界に達したのだ。


「マードックさんの【電波大隊】も巻き込んじまった……あとで謝らないとな……」


 火花を上げるコクピットの中で、生命維持が限界に達した黒三鬼の手が操縦桿を離れる。

 この戦場を生き延びることはできず、最後まで戦い抜くこともできなかった。

 それでも……。


「だけど……みんなの『期待』には応えられただろ?」


 機体と魔力を預けてくれた仲間に笑いかけて……黒三鬼はデスペナルティとなった。

 最期に、『……次は爆発しない奴が良いな』と少しだけ思いながら。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<14巻の著者校正用原稿が届いたので


(=ↀωↀ=)<次回更新は多分お休みになります



〇【FBC】


(=ↀωↀ=)<分かりやすく言うとヴァ〇エイト(ガ〇ダムW)


(=ↀωↀ=)<ちなみにこっちは欠陥どころでなく失敗作


(=ↀωↀ=)<基本的に開発装備は防御系の方が作りやすいし性能上げやすい


(=ↀωↀ=)<失敗したときに大爆発も起こりにくいしね


( ̄(エ) ̄)(……こいつ、再登場したらビ〇ゴになってそうだな)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 裏方が輝く(大暴発) [気になる点] 【フル・ブラスト・カスタム】は何故に手に持って試射されたのか。 そういう大出力の場合は最初に遠隔操作で試射しそうなのに…
[一言] 黒三鬼くんみたいなマスターを見ると戦争で〈超級〉が産まれ安いってのもわかる気がする
[良い点] 黒三鬼くんかっけえ…(自分の中で黒三鬼くんは黒髪黒目で片目が髪で隠れている典型的な中二的キャラとなっております)。 [一言] ネメシスの最終再臨はいつになるんでしょうねぇ…期待して全裸待機…
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