第六話 死の抱擁
(=ↀωↀ=)<12巻発売記念不意打ち&連続更新!
(=〇ω〇=)<ギリギリで書き終わって投稿できますー……
(=〇ω〇=)<まだの人は前話からー……
□■皇都ヴァンデルヘイム・<パレス・ノクターン>
その建物は、沈んだ空気の漂う皇国において他と雰囲気の異なる施設だった。
煌びやかな装飾に料理と酒の匂い、男女の嬌声が響く。
娯楽、あるいは退廃とさえ言える空気が、この施設にはあった。
<パレス・ノクターン>。元は大貴族の経営していた店であり、欲求を満たすための複合娯楽施設だ。
しかし内戦でその大貴族が消えると国に接収され、後にとあるクランに貸与された。
皇国第三位クラン、<LotJ>――<ロウ・オブ・ザ・ジャングル>。
脱退自由のクランであり、規律もなく、自由行動。
そのため、戦争に参加するべく多くの傭兵が参加するクラン。
つまりは、『報酬につられて戦争に参加した<マスター>達のためのクラン』である。
それゆえここは皇国においても贅を尽くしている。
大量に買い占めた食材を、かつては貴族に仕えていた料理人達が調理して提供し、また同様に夜の務めに従事していた者達も働いている。
娯楽や余裕の消えた皇国の中でもここだけは別であり、それゆえに<LotJ>への参入を望む<マスター>は引きも切らず、人数は<叡智の三角>に次ぐ規模である。
三位に位置するのは、二位の<フルメタルウルヴス>のメンバーの方が真面目に国からのクエストや危険モンスターの討伐をこなしているためであろう。
だが、メンバーの多くは「自分達こそが皇国最強のクラン」だと確信している。
生産職クランの<叡智の三角>や真面目だけが取り柄の<フルメタルウルヴス>とは違う、と。
その最大の理由は……彼らのオーナーにもあるだろうが。
◇◆
<パレス・ノクターン>の食堂、入り口から遠い壁沿いのテーブルに男が二人、女が一人座っていた。
「へい。へい。分かってやす。ルールについては紙に印刷して配布する形でげす」
一人は卓上のノートに目を通しながら通信機片手に奇妙な言葉遣いで会話する人物。
しかし言葉遣い以上に奇妙な髪型……モヒカンと目を覆うゴーグル型のサングラスが特徴の男。
このクランのサブオーナーであり、数少ない事務員を努めているモヒカン・エリートである。
「ガリ……ゴリ……」
エリートの向かい側には、女性が座っている。
帽子を目深にかぶり、口元を袖で隠しながら、何かを咀嚼して食べている。
顔は帽子の下から覗く眼しか見えないが、逆にボディラインが隠されていない衣服から女性であることは分かる。
「…………」
そして女性の隣に座り、彼女から背もたれ代わりにされている男。
彼もまた、無言のまま卓上に置いたモノを食べている。
しかし、普通はそれを食物とは認識できないだろう。
男が食っていたのは――緋色の金属だった。
「では、そういうことで。…………オーナー、よく食えやすね、それ」
通信を終えたエリートが金属を食う男……<LotJ>のオーナーに引き気味に声をかける。
「……市場に出回ってたから買ったんだ。ニセモノかと思ったけど、噛み応えは本物。でも、作ったばかりって味がする。作れる【錬金術師】が皇国にいるらしい」
齧っていた金属――神話級金属を分析しながら、彼はそう言った。
「味ですかい……」
「ああ。食べてみる?」
「こっちでまで入れ歯にはなりたくねえんで遠慮しやす」
差し出された皿を、エリートはノーサンキューと断った。
本心で言っていたのか、オーナーが少ししょんぼりとする。
……もっとも、見た目は長身かつ引き締まった体の成人男性なので、そうされても少し怖い。伸びた前髪で右目を隠す髪型と、目つきの悪い左目が合わさると……本当に怖い。
適当にランダム設定したアバターであるが、奇跡的な人相の悪さである。
だが、幸か不幸かクランオーナーとしての迫力は十分だ。
「それよりオーナー。こちら、クラン予算で<DIN>から仕入れた王国のランカー情報になりやす」
そう言って、エリートはオーナーに紙の束……別の場所でヘルダインが配っていたのと同じものを差し出した。
オーナーはそれに目を通しながらページを捲っていく。
数分ほどそうした後、何か考え込んだ後に言葉を発する。
「熊、獅子、兎、猫、鴉、狼……何で王国のランカーって食材多いの?」
見た目、ジョブ名、<エンブリオ>、名前。
たしかに、王国のランカーは動物に関連した者達が多かったが……。
「オーナー、普通食材にしないの混ざってやすぜ?」
エリートからすれば、食材と認識できるのは兎と……ギリギリで熊くらいだった。
「え? 俺の国じゃないけど、足のあるものは椅子以外食べる地域あったはずだけど」
「……それはブラックジョークだと思いやすぜ」
「そっかー、ところでモヒカンは食材?」
「…………」
「ジョークだよ」
「……冗談に聞こえやせんぜ。というか、昔一回食われてますぜ? あっし」
「…………ごめん、いつだっけ」
オーナーは少し笑いながら子供のように首を傾げるが……見た目が見た目なので物凄く怖い。
エリートも冷や汗をかきながら「仕方ねえなあこの人は」と思いながら笑う。
女性は我関せずと食事――神話級金属の咀嚼を続けていた。
「で、例の<トライ・フラッグス>ではどんな指示を出しやすか?」
「自由行動」
エリートの問いに、オーナーは即答した。
クランオーナーとしてクランへの作戦指示は彼に一任されているが、作戦とも呼べない答えを口にしたのである。
「もしくは、ガンガンいこうぜ、かな」
「……あの、それは?」
「どの道、俺達のクランは最低限の枠組みしかないんだ。<フルメタルウルヴス>みたいな作戦行動は無理だよ。フラッグの防衛や連携しての拠点攻撃は任されるべきじゃない。だったら、各自王国の<マスター>の頭数を減らすことに専念すればいい。クラン単位ではなく、パーティやソロで好きに動いてね」
元より戦争での在籍場所を求めた寄せ集めであり、プレイスタイルも異なるものが多い。
であれば無理にまとめるよりも、各々のパフォーマンスを最大限発揮できる状態で敵戦力を削るべきだと考えた。
「ちゃんとした動きは陛下が直轄する<超級>達やヘルダインのグループがやってくれるさ。うちのクランはいつも通り、提示された報酬を求めて動き回ればいい」
「……ですかね。オーナーはどうしやす?」
「さっきのリストにあったランカーや準<超級>を、適当に喰って回るよ。<超級>の味も気になるけど、途中退場は避けたい」
そう言ってオーナーは手の中の神話級金属をピーナッツでも食べるかのように口に放り込み、噛み砕いて嚥下した。
「……さっきから食べてたこれだけど、栄養価は足りない気がする。リソースじゃなくて、カロリー的に」
「だったらもっと美味しいもの食べやしょうよ。何のための<パレス>か分かりやせんぜ。なんならあっしがおにぎりでも握りますぜ?」
「俺は他のも食えるから普通の食料はメンバーやティアン職員優先でいいよ。それに味があるだけ俺にとっては美味し……」
オーナーとエリートが戦争の話も一区切りして談笑していると、
「アンタが【喰王】カタ・ルーカン・エウアンジェリオン?」
彼らのテーブルの前に立った人物が、オーナーに向かってそう問いかけた。
「カタかオーナーでいいよ。長いだろう?」
オーナー……カタは動じた様子もなく、質問者に応じる。
質問者は眼鏡をかけた女性で、皇国では珍しくもない分厚いコートを着ている。
「いや、アンタとだけ呼ばせてもらうよ。名前を呼ぶほど親しくなる気はないし、どうせすぐにオーナーじゃなくなる」
女性は挑発的な言葉を返した。
「君、最近入ったメンバー……たしかマテルさんだよね? どうしたのさ」
「聞いたんだよ。ここで唯一のルールをね」
質問者……マテルは眼鏡を押し上げ、ニヤリと笑いながら言葉を続ける。
「『アンタを倒せばクランオーナーになれる』ってさ」
「ああ、それかぁ」
<LotJ>、設立時からのルール。
有象無象が集まるこのクランのオーナーは最も強い者が務めるべき。
それゆえ、『オーナーを倒した者がオーナーになる』とルール設定されている。
挑戦を明言した上で一対一、開始宣言もあるという奇襲抜きのガチンコ勝負。
それによって、これまで何度もオーナーが入れ替わってきた。
相性差もあるため、自分を倒した者が倒されたときに挑戦し、再びオーナーの座を取り戻した者もいる。
だが、今はもう動いていない。
現オーナーであるカタが就いてからその座は不動であり、やがて誰も挑戦しなくなったのである。
挑戦しなくなった理由を知らない新人以外は。
「上位クランのオーナー。メリットは山ほどありそうだ……譲ってもらうよ?」
「分かった。勝負しよう。みんな、準備を頼む」
マテルの挑発的な物言いにカタは快く応じ、周囲に声をかける。
すると、食堂で食事していた者達がテーブルや椅子を壁際に寄せ始めた。
「しゃあ! 久しぶりだぜ!」
「飯食ってる奴は食うのやめろ! あぶねえぞ!」
どこか楽しそうに、恐ろしそうに、そして奇妙なアドバイスを混ぜながらメンバーは作業を続ける。
カタ本人はどこかウキウキとした様子で椅子から立ち上がり、彼を背もたれにしていた女性もつられて立ち上がる。
「オーナー」
「何だい?」
「余計なものまで食わねえでくださいよ?」
「うん。分かってる」
そうして食堂内の開けた空間に、カタとマテルが向かい合う。
よく見れば、食堂の床には数多くの補修跡が目立っている。
これまでに何度もこのような用途で使われては、壊れ、直されてきたのだろう。
「ルールは一対一。他のメンバーの加勢も、他メンバーへの攻撃もなし。あと、【ブローチ】と回復アイテムも禁止で、特典武具はアリだ」
「分かってる。けど……どういうつもりだい?」
マテルはルールの確認よりも、カタの様子が気になった。
なぜなら、カタには今も……口元を隠した女性が寄り掛かっていたからだ。
「一対一のはずだろう?」
「ああ。気にしないでくれ。ニーズは俺の<エンブリオ>だから」
「……なるほど。それが噂のニーズヘッグか」
<LotJ>のオーナー、カタの<エンブリオ>は【ニーズヘッグ】という名前だけは知られている。
だが、その能力特性はどこまでが<エンブリオ>のもので、どこからが超級職によるものか判明していない。
<マスター>にはままある一致型のビルドだ。
(【喰王】、生物捕食によるHPドレインと素材捕食による経験値獲得の超級職。加えて、歯や顎、消化器官へのピンポイント強化もある……と聞いている)
カタに《看破》を飛ばしながら、マテルがその手の内を再確認する。
彼女の眼前で、ニーズは既にその身を消していた。
(あのニーズヘッグは恐らくメイデン。だが、変形後の情報がほとんどないことから恐らくは非実体のルール派生のテリトリー。外部に回ってる戦闘記録を見ると、ステータス強化特化? それとも強化したとはいえ神話級金属を噛み砕いていたから、ニーズヘッグもまた捕食能力強化が特性? メイデンのジャイアントキリングを勘案すれば、噛みつき限定の強度無視か? この前の“トーナメント”の賞品にもあった能力だ)
マテルは、更に思考を進める。
彼女が最終日への参加を希望し……結局は出ずに終わった王国の“トーナメント”。
その二日目の賞品が防御力無視の<UBM>だった、と。
(クロスレンジの噛みつきであらゆるものを捕食し、それを回復やレベルアップに使う。なるほど、強力なビルド。超級職のレベルも……一〇〇〇オーバー)
レベルアップに上限のない超級職だが、一〇〇〇以上の領域に到達できた者は限られている。
それこそ、広域殲滅型やかの【犯罪王】のように通常とは違う経験値獲得手段がある者に限られている。この【喰王】カタは後者であるだろう。
(だが、僕には勝てない)
カタの手の内を把握し、マテルは自分の勝利を確信して笑みを浮かべる。
「さてと、お互いもう知ってるけど、ルールだし名乗り合おうか。俺は【喰王】カタ」
「ええ。僕はマテル」
そして彼女は両手を広げ、
「――【傀儡姫】」
――マテルが自らのジョブを告げた直後、食堂の天井から無数の銃弾が放たれた。
天井に忍んでいたのは銃器を携えた無数の人形。
鏡面処理された体は周囲の景色を映し出し、戦闘起動するまで完全にその気配を消していた。
「――――」
不意を打つ形で放たれた無数の銃弾を、しかしカタは回避する。
まるでネコ科の肉食獣のように、自らの脚力を発揮した超音速の踏み込みでマテルへと肉薄し――その喉笛に喰らいついた。
「読み通りだ、“悪食“!」
だが、神話級金属さえも噛み砕く彼の顎は、マテルの細い首に傷一つつけてはいない。
(傀儡師系統のスキル、《ダミー・ドール》)
それは、マテルの発動していたパッシブスキルによるもの。
(自身の所有する人形にダメージのいくらかを移し替えるスキルだが……【傀儡姫】はスキルレベルEX! ダメージ転嫁率は一〇〇%だ!)
今もコートの内側では、ダメージを肩代わりした神話級金属製人形が砕けている。
だが、その全てが砕け散るまで……彼女には一切ダメージが入らない。
(彼らからの資金と素材提供でダメージ転嫁用人形の数は一〇〇〇体! HPにして三〇〇〇万以上! 人形を削り切らない限り、僕自身にダメージは通らず傷もつかない! そして【喰王】は捕食できなければHP回復もない!)
破損ペースを考えれば、あと数分は持つ。
それまでに、回復できないカタを殺せばいい。
「…………」
一撃で食い千切るはずが、それが達成できない。
そのことに対してカタに焦りはなかった。
しかし喰いついたままその体を動かそうとしたとき……。
「逃がさないよ!」
マテルのコートの内側から、緋色の金属でできた無数の腕が伸びてくる。
それは神話級金属に似ていたが、それよりも鈍い色合いだった。
それらの腕はカタの手足と胴体を捉えると共に、マテルの喉元に喰らいついたカタの顎を上下から押さえ――口を離せないように固定した。
「圧縮した超硬神話級金属製のアームだ! 強度無視の顎ならともかく、単純なステータスで破れるモノじゃない!」
それもまた、マテルがある者達から提供された素材。
今の彼女が手に入れられる最高の素材であり、その拘束力は……【破壊王】でさえ生身では抜け出せない。
事実、カタが力を込めてもアームは小動もしなかった。
それこそは、逃げることの叶わない死の抱擁。
今、カタは完全に固定されている。
「終わりだよ!」
カタの首を目掛けて、新たな人形が彼女のコートから射出された。
それは三日月状のギロチン人形。
刃もまた超硬神話級金属であり、その攻撃力は凄まじく、
――END型超級職に分類されるカタの首を容易く切断した。
マテルの首に噛みついたまま、カタの頭部は胴体と泣き別れになる。
「残念だったね。僕の肉を喰えばその傷も治るだろうけど、もう駄目さ。何も食べられないよう、このままデスペナになるまで抱いててあげるよ」
捕食によるHPドレインは強力だ。
しかし、それを封じてしまえば唯の肉弾戦超級職に過ぎない。
防御力無視と回復能力で数多の挑戦者を破ってきたのだろうが、対策をとれば勝てる程度だとマテルは鼻で笑った。
(ま、対策をとれる僕が凄いんだけどね。さて、<LotJ>のオーナーになったらリアルからあの人達に連絡して、今後の指示を……)
――ガリ、ゴリ。
――ゴリリ、ゴクン。
「……え?」
それはマテルの思考を中断するには十分な異音だった。
明らかな、咀嚼音。
硬いモノを噛み砕き、嚥下する音。
(な、え? いや大丈夫だ! 首は、無事だ!)
自分の身体にダメージはない。
切り離されてもなお食らいついてくる顎も、人形がダメージを肩代わりできている。
ならば、今の音は何か。
首に食らいつかれて視界が制限されていたマテルが、それでも何とか視線を下げたとき。
「……………………え?」
目に入ったものは――明らかに喰い千切られた痕跡のあるアームだった。
(…………なんで?)
彼女がそう考えた直後、視界を覆い隠すように影が差し込む。
そちらに眼球を動かして……彼女は視てしまった。
それはアームから解放されたカタの腕。
――ただし、掌に巨大な口が形成されている。
掌だけではない。
腕に、肩に、足に、胴に……全身に幾つもの顎が形成され、全身を押さえていたアームの全てを食い千切っていた。
そして神話級金属よりも硬いはずのアームを平らげた後は――全ての口が彼女へと殺到する。
「ひっ……!?」
アームで拘束していたときとは逆に、彼女が抱きしめられる。
カタの全身に出来た口が、彼女の全身に食らいつく。
――人形の破損スピードが数十倍に加速する。
「や、やめろ! やめろよ……やだ……!?」
ギロチン人形や銃器人形を操作してカタの背に攻撃を浴びせるが、カタが捕食を止めることはない。
手足を切断されても、背中を蜂の巣にされても、彼の全身の口は構わずマテルを喰おうとする。
やがて、彼女のコートの内側の人形が尽きたとき……。
カタは彼女の肉を捕食し始めた。
「いぃいいいっやああ、や、やめて、やめ……ああああああ……!?」
肉を喰らうほど、頸が繋がり、手足が繋がり、背中の傷が癒えていく。
全身でマテルを抱きしめるように捕食するカタ。
その体積は喰われたマテルの分だけ縮んでいき、やがて……。
「……ごちそうさま」
マテルだったものは、デスペナルティになって消えていった。
カタは、彼女がデスペナになるまで抱きしめていた。
これこそが死の抱擁とでも言うように。
◇◆
戦闘の後、食堂の状態は悲惨だった。
途中から半狂乱になったマテルの攻撃が雑になり、食堂の内部が破壊されたから……だけではない。
先達の警告も聞かず、オーナーのバトルを酒の肴にしようとしていた者達が……軒並み嘔吐していたからだ。
凄惨な光景、マテルの悲鳴、そして漂った彼女の中身の臭いは、吐き気を催すには十分すぎるものだったからだ。
これがカタへの挑戦者がいなくなった理由である。
カタが『どうすれば死ぬのか分からないほどに強い』から。
そして……『あんな死に方はしたくない』から、である。
被食者と化す体感を抜きにしても、特典武具でもなければ装備を喰われる。
あまりにもリスクが高すぎる戦いだ。
「……おつかれさんです、オーナー」
エリートがカタに水とタオルを差し出す。
その顔色は少し悪くなっているが、付き合いも長いのでまだ耐えている方だ。
「ありがとう。ああ、マテルさんはメンバーから省いといて」
「……まぁ、本人から出ていくと思いやすが、なんでまた?」
カタへの挑戦がトラウマになって辞めていくメンバーは、それなりに多い。
今回は特にひどいケースなのでまずそうなるだろうとエリートは考えたが、しかしカタの方から除名を命じたのは初めてのケースだ。
その理由を聞かれてカタは……。
「素材の味がちょっと【地神】素材っぽかった」
己の味覚を判断の根拠とした。
「【地神】って……<セフィロト>の?」
「前の戦争で食べたから分かるんだよ。素材を膨大な魔力で無理やり圧縮して作った、みたいな味。買ったのか、供与されたのか、どっちにしてもカルディナからの回し者な気配だから。前の戦争みたいになる前に手を打つ。他クランへの廻状も頼むよ」
マテルをカルディナのスパイと断定し、カタは指示を下した。
恐ろしいことに……それは正解である。
マテルは王国の“トーナメント”に出場を希望していた準<超級>の一人であり、直前でカルディナにスカウトされた人材だったからだ。
そして、皇国へのスパイとしてそのまま向かわされたのである。
「……そんなことまでよく分かりやすね」
「俺は【暴食魔王】と違って、ちゃんと味わって食べるんだ。あの人みたいに何でもかんでも放り込むのは、食事じゃなくて処理だもの」
彼は、レジェンダリアで畏れられる【魔王】の一人……似て非なる知人の名を挙げた。
「……しかしオーナー、あんたやっぱり下手な<超級>より強いんじゃないですかい?」
今しがた蹂躙されたマテルは準<超級>。
それもかなりの装備を揃えた猛者だった。
並の準<超級>ならば、身代わりの人形を削り切れずに敗れているだろう。
そんな彼女が赤子同然に泣き叫びながら……捕食されたのである。
明らかに、準<超級>の中でも隔絶していた。
「さぁ? 準<超級>トップ層と<超級>最下層の比較はよく言われるけど、そもそも何を以て上か下かなんて分からないもの。相性勝負も多いからね。んっ。ありがとね、ニーズ」
ふと横からいつの間にか再出現したニーズヘッグが、カタにナプキンを差し出した。
彼はそれで顔や体に付着していた神話級金属の破片を拭った。
「それに俺もヘルダインや【光王】には負けてるしなー……クロノの奴には首飛ばされて逃げられたし……。被ダメージ的には負けてる?」
アウトレンジ型には負けているし、AGI型には判定負けだと、カタは自ら敗北を認めている。
しかし、だからこそエリートを始めとする<LotJ>のメンバーは確信する。
皇国の準<超級>において、クロスレンジ戦闘でこの人の右に出る者はいない。
あるいは“物理最強”【獣王】にさえ一矢……一歯報いるだけの力がある。
「それにしても、やっぱり超級職の方がおいしく感じるな……」
皇国近接最強の準<超級>。
クラン三位にして討伐二位――カタ・ルーカン・エウアンジェリオン。
「――王国の超級職も、楽しみだなぁ」
――彼もまた、戦争への意気込みを強める<マスター>の一人だった。
To be continued
〇【喰王】カタ
(=ↀωↀ=)<皇国第三位クラン<LotJ>のオーナー
(=ↀωↀ=)<ちなみにクランは遊戯派だけど本人世界派
(=ↀωↀ=)<味がするモノ食べられればいいスタンス
(=ↀωↀ=)<足のあるものどころか何でも喰う人型噛み砕きカー〇ィ
( ꒪|勅|꒪)<それカー〇ィとは違わないカ?
(=ↀωↀ=)<あんなこと言ってたけど椅子もたまに食べる
(=ↀωↀ=)<立ち位置は皇国版カシミヤ(ビルドは真逆に近いけど)
〇【捕食雌龍 ニーズヘッグ】
(=ↀωↀ=)<TYPE:メイデンwith???
(=ↀωↀ=)<増えた口とかは彼女の能力
(=ↀωↀ=)<カタの一番やべーところは
(=ↀωↀ=)<メイデンの<マスター>なのに捕食対象に躊躇がないこと
( ꒪|勅|꒪)<レイも大概でハ?
(=ↀωↀ=)<……ま、まだ生きた人間食べたことないから




