第九話 鳥の名前
(=〇ω〇=)<できた……よ……(白目)
(=〇ω〇=)←クロレコ12話の初稿書き終えた後に更新分執筆した
( ꒪|勅|꒪)<次は13巻の書籍修正ナ
(=〇ω〇=)<ごふっ
(=〇ω〇=)<あ、今週はクロレコ10話の載ったコミックアライブが発売です
( ꒪|勅|꒪)<アニメ七話もよろしくナー
□椋鳥玲二
四月最後の日曜日。俺はマンション近くのデパートを訪れていた。
一週間後には王国と皇国の戦争が始まるものの、それでもリアルでしなければならないこともある。大学の講義、それと実家への帰省は外せない。
スケジュール管理が重要で、だからこそ買い物のような用事はログインできない間に済ませる必要がある。
そう、現在俺はデンドロにログインできない状態になっている。
デスペナルティではない。過程は近いが別のものだ。
戦争までの一週間、少しでもレベルをカンストに近づけるために必要な処理だ。
だから今はデンドロではなく、戦争よりも近い問題……姉の誕生日に備えよう。
具体的には、誕生日プレゼント選びである。
「……さて、何を選べばいいのか」
そもそも、姉の誕生日を祝うのが久しぶりだ。
数年前からは世界中を飛び回り、住所も定まっていなかった姉だ。家族で祝うこともプレゼントを贈ることも難しかった。
そんな姉の珍しい誕生祝い。母は張り切るだろう。俺も大学生になっているから、「子供の頃より洒落たものを贈りたい」とも考えている。
「しかし、バイトで貯めておいた金も、そろそろなくなりそうだな」
ATMで口座から下ろした金を見ながら、俺は自分の懐事情を再確認する。
まぁ、二年の七月以降は勉強に集中してバイトもしていなかったので、まだ残っている方が珍しいかもしれない(その頃からは娯楽も封印していたためだが)。
そういえば、元々は電遊研の遠征費のためにバイトしてたんだっけ。
研究会だから部費がほとんど出なくて、大会に出るために夜行バスで京都に行った記憶がある。
そして夜行バスで早朝に到着した俺達を、飛行機で前入りしつつ高級旅館に泊まった星空先輩が出迎えるのだ。
……あの人の金遣いの荒さはヤバかった。
◇
カッキーン。
「部長。さっきから課金SE鳴ってません?」
「問題ないわ椋鳥君。散っていった渋沢さんはまだ十人だけよ」
「……高校生にとっては超大金ですけど」
「それにしてもおかしいわ。バースエイルの新弾、今日はアバター付き限定カードを引けるはずなのに」
「いや、運なんだから引けるとは限らないでしょう。出るまで引けばそりゃ出ますけど」
「ねえ椋鳥君。代わりに引いてみてくれないかしら」
「えぇ……。ハズレでも恨まないでくださいよ……。あ、ロード入って……出た」
「椋鳥君。焼肉でも食べに行きましょうか。奢るわ」
◇
あの人、家がお金持ちだから一万円札をガチャチケットと勘違いしていた節がある……。
そして今の俺の個人預金はあのときガチャに費やされた金額よりも少ない。
生活費は仕送りしてもらっているけど、やっぱりどこかでバイトはしよう。
同期の友人達も冬樹以外はバイトしてるらしいし。……夏目はあのフェイスペイントで家庭教師をやってて大丈夫なのかと心配になるが、T大生という看板はそれを覆すほど強いのかもしれない。
と、思考が逸れた。バイト云々は戦争の後で、その前に姉の誕生日だ。
しかしいったい何を買えば……。
「……ん?」
ふと目に留まったのは香水の並んだショーケースだ。
香水という選択はありかもしれない。
子供の頃には贈らなかったものだし、値段も丁度いい。
「……でもどれが良いんだろうか」
香水をつけたことも買ったこともない。
お試しの香水を吹いてみても、良し悪しも定かでない。
《地獄瘴気》よりは良い匂いだが、それは基準にならない。
「ムクドリ・サン?」
香水のお試し瓶を手に悩んでいると、横から声を掛けられた。
声の主はマンションの隣人、留学生のフランチェスカさんだった。
「ああ、フランチェスカさん。こんにちは」
「コンニチワ。香水を見て、どうしましたカ?」
「あー……その」
「……女装の、準備?」
「女装はしませんよ!?」
女装と眼鏡とケモミミはNGだ!
……しかしまぁ、隣人の男が独りで香水を物色してたら不審がっても仕方ない。
だが疚しい理由ではないので、説明すれば大丈夫だ。
「その、姉の誕生日が近いので、プレゼントを買おうと思って……」
「お姉さん、いるんデスネ」
「はい。久しぶりに実家に戻ってくるらしくて」
「姉妹に会う。良いことデス。私も、妹います。私も先月、誕生日プレゼントあげました」
「へぇ。そうだったんですか」
妹のことを話すフランチェスカさんは笑顔だったので、姉妹仲は良好らしい。
それにしても、フランチェスカさんはお姉さんなのか。
あ、それなら……。
「姉に贈るプレゼントの参考に聞きたいんですけど、フランチェスカさんは妹さんにどんな贈り物を?」
「ロボッ……あー……」
何かを言いかけて、フランチェスカさんは口ごもった。
はて、気のせいだろうか。今一瞬、「ロボット」と言ったような。
でも妹さんへのプレゼントでロボットというのも……いや、もしかしたら年の離れた小さい妹さんなのかも?
「……ローズ。ホワイトのローズです」
しかし、やはり聞き間違いだったようだ。
それはそうだ。妹にロボットを贈る姉などそうそういないだろう。
「なるほど。白薔薇かぁ」
薔薇は確かに贈り物にはぴったりのイメージだ。
薔薇の香水とか良いかも。
「じゃあこの瓶も綺麗な赤薔薇の香水に……」
「待って」
赤薔薇の瓶をとろうとした俺の手を、フランチェスカさんが押さえる。
手に伝わる触感と、彼女の手の冷たさに、少しだけ驚いた。
「えっ……と?」
「赤は、止めた方がいい、ワ」
「それは、どうして?」
「レッドのローズの花言葉、『男女の愛情』、だから」
「……止めておきます」
それはまぁ、姉に渡すには微妙だ。
「ちなみに、他の色は?」
「白いバラは、『純潔』。ピンクのバラは、『しとやか』」
「…………」
うちの姉に『しとやか』は絶対に似合わない。当てつけと判断されたら危険。
『純潔』はもっとやばい、「アラサーで結婚してないことを遠回しに煽ってる?」などと解釈されたら……俺が介錯される。
「うーん、バラは駄目かな」
匂いと見た目はともかく、花言葉まで含めるとなー……。
「他に丁度いい香水は……」
「それなら、ヴァーベナ。花言葉、『家族愛』と『一家団欒』」
「あ、いいですね!」
すごく平和な花言葉だ!
お試しにあったヴァーベナの香水の香りも良い。
少なくとも、姉に介錯されることはないだろう。
まぁ、介錯と言っても物理的な被害は出なかっただろうけど。
……最悪、セカンドアマゾネスに派生しかねないから。
…………うん、トラウマだわ。
ともあれ、フランチェスカさんのお陰で良いものを選ぶことができた。
「フランチェスカさん、ありがとうございます」
「先日、助けてもらった、御礼」
「え? ……ああ」
先日と言われて最初は何のことかと思ったけれど、少し考えてフランチェスカさんの部屋まで荷物を運んだときのことだと思いだした。
「そうだ。この前、お茶出せなかったから、よかったら、ご一緒にどう? 奢ります」
フランチェスカさんはそう言って、デパート内にある喫茶店を指差した。
「でも今日はこっちがプレゼント選びで助けてもらいましたし、俺が……」
「私の方が年上。奢られろ……奢られて、ネ?」
「……はい」
ニッコリと……しかし有無を言わせぬ雰囲気の笑顔で言い直したフランチェスカさんに、俺はそれ以上抗えず奢られることになった。
◆◆◆
■フランチェスカ・ゴーティエ
身内以外の貸し借りは、早めに清算するに限る。
害ならば害を、益ならば益を、自分の中で滞らせれば滞らせるだけ枷と鎖になる。
だから眼前の隣人、お人好しの少年(に見える大学生)にお茶を馳走し、先日の借りを返す行為は私にとって必要なこと。
先刻のアドバイスは、利子のようなもの。
これで借りを清算し、私は少しばかりスッキリできる。
彼に勧めたものと同じ紅茶を一口、喉の奥に流しながら私は課題の解消に気を良くする。
「…………」
しかし、それはほんの僅かな時間だ。
私の心の澱みは、さほど晴れていない。
それは私の中で、巨大な負債が一ヶ月以上……主観では四ヶ月近くも残留しているから。
レイ・スターリング。
私に特大の敗北を齎したあの男。
あの男に対しての借りはまだ返せない。
戦争で返すと決めているけれど……まだリアルでも一週間近くある。
だから今は、彼……ムクドリ君への清算で少し心を晴らす。
そうして清算するほどに、心の重荷が減っていく。
「…………」
……などと考えても、既に一件絶対に減らない重荷があるのだけど。
借りを返せないまま死んでしまった人もいるから。
「美味しい……! ここのお茶美味しいですね、フランチェスカさん!」
「そう。良かった」
どうやら彼もここの茶葉が気に入ったようだ。
「隣のお店で、売ってますよ」
輸入雑貨店と併設され、経営者も同じこのカフェ。
茶葉も同様に輸入したものであり、私にとってもお気に入りの店だ。
「へぇ。買っていこうかな。父さんと母さんへのお土産にいいかも」
「……イイと、思いますよ」
嬉しそうな顔でそう言う彼は、きっと両親との間に何の確執もないのだろう。
羨ましいとか、妬ましいなどとは思わない。
最初から立っている状況が違うのだ。
彼が両親に抱く感情は私には分からず、空想を想像するほどに離れている。
そして私の立っている状況は彼のせいではないし……私のせいでもない。
何もかも、私の母親が悪い。
被害者面する気もないが、客観的に被害者である。
ユーリや、父だった人も含めて。
「それにしてもこのお店、お茶も美味しいですけど内装も面白いですね」
「ええ」
思考を茶の席に戻す。
カップを置いた彼は店の内装に視線を巡らせている。
どうやら、私と同じ部分を気に入ってくれたらしい。
それは店のあちらこちらに配置された、動物の置物だ。
ここは輸入雑貨店らしく、店内には海外で作られた小物も並べている。
特に動物を模したモノが多く、木彫りに彩色した物や陶器が多い。
子供の頃からそうしたモノを好んでいた私にとっては……心やすらぐ目の保養だ。
単に茶を買うだけでなく、ここで一服するのはこのためでもある。
「……っ」
しかし不意に、とある置物が目に入って……少し心が荒んだ。
それは前にこの店に来たときは置いてなかったもの。
新しく入荷したものなのでしょうけど……よりにもよってとしか思えない。
その鳥の名を、私は知っている。
――White-cheeked Starling。
かつてはこの鳥も嫌いではなかった。
けれど、最近は否が応にも別の顔を思い浮かべてしまう。
「?」
私の反応に気づいたのだろう。彼も同じ置物に目をやった。
……そう、今アレは関係ない。
ティータイムまでアレを考える必要はない。
今はこの人の好い隣人とのお茶を楽しみ、借りを清算すればいい。
けれど……。
「――あ、ムクドリの置物もあるんですね」
――彼の言葉が聞こえたとき、寸前までの考えはかき消えた。
To be continued
(=ↀωↀ=)<フラグ立つ台詞を選んでしまった模様
( ꒪|勅|꒪)(……どっちのフラグだろう)
蛇足
〇星空部長
(=ↀωↀ=)<ちなみにこの人の場合
(=ↀωↀ=)<デジタル課金よりもリアルのカード売買の方がヤバい額動いてる
(=ↀωↀ=)<「デジタルは安く済んでいいわね」とか言ってる
(=ↀωↀ=)<そもそもデンドロの作中年代はRMT禁止なのでデジタルカードは金銭での売買できない仕様だけど)
〇バースエイル
電遊研にて椋鳥玲二の先輩、星空暦が遊んでいたデジタルカードゲーム。
タイトルの意味は『誕生の翼』、あるいは『世界の翼』。
デッキを構築して試合を行うオーソドックスなネット対戦カードゲームだが、遊び方が三種類あることで有名。
その一、従来のデジタルカードゲームのようにディスプレイに投影しての遊戯。
その二、視覚と聴覚に対応した非ダイブ型VR機器を用いた遊戯。
その三、アミューズメント施設の大型筐体を用い、ホログラフィック技術で空間投影する迫力と臨場感あふれた遊戯。
いずれもプレイヤーデータは共通であり、自分のプレイ環境に合わせて遊戯できる。
特に大型筐体形式がその迫力と『大型筐体のプレイ後にしか排出されないカード』の存在から人気であり、全国大会の決勝トーナメントでの超大型筐体での試合は臨場感において他のデジタルカードゲームと一線を画す。
(=ↀωↀ=)<デンドロ以外のゲームの話
(=ↀωↀ=)<ダイブ型VRMMOは現状デンドロ一強ですが
(=ↀωↀ=)<非ダイブ型のゲームは色んなのが盛り上がってます
(=ↀωↀ=)<他には非ダイブ型VRFPS『ウォー・グラウンド』などがある
(=ↀωↀ=)<そっちがどんなゲームかと言うと
(=ↀωↀ=)<細かなグラフィックと、何より音響に全力出した代物
(=ↀωↀ=)<些細な動作や幽かな接触による音
(=ↀωↀ=)<さらには銃撃戦で弾丸の命中音(人体含む)までも演算して完全再現するので
(=ↀωↀ=)<超リアルすぎて心臓の弱い人お断りゲーム
(=ↀωↀ=)<ちなみに電遊研の副部長はこのゲームのバトルロイヤルルールの王者
(=ↀωↀ=)<動作による音の発生抑えつつ、ほぼ無音で相手に近づいて
(=ↀωↀ=)<零距離ヘッドショットで確殺するという
(=ↀωↀ=)<「お前、銃の利点言ってみろ。そんなの射撃武器の『全否定』だろうが」
(=ↀωↀ=)<ってプレイングする




