第三十六話 誰?
(=ↀωↀ=)<本日、七月七日は主人公レイ君の誕生日です
(=ↀωↀ=)<悩みましたが今日も更新です(できたばかりのストックは消えました)
(=ↀωↀ=)<まぁ、レイ君は出番ないんだけどね
□王国南東部
「ねぇ、知ってる~?」
「はい! なんでしょう!」
強い風に吹かれながら、一組の男女が喫茶店での世間話のように言葉を交わす。
男の方……十代半ばの少年はどこかのんびりとした声で話しかけ、女性の方……傍らの彼よりも少し年上の女性は軍隊か体育会系の部活のようなテンションで応じる。
「皇国には飛行機がないらしいよ~」
「機械の国なのにどうしてないのですか!」
奇妙な組み合わせの二人だった。
少年はコートを複数着込んでいるせいで全体のシルエットが丸くなっており、目深に被った帽子には風車が差さっている。
女性は褐色の肌に白色の墨でペイントをし、鳥の羽をメインとした民族衣装のようなものを着ていた。
けれど、彼らの服装以上に、彼等のいる場所がおかしい。
彼等がいる場所は決してゆっくりと話すような場所ではない。
いや、場所と言うのさえ正しいかは分からない。
そこは地上から五〇〇〇メテルの空の上。
少年は宙に浮かぶ雲に腰かけ、女は鹿の如き角を持つ異形の鳥に乗っている。
討伐ランキング三位、【嵐王】ケイデンス。
討伐ランキング五位、【飛将軍】リーフ。
王国第四位クラン<ウェルキン・アライアンス>のツートップは、余人の立ち入れない空で話していた。
「技術的に発展できなかったんだって~。ライト兄弟の飛行機でこの世界の空に上がる、みたいな?」
「それは死にますね!」
「だよね~。空って魔境~」
速度、耐久、旋回性能。悲しいかな、<Infinite Dendrogram>の飛行機はその全てが空を飛ぶ基準に満たない。
<Infinite Dendrogram>の空は、最低でも亜竜クラスでなければ生き辛いものだ。
猛禽の生息地を雀が飛ぶようなものである。
「それに高度が上がるほどそれに適応できる性能のモンスターとだけ戦うことになるもんね~。地上の純竜クラスが可愛く見える程度には困った強さ~。僕達も慣れるまで随分死んだよね~」
人が空に上がる手段は少ない。
もっとも手っ取り早いのは飛行可能な従魔を得て騎乗することだが、人間が得られる従魔の多くは空の覇権争いでは下位に位置する。
また、風属性魔法や地属性魔法の応用で一時的な飛行は可能だが、それも使用者の魔力が尽きるまでの時間に限られる。
飛行機械は脆弱性と魔力消費の両面から、<Infinite Dendrogram>では発達しなかったのである。
それこそ先々期文明の煌玉竜の領域にまで至れば話は別だろうが、皇国の技術は建国からの数百年をかけても一人の名工の技術に達していない。
「だから彼らの飛行機も技術を進歩させることができなかったんだって~」
「残念です! 戦闘機との空中戦やりたかったです!」
「むしろ、王国の方が飛んでるよね~。【セカンドモデル】は速度や旋回性能、防御力、そして継続航行時間のバランスが良いし~。『普及して』って言わんばかりだよね~」
ケイデンスは愉しげに話す。
「それにしても見つからないね~。大勢で動けば分かりそうなものだけど~」
「はい! 朝になったので鳥達を出しましたけど、まだ見つかりません!」
リーフが指差した方向では、雲に幾つもの鳥の影が映っていた。
「どこにいるのかな~。僕らのターゲット――【魔将軍】」
にこやかに笑うケイデンスだが、その細めた瞼の奥で目は地上を観ている。
二人のターゲットは皇国の<超級>の一人、【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト。
彼らがローガンの撃破に動くのは、相性がいいからだ。
ケイデンスの殲滅能力は王国でも最上位であり、万の軍であろうと一掃できる。
リーフの怪鳥軍団は対多数戦闘力の高さだけでなく、敵軍を突っ切ってターゲットを殺傷することも可能。
つまり、悪魔軍団の守りをこじ開けて本人を殺せる公算のある二人ということだ。
それゆえに開戦前から二人はローガンを捜していたが……一向に見つからない。
途中、<エンブリオ>やモンスターで空に上がってきた皇国の<マスター>や野良の純竜・怪鳥を殲滅したこともあったが、肝心のローガンはまるで見つからない。
既に王国中を一周したというのに、だ。
「それにフラッグも見つかりません!」
彼らはローガン打倒と同時に、皇国のフラッグ捜索も行っている。
しかし、建造物サイズの<砦>のフラッグさえも今はまだ発見できない。
「ん~。もしかしてセットで『僕らに見つからないところ』にいるとか?」
「どこでしょうか!」
「空から探して見つからなくて、王国国内で街中でもない場所だからね~」
そうしてケイデンスは少し考えて、
「――地下とか?」
――思い付きのように答えを口にした。
◆◆◆
■アルター王国某所・地下
そこは、人工の灯りに照らされた空間だった。
元々地下に存在した空間を、<エンブリオ>と魔法によってさらに拡張し、整えた場所。
その中心には一本の旗……皇国の<砦>が屹立している。
上空・地上からは確認できない地下空間こそが、皇国の<砦>。
既にこの空洞に繋がる入り口も潰し、アイテムボックスに保存した空気を循環させる形で生存圏として機能させている。
堅牢さにおいてはカルチェラタンの<遺跡>を流用した王国に劣るが、発見は困難な立地である。
地下という環境だが防衛の人員は配置されており、中堅クランや決闘ランカーの約半数がそれを担当している。
皇国では決闘の人気が王国ほど高くはないため戦力としてはそれなり止まりだが、これには理由がある。
元より王国内部での戦争。敵の領内での防衛戦という不利に戦力を多く割くよりは攻め手を重視し、有力な準<超級>はほぼ全て攻撃に回っている。
<砦>を戦って守るのではなく隠して守っていることからも、皇国のスタンスは明らか。
しかしそれでも、大戦力の一つはここに置かれている。
『…………』
<砦>フラッグの真下に置かれた椅子に腰かけているのは、全身鎧の男。
顔まで隠れる完全武装だが、それが誰かは皆が知っている。
【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト。
皇国の<超級>の一人であり、この<砦>防衛の要。
悪魔を呼び出す本人の暗殺を警戒し、いつにない完全武装で待機していた。
<砦>は動かせない防衛目標。
広域制圧型に対し、個人戦闘型では防衛できない。
しかし広域殲滅型をこの地下空洞で使う訳にはいかない。
そして広域制圧型でも……フランクリンのパンデモニウムは巨大すぎて配せない。
王国の目を逃れるために地下に配した<砦>の防衛に使える広域制圧型の<超級>は、ローガン唯一人だった。
『…………』
ローガンは戦争開始の少し前にここを訪れ、以降は無言で<砦>の傍に陣取っている。
そんな彼を他の<マスター>は遠目に見ながら、小声で話し合っていた。
<超級>であり、間違いなくこの場で最大の戦力であるが……その立場ゆえかローガンの常の言動は他者にとって傲慢であり、当然の結果として腫れ物扱いされている。
「……ッ」
「あ、おい! イライジャ!」
しかしそんな中で、一人の<マスター>が意を決しローガンのところへと歩み出す。
仲間が止めようとするが、それでも止まりはしない。
「ローガン」
『?』
ローガンに話しかけたのは、イライジャという<マスター>だ。
上級職ながら皇国の決闘ランキングにおけるかつての二位であり、今も上位に位置する猛者。
正義感の強い男であり、以前も講和会議の前に王国を闇討ちしたクロノを正面から批判し……逆にデスペナルティに追い込まれた。
彼とローガンの間には因縁がある。
彼は決闘一位だったローガンに幾度も挑戦し、そして神話級悪魔【ゼロオーバー】によって鎧袖一触で葬られた。
当時の決闘一位を掛けたランク戦は、彼の処刑ショーだったと言ってもいい。
ローガン本人に嘲笑されたことも、数多い。
不倶戴天の仇敵とさえ言えるだろう。
しかし今は二人とも……この拠点の防衛を任されている。
「……殿下は、最悪の場合は<砦>を放棄しても構わないと仰った」
そもそも敵側に地の利がある王国での戦争。
立地の重要性が高すぎる<砦>に関して、皇国は最初から不利なのだ。
ゆえに、最悪の場合は戦力を優先して<砦>は捨てる。それがクラウディアの判断だ。
「それでも俺達は全力でここを守る。フラッグの数は、皇国の未来の可能性だからな」
彼は世界派であり、皇国の人々との交流も多い<マスター>だ。
それゆえ、見知った人々の未来が掛かったこの戦争にも、強い意気込みで臨んでいる。
「だからこそ! お前の力も必要なんだ! 今度ばかりは、頼む!」
過去の因縁よりも、親しい人たちの未来。
これまでの蟠りも呑み込んで、彼はローガンに頭を下げた。
ローガンからの嘲笑や罵倒も覚悟しての行動。
周囲が息を呑みながら、ローガンの反応を待つ。
嘲笑が返ってくることも想定していた彼らに対し、ローガンは。
『――もちろんだとも!』
イライジャの肩を叩き、とても明るく力強い声でそう答えた。
「…………え?」
イライジャは一瞬、何が起きたのか理解できずに顔を呆けさせる。
『私が持つ【魔将軍】のスキルと悪魔の力! 惜しみなく使って王国の魔の手から<砦>を守るとも! みんな! 皇国の未来のために力を合わせて頑張ろう!』
「あ、ああ……」
イライジャはやや引き気味に答えた。
それは当然と言える。
ローガンと幾度も戦った彼だからこそ……この会話の違和感が凄まじい。
『よし! 心を一つに掛け声だ! えいえいおー! えいえいおー!』
「え、えいえいおー……」
『声が小さいぞー! よーし、《コール・デヴィル・ギーガナイト》! 一〇体!』
「え!?」
それは当然の驚愕。
召喚に相当なコストが必要と言われる【ギーガナイト】を、非戦闘時に呼び出すのだから。
正気とは思えない行動だしこれまでのローガンならありえない。
しかし実際に……【ギーガナイト】は呼ばれてしまった。
『惜しみなく使う』にも程がある。
『さあ! みんな一緒にー! えいえいおー! えいえいおー!』
『『『EIEIO! EIEIO!』』』
「え、えいえいおー!」
そしてローガンと悪魔の大合唱に気圧されながら、他の者達もやけくそ気味に復唱するのだった。
能天気なサバト、あるいはテンションのおかしい朝礼のような光景である。
『みんな! 頑張っていこー!』
そして掛け声が終わった後、イライジャを筆頭にその場にいたローガン以外の全員が思った。
(((――――誰?)))
さもありなん。誰がどう見ても明らかにおかしい。
性格が一八〇度変わったどころではなく、異次元の捻じれ方とさえ言える。
別人としか思えないが《真偽判定》に反応はなく、【魔将軍】しか呼べない【ギーガナイト】まで呼んでいる(えいえいおーのためだけに)。
<砦>の<マスター>達には理解不能すぎて、『自分は眠って悪夢でも見ているのではないか』とまで怪しんだ。
しかしながら、『……とりあえず防衛は大丈夫そうだからいいか』と棚上げすることにしたのだった。
To be continued
(=ↀωↀ=)<……閣下壊れてないですよ?




