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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第七章 女神は天に在らず

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488/716

幕間 ルークの選択

(=ↀωↀ=)<まだの方は前話から


(=ↀωↀ=)<書いてしまったので連続投稿


(=ↀωↀ=)<今日連続投稿すると次回投稿できないのでは?


(=ↀωↀ=)<そんな気もするが今日やった方が良いかなと思ったのでゴー


(=ↀωↀ=)<次回お休みになったらごめんね!


追記:

(=ↀωↀ=)<……急いでたから結構誤字脱字してた

 □彼の選択


 ルークは、自身の戦力が限界に達したことを把握していた。

 女衒系統の【魅了】は、そうと知られれば対策装備一つで無効化される。

 《ユニオン・ジャック》でバビの数多のスキルを行使するとしても、MPやSPに限度がある。

 何より、最大の問題はテイマーとして動くための従属キャパシティ。

 これがレベルカンストしてからは、頭打ちになっている。

 従魔であるマリリン達の成長は著しい。

 だが、それに伴ってコストも跳ね上がっている。

 アクセサリーで増幅しても、今では二体……いや、一体が限界になった。

 四体目であるタルラーなど、一体でもキャパシティに収めることができない。

 従魔の力を扱いきれず、自身の力が及ばなくなる恐れがあった。

 全身全霊で戦うレイを仲間として、サブオーナーとして支えられないのではないかと危惧した。


 この問題を解決するにはルーク自身の強化が必要であり、つまりは超級職に就く必要があったが……それは難しい。

 条件が容易なものは、先発のプレイヤーやティアンが既に獲得している。

 条件が複雑かつ不明なものは、余程運に恵まれなければ獲得が難しい。

 後発のプレイヤーにとって、超級職とは狭き門だ。


 しかし、一つだけ例外があることを知った。

 それは“トーナメント”一日目に、レイが交戦したという存在。

 前提条件が一切必要なく、かつ空席であればそうと分かるもの。


 ――【魔王】シリーズである。


 求められる条件はダンジョンの踏破のみ。

 それさえ成せば、何者でも超級職を獲得できる。

 現時点で空席とされる【魔王】は三種。(レジェンダリアに三人の【魔王】がおり、【強欲魔王】の魔王ダンジョンはカルディナにあったが諸事情で崩壊している)

 天地の【憤怒魔王】。

 所在不明の【傲慢魔王】。

 どちらも戦争までに辿り着くことは難しい。


 だが、最後の一つは……皇国の【色欲魔王】。


 敵対国のダンジョンにある【魔王】シリーズ。

 通常であれば、人目を掻い潜っての侵入は難しかった。

 だが、戦争によって状況は変わった。

 皇国の猛者、特に索敵能力に特化した手合いのほとんどが……戦争の準備のために王国内へと移動していたのである。

 フランクリンのモンスター警戒網さえも、大半が王国へと移動していた。それも全ては戦争……レイ・スターリングとの決着のための下準備である。

 結果として、国内では首都や主要都市、カルディナやグランバロアとの国境に配されている程度になっていた。

 それは、ルークにとって千載一遇の好機だった。

 霞を伴なってタイキョクズで皇国の<マスター>を回避し、タルラーの術も活用し、彼は<厳冬山脈>のダンジョン……<淫魔の宮>に到達した。

 そして霞をログアウトで帰した後、単身でダンジョンアタックを開始したのである。


 ◇◆


 ルークが足を踏み入れた<淫魔の宮>は、【色欲魔王】のための魔王ダンジョン。

 しかし、この<淫魔の宮>の制覇者は先々期文明から数えても、決して多くはない。

 レジェンダリアの三つのダンジョンが、それぞれ別の形で肉体への過酷な試練を課してくるのに対し、<淫魔の宮>は精神への試練を主とする。

 スキルと容姿、行動の全面で魅了してくる淫魔の数々。

 人の心理の裏を突き、掛かれば命を捥ぎ取る類の罠。

 そうした精神を圧迫する仕掛けの中で、出される問い。

 課された問いの正解を見極めなければ、やはり死ぬ。

 心が僅かでも揺れれば、そこに致死の罠が待つ。

 <淫魔の宮>は端的に言えば、仏教の衆合地獄に近い代物である。

 肉体が強ければ制覇できる類のものではなく、管理AIの上書きで淫魔の行動ルーティンに多少の違いは発生したものの、本質は変わらない。

 初見殺しではなく、精神と知能のハードルを越えられない者は何度繰り返そうと絶対に踏破できない類のダンジョンだ。

 だからこそ、<マスター>が増えた後も踏破できる者はいなかった。


 ――このダンジョンを踏破するのにこれ以上ない才を持つ者が現れるまでは。


 ◇◆


『おめでとう。実に一〇〇〇と数百年ぶりの踏破者だ』


 数多の試練を突破したルークがダンジョンの最奥に足を踏み入れたとき、硬質な拍手が彼を出迎えた。

 それを行っていたのは、転職用のジョブクリスタルの前に置いてあった石像だ。

 翼と手足を持った……所謂【ガーゴイル】。

 それが道を塞ぐように配されている。


「……あなた、このダンジョンのものじゃないですよね?」


 どこか疲れた目を向けながら、ルークは【ガーゴイル】に問いかける。

 疲労はあるが、これまでの試練を潜り抜けたルークの体には淫魔との戦闘で生じたもの以外に傷はない。

 尤も即死トラップは発動した時点で死亡するため、戦闘以外で傷を負う時は死ぬ時だ。

 だからこそ、彼の姿は正しい踏破者であった。


『おや、分かるのかい?』

「意匠が違いすぎますので」

『だろうねー。このダンジョンの内装は私の趣味じゃない。ああ、私というのは……』

「その【ガーゴイル】を作って、ここに置いた人でしょう?」

『そうだね。その通り。ちなみにこれだね』


 【ガーゴイル】はそう言って、足元の死体を指差した。

 白骨にはなっていないが……死後三年程度は経過しているだろう。


「…………」

『<マスター>が増えたから、そろそろ魔王ダンジョンも踏破されていくんじゃないかと思ってねー。注意事項とチュートリアルのために、各地のダンジョンに説明役を置くことにしたんだよ。先輩としてねー』


 彼は、【ガーゴイル】の発言に含まれた複数の事柄を理解していた。

 【ガーゴイル】の制作者は、ここに限らず魔王ダンジョンに【ガーゴイル】を配置した、あるいは配置しようとした。

 この<淫魔の宮>にある死体は本物であるため、幾つものダンジョンを廻って最後にここで力尽きたか……。

 あるいは、制作者の死体(・・・・・・)であっても本人の死体(・・・・・)ではないのか。

 何より……。


僕達(<マスター>)に先んじて……【魔王】となった方ですね」


 各地の魔王ダンジョンに、態々先輩として説明を置くなど……先達の魔王以外にありえない。

 ティアンでありながら、魔王ダンジョンを突破した真正のバケモノ。

 この【ガーゴイル】は先達の【魔王】から後輩へのメッセンジャーなのだろう。

 あるいは……それ以上の何かだ。


『うん。色欲以外のどの【魔王】だと思う?』

「強欲」

『正解。流石にここをクリアできるだけあって察しが良いね』


 また手を打ち鳴らす【ガーゴイル】は、満足そうだった。


「察するに、【強欲魔王】の能力は人格と記憶の転写(・・・・・・・・)といったところですか?」

『……なぜそう思う?』


 しかし重ねて問われた言葉に――人であれば――目を細めた。


「強欲。数多の欲。人の欲には矛盾するものも多々あります。長生きしたい。死んでみたい。有名になりたい。隠棲したい。都会で生きたい。野で生きたい。一人の人間でも、矛盾の欲を持つ。【強欲魔王】のスキルはそれを叶える。異なる人間やモンスターに、記憶と人格を移植して別の人生を好きに生きることができる。そんなところでしょう?」

『……私、君にそこまでヒントを与えたかな?』


 あまりにも推理が過ぎるルークに、【強欲魔王】の記憶と人格を持つ【ガーゴイル】は首を傾げた。


「……実に性格の悪い罠と問いをクリアするために、思考を全開で回していたので。今もその余波が残っているんですよ」


 ルークは肉体的な痛みではなく、思考による痛みに顔を顰めていた。

 天才と呼ぶに不足のない彼をして、このダンジョンの仕掛けは悪辣で難解だった。

 だが、【強欲魔王】の手札を察せたのは、思考速度だけが理由ではない。


「それに、雰囲気が似ていますからね。察しもつきます」

『うん? もしかして君……どこかで()と会っているのかな?』

「そうだと思いますよ。本人から直接、聞いたことはありませんが」


 聞いたことはないが……看板(・・)は出していた。


『三年前の時点では会っていなかったんだね。これ(・・)には制作時点までの記憶と人格しか写していないから』


 【ガーゴイル】は、尖った指先で自分の頭部をつついてそう言った。

 製作者が【ガーゴイル】を作った後に、自らの記憶と人格を転写したのだろう。

 恐らくは、製作者も本物の【強欲魔王】ではなく、転写された人間の一人に過ぎない。


(つまり、スキルも含めて転写できるということ。何代先まで保持できるかによって、脅威度が異なる)


 転写可能な世代と最大人数。

 これによって【強欲魔王】という存在の恐ろしさは激変する。

 最悪、人類社会全てが【強欲魔王】といった事態にもなりかねない。


『安心しなよ。転写の最大人数は一〇〇人。転写可能なのも本体から直接転写された奴だけだからさ』


 そのとき、ルークの考えを先読みしたように【ガーゴイル】はそう言った。


『こっちも長生きしてるからね。読まれたお返しさ』

「…………」


 考えを読まれたこと自体は、ルークは気にしていない。

 問題は、その発言に二つの意味があると悟ったから。

 『【強欲魔王】の群体全てで一〇〇人なのか』。

 『転写能力を持った者がそれぞれ一〇〇人に転写できるのか』。

 どちらとも取れる言い方だった。

 前者ならば一〇〇人、後者ならば一万と一〇〇人である。

 前者だとしても、要職に就いた者に転写すればやはり社会的脅威は甚大である。

 その答えをあえてはぐらかしている時点で、この【強欲魔王】は食えない手合いだ。

 かつて出会った【強欲魔王】はもう少し違う印象だったが……転写先(・・・)の影響もあるのだろうか。


『ともあれ、納得。納得だ。君ならこの蠱惑と死の謎解き迷宮もクリアできるだろうね。優秀な後輩を歓迎するよ』

「…………」


 言葉通り、両手を広げて歓迎の意を示す【ガーゴイル】。

 だが、その言葉を贈られた彼は警戒を解かない。


『ああ、もしかして私がここにいる理由――他の【魔王】の人格乗っ取りだと思ってる?』

「可能性として最も警戒するのはそれでしょう?」


 精神保護がある<マスター>に対して実行可能かは分からない。

 だが、不明は試みない理由にはならない。むしろ不明だからこそ、だろう。

 予め人格と記憶を持つ【ガーゴイル】を転職場所に配置し、転職直後に肉体ごと【魔王】を簒奪する。前提情報を考えれば、最も警戒すべき事柄である。


 製作者から【ガーゴイル】に転写したならば、【ガーゴイル】に転写能力はない?

 違う。製作者は【ガーゴイル】の制作者であるが、制作者が(・・・・)ガーゴイル(・・・・・)に転写した(・・・・・)とは確定していない。

 制作した後、【強欲魔王】の本体が人格を転写した可能性もある。


 そうであれば、この【ガーゴイル】も転写可能な【強欲魔王】の一体だ。


『……君、ものすごく頭が回るね?』


 考えうる限りの懸念について思考するルークに対し、半ば呆れたように【ガーゴイル】が述べた。

 その表情から、彼の思考内容を読んだのだろう。


『だけど、そこは安心してほしいね。できないから』

「できない?」

『【魔王】シリーズは兼任できないようにロックが掛かってるんだよ。それに、特殊超級職や<マスター>には人格を移せないからね』

「…………」


 それが真実かどうか。表情筋も瞳の動きもない【ガーゴイル】相手では少し読み切れなかったが……嘘はないように感じた。

 少なくとも、兼任できないというのは本当だろう。

 そうであれば、このダンジョンを踏破した時点で【強欲魔王】が【色欲魔王】にもなっていたはずだ。


『私の目的は本当に後輩へのチュートリアルだよ。まぁ、全ての後輩が君みたいに話を聞いてくれるかは分からないけどね』


 その言葉にはルークも同感だった。

 レジェンダリアの【魔王】は三人共が犯罪<超級>である。

 話を聞かずに破壊したり、話が通じなかったり、といったケースは十二分にありえた。


『特にここの【色欲魔王】は注意点が多いからね』

「……聞きましょう」


 応じたルークに対し、【ガーゴイル】はどこか機嫌が良さそうに頷いた。


『じゃあ最初に言っておく。【色欲魔王】のスキルは三つ。ただし、二つは使えない』

「…………」

『彼女……先代の【色欲魔王】はそれでかなり後悔していたからね。後輩にはちゃんと伝えてほしいと頼まれてもいたよ』


 【強欲魔王】は、先代の【色欲魔王】がいた時代から生き続けている旨を述べた。

 だが、ルークは驚きもしない。

 最古にして最強。そうした類だと既に察している。

 まして人生経験の数(・・・・・・)で言えば……太刀打ちできる者もいないだろう。


『さて、スキルについて話す前に……君は【色欲魔王】ってどんな力なのだと思う?』


 【色欲魔王】については<DIN>にも情報はなかったが、名称について真っ先に思い浮かべるのは七つの大罪である。

 【魔王】シリーズのスキルについて、【怠惰魔王】は自分の代わりに動くスラルを生み出す力……怠惰と呼ぶに相応しいモノだとも聞いている。

 眼前の【強欲魔王】も、強欲に数多の異なる人生を生きる力だ。

 であるならば、【色欲魔王】はその名の如く性的魅了に類する力だと予想していたが……。


見極める力(・・・・・)……。そして、それが必要になるスキルですね」


 <淫魔の宮>を踏破した後のルークが抱いた見解は異なる。

 このダンジョンは、表面上は群れ為す淫魔の誘惑に抗うダンジョンだ。

 しかし本質は精神をかき乱した状態で、誤答が死につながる問題を連打するダンジョンである。

 いつ如何なるときでも正しい選択を見極める力が求められるダンジョン。

 それが、この<淫魔の宮>だった。


「そして、名称と合わせて考えるならば……」


 そも、なぜ生物に色欲が存在するのか。

 それは性的快楽を伴なわなければ、次代への繁殖がスムーズに行われないためだ。

 加えて馬が自然界で生き延びるためにより速く走る個体を求めて番うように、そこには性能による選別が介在する。

 それを繰り返して、馬は段々と速くなっていった。


 次代への繁殖、生命の連鎖、――そして進化(・・)


「――個体の才能を見極め、進化させる。それが【色欲魔王】の力ですね」

『……君、悟りすぎてて引くね』


 【ガーゴイル】は素の口調で、ルークの推理を受け止めていた。

 正解であるが、正解されるとは思っていなかった。

 それほどに、【魔王】の中でも名称のイメージとスキルがずれているのがこの【色欲魔王】だったからだ。


『正解だよ。対象を人とモンスター両方の力を持つ別格の特殊生命体……眷属に変化させる力。それが【色欲魔王】と……いや、【色欲魔王】の力だ』


 【ガーゴイル】は何事かを言いかけ、言い直した。

 【色欲魔王】以外にも同様の力を持つ存在がいるとルークも察するが、今はそれについて言及することはない。(聞いても教えないだろうと既に悟っていたこともある)


『三つのスキルは全部それだよ。リスクとリターンとコストが違うだけでね』

「なるほど。使うなという二つはリスクとコストが重いのですね」

『そう、リスクが馬鹿らしいものと、コストが馬鹿らしいものだよ』


 ガーゴイルは指を三本立て――元から三本しかないが――説明する。


『まず基本スキル、《存在昇華(プログレス)》。対象を特異存在である眷属に変化させる。無消費のスキルを使うだけでいい。ただし、成功率の概算は一%程度。失敗すれば対象は死ぬ』

「……博打とも言えませんね」

『ああ。おっと、敵には使えないよ。お手軽即死技なんて使い方はできないからね』

「…………」


 『流石にその程度のセーフティはありましたか』とルークは納得する。


『次はその劣化版、《制限昇華(ネオテニー)》。一定時間のみ、対象を眷属に変化させる。よっぽどの雑兵に使わない限り、死にはしないね』

「コストは?」

『対象を一分間変化させるのに――ジョブレベルを一〇ほど削る。使用量の調整はできるけどね』


 レベル削減。

 相当の高コストであり、無差別に全レベルだったら他超級職の最終奥義に等しい。


「なるほど」


 ルークは納得して頷き……。


「――それで、コストが馬鹿らしい三つ目のスキルはどんなものですか?」


 《制限昇華》をコストの重いスキルとは見做していなかった。


『まぁ、君なら分かるし、《制限昇華》に二の足も踏まないだろうね。そもそも、二の足を踏むような人はこのダンジョンを踏破できないから』


 【ガーゴイル】もまた、これまでのやりとりでルークの言動に納得していた。


『三つ目は最終奥義だよ。名は、《色欲の終焉ジ・エンド・オブ・ラスト》』


 勿体ぶることもなく、【ガーゴイル】はその奥義の名を口にして……。


『効果は眷属化の一〇〇%成功。コストは命(・・・・・)


 同様に、コストも軽く言ってのけた。


「施術者である【色欲魔王】の死、ですか?」


 それならば<マスター>である自分にとっては実質ノーリスクかもしれないと、ルークが考えたとき。


『いや? 施術者と、対象以外で一度でも施術者の従魔や奴隷になった……従属キャパシティに収まったことのある全生物の死亡(・・・・・・)だ。ああ、既に成功した眷属も含む。確実に命を徴収されるよ』

「……!」


 それはつまり、自身の従魔の一体に使えば……他は全て死ぬということだ。

 そんなスキルを使えるわけがない。

 同時に、悟る。


「先代の【色欲魔王】の死因はそれですか?」

『……まぁ、分かるよね』


 ルークの問いを【ガーゴイル】は肯定した。


『そのときには、彼女の従魔は一体を遺して死んでいたけれどね。自分も殺されかけて命尽きようかというとき、最後の最後にその一体……とある地竜に対して最終奥義を行使したのさ』

「…………」

『ああ。最終奥義での眷属化は、ノーリスク超ハイリターン超ハイコストだ。強化度合いも他とは桁が違う。その地竜も、少なくとも三年前までは健在だったし……恐ろしいもの(・・・・・・)になったからね』


 【ガーゴイル】の言葉を聞きながら、ルークの脳内では一つの推理が走っていた。

 恐ろしい地竜……そう聞いて人々が真っ先に連想する強大な存在、この<厳冬山脈>に巣食うとされる超生物。

 そして、自身の従魔であるマリリンとも縁深い地竜を、思い浮かべた。


『……と、まぁ、先代の【色欲魔王】から頼まれた言伝はこんなところさ』

「ためになりました。ところで」

『何かな?』

「……先代は《存在昇華》の失敗で従魔を亡くしたのでは?」

『それもやっぱりわかるだろうね、君なら』


 【ガーゴイル】は、『先代の【色欲魔王】はそれでかなり後悔していた』と述べた。

 だが、最終奥義ならば発動時に先代も死んでいる。後悔する時間もない。

 ならば後悔したのは、《存在昇華》の失敗だろう。

 恐らくは、腹心の従魔をそれで亡くしている。


『だから、ね。【色欲魔王】の力はリスクとコストをよく考えて使ってね』

「……たしかに、言伝は受け取りました」


 ルークは【ガーゴイル】に一礼する。


「あなたと、言伝を遺してくれた先代に感謝します」

『うん。きっと、彼女も安心する』


 【ガーゴイル】はそう言って、横に動いてジョブクリスタルへの道をあけた。


『じゃあ、転職するといいよ。ああ、それと……』


 【ガーゴイル】は自身を指差して、


『転職したら、私をぶち壊してほしい』


 自身の死を願った。


『君の後は何百年待つかも分からないからね。それに成りたての超級職、レベル上げの足しにはなるよ』

「……分かりました」


 ルークは頷き、その願いを了承した。

 何らかの罠、それこそ最初に考えていたような転写の目論見だとは思っていない。

 この【強欲魔王】は食えないところもあるが、会話を交わすうちにそうした手合いではないとも気づいていた。


『それじゃあね、新たな【魔王】。他の私にもよろしく』

「はい。必ず挨拶にうかがいます」


 ◇◆


 そうして一人の少年がクリスタルに触れ、一体の【ガーゴイル】が砕かれた。

 そうして一〇〇〇年を優に超える空白の時は終わり、空位だった王の座が埋まる。



 ――此処に、【色欲魔王(ロード・ルクセリア)】ルーク・ホームズが誕生した。



 To be continued

(=ↀωↀ=)<話の流れで眷属器の説明入らなかった


(=ↀωↀ=)<またの機会に



〇【強欲魔王】


(=ↀωↀ=)<誰のことだろうなー



〇【地竜王】


(=ↀωↀ=)<先代【色欲魔王】の遺した最後の眷属


(=ↀωↀ=)<ちなみに眷属になると同時に主の死亡で解き放たれてる


(=ↀωↀ=)<そこからさらに生物的な進化を遂げた後に<イレギュラー>化した


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― 新着の感想 ―
兄貴と地神がぶっ壊したの強欲のダンジョンだったのか… 強欲が空座になることがほぼ有り得ないジョブで良かったな…
眷属といえば、龍帝もそれに近いものがありますねぇ。人とモンスターの合作。モンスター自体が器になってはいますが、それの持ち主もモンスター化している。モンスターと人の融合と言う点では、ルーク氏のユニオンジ…
閣下に持たせちゃダメなジョブNo.1
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