第三十一話 導火線
(=〇ω〇=)<なんとか書けた……
〇告知
(=ↀωↀ=)<書籍版十三巻が好評発売中です
(=ↀωↀ=)<それと来月、7月1日にもう一本出ます
( ̄(エ) ̄)<六巻の期間限定特装版だった童話分隊が電子専売で販売されるクマ
(=ↀωↀ=)<内容は特装版の中身を誤字修正してあとがきを加えたものです(一部姓名含む)
(=ↀωↀ=)<前回買い逃してしまった方や、販売終了後に本作を読み始めていただいた方向けです
( ꒪|勅|꒪)<ところで童話分隊の続きハ?
(=ↀωↀ=)<書くタイミングを待ってます
(=ↀωↀ=)<なおタイミングを待ってる間に
(=ↀωↀ=)<エピソードボス予定だった【光王】が書籍とWEBに出ました
■ヴィトー
俺達は無敵だった。
ヒカル以外は親もいなくて、園で同じ境遇の子供と一緒に暮らしてた。
それでも、俺達は自分達を不幸だなんて思わなかった。
ヒカルがリーダーで、みっちーが物知りで、大がムードメーカーで、小が気配りで、舐瓜が……一緒だった。
俺は一番喧嘩が強かったから、俺達をバカにして、お金持ちのヒカルを悪く言う学校の奴らをぶっ飛ばした。
強ければ仲間がバカにされることもないから、いつも喧嘩していた。
それでヒカルにお説教されても、大にからかわれても、むしろ嬉しかった。
俺達六人が揃っていればいつだって無敵で……いつまでも楽しかった。
◆
だけど……あの日の事故でその日々は途切れた。
最後に車の中から見たのは、崩落するトンネルの天井だった。
◆
旅行に誘ったヒカルが悪い訳じゃない。
運転してた園長が悪いのでもない。
だから、それ以外の何もかもが悪かった。
俺達の親がいないのと、同じように。
誰もいない、何も見えない暗闇で。
俺は一人きりで、無敵じゃなくて、楽しくもなくて……不安だった。
俺がいない場所で、あいつらが馬鹿にされたり、悪く言われたりするんじゃないかって。
何も見えなくても、手が届かなくても、俺があいつらを守らなきゃ……。
◆
……いつの間にか俺は野山の中にいた。
夢かと思ったけれど、久しぶりに体の感覚があった。
そこには動物みたいな大人の女がいて、俺にあれこれと説明してきた。
ここはゲームだと、訳の分からないことを言っていた。
俺はそいつに掴みかかって、みんなはどこにいると聞こうとした。
けれど軽くあしらわれて、「私はチェシャじゃない。モフられるのは御免だ」とまた訳の分からないことを言われた。
それからアバターのメイキングがどうのと言われて、自分の姿を選べと言われた。
そいつにあしらわれたことが悔しくて、みんなを事故から守れなかったのが悔しくて……俺はもっと成長した自分が欲しかった。
それから国を選べと言われて、みんなはどこの国に行ったのかを尋ねた。
しかし動物女は「知らん」と言って、「友達や仲間なら、お前が自分で分かるだろ」と言葉を続けた。
その当然の言葉に、俺は納得して……舐瓜が旅行で楽しみだと言っていた桜の木が目立つ国を選んだ。
だから、それは当然。
その国で……みんなと再会した。
◆
みんなと、旅をした。
みんなで、頑張った。
◆
みんなのために俺は――俺達を傷つける悪いモノを倒す。
◆◆◆
■【紅水晶之破砕者】コクピット
ヒカルとヴィトー以外の三人は、どうすべきかを迷っていた。
ヴィトーが取り出した【導禍戦】は彼らの切り札だが、同時に使用に制限がある。
今使えば、向こう一ヶ月は再使用できない。前回は【光王】の召喚モンスターとドローンに対して使用し……周辺の地形やモンスターごと全損させている。
本来なら<超級>や<砦>の攻略に使うためのもの。
実際、彼らを差配した皇王もその心算で動かしていただろう。
ここで使うとすれば、借り物の切り札……純粋戦闘力では【導禍戦】を上回るモノの方だ。
だが、メロを殺されたヴィトーは使用を躊躇う様子がない。
制止されても使いかねないだろう。
無論、スモールが地下二階のイゴーロナク背部の子機と繋がなければ、送り込めはしないのだが……。
「え、えっと……」
スモールは判断を仰ぐように、ヒカルを見た。
ヒカルは、【導禍戦】ではなくヴィトーを見ている。
「……ヴィトー。今回の結果を招いたものは何だと思う?」
「あの銀髪のクソ野郎だ! それに逃げ回った黒い野郎に、邪魔をした槍の女! 俺達に首輪を嵌めていいように使って、メロをあそこに送り込んだ皇王! ……何もかもだ!」
メロが王国に所属していることを逆手に取った策は、皇王の発案だという。
無論メンバー内でも危険として反対意見は出たが、同時に拒否も難しいという結論に偏った。
そして最終的にメロ自身も怖がりながらそれを許容した。『だって……皇国の王様のお願いを断ったら、大変なんだよね……?』、と。
そして彼女は自分の役目を果たし、奇襲を成功させて……死んだ。
デスペナルティか、二度と叶わぬ再会なのか。今は分からない。
ヴィトーはその責を――これまで同様に――自分達の周囲にあると述べた。
「違う」
だが、ヒカルはそれを否定する。
「こうなってしまった原因は……私だ」
メロが死んだのは自分のせいである、と。
「え?」
「チームのリーダーは私だ。皇国との交渉も私が行っていた」
あるいはヒカルがもっと上手く立ち回れていれば、もっと良い形でこの戦いに関わるか……あるいは関わらずに済んだだろう。
しかし、そうできなかった自身の力不足を、ヒカルは不甲斐なく思っている。
「……何より、メロに退路を塞ぐ仕組みを施すよう指示したのは私だ」
もしもあの工程がなければ、あるいはルークと鉢合わせすることもなく逃げ果せたかもしれない。
しかし、欲も出た。
ここでフラッグを一つ落として功績を積めば皇国との関係を優位に運べ、今後の枷を外せるかもしれないと。
それに王国の<マスター>は全員視界を失い、メロを傷つけられるリスクもまずないと考えていた。
しかし、結果としてはないはずだったリスクが……ルーク・ホームズという形で牙を剥いた。
あるいは、これまで一度も仲間をデスペナルティにしたことがなかったので、見積もりが甘くなっていたのかもしれない。
だからこそ、ヒカルは責任が自分にあると考える。
「けどよ……!」
ヴィトーは、仲間であるヒカルを責めることはできない。
それにヴィトーとて内心で目を逸らしながらも、本当は分かっている。
そもそも、今回の依頼を受けるに至った元凶が自分であると。
ルークに対して三機目で奇襲を仕掛けたときではなく、もっと前……イゴーロナクとして活動を始めた頃にまで遡る。
“不退転”のイゴーロナクとして名を馳せた原因は、ヴィトーにある。
自分の<エンブリオ>を看板にして、様々なクエストや討伐で活躍した。
身を守るためでなく、力を示すために動かした。
そうすることで他の者達から舐められないための虚像を作り出そうとしたのか、あるいは彼が心理的に必要とした強さのシンボルだったのか。
それは、<Infinite Dendrogram>に足を踏み入れる前の生活に起因するのかもしれない。
だが、その活躍ゆえに皇王に目をつけられて、……秘密も暴かれた。
だから、最初の原因はヴィトーにあるとも言える。
ヒカルが自分を責めたように、ヴィトーだって心の底では分かっている。
「それでも、俺は……!」
それでも、許せはしない。
自分の愛する仲間を奪った自分達以外の全てを、彼は許せないのだ。
それは、彼の<エンブリオ>のモチーフでもある盲目の神性にも似ている。
あるいは、彼の世界に見えているものは仲間達だけなのかもしれない。
仲間達以外は……彼の世界では本質的に敵なのだ。
「スモール」
拳を握り、歯を食いしばるヴィトーに視線を向けたまま、ヒカルはスモールに……。
「――ゲートを開けろ」
――ヴィトーの望みを許可する指示を出した。
「ッ!?」
「い、いいの……?」
ヒカルの言葉に、他のメンバー全員が驚く。
ヴィトーの提案を否定し、そのまま撤退すると思ったからだ。
「構わない。こちらは皇王の立てた計画で仲間を失った。これ以上、指示に従う義理もない。最低限は果たした。……ここから先は我々の意思で動く」
ヒカルは指を組み、前部座席に座るメンバー達に告げる。
その声音は、僅かに重い。
自身の不甲斐なさへの、そしてヴィトー同様の敵への怒りが滲んでいる声だった。
「我々の二つ名は、“不退転”」
それは損傷に構わず突き進んで敵を撃滅するイゴーロナクの戦闘スタイルに起因する二つ名だが、しかし別の意味でヒカルは納得していた。
自分達を示す名にこれ以上はない、と。
「我々に戻る道はない。
我々にやり直す道はない。
我々は――前に進むだけだ」
過去は変えられず、過去の悲劇によって定められた道をただ突き進むのみ。
それがイゴーロナクであり、彼女達の在り方。
(あるいはメロだけは……あの優しい<エンブリオ>を持つ彼女だけは、『やり直せる』と信じていたのかもしれないが)
そのメロも、今はいない。
ゆえに、イゴーロナクは前に進む。
あらゆる制約を、振り切って。
「ただし、ヴィトー。<墓標迷宮>での交戦は【導禍戦】投入で最後だ。成功しても、失敗してもだ」
どの道、この戦場では彼女達の全戦力を発揮できない。
だからこそ、【導禍戦】で最後だ。
これならば迷宮内部でも力を発揮し……迷宮内部だけを滅ぼせる。
「ただし、現状のフルで倒しにかかる」
「……ああ!」
下されたGOサインに、ヴィトーは力強く頷いた。
「みっちー。迷宮内部にティアンはいないな?」
「いないよ」
「分かった。MP供与――二〇〇〇万」
「オーライ! ヒカル!」
ヒカルは、これまでで最大のMPをヴィトーに供与する。
ヴィトーは、そのままMPの全てを【導禍戦】へと流した。
そしてスモールが開いたゲートに、イゴーロナクと化した【導禍戦】を潜らせる。
「【導禍戦】イゴーロナク出撃。――カウントダウンスタート」
そして、“不退転”のイゴーロナクによる<墓標迷宮>への最終攻撃が始まった。
◇◆◇
□■<墓標迷宮>・地下二階
「むっ……!」
マリリンの眼前で棒立ちになっていた半壊状態の【イゴーロナク壱型】に動きがあった。
まるで脱皮でもするかのように、背中から別の存在が出現したのだ。
それは警戒色に彩られたパワードスーツ……【導禍戦 デストラクション・フューズ】。
両の手には、これまでの機体同様に【鋼裂】を装備している。
「見た目と、何より込められた力の量が違う! 警戒の極み!」
古代伝説級の特典武具に、<エンブリオ>の力と何よりヒカルの魔力を上乗せした存在。
魔法系超級職すら凌駕する魔力を、マリリンもまた感じ取っていた。
『――カウントダウンスタート』
そして完全に姿を現した【導禍戦】は動きだして……。
『――《ダイ・オール・トゥギャザー》!』
――自らの機体の腹部に回転するチェンソーの刃を押し当てた。
「なっ!?」
自刃する機械兵器に、マリリンが驚愕する。
だが、その驚愕はすぐに別の驚愕に取って代わられる。
――いつしか、マリリンの全身に茨のような模様が浮かび上がっていたのだ。
体、鎧、そして角が変化した二本の槍にも浮かび上がっている。
それだけではない。
茨の模様は半壊した【イゴーロナク壱型】や【ブロードキャストアイ】、イゴーロナクのスキルを受けて床に転がったままの【瘴焔手甲】、さらには<墓標迷宮>の壁と床と天井にもタイル単位で浮かび上がっていた。
「こ、これは……!?」
それらは茨に似た棘のある線だが、絡まってはいない。
浮かび上がって全てに対し、一本ずつ。
だが、その模様は端から少しずつ……ジリジリと色が変わっていた。
まるで、導火線のように。
「まさか自爆スキル……!」
自然界には、エレメンタルのモンスターの中に自爆型のモンスターというものがいる。
敵と遭遇した場合に、自爆して敵を葬るという……生存戦略からすれば理解に苦しむ特性のモンスター群だ。
その理由は群れの他の仲間を生かすためであるとか、諸共に死んだ後でリソースを集めて再構成するのだとか、<Infinite Dendrogram>内部でも様々な説がある。
マリリンは直感的に眼前の相手もその類だと察したが、同時に理解に苦しんだ。
(なぜ、自刃している……!? 困惑の極み!)
単に自爆するならば、自刃などせず爆発してしまえばいい。
まして、自爆型のモンスターのセオリーは自爆行動前に倒すことなのだ。自爆型のモンスターが爆発前に自分からダメージを受けるのは愚かに過ぎる。
(まさか、撃破されることで爆発するタイプか? だ、だが、もしも大規模な爆発が起きるのならば、主だけでも逃さねば……!)
爆心地にいる自分は助からないとしても、主は脱していただかなければとマリリンは考えた。
幸い、オードリーがいるため迷宮を出れば空に逃れることは容易だろうとも考えた。
(いや、そもそも迷宮内部から外部への攻撃は徹らないのだったか?)
『マリリン』
「はっ! 主!」
眼前の異常な状況に対して困惑し、思案していたマリリンの脳内に、主であるルークからの念話が届いた。
『今、そっちでも何か異常な事態が起きているよね?』
『はい!』
マリリンは即座に目の前の状況をルークに伝えた。
その情報に、ルークは何事かを考えている様子だった。
『……僕やリズにも模様は浮かんでいる』
『でしたら、すぐに脱出を……!』
『もう出てみたよ』
『それは良かった……』
どうやら地下一階、それも出口に近い位置にいた主は既に脱出できたらしいとマリリンは安堵したが。
『だからね、模様は今も浮かんでいるんだ。導火線も進んでいる』
『!?』
『入り口の衛兵に異常はないから、発動時点で内部にいた人間……いや、全生物と全オブジェクトを対象に発動しているのかな』
あるいは効果範囲はそこまで広くはないかもしれないが、地下二階から地下一階の入り口付近までは届いている。
つまりルークやマリリンだけでなく、レイ達も対象だろう。
『これは恐らく呪い。発動した後で範囲外に出ても解除されない。【高位霊水】を使っても……駄目だね』
解呪を試みて、失敗したようだ。
『マリリン。その自刃している相手を奥義で攻撃して』
『承知しました!』
なぜとは聞かない。
撃破時に効果を発揮する類だったらどうするとも悩まない。
ルークがやれと言うならばやる、マリリンはその点で一切の疑いをもたなかった。
「《ディストーション・パイル》!」
マリリンが放った奥義は、避ける様子もない【導禍戦】に命中する。
しかしその体には、僅かな傷しかついてはいなかった。
『駄目です! 少ししか効きません! 罅二つです!』
『うん、よく分かった』
(え? 一体何が分かったのだろうか。まさか私の無能ぶり!? そうだったらショックの極みなのだが!?)
混乱するマリリンに対し、ルークが告げる。
『マリリンが攻撃しても、導火線の進みは一定だった。これは相手が受けたダメージに関係しているのではなくて、単純な時間経過なんだ』
『?』
『この導火線はカウントダウン。全ての色が変わったときに呪いが発動する』
『つ、つまり?』
『自爆型のモンスターと同じだよ。自爆前に倒すしかない』
『分かりました! 倒します!』
そしてマリリンは即座に動いて、【導禍戦】への追撃を開始した。
その間も、【導禍戦】は自らを攻撃し続けている。
不気味なほどに、攻撃を気に留めていない。
まるで……絶対に壊しきれないと考えているかのように。
◇◆
ルークはリズによる高速移動で<墓標迷宮>の入り口から地下二階へと向かいながら、【導禍戦】への推理を続けていた。
(……導火線の色が変わったときに効果を発揮するのは間違いないけど、問題は二つ。一つは、<墓標迷宮>の建材にまで模様が現れていること)
<墓標迷宮>をはじめとする<神造ダンジョン>は、基本的には破壊不能とされる。
例外は【破壊王】の《破壊権限》で強力な攻撃を加えたときなどだ。
だが、この導火線は<神造ダンジョン>に対しても施されている。
これがただそうなっているだけで実際に効果を発揮しないならばいい。
だが、もしも<神造ダンジョン>の耐性までも突破して破壊するならば、それは【ブローチ】などの回避手段さえも貫いてダメージや絶命効果を与えてくる恐れがある。
(二つ目は、自刃の理由)
発動時に効果対象を決定し、カウントダウンで効果を発揮するならば、自らを攻撃する意味がない。
むしろ、破壊されないように逃げ回るはずだ。
しかし自刃……自らにダメージを蓄積しているということは……。
(ダメージの蓄積……レイさん達と同じ)
自らの受けたダメージを効果の発揮値に変える手合いということ。
自刃ということはカウンター型ではなく、ダメージソースは問わないのだろう。
(仮に、蓄積ダメージをそのまま全オブジェクトに送り込むのだとすれば)
不可避にして無効化できない膨大なダメージが、導火線を付与された全てに与えられるのだとすれば。
(そのときは……)
――そのときは<墓標迷宮>の上層を丸ごと塵に変えるだろう。
――存在する全生物を巻き込んで。
To be continued
(=ↀωↀ=)<初戦最終ウェーブ
(=ↀωↀ=)<『カウントダウン終了までに【導禍戦】を破壊する』
(○・ω・○)<……あ、これしくじると吾輩とキャタピラーとレドキングが死ぬ奴である
 




