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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第七章 女神は天に在らず

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第三十話 二度目の奇跡を願うもの

(=ↀωↀ=)<前話投稿後に書けちゃったんだから仕方ない


(=ↀωↀ=)<新刊発売記念という名目の二話目更新。まだの方は前話から


(=ↀωↀ=)<最近連続や不定期更新多いので、どこから読んでないか確認してね!


(=ↀωↀ=)<あと完全にストック尽きたので……次こそ更新お休みかもしれない


(=ↀωↀ=)<それはそれとしてイゴーロナク戦だけで一巻分使いそうな気がしてきた

 ■メロ


 わたしの心のはじまりは、木製のアスレチック。

 園の裏山にあった遊び場。

 みんなとのはじまりは思い出せなくて、最初から一緒に遊んでた。

 園にはゲームなんてなかったから、みんなにとっては野山が遊び場。

 わたしと、大ちゃんと小ちゃんとみっちゃん。ちょっといじわるなびとうくん。

 それと、ヒカルちゃん。

 ヒカルちゃんは園の子じゃなくて家がある子だったけど、いつからか一緒に遊んでた。

 みんなで一緒に、遊んでた。


 ◆


 みんなと旅行に行った日のことを覚えてる。

 ヒカルちゃんが、別荘に招待してくれたから。

 ヒカルちゃんが見せてくれた写真には、綺麗な桜の木に囲まれた別荘が写っていて。

 仲良しみんなでの旅行は、何日も前から楽しみで夜眠れなかった。

 車内では大ちゃんも小ちゃんも、楽しそうで。

 みっちゃんも、いつもよりワクワクしていた。

 びとうくんは、ちょっとうるさかったけど。

 わたし達は園長さんの車に乗っていた。


 だけど、何でだろう。

 楽しかったのに、思い出はそこで途切れて。

 大きな音がして、身体が揺れて。


 そこから、ずっとずっと暗いところにいた。


 ◆


 周りにいたはずの友達は誰もいなくて。

 独りで、寂しくて。

 それからどのくらいの時間が経ったのか、分からなくて。

 寂しくて、悲しくて、どうしようもなくて。

 わたしがそのまま溶けていくような気がして。


 けれど急に、光が差した。


 私の目の前は明るくなって、そこには沢山の本と一匹の猫さんがいた。

 猫さんは二本足で立って、喋る、不思議な猫さんだった。

 説明されても、私にはよく分からなかった。

 ただ、七つの国からどこかに行かなきゃいけないことは分かった。

 見えた景色の中に、綺麗な桜の木が見えたから。

 みんなで行っているはずだった旅行を思い出して、涙が出てきて。

 私は、その国を選んでいた。


 だから、そこからは奇跡。


 その国で……またみんなと出会えたから。


 ◆


 みんなと、旅をした。

 みんなで、頑張った。


 ◆


 だから、みんなのために、わたしは……。


 ◇◆◇


 □■<墓標迷宮>・地下一階


『ルークー。レイと合流できたよー』


 死の恐怖を感じているメロの眼前、ルークはバビからの連絡を受け取った。

 ルークはバビにレイを捜させていた。バビは獲得したスキルにエコーロケーションに近いものがあり、視界がなくとも周辺地形を把握できたからだ。

 そして問題なくレイと合流できたようだと安堵する。

 マリリンと相対しているイゴーロナクも半壊したまま動きを停止していた。

 スキルも解除され、直近の危険は排除されたと言っていい。


「…………」


 それゆえ、ルークの疑問はメロの不可解な反応に集約された。

 死んだら死ぬ。そんな仕組みはないと考えるが、先刻のスキルの即時解除がそれゆえだとすれば理解できてしまう。


(その場合、僕はどうすべきか)


 仮に眼前の<マスター>を殺傷することが、現実での死に繋がるならばどうするか。

 これまで<Infinite Dendrogram>では考える必要のなかった問題に、ルークの思考が僅かに偏る。


 その間隙に、状況が動いた。


 メロの持っていた子機が突如として彼女の手を離れて、その円を広げる。


『――メロから離れろクソがぁッ!!』

 ――円から現れたのは三機目のイゴーロナクと【ブロードキャストアイ】。


 メロに迫る危険を排するためにヴィトーが出撃させた機体。

 それは紛れもなく奇襲であり、ルークの不意を突いた。


(――そういう仕組みですか)

 ――同時に、【魔王(ルーク)】にイゴーロナクの仕組み(トリック)を理解させてしまった。


 不意を突かれながらも、思考を他に割かれながらも、目に見えた景色は十分すぎた。

 広がった円の先に見えた【紅水晶】のコクピットで、ルークは全てを悟った。

 獲得した情報をまとめる彼に対し、イゴーロナクは【鋼裂】での攻撃を行う。

 仮に液体金属スライムで防いだとしても、それごと引き裂くための武装選択。

 その行動は決して誤りではなく、ルークの不意も突けていた。

 リズが防御ではなく攻撃を選んだとしても、そのまま骨を断たせて肉を切る戦法で致命傷を食らわせられる。


 だが、情報が足りなかった。


『ほほ、奇妙なカラクリであるなぁ。くびなしか?』


 突如として、聞き覚えのない声がイゴーロナクに掛けられる。

 だが、それでヴィトーの操作は止まらない。

 何であろうと食い破って、ルークを倒してメロを救う。

 それだけを考えて振るわれたチェンソーは、


『なに!?』


 防御力を減算して食い破るはずのリズの身体に、止められていた。

 それほどの防御力がリズにあった……のではない。

 注いだ魔力に応じて効果を発揮する【鋼裂】が……弱まっている。


『こいつは……!?』

『濃厚であるなぁ、この魔力』


 イゴーロナクの頭上には逆さになった少女がいた。

 中華風の装いをした半透明の少女である。

 最初から、不意打ちを警戒してルークが潜ませていた第四の従魔。


『【レイス】! MPドレイン(・・・・・・)ッ!』


 ヒカルは相手の姿を視認して、即座に何をされたのかを理解した。


 タルラーは、【ハイエンド・ドラゴニックレイス】。

 そして死霊(レイス)に属するモンスターの持つスキルの一つがドレインであり、古代伝説級の<UBM>に匹敵するタルラーの固有スキルの一つである《枯渇吸精》はドレイン量を極限に引き上げた代物。

 発動状態のタルラーに近づけば、魔法に転化していない魔力は喰われる。

 それゆえ、【鋼裂】に注いだMPを喰われたのだ。


「リズ」


 ルークの短い言葉と共に、イゴーロナクが寸断される。

 ヴィトーは即座に復活させようとするが、叶わない。

 イゴーロナクがパラノイアで復活する魔力が満ちない。

 遠隔でMPを注いでも、穴の開いたバケツのように零れ落ちていく。

 全て、タルラーに吸われていた。


(……天敵!)


 ヒカルは理解する。

 眼前のルーク・ホームズとその従魔は、イゴーロナクの天敵であると。

 視界を潰しても、体を覆うスライムが補佐する。

 パラノイアの刻印を施したイゴーロナクを送り込んでも、MPを吸収することで復活を阻止する。

 少なくとも、インファイトでの勝ち目はない。

 レイ・スターリングの救援に現れた人化竜も従魔であるならば、アウトレンジの銃撃戦でも危ういかもしれない。


(勝算があるとすれば……決戦陣形(フォーメーション)だけ)


 自分達の最後の手段とも言える決戦陣形。

 それならば、この天敵をも撃破できるかもしれない。

 だが、それはこの迷宮では、そしてメロの身に危険があるこの状況では使えない。


「…………さて」


 イゴーロナクを行動不能に追い込み、ルークは再びメロに近づく。

 機体を裂いたリズの刃は、そのまま展開されていた。


「もう一度、さっきの門を開いてください。そうしたら、貴女をここでデスペナルティにはしません」


 リズが変形した刃を向けながら……ルークはメロを脅迫した。

 いや、脅迫していたのはメロではなく、彼女の仲間だ。


『ッ……』


 【紅水晶】の内部で彼らは呻く。

 だが、皇王の依頼を受けたときと同じく、選択の余地はあってないようなもの。


「……うぅ、うぅ……」


 それが、メロにも分かっていた。

 このままでは仲間が……自分のために相手の要求を呑んでしまう、と。

 自分のために、仲間が危ない、と。


 だから、彼女は決断しなければならなかった。


「っ!!」

 メロが自身の懐から護身用の銃を引き抜いて、


(ちぃ)ちゃん! わたしの子機を壊……」

 ルークに銃口を向けながら叫ぼうとしたとき――


『――――』

 ――ルークの危険を察知したリズが動いた。


 メロの心臓と首に放たれる、致命の斬撃。

 【ブローチ】は、容易く砕かれて。



 掌中にあった子機と……メロの首(・・・・)が宙を舞う。



「……し……て……」


 しかし、命絶たれる彼女が仲間へと最後に告げた言葉は……実行される。

 ルークが掴んだチェンジリングの子機は、彼の手の中で崩壊した。


(意識が……遠く……)


 彼女自身も光の塵に変わっていく。


(……ねぇ……ヒカルちゃん……)


 身体と意識が消えゆく中で、メロは思い、願う。


(わたし……また会える……よね……?)


 再び、仲間達と会える奇跡を。


(また、みんなと…………)


 そうして、彼女の意識は闇の中に消えていった。


 ◆


「…………」

 消えゆく彼女をルークは無言で見送った。


『…………ふぅむ』

 その表情は、彼を見下ろしたタルラーにしか見えなかった。



 ◆◆◆


 ■【紅水晶之破砕者】コクピット


 【紅水晶】のコクピットには、言葉にならない感情が渦巻いていた。


「……あの、クソッ、野郎ッ……!!」


 ヴィトーの言葉には怒りと悲しみが、籠っていた。

 両の目から涙をこぼす彼の顏は、尋常ではない。

 仲間をデスペナルティにされた……通常の<マスター>の悲しみではない。

 まるで、本当に(・・・)仲間を殺されたかのような顔だった。


「僕が、解除しなければ……」


 みっちーは自分の行動を責めているようだった。

 ラージも、自分のスキルを使えばメロを逃がせたのではないかと悔やんでいる。

 そんな仲間達の中で、ヒカルはより強い後悔の念を抱いていた。


(これまで、みんなのデスペナルティは避けてきた。どうしても危うい橋を渡るときは、私一人で動いてきた)


 それはヒカルが最悪の状況を危惧していたからだ。

 自分は<超級>であっても、他の多くの<マスター>と同じ。

 だが、仲間達には明確な違いがある。

 だからこそ……想定できないリスクを負わないようにと。

 今回の戦争は半ば選択の余地なく、メロを戦場に立たせてしまった。


(いや、本当にそうだろうか……。もっと、良い手段が……)


 ヒカルは、自問自答と自戒を繰り返す。

 そんなとき、スモールが心配そうな顔で彼女に話しかけた。


「ね、ねぇ、ヒカル」

「……どうした、スモール」

「メロ、ちゃんと、戻ってこれるよね……?」

「…………ああ。きっと、また会えるさ。向こうでは、生きている……だから」


 ヒカルは努めて冷静にそう答えた。

 彼女自身が、強くそう願いながら。


(私がみんなに危険を冒させなかったのは、再ログインの確証がなかったからだ。この奇跡(・・)が、二度目もあるという確証が。幸い、全員の<エンブリオ>がそれを可能とするスタイルに具現化したから今までは犠牲なくやってこられたが……)


 しかし今は、メロを失った。


(彼女が再びログインできるかどうか。また、言葉を交わせるかどうか。……今は可能性に縋るしかない)


 もしも彼女が戻って来られるならば、それは逆に希望にもなるとヒカルが考えたとき……。


「ヴィトー……?」


 ヴィトーが、自身のアイテムボックスから出現させたモノを見た。

 それは黄色と黒の警戒色に彩られた機体。

 メロの作った【イゴーロナク壱型】よりも小型で、パワードスーツ型の【マーシャル】を筋肉質にしたようなフォルムだった。

 それが如何なるものであるかを、仲間達はよく知っていた。


「お前ら……止めるんじゃねえぞ?」


 血走った目のヴィトー。

 彼が取り出した武具の銘は――古代伝説級機械甲冑【導禍戦 デストラクション・フューズ】


 “不退転”のイゴーロナクが所有する切り札の一つである。


「メロを殺した奴、逃げ回ってる奴、邪魔する奴、どいつもこいつも許さねえ……!」


 ヴィトーは仲間を失った怒りと悲しみに血走った目で、吼える。

 その感情の全てを、原因となった敵に叩きつけてやると。

 彼が取り出した【導禍戦】にはそれができる。

 なぜなら【導禍戦】は――



「――ダンジョンごと消し飛ばしてやる!!」

 ――自爆特攻用の特典武具である。



To be continued

(=ↀωↀ=)<戦争初戦


(=ↀωↀ=)<VS“不退転”のイゴーロナク


(=ↀωↀ=)<<墓標迷宮>襲撃戦、最終フェーズ



〇メロ


(=ↀωↀ=)<友達はちゃん呼びですが


(=ↀωↀ=)<なぜか自分に意地悪するヴィトーだけはくん呼びです


(=ↀωↀ=)<でもメロをやられて一番キレてるのはヴィトーです


(=ↀωↀ=)<そういうことです

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― 新着の感想 ―
[一言] そもそもいくら皇王に仕組みばらされるからといって、ばらされたら攻撃されるようなプレイをしていたというところでって感じ。 奇跡だってわかっているのなら人に極力恨まれないように生産職とかでよか…
[気になる点] ヴィトーくん…… [一言] 最高に心が痛いです……たぶんヒカル以外の全員が事故で意識不明なんでしょうね。 エンブリオもヒカルが他全員を支えるようになってますし、遠隔操作系なのもパーソナ…
[一言] 13巻発売おめでとうございます!マックスが本編初登場になるのかな、エフさんみたいになろうで登場するのも近いはず・・・ 巻末のキツネーサンが割と必死だったので笑ってしまいました。動画配信サイ…
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