第二十四話 王国の命
(=ↀωↀ=)<更新する気なかったけど
(=ↀωↀ=)<筆が乗って書けちゃったから仕方ない
(=ↀωↀ=)<ていうかイゴ戦の筆がすごい進む
□四月二九日 【聖騎士】レイ・スターリング
アズライトが王国のランカーを集め、戦争について述べた会合の日。
俺達はアズライトの執務室に呼び出された。
俺だけでなく、兄やルーク……会合に参加した<デス・ピリオド>のメンバーも一緒だった。
それで察しがついた。
うちのクランに今回の戦争の要となるフラッグを預けるのだろう、と。
人数の少ないうちのクランに<砦>の防衛は無理だが、<命>か<宝>ならばありえる。
<命>は<超級>の誰か、例えばアルベルトさんに預ければいい。あるいは、<超級>でなくとも生存・逃走能力の高いマリーでもいいだろう。
<宝>は、兄のバルドルに格納もできる。
そうしたフラッグの決定を伝えるために、俺も含めて会合に参加した<デス・ピリオド>メンバーを集めたのだろうと考えた。
「レイ。<命>のフラッグは――アナタに任せるわ」
だから、アズライトの言葉は想定外のものだった。
「……………………いや、何言ってるんだよ?」
あまりに想定外で、聞き返すことさえ遅れてしまう。
「あなたが、<命>のフラッグよ」
「……どう考えても、適任は他にいるだろ? 兄貴とか、アルベルトさんとか」
なぜ俺にその役目を任せる気なのか、本気で分からなかった。
『俺は無理クマ』
「…………」
だが、俺の意見は当の兄に真っ先に否定された。
アルベルトさんは無言だったが、首を振って否定の意を示している。
『俺の切り札は自滅前提。そして、ベヘモットの奴とやりあうなら切り札を切らない選択肢はない。……あっちも講和会議で手札がバレてるから、今度は本気で来るだろうよ』
「アルベルトさんは『私も不適当と考える。私の能力は先の“トーナメント”で欠点も含めて衆目に晒されている。相手が相性の良い者で固めてくるだろう。撃破される確率は高い。そして私を王国に送り出した議長の思惑も不明だ。何かの罠が私の意図しない形でセットされている可能性は否定しきれない』だそうです」
兄は自分で、アルベルトさんはルークの通訳を介してその理由を説明した。
それらは確かに納得のいくものだった。
『ちなみに、他の<超級>も駄目クマ。レイレイさんはリアルのツ……用事で不在。雌狐に<命>や<宝>のフラッグを任せるのは後が怖い。それにフィガ公とハンニャも必殺や奥義は自滅前提。……何でうちのクランってこんなに自滅系ばっかりクマ?』
兄は今気づいたという風に、おどけてそう言った。
フィガロさんは笑っているし、ハンニャさんはよく分かっていないようだけどフィガロさんにつられて笑っている。
「……だったら俺だって十分自滅系だぞ」
「遺憾ながらのぅ……」
ダメージを喰らう前提のスキル構成だ。不適当だろう。
同様に死が近いならば、<超級>のみんなではなく俺を選ぶ理由がない。
「兄貴達、<超級>じゃダメでも……マリーや他の準<超級>の人達がいるだろ?」
「そうかもしれないわね」
アズライトは、俺の言葉を否定しなかった。
「それでも……私が選ぶのはアナタよ」
「どうしてだ?」
俺の問いに対し、彼女は……。
「私が……王国が<マスター>と協力するきっかけになったのは、アナタだもの」
俺の目を真っすぐに見ながら、そう言った。
「ギデオンではフランクリンの計画を覆して、王国の心を助けてくれた。カルチェラタンでは頑なだった私をそれでも支えてくれた。講和会議の企みも見破って、窮地を救ってくれた」
アズライトはそう言って、俺とネメシスに歩み寄る。
俺の右手とネメシスの左手が、彼女の両手に強く握られた。
「アナタ達がいたから今の王国があるわ。だからこの戦いで……王国の命を託せるのはアナタ達しかいない」
その言葉は、心からのものだと分かった。
けれど、俺も彼女に伝える言葉がある。
「……俺達だけの結果じゃない。アズライト自身も含めて、みんながいたからだ」
彼女が述べたことの一つだって、俺とネメシスだけではできなかったことなのだから。
「ええ。知ってる。けれど、きっかけはアナタよ」
俺の言葉を肯定しながらも、アズライトは言葉を重ねる。
「それにね、レイ。強弱や能力の相性で選んだらきっと負けるわ。クラ……皇王相手に、そんな思惑は通じない」
あの悪辣な講和条約を出してきた、皇国の皇王。
この戦争でも何らかの策略を巡らせているだろう。
「……だったらアズライトが俺達に託すってのも読んでくるんじゃないか?」
「それでも良いのよ。間違っていても、正しくても。私は、私の心の選択に委ねる」
アズライトは俺に微笑みかけて、
「――唯の一つの後悔もなく命を託せる。そんな相手はアナタだけだから」
――彼女自身の、揺るがぬ選択を告げたのだった。
◇◇◇
□現在 【聖騎士】レイ・スターリング
<墓標迷宮>の中で、首無しのパワードスーツ……“不退転”のイゴーロナクは俺達に解答を突きつけた。
あの日、アズライトから託された『命』の答えを。
『根拠が必要か?』
俺達の様子を見ながら、イゴーロナクが言葉を重ねる。
先輩は俺の前で壁となり、<AETL連合>は俺を見ながら動揺している様子だった。
けれどパトリオットさんだけは、骸骨の兜越しに納得の気配があった。
『根拠は三つ……いや、二つだ』
長槍を持つ指を立てて、イゴーロナクは説明を始める。
『一つは、殿下からの指示だ。王国の王女の友人である殿下は、<砦>をカルチェラタンだと読まれていた。何処よりもメリットがあり、デメリットが及ぶべくもない最適の地だと。加えて防衛を担うのは<月世の会>だとも』
それは恐らく正しいだろう。
俺達もアズライトから直接聞いてはいないが、兄達はそう推測していた。
人員も立地も最高であり、それ以上はない。
『しかし逆に、『命』か『宝』のどちらかは最適とは程遠い人選になると仰られた』
俺の方を向きながら――いや、少し向きがズレている?――言葉を重ねる。
『デメリットがメリットに勝る。しかし、自身の心の示す選択。第一王女はそのような選択をするだろうと言っていた。殿下の読みの裏を掻くためにもな』
それは……正解だ。
正にアズライトはそう考えて……俺に『命』を預けた。
『そして、最たる候補として名を挙げられたのがレイ・スターリングだった。お前が<墓標迷宮>に隠れさせられていたならば、その時点で半ば当確だろうと仰っていたよ』
「…………」
《真偽判定》にかからないために、その推測には無言を通す。
だが、相手は既に確信しているだろう。
『二つ目の根拠は、先刻からの動きだ。被弾してのカウンター。それがメインであり、あるいは前線から敵陣への火炎放射も併用すると聞いていた』
「……超級職ですらない俺のことに、随分と詳しいな」
『間違いなく、最も有名な上級職だろう。お前は』
イゴーロナクは奇妙な造語と共に俺を指差す。
だが、その指はほんの僅かに俺からズレているように感じた。
『私はお前を知っている。だが、お前は戦闘開始からこれまで、前に出ようとしなかった。前に出たのは、お前だけが反応していた三度目の攻撃のみ。それも終わったらすぐにバルバロイの背後に避難させられていた』
まさか、あの表示の切り替えはそのためか……。
俺が破片を気に掛けたタイミングで俺だけが異常に気づけるように、……?
どうして俺が破片を気に掛け……《鑑定眼》まで使ったと分かった?
『可能な限り後ろに控え続ける。妙な話だ。全くスタイルが違う。先の【獣王】戦では、仲間に盾代わりにされるほどダメージの蓄積が重要だったというのに』
「…………」
俺の疑問を他所に、イゴーロナクは俺自身のスタイルについて言及する。
『そもそも、だ。お前が死ぬわけにはいかない『命』でもないのなら、この大舞台で大人しく<墓標迷宮>に引きこもっているはずがない』
イゴーロナクは、俺の方を差していた指を上に……地上に向ける。
『戦争は既に始まった。今この時も王国の全土で戦いは起きている。お前の仲間も戦っているだろう。ルールで縛りがあるとはいえ、ティアンが巻き込まれるかもしれない。そんな状況で、自分は安全な<墓標迷宮>に引きこもる?』
イゴーロナクに首はない。
だが、動かない埋まった頭部の向こう側……これを動かしている者の動作が見えた気がした。
『――それは後味が悪いだろう?』
――首を傾け、こちらに疑問を投げかける仕草が。
「…………」
二つ目の根拠は、俺のスタンスと現状の差異。
俺がここにいる時点で、俺と先輩の動きで、こいつは確信したのだ。
『……ハンッ』
だが、動揺する俺を庇うように、先輩が一歩イゴーロナクに近づいた。
『ベラベラと推理ショーを披露してくれやがって。時間稼ぎか?』
時間稼ぎ?
『お前らも短時間で潰されすぎて支障が出てんだろ? 武装の貧弱さが物語ってるぜ?』
たしかに、この四回目の装備はサブマシンガンと長槍。
ルーペで見る限り、特典武具の類でもなかった。
これまでよりも火力の低そうなサブマシンガン。ダンジョンの中での長槍。どこかちぐはぐな組み合わせだし、これまでの武装よりも弱体化しているのは明らかだ。
「……?」
今、先輩は何て……。
『なぁ、そうだろうイゴーロナク。いや、チームイゴーロナクとでも呼んでやろうか?』
「チーム……?」
そうだ。先輩は、『お前ら』と言ったんだ。
まるで、イゴーロナクが複数人であるかのように。
『…………』
先輩の問いかけに対し、イゴーロナクは無言のままだ。
それは先ほどの俺……《真偽判定》を警戒する様によく似ていた。
『ハッ! 中身のない鎧の独立行動! 復活! 途切れない弾幕! 一度目から二度目の際の転移! 破片が封印された状態で出てきた三回目! そして、装備品の一時的な<エンブリオ>化。多機能すぎなんだよ。それじゃあ複数人で運用してますと暴露したようなもんだぜ』
先輩も破片の変化に気づいたらしい。
そして、彼女の言葉に俺も理解する。
たしかにイゴーロナクはおかしい。
<エンブリオ>だとしても能力特性がバラバラで、統一性がない。
特典武具かとも思ったけれど、ルーペで見る限り鎧や今の武器に特典武具は使っていない。
可能性があるとすれば、あの防御スキルを無効化したチェンソーくらいだろうか?
そして、特典武具もなしに、<エンブリオ>が全く異なる特性をこうも持ち合わせるのは難しい。
負担の重い空間転移スキルまで含まれているのだから猶更だ。あれらは迅羽やダムダム氏でも、必殺スキルでようやく扱える代物だ。
それだけの多機能。何らかの超級職があったとしてもまだ足りないかもしれない。
だが、先輩の言うように複数人のスキルが複合しているならば……。
『けどよ、多機能だが……どれも大した性能じゃない。特に、<超級エンブリオ>ならなぁ』
先輩は声のトーンを変えて――探るように――挑発する。
『うちのクランの【殲滅王】なら、死亡からの復活に耐性がつく。ガトリング砲を延々撃つくらいなら、【破壊王】が第二形態でやれる。どれか一つとっても、<超級エンブリオ>としては弱すぎるんだよ』
『……何が言いたい?』
抑揚のない声で質問を返したイゴーロナクに対し、先輩は……。
『――<超級>のフリした二流パーティだって言ってんのが分からねえかぁ?』
――元悪役ロールクランの首魁らしい悪辣とした挑発を叩き返した。
『――――クソがッ!』
『ッ! 止せ!』
先輩の挑発に反応し――苛立ちの声と制止の言葉を同時に発しながら――イゴーロナクがサブマシンガンを先輩に向けて撃ち放つ。
『ハッ!』
先輩の大盾がサブマシンガンを容易く弾く。
だが、イゴーロナクは銃撃と共に踏み込み、長槍を先輩へと突き込まんとする。
『動きが荒いぞノロマァッ!!』
先輩は左手の盾を振るい、長槍の穂先を逸らす。
直後、カウンターのように【ノーマーシー】を至近距離のイゴーロナクへと振るった。
『――アクティブ! ターゲッティングR!』
先輩の攻撃から逃げるように、イゴーロナクはその場から一瞬で消え去って、
――《殺気感知》。
『レイ! 背後だ!』
――俺の背後に出現して長槍を突き込んでいた。
「自力でやる!」
『《カウン……!』
ストックを切ろうとするネメシスを制し、迫る気配から身を躱す。
長槍は【VDA】の表面を掠めながら過ぎ去り、床へと突き立つ。
「……!」
そのときに、やはり気づく。
回避の前から、狙いが甘い。
俺の胴体の中心や急所とはズレていた。
だからこそ、肉体に傷を負うこともなく回避できた。
思えば、最初から妙だった。
俺の方を向こうとして、僅かにズレていた。
指差したときも同様。
最初の銃撃さえも集弾が悪く、射線がブレていた。
まるで、視界が定まっていないかのように。
「もしかして……!」
これまでの疑問が、一本の線で繋がっていく。
こいつが先輩の言うように複数人の<エンブリオ>の混成であり、俺の推測通りならば……。
『みんな、【快癒万能霊薬】を!』
俺は【ストームフェイス】を装着しながら、周囲の仲間に向けて叫ぶ。
先輩とパトリオットさん、それと奴の推理の混乱から既に立ち直っていた人達も含め、全員がすぐに【快癒万能霊薬】を服用する。
『……!? まずい……!』
イゴーロナクは長槍を振るって俺を狙う。
だが、それよりも早く床を強く蹴って前方に飛び退き、先輩と立ち位置を入れ替える。
そして俺は右腕を構え……。
『――《地獄瘴気》!!』
――密閉されたダンジョンの大広間に、黒紫の瘴気を吐き出した。
『……!』
イゴーロナクは槍を振るって煙幕を払おうとするが、焼け石に水。
無論、中に人の入っていないイゴーロナクにこんなものは効かないだろう。
他の人達にも【快癒万能霊薬】の効果で効かない。
だが、意味はある。
大広間の中は黒紫の煙に満たされていく。
一時的に、視界が制限される。
『全員! 今の内に大広間から退去……! イゴーロナクから視線を外して、姿が見えないところまで!』
『っ!?』
俺が周囲に指示を飛ばすと、イゴーロナクから驚愕の気配があった。
指示に応じ、イゴーロナク以外の全員が大広間から移動する。
通路までも瘴気に満ちて視界はゼロだが、問題はない。
俺達は王国の<マスター>、これまでに何度もここを通っている。
目を瞑っても、ある程度なら道順を体が覚えている。
加えて、あえてバラバラの方向に移動して攪乱もしている。
イゴーロナクもそれを追おうとしたようだが……
――勢いよく壁に激突した音が聞こえた。
通路に出た俺達を追おうとする気配を感じたが、何度も何度も壁を擦る音ばかりが聞こえてくる。
まるで視界が瘴気に潰されただけでなく、目も見えていないかのように。
先刻までイゴーロナクの周囲にあった視界が、退去してしまったかのように。
『クソが……! やってくれたな!』
後方から発せられた奴の声は、冷静に推測を述べていたときとは異なるものだった。
込められた感情だけでなく……声そのものが。
To be continued
(=ↀωↀ=)<次回、イゴーロナク答え合わせ
(=ↀωↀ=)<そしてそこまで早く読んでほしいから22時に連続投稿
( ꒪|勅|꒪)<休載どうこう言ってたのに話数間隔縮まってないカ?
(=ↀωↀ=)<……その次は本当に休もう




