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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第七章 女神は天に在らず

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第二十話 手を振るあなた

(=ↀωↀ=)<今回は区切りの問題で短めです


(=ↀωↀ=)<前回と足して二で割ると丁度いいのだけど


(=ↀωↀ=)<今回はこのパートだけで締めたかった

 □王城・テレジア自室


「…………」


 王城の自室でテレジアは窓の向こう、眼下の様子を眺めていた。

 眼下のテラスからは姉や姉の友人達、そしてシュウ達が黄河に旅立つ人々と言葉を交わしている。

 その場には、数分前までこの部屋で別れを交わしていた二番目の姉の姿もあった。


 三姉妹の別れは、それなりに時間を要した。

 本来ならば講和会議の後には輿入れで旅立つはずだった。

 テレジアも姉に、そして姉の夫となるツァンロンに言うべきことは既に言っていた。

 しかし、その後に講和会議での騒動や王都襲撃があった。

 それによって状況が混迷したために、今まで追加の時間が与えられたと言える。


 けれど、それでも足りなかった。

 この別れが今生の別れになるかもしれないと、全員が感じ取っていたから。

 国の存亡を掛けた戦争に臨み、国と命運を共にするアルティミア。

 遥か遠き東方に旅し、皇室に入るエリザベート。

 二人とも、命を落とす危険はあった。

 だからこそ、姉妹との別れを惜しんだ。

 特に、エリザベートはテレジアとの別れを強く感じていたようだった。

 無理もないとテレジアは考える。

 なぜなら、テレジアは『病弱』なのだ。

 テレジアがエリザベートのいる黄河に向かうことなどできるはずがないし、皇室に入るエリザベートが王国に戻ることも難しい。

 たとえ天寿を全うできるとしても、別れは永遠だと思ったのだろう。

 テレジアも――理由は違うが――同感だった。

 三姉妹は最後の時間を惜しみながら、別れの言葉を交わした。


 そうして別れを済ませた今、エリザベートと黄河の者達は王国を発つ。

 外に出ることができないテレジアは、独りきりの自室で窓越しにそれを見ていた。

 眼下のエリザベートがテレジアに気づいたのか泣きながら手を振ってきたので、テレジアも小さく手を振り返した。

 名残惜しさが尾を引くまま、エリザベート達はトラクタービームでラピュータに収容されていった。

 ラピュータに向けて、眼下の姉達や王都の住民達が手を振る様子が見えた。

 そうして王都の人々に見送られながら、エリザベートを乗せたラピュータは地平線の彼方へと飛んでいく。

 眼差しを去り行く者達に向けたまま、無言のテレジアは……しかし心で言葉を発する。


『モーター』


 音にならない呟きであっても、発せられた言葉はその場にいない人物に届いた。


『呼んだか?』


 彼女の脳裏に、返答の言葉が浮かぶ。

 応じた人物の名は、モーター・コルタナ。

 元【奇襲王】にして、ラ・クリマの超級職素体改人が一体【ウェスペルティリオー・イデア】。

 そして今は、【邪神】であるテレジアの眷属だ。


『今はどうなっているのかしら?』


 【邪神】と眷属の間でのみ通じる傍受不可の念話を用い、テレジアは彼と話す。


『戦争準備でゴタゴタしていたから、そこに紛れる形で支度は済んだ。両国の<マスター>狩りに巻き込まれないかは心配だったが、俺はティアンだから警戒は薄かったな』

『あなたはもうティアンじゃないわ。私の眷属よ』

『……そうだな。表面上、ティアンって話だ』


 【邪神】の《眷属変性》によって、モーターの本質は既に人間範疇生物でもモンスターでもない存在になっている。

 ジョブも剥がれているが、しかしその力は改人であった頃を上回っていた。


『ところで、前から聞きたかったことがある』

『なにかしら?』

『正直言って、俺一人であれやこれやと準備するのは大変だった。他に眷属はいないのか?』


 テレジアに任された仕事には手間取るものもあったが、それは全てモーター一人に任されていた。

 テレジアのペットであるドーマウスは、ほとんど彼女の傍にいるので手伝うこともない。(そもそも、巨大ハムスターなので手伝いようがない場面ばかりだが)

 せめてもう少し人手が欲しいと、眷属から【邪神】に尋ねたのである。


『いないわ。即席の奉仕種族(スラル)もどきならともかく、ちゃんとした眷属はあなただけよ』

『そりゃ光栄で』


 テレジアの返答にモーターは若干の皮肉を混ぜて応えたが、


『だって、普通は死ぬもの』

『…………へ?』


 追加で述べられた情報で呆気にとられた。


『生命体の永続眷属化の成功率は一割程度よ。プロトタイプの【色欲魔王】は一%以下だから、成功率は上がっているけれど。今までは実践しようとも思わなかったわ』

『…………それを俺に』

『選んだのはあなたよ』


 あのとき、「ここで死ぬのと、人間を辞めるのと、どちらを選ぶの?」と問われ、人間を辞めることを選んだのはモーターである。

 しかしまさか、そちらの選択にも多大な死のリスクが残っていたとは。


『それに主要臓器(イデア)を失くして確実な死を迎える寸前だったのだから、成功率一割の施術に文句を言われる筋合いはないわ』

『……左様で』


 そう言われれば納得するしかない。

 確実な死と一割の生ならば、後者の方が魅力的なのは当然……少なくともあのときのモーターにとっては当然だった。


『じゃあ他に眷属はいないんだな』

『ええ。今代【邪神】の眷属は、あなただけよ』

『……また引っ掛かる言い方をしなかったか?』


 わざわざ『今代』とつけた意味に、気づかないモーターでもない。


『先代以前にも眷属はいたわ。死滅しているし、そもそも代替わりしたから私の眷属ではないけれど』

『ちなみにどんな眷属がいたので?』

『戦闘系超級職や【竜王】が多かったかしら。変わり種では無尽蔵の再生力でヒドイ斧を振るう元妖精巨人種(トロール)の眷属ね』

元超級職の眷属(俺みたいなの)は当然いたわけだ……』


 元【奇襲王】は、『もしや自分はかなりオーソドックスなのでは?』と思い始めた。

 もっとも【邪神】の眷属という時点で異常極まる存在ではあるのだが。

 なお、生命体の永続眷属化の成功率は、優れた個体を相手にのみ施術を行った上での一割である。一般の人間やモンスターであれば、成功率の桁は三つ四つ下がるだろう。


『あとは……鍛冶屋もいたかしら』

『鍛冶屋? 生産系超級職か?』

『どうだったかしら? 名前が滅丸(ほろびまる)だったことは憶えているけれど』

『…………その名前には聞き覚えがあるんだが』

『奇遇ね。私もだわ。天地の報せでは、少し前に討伐されたそうだけど。もっと昔に死んだと記憶しているから不思議な気持ち』


 <SUBM>と一致する名前を持つ、死んだはずの眷属。

 モーターは『やっぱり俺は普通なのでは?』と重ねて考えた。


『昔話はここまでにしましょう。モーターは、引き続き待機ね。次に連絡するときは、きっとお願いすることになると思うわ』

『了解』


 そうして、モーターとの念話は途切れた。

 テレジアの感覚は、再び独りの静寂の中に戻る。


「…………」


 いつしかラピュータは地平線の彼方に消えて、景色のどこにも見えなくなっていた。

 窓から視線を外し、テレジアは室内を振り返る。

 いつも通りの彼女の部屋だったが……部屋にいるべきモノがいなかった。


「ドー」


 彼女のペットであり、守護者であり、監視者でもあるドーマウスの姿はどこにもない。

 この部屋だけでなく城の、そして王都のどこにもありはしない。

 彼の仲間のところにいるのだろう。

 その理由はきっと……。


(ようやく、私を殺す算段でもついたのかしら。それとも止めようとしているのかしら)


 きっとドーマウス達の間で、意見が交わされているのだろう。

 自分に関する事柄では度々あることだと、テレジアは察している。

 最大の危険物であるテレジアは、管理AIにとっても議論の種なのだ。

 皮肉なのは、危険物を処理する役目を担うドーマウスが、テレジアの保護に寄った考えを持っていることだろうか。


(いいわ。きっと、この戦争での算段でしょうから)


 王国と皇国の戦争。

 それもきっと自分が少なからず関わっているのだろうと、テレジアは察していた。

 皇国の皇王か上層部の誰かがハイエンドであれば……【邪神(自分)】の危険性も十二分に理解しているはずだから、と。

 殺すために、戦争の一つや二つは起こすだろう。


(その算段で死ねるのなら、死んであげる)


 ここで自分が死んで、終われるのであれば……それでもいい。

 そうなれば自分のレベルアップに伴って起動する<終焉>が、姉達とこの世界を終わらせてしまうリスクもなくなる。

 彼女の命の天秤はずっと、自分ではなく家族へと傾いている。

 同じく天秤の上にいたはずの父は、既に消えてしまっていたが……。


(……こう思っていられるのも今だけかもしれない)


 家族を愛する自分は永遠ではないかもしれないと、テレジアは考える。

 これまで、<終焉>が起動したケースは少ない。

 しかし半ば時限爆弾とも言うべき<終焉>がなくとも、多くの【邪神】は人生の末尾には人類の敵としてその力を振るってきた。

 最たる例がテレジアの先祖達に敗れた先代の【邪神】だ。

 その段階に至った【邪神】達の記憶はノイズ交じりで、テレジアでも詳細が不明。

 であるならば、自分もまた同じ末路となることも想定して然るべきだった。

 だからやはり、その前に死ぬのならばそれでもいい。


 もしも死ななければ……そのときは支度させていた事柄を実行する。


(いずれにしろ、二人とはもう……)


 再び、眼下の景色に視線を移す。

 そこではエリザベートの見送りを終えたアルティミアがリリアーナやインテグラ、護衛の騎士達を連れて、ルールに則って国境地帯の施設へと向かうところだった。

 テレジアは戦場へと向かう姉に、手を振る。

 彼女も見下ろすテレジアに気づいて、手を振り返す。

 けれど、二人の間では同じ動作に込めた意味が違う。

 アルティミアのそれは、必ず帰ってくるからという約束を込めたもの。


 テレジアのそれは……もう二度と会うことはないという思いを込めたもの。


 いつしか窓の外は、夕暮れになっていた。

 日が沈めば夜になり、この夜の内に……幕は開く。


 これまでの結果を、これからの未来を。


 ――――運命を左右する三日間が始まる。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<次回


(=ↀωↀ=)<開戦


(=ↀωↀ=)<書籍化したら多分このあたりで七章一冊目が終わるけど


(=ↀωↀ=)<八巻と同じくらい情報&溜めの巻になった気がする


(=ↀωↀ=)<なお、テレジアで締めたのは戦争に至った最大要因が彼女だからです

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 邪神はマスターあるいはエンブリオを眷属にできるんですか? 仮にできる場合、ログアウトorデスペナで元に戻る?
[一言] テレジア関連は本当に難しいですね。テレジアが邪神じゃ無くなれば一番良いんですけど、その場合モーターさんは死にそう。 クマニーサンでも未だに解決の糸口すら見つかってない感じなんですかね。少しで…
[良い点] いろいろな情報ありがとうございます! 等々始まるのかと思うと何かすごいですね。 もう5百話近く、でもまだ予定の半分も物語が進んでないのがすごいですよね。 特にマンネリ化が一切なく楽しめられ…
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