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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第七章 女神は天に在らず

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第三十二話 今持てる全てで

(=ↀωↀ=)<コメント返しは初戦が終わってからの予定です


(=ↀωↀ=)<あと初戦終わったら休みます


〇状況説明追記


(=ↀωↀ=)<前回の作中で書かなかったけれど


(=ↀωↀ=)<《ダイ・オール・トゥギャザー》の影響下なのでログアウトはできなくなってますよ



〇本文修正

(=ↀωↀ=)<一部修正


(=ↀωↀ=)<病毒系→呪怨系

 □■<墓標迷宮>・地下二階


「セイッ!!」

『…………』


 マリリンの角槍を【導禍戦】イゴーロナクは避けもせずに受け続けている。

 ルークの読み通り、【導禍戦】の効果発動は破壊ではなく時間経過であり、タイムリミットはカウント開始から三〇〇秒。

 そして模様が浮かんだ生物やオブジェクトに与えるダメージは【導禍戦】の損傷度合い(ダメージ量)の五〇%に等しく、減算・無効化は不可能。

 つまりは破壊されない限り、【導禍戦】へのダメージは被害を増大させるだけである。

 そして、破壊はまず不可能。

 今や眷属となり戦闘系超級職に匹敵する戦力となったマリリンが一分近く攻撃し続けているが、先の奥義と合わせてもこれまでに【導禍戦】に与えたダメージは一万に満たない。


 今の【導禍戦】の装備防御力は一〇万(・・・)に達する。

 装備の耐久度、生物で言うHPに至っては、一〇〇〇万(・・・・・)


 これはヒカルがヴィトーに二〇〇〇万ものMPを譲渡したためだ。

 この半分は【鋼裂】の使用や遠隔操作に使用するためのMPだが、もう半分はたった一つのスキル……《ダイ・オール・トゥギャザー》に注ぎ込まれている。

 【導禍戦】の《ダイ・オール・トゥギャザー》は、スキルに注いだMPによって性能が決定する。

 今の【導禍戦】は耐久型の超級職の防御態勢に匹敵するENDを持ち、HPも膨大。

 大量のMPを注ぎ込んだ【鋼裂】での自刃も、それを使わなければ自らにダメージを与えることもままならないからだ。


 そんな異常強度の時限爆弾を――たったの五分で破壊することは不可能である。


(このままでは……失敗の極み!)


 幾度も攻撃を加えたマリリンは、自身のダメージソースと相手の強度を把握している。

 幾度も攻撃した自身の角槍の方が、欠け始めている。

 茨の導火線での残時間も把握しており、残りは三分足らず。

 AGIによる体感時間の加速があってもあまりに短く、このままでは破壊できない。


(物理防御の高い手合い……! これは私よりもあのバカ鳥の炎の方が……弱音はなしだ!)


 それでもマリリンは主からの指示に従い、最後まで破壊を諦めずに攻撃を続ける。

 そんなとき、


『なぁにがどうなってやがる!』

 鎧を着た巨人が――バルバロイ・バッド・バーンがその戦場に現れた。


 バルバロイの鎧や盾にも、導火線の模様は浮かんでいる。

 解呪を試みたが達成できず、そうする間に戦闘音に気づいて近づいてきた形だ。

 なお、彼女の視界は現在問題なく見えている。モクモクレンの必殺スキルはMPを注ぎ続ければ効果を継続する代物だが、解除した後にはクールタイムが発生するためだ。

 クールタイムは長く、【導禍戦】の効果が発動するまでに明けることはない。


「おお、ビースリー殿! お久しぶりです! しかし主の命でこれを壊さねばならないのであいさつはそこそこの極み!」

『……そこそこと極みのどっちだよ』


 バルバロイの姿を見てもマリリンは手を止めず、攻撃を続けていた。


『お前は……いや、察した』


 この姿の自分をビースリーと呼ぶ相手はそう多くないが、相手に見覚えはない。

 しかし、鎧や槍の見覚えのある質感から『ルークのマリリンが人化しているのだろう』と理解した。


『そいつが原因か?』

「はい! 模様の色が変わりきるまでに壊さねば皆が死ぬのですが、とても硬いです!」

『……把握したぜ』


 状況を掴んだバルバロイは自らの盾である【防壁相砕】を構える。

 しかしそれはただ構えるのではなく、同時に自らの身体を伏せる(・・・・・・・・・)奇妙な防御姿勢。


『そいつをこっちにノックバック(・・・・・・)させろ!』

 構えを変更すると同時に、バルバロイはマリリンへと明確な指示を出した。


「承知!」


 マリリンもそれに応じ、自らの槍と膂力で押し込むように【導禍戦】を突き飛ばした。

 数メテルの距離を吹き飛ぶ【導禍戦】。

 それに対してバルバロイは、


「《アストロガード》――」

 自らの防御力を五倍化させるスキルを発動し――、


「――《五体投地結界》ッ!」

 ――重ねてさらに防御スキルを使用した


『ッ!』


 これまであらゆる攻撃を受け流してきた【導禍戦】に、初めて動揺の色が見える。

 《五体投地結界》は、バルバロイが新たにサブジョブで獲得したスキル。

 【僧兵】のスキルであり、自らの身体を伏せることで防御力を四倍化するというもの。

 それはバルバロイが相対したヴァーミンの用いた、防御乗算スキルの重複。

 かつてバルバロイ自身もその手法を没にしたことがあり、欠陥を即座に突いて撃破している。

 だが、事情が変わった。

 接触時に相手の防御力を自身の防御力分だけ減算する【防壁相砕】の獲得。

 それによって瞬間的な防御を高めることに更なる意味が生まれ、バルバロイは今一度自らのビルドを見つめ直した。

 そうして生まれたのが二つの防御乗算スキルと【防壁相砕】のコンボ。

 防御力(五〇〇〇)×《アストロガード()》×《五体投地結界()》……一〇万という今の【導禍戦】に匹敵する防御力。

 それが齎す事象は、二つ。


 第一に、接触による防御力の大幅減算。

 ノックバックによって【防壁相砕】と接触した瞬間、【導禍戦】の装備防御力が一瞬でゼロと化した。

 これまでマリリンの攻撃をものともしなかったパワードスーツが、盾との激突でミシリと音を立てる。


『――《解放されし巨人(アトラス)》ッ‼』

 そして第二は――攻撃力(・・・)


 発動するは、バルバロイの必殺スキル。

 防御力は十倍化された上で一〇秒間の超攻撃力に転化する。


 その攻撃力――約一〇〇万(・・・・・)


『――死ぬまで砕けろぉぉぉぉぉ!!』

 ――直後に放たれるは、両手の盾による猛打連打。


 【導禍戦】をも十撃で屠り去る破壊の暴虐――否、防虐(・・)

 超防御減算からの超攻撃力のラッシュ。

 これこそが、バルバロイ・バッド・バーンの進化形。


『――――』

 圧倒的な蹂躙は、イゴーロナクでも耐えられるはずがない。


 十秒の効果時間の半分ほどで、破壊は完遂される。

 砕けたパワードスーツの破片が、さらに細かな破片になり、やがて微細な塵となった。

 死ぬまで砕けろという言葉のままに。

 そうして一機のパワードスーツが完全に破壊されて、決着する。


 ――だが。


「――ビースリー殿! 違う! ソレ(・・)ではない!」

 ――マリリンからの警告が、バルバロイの耳に届く。


『な、にぃ……!?』


 砂の如き、機械の破片。

 しかしその色は――黄色と黒の警戒色ではない。


 砕けていたパワードスーツは【導禍戦】でなく――【イゴーロナク壱型】だった。


『こいつは……!』


 それを為したものはラージのチェンジリング、視界内転移・位置交換スキル。

 いざというときのために残していたスキルを、【ブロードキャストアイ】を通してバルバロイのラッシュの直前に使用したのだ。

 通常は空気と入れ替えて単純な転移として扱うが、今回は違う。

 半壊したまま動かずにいた【イゴーロナク壱型】と【導禍戦】の位置交換によって、バルバロイのラッシュは入れ替わった【イゴーロナク壱型】を粉々にする結果になった。

 バルバロイは《五体投地結界》の構えと自らの盾で、必殺スキル発動の瞬間まで視界が塞がっており、直後にラッシュに入ったために気づくのが遅れたのだ。


『…………』


 寸前まで【イゴーロナク壱型】が棒立ちになっていた場所に、【導禍戦】は在った。

 既に、自刃はしていない。自らを破壊しうる戦力の出現と……既に範囲内の生物のHPを全損させるだけのダメージを蓄積したためである。


 残時間は、一〇〇秒。


『野郎ッ!』

「ハァッ!」


 バルバロイが残った二秒で一撃でも当てるべく両の盾を投擲し、マリリンも【導禍戦】の動きを制するように動く。


『盾にだけ注意しろ』


 だが、ヒカルは【導禍戦】を動かすヴィトーにそう指示を下した。

 その言葉に応じ、【導禍戦】が全力での逃走姿勢をとる。

 ダメージの軽いマリリンの攻撃に構わず、必殺の威力が篭もったバルバロイの盾を回避することに全力を尽くす。

 槍の攻撃は先刻よりも大きな罅……僅かに貫通して穴を空けるが、しかしバルバロイの盾は回避される。

 そして、《解放されし巨人》の効果時間が終了する。


『このまま凌ぎ切る』


 残時間九五秒。内、防御力減算時間四五秒。

 HP残存量、およそ七〇〇万。損傷度合いは三〇〇万であり、全生物・オブジェクトへの減算・無効化不可の一五〇万ダメージを発揮する。

 敵と見定めた者の中に、生き残れる者はまずいないだろう。


(……復元はなしか)


 自刃をやめた【導禍戦】の損傷を見ながら、バルバロイは一つの推測をする。

 眼前のパワードスーツ……【導禍戦】を動かしている道理が先刻までと同じならば、ダメージの復元も同様に実行可能なはずだ。

 効果発動まで耐えきることが前提ならば、猶更。それをされればいよいよ破壊など不可能だろう。

 しかし、それをしない。

 そのことが、一つの答えを示している。


(相手のスキルを示すこの模様、……時間が来たら全員死ぬというスキル。恐らくは自身の現在の損傷度合いを参照した広範囲カウンタースキル。だから、損傷(ダメージ)を消せば発動する効果自体が消え失せる)


 その推測は正しく、それゆえに【導禍戦】はパラノイアの刻印を使わない。

 仮に復元した直後に拘束されてしまえば、《ダイ・オール・トゥギャザー》がノーダメージと成り果てるためだ。


(復元しないなら、このまま削り切る!)


 バルバロイは自分の推測を信じて動き出し、マリリンも応じる。


『《ストロングホールドプレッシャー》!』

「《ディストーション・パイル》!」


 両者が攻撃を仕掛けるが、【導禍戦】に狼狽はない。

 防御力が削られていようと、必殺スキルがなければ二人の攻撃力で七〇〇万を削り切ることは不可能。

 加えて……。


『もう食らってやる必要もないんだぜぇ!!』


 【導禍戦】も迎撃に動き出す。

 【鋼裂】を振るい、接近するバルバロイに対して振り抜く。


『チッ!』


 咄嗟に身を逸らすが【防壁相砕】の端がチェンソーによって切断される。

 だが、バルバロイはそのまま盾を振るって【導禍戦】にぶち当て……ノックバックした瞬間をマリリンの奥義が捉える。

 しかしそのコンビネーションでも残HPの一%も削れてはいない。


(火力が足りない……! もっと瞬間的に大火力を当てなければ、このパワードスーツは砕けない!)


 バルバロイは模様の変化と相手の損傷度合いから、間に合わないことを察していた。

 それでも撃破のために足掻く以外に道はない。


(せめて、もっと火力要員がいれば……!)


 バルバロイが盾を振るい、【導禍戦】がチェンソーを振るう。

 その瞬間に、



「――先輩! 動きを止めてくれ!」

 ――聞き覚えのある声が聞こえたその瞬間に、バルバロイは使用スキルを切り替えた。



『《天よ重石となれ(ヘブンズ・ウェイト)》、圧縮展開!』


 バルバロイは両手を【導禍戦】に向け、五〇〇〇倍の超重力で動作ごと機体を圧し潰す。

 防御力ほどのSTRを持たない【導禍戦】は身動きが取れず、さらに機体重量の五〇〇〇倍という加重はダメージも生じさせていた。

 だが、それよりも強烈であったのは、



「――《シャイニング・ディスペアー》!」

 ――機身を貫く一条の光熱。



『っ!?』


 これまでで最大のダメージが叩き込まれたことを、操作するヴィトーは知覚した。

 【導禍戦】の胴体には大穴が空き、加重も合わさって機体が軋んでいく。


『……戻って来たか』


 【ブロードキャストアイ】を通してヒカル達が視たものは……階段の前で砲口に変形した【黒纏套】を構えるレイ・スターリング。

 一度は上の階に逃がされながら、戻って来たのだ。

 危険へと舞い戻る愚行だが、その判断は間違いではない。

 どの道、【導禍戦】のスキルが作動すれば死は免れない。

 ならば一縷の望みをかけて撃破に向かった方が生存率は上がる。

 そのことをレイはバビを介してルークから事情を聞いた時点で理解していた。

 援護されたバルバロイも同様であるため、『なぜ戻ってきた』とは問わない。


(しかし、一度しか撃てない《シャイニング・ディスペアー》を……。ですが、かなりのダメージにはなりました)


 バルバロイはレイに切り札の一枚を切らせてしまったことを苦く思ったが、しかしそのダメージ量は明らかにこれまでで最大のものだ。


 しかも援護はその一撃に留まらない。


『野郎! 足を抉ったはずがどうして……!』

『ヴィトー、まだまだ来るぜ!』


 ラージの警告の直後、レイの後方から更なるスキルの連打が【導禍戦】を襲った。


 多種多様なエフェクトとエネルギーの集中砲火。

 それはレイ同様に、そしてレイより先に上階へと逃れていた<マスター>達によるもの。

 彼らは地下一階で《うしろのしょうめんだあれ?》により行動不能になっていたが、先のスキル解除によって動けるようになってレイと合流した。

 そうしてレイと共にバビを介してルークから事情を聞き、【導禍戦】撃破のために地下二階へと戻ってきたのである。

 このときレイにとって幸運であったのは、そうした者達の中に【司教】がいたことだろう。

 【司教】のパッシブスキルに傷痍系や呪怨系状態異常の治療効果アップがあり、レイの回復魔法では止血がやっとだった足の傷も治療されている。完全欠損ならともかく、このくらいなら回復の範囲だ。

 それゆえ、レイも地下二階の戦闘に参加できた。


『数が増えたか。だが……まだだ!』


 防御力を失った身に突き刺さるスキルの数々は【導禍戦】にとっても痛く、それでHPが最大値の四割を切った。必殺スキルも含まれるスキルダメージは、初弾の《シャイニング・ディスペアー》と合わせて三〇〇万オーバーにもなる。


 だが、ヒカルは冷静に問題ないと判断する。


 連発できずクールタイムの必要なスキルの数々による、二度目はない総攻撃。

 それをさらにもう一度繰り返しても、撃破に足りぬ程度のダメージだ。

 残時間は七〇秒……通常の攻撃手段ならば、問題なく凌ぎきれる計算。

 それでも、ヒカルに油断はない。


『念には念を入れてダメージソース(敵戦力)を削る。可能ならレイ・スターリングも落とす』


 現在、超重力下の【導禍戦】は身動きが取れず、ヴィトーも動かせない。

 王国の<マスター>を削るなど出来るはずもないが……。


『――スモール(・・・・)


 ヒカルが指示を下したのはヴィトーではなく、スモールだった。

 直後、()から何かが吐き出される。


 否、それは床ではなく――チェンジリングの子機。


 【導禍戦】と【壱型】の位置を交換する際、あえて【壱型】の背中から落としていたモノ。

 子機から吐き出されたものは――幾つもの宝石(【ジェム】)

 そして宝石を放出した子機がゲートを収縮した直後、


「……ッ、まずい!」

『っ!?』


 レイとバルバロイがその意図に気づき、


 ――全ての宝石が一度に炸裂した。


 【白氷術師】奥義魔法、《ホワイト・フィールド》。

 【翠風術師】奥義魔法、《エメラルド・バースト》。


 広範囲型の奥義魔法がそれぞれ複数同時発動し、凍気と豪風が迷宮に吹き荒れる。

 至近にいたバルバロイたちはもちろんレイ達にまで届き、ダメージを与えながら体勢を大きく乱す。


『くっ……!』


 防御姿勢ではなくスキル発動の構えを取っていたバルバロイも、凍気によって動きを鈍らされ、竜巻の如き風に煽られてその体勢を崩し――重力圧縮の焦点がズレる。


 その間隙に、【導禍戦】が動く。


 視界になっていた【ブロードキャストアイ】は【ジェム】の発動によって絶命していたが、既にモクモクレンによってその場にいる者の一人の視界をジャックしている。

 アトラスの重力圏を抜けて飛び出し、階段前のレイ達に迫る。

 残時間、六〇秒。

 時間が来れば全て死ぬが、それでも眼前のレイ・スターリングは確実に仕留めなければならないと察していた。

 彼が『命』であるかは、まだ確定ではない。

 状況的にほぼ確実だと考えているが、それすらもブラフという線もある。


 だが、王国でも死に辛い(・・・・)<マスター>の最上位であることを最早疑っていない。


 戦闘スタイルの問題ではない。

 遥かに格の違う相手と戦い続け、悪夢のような修羅場を幾度も潜り抜けながら……デスペナルティに至ったのはたったの二回(・・・・・・)

 ろくに戦う術もなかった頃、<超級>をも屠ったPKの奇襲で一度。

 西方三国最強の【獣王】との戦闘で一度。

 それ以外は全て……<超級>や<UBM>、決戦兵器との戦闘の全てを生き延びた。

 そして、このイゴーロナクとの戦いでもあれだけ追い詰めてまだ生きている。


 ありえないはずだが、《ダイ・オール・トゥギャザー》さえも凌ぐ恐れがある。

 その懸念が消えない以上、レイだけは確実に消さなければならない、と。


 それゆえに《ダイ・オール・トゥギャザー》の発動より先に、確殺を狙う。

 【ジェム】によって王国側の体勢を崩し、追撃を仕掛ける。

 レイは黒円盾のネメシスを構えているが、【鋼裂】ならば《カウンター・アブソープション》を使われようと押し切って両断できると踏んだ。


『これで終いだ!!』


 ヴィトーの操る【導禍戦】が接近し、レイを【鋼裂】の間合いに収めたとき。



「――《瘴焔姫(ガルドランダ)》――」

 ――レイの両手には見覚えのある手甲が装着されていた。


 残時間、五五秒。


 ◇◇◇


 □【聖騎士】レイ・スターリング


 それは偶然か、必然か。

 俺の下に、【瘴焔手甲】が戻ってきていた。

 奴が発動した風属性魔法の奥義の風圧か、あるいは以前の【魔将軍】戦のように自身の意思で動いたのか、【瘴焔手甲】は俺の手の中に収まっていたのだ。

 既に、【瘴焔手甲】は相手の<エンブリオ>の影響下にはないようだ。

 時間経過によるものか、あるいは他の条件によるものか。

 どちらだとしても、俺は再びこいつを装備することができる。

 同時に、コイツ自身からも怒りや苛立ちのようなものが伝ってくる。

 

 ――私を使え、と。


「…………」


 自らに浮かぶ茨の模様。ルークから聞いた説明で、残り時間が一分程度だと分かっている。

 パワードスーツは俺達の攻撃で半壊しながらも、健在。

 あと一分でこれまでと同等かそれ以上のダメージを与えなければ俺達は敗れ、この<墓標迷宮>も崩壊する。

 【黒纏套】はチャージを使い切って再使用不可。

 ネメシスのダメージカウンターは、あの警戒色のパワードスーツに対しては蓄積していない。

 《煉獄火炎》で削り切るのは難しい。

 斧でも、左右の二発では破壊できないかもしれない。


 それでも、――まだ届くかもしれない切り札(ジョーカー)が俺の手の中に在る。


 これは諸刃の剣で二度は使えない。

 始まったばかりの戦争、その初戦。

 相手は本体ではなく遠隔操作されたパワードスーツ。

 大局的には、ここでの使用は誤りなのかもしれない。


「そうだとしても……」

『皆まで言うな!』


 俺の言葉を遮り、ネメシスが叫ぶ。

 俺の逡巡や躊躇いを、払いのけるように。


『切り札を使い切ろうとも、私だけでもレイを支えてみせる! だから、今ここで全力を尽くせ!』

「……ああ!!」


 ネメシスの言葉に背中を押されて、決意する。

 この行動の巧拙は、分からない。

 俺が無事で済む保証もない。


 けれど、今持てる全てで眼前の壁を突き崩すことは……間違いなんかじゃない。


 俺は決断し、――呼びかける。



「――《瘴焔姫(ガルドランダ)》――」

 ――俺の二人目の相棒に――



「――――《極大(マキシマイズ)》‼」

 ――――最強のジョーカーに。



 To be continued

(=ↀωↀ=)<戦争初戦、“不屈”VS“不退転”


(=ↀωↀ=)<次回クライマックス


〇《極大》


(=ↀωↀ=)<前に《極小》って言ってたときと言う順番が違うって?(「《極小》、《瘴焔姫》」)


(=ↀωↀ=)<この順番の方がカッコイイ気がしたのです


(=ↀωↀ=)<まぁ、召喚完了までに宣言すればOKってことですが


(=ↀωↀ=)<ちなみにガルドランダを二人目の相棒と言っていますが


(=ↀωↀ=)<シルバーは相棒っていうか愛馬ですし


(=ↀωↀ=)<相棒だとしても『人』じゃなくて『頭』とか『騎』で数えます



〇バルバロイのコンボ


(=ↀωↀ=)<ヴァーミンの使ったものから【獣拳士】の《甲亀の構え》を抜いたもの


(=ↀωↀ=)<ただし、【防壁相砕】や《解放されし巨人》があるので非常に攻撃的になっている


(=ↀωↀ=)<ちなみに【マグナムコロッサス】が分厚いので伏せてもそこそこ高さがある模様

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今の必殺スキル状態のバルバロイって、 クマニーサンのバルトルの戦神艦迫撃決戦形態の攻撃力を超えているんじゃないのかな? そうだとしたら殴り続けたときの余波が危ないような・・・
[気になる点] 斧さんが本領を発揮できればディスペアー連射とかできたのかな?熱のせいでレイ君ブローチ受けする必要あるかもしれんけど [一言] マキシマイズの反動ガチャはどうなるのか
[良い点] 主人公が主人公してること。 [気になる点] レイ君しばらく出番ないんじゃねこれ? 別にいいけど [一言] 更新お疲れ様です。
感想一覧
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