第三話 水 ※あとがき追記
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(=〇ω〇=)<作者の腕が悲鳴を上げた成果をお届けいたします(白目)
□椋鳥玲二
「元黄河皇族のアンデッドなー。そらまた厄介事になりそなもん抱えこんどるねー」
俺の話を聞き終わった女化生先輩は、笑顔半分呆れ顔半分でそう言った。
「その辺、レイやんもルーやんも熊やんに似とるなー」
「? それはどういう?」
「まぁ、しょっちゅう事件が起きとるのがデンドロやけど、周りで事件が起きやすい人もおるんよ。うちら第一陣やと、熊やんがそういう役どころや。……まぁ、恣意的に巻き込まれた事件も多かったんやけど」
兄を事件に巻き込む……?
兄の宿敵だという【犯罪王】ゼクス・ヴュルフェルの仕業だろうか?
「ところで、先輩はどうやって……」
「会長って呼んでほしいわぁ。レイやんももう部員やし」
「……会長はどうして珠のことに気づいたんですか?」
ルークは不透過の結界で戦っていたし、順番待ちをしていたアットさん達にもバレないように応対していたはずなのに。
「んー。伯爵とか王女周りの動きやね。三日目の珠への挑戦の直後にバタついとったから、『珠絡みでなんやあったんかなー』おもて。あとは可能性の高い話でカマかけやね」
「…………」
あの後、アズライトには事の経緯を報告した。
ただ、タルラーの警告とルーク自身の希望もあり、黄河側には伝わっていない。
一つだけ懸念されたのは、中身が<UBM>でなかったことが王国と黄河の間の契約違反になるのかという点だったが……<DIN>から伝わる黄河の情報によればその兆候はないらしい。
中身が何であっても黄河内部で『宝物獣の珠』として扱われていた品であることに変わりはないため、破ったことにはならないようだ。
あちらもあちらで、それを意図してタルラーの珠を混ぜていた訳ではないのだろうが。
「それにしても、アズライトや伯爵周りをそんなに探ってたんですか?」
いったい何を企んでいたのか……。
「耳に入っただけやってー。近頃は頼まれて信者派遣しとったし」
「?」
信者の派遣?
「それで、【ハイエンド・ドラゴニックレイス】やったっけ。聞いたことない種族やけど、強さはどないなん?」
「あ、はい。強いですよ。ルークと模擬戦してましたけど五分でした」
あの後、本拠地の結界内での模擬戦でタルラーは何度かルークやルークの従魔と戦っていた。
タルラーはアンデッドだからか、長い間封印されてもまるで弱まっていなかった。
それでも勘を取り戻すため、と言って模擬戦を要求したのである。
結果は、ルークと従魔が揃って五分の戦い。
しかしそれでもルークの読みでは、タルラーはかなり手を抜いているそうだ。
それについてタルラー自身は、「気づいたか。やはり才はある」、「力を出してもよいが、そのときは『腹が空く』のでお勧めせぬ」と答えた。
ネメシスもよく腹を空かしているが、タルラーのそれはネメシスのそれと決定的に意味合いが異なることは……第三者である俺でもはっきりと理解できた。
あるいはそれが封印された理由の一端かもしれない。
「…………んー」
ただ、俺の話に女化生会長は何事かを考えている。
「なんや、アンデッドっぽくない子やねぇ」
こんなのでも司祭系統超級職であり、ある意味では対アンデッドの専門家の一人である女化生会長。
彼女から見て、タルラーは何か違和感があるようだった。
「東方と西方の違いではないですか?」
「せやけどビーちゃん。人間由来でもアンデッドモンスターは大なり小なり正気が欠けとるもんやろ? 力のセーブとか自粛とか、基本苦手な連中なんよ?」
「…………」
その言葉で俺が真っ先に連想したのは、【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】だ。
あれも人間由来のアンデッドだが決して正気ではなく、自らも大きく損耗するだろう《デッドリーミキサー》を連発していた。
……数多の怨念を集積した結果かもしれないし、生前からも正気とは思えない悪行を重ねた連中ではあったが。
「レイやん。その子のもっと詳しい出自とか聞いとる?」
「いや、『聞けば聞くだけ危うい』ってルークにも話さないそうです」
「正解やねー。あんまりクビ突っ込むと、大国の裏事情に巻き込まれそうやわー。この話はここまでやね」
女化生会長はそう言って話を打ち切った。
「何にしても、おもろい情報やったわー。ほな、レイやんにもこれあげたるー」
女化生会長はそこで今までの話を打ち切って、俺に何かメモを渡した。
それはどこかのサイトのアドレスと、ID・パスワードが記されていた。
「これは?」
「<月世の会>のデータベースへのアクセス権やね。<CID>に入会した特典ゆーことで。<編纂部>のやっとるサイトよりも濃い情報置いてるから有効活用してなー」
藤林先輩はこのために入会していたと以前聞いた。
……複合系統超級職の模索もあるし、これは素直にありがたい。
「ありがとうございます」
「ええってええって。レイやんの入会でしばらくは部室も安泰やし。……あかんなったらレイやんの友達とか誘って部員増やさなあかんけど」
「それはやめて欲しい……」
同級生四人をこの妖怪に近づけるのは流石に気の毒だ。
どんな風に祟るか分からない。
「む。なんや、失礼なこと考えてへん?」
「会長のこれまでを考えれば、椋鳥君がそう考えても仕方ないと思いますよ」
「ひどいわぁ。まー、それ渡すんが今回の主目的やったし、もう帰ってええよー」
何はともあれ、今日のサークルはこれで御開きという流れらしい。
多少の脅迫はあったものの、想定よりは穏やかな初回だった気がする。
……初回だからかもしれないが。
「レイやんは明日からの連休どないするんー? 月火は自主休講?」
「いや、普通に授業出ますよ。三日の水曜から実家に帰省する予定です」
デンドロの都合で体感数ヶ月、あるいはもっと長かったかもしれない四月も終わりだ。
姉も五月五日の誕生日に帰省するらしく、久しぶりに顔を合わせることになるだろう。
……なんか足が震えてきた。
と、とりあえずこの連休で姉の誕生日プレゼントを探しに行こう。
「実家に帰省なー。うちは課題もあるしこっちやねー」
……この人、また課題に悩まされているのか。
「会長の実家って、京都でしたっけ?」
「せやでー。そっちで病院やっとるわー」
「……<月世の会>関連の?」
「んー、うちって宗教法人と医療法人の二本柱やからー。うちが爺様から宗教法人継いで、両親が医療法人やっとるわー。両親とこはターミナルケア以外もやっとるよー。あ、トルネ村の事件で二人が関わったシジマが入院しとるのも治療用の病院やね」
<月世の会>は終末医療が発端の宗教団体と聞いていたけれど、扶桑一族は普通の病院経営もしているらしい。
女化生会長が医学部にいるのもその関係だろうか。
「実家と言えばビーちゃんはどないするん?」
「月初めに帰ったばかりですからね。今回は帰省しないつもりです。実家ではログインもできませんし」
そういえば先輩はトルネ村の事件後、実家の用事で帰省していた。
しかし実家では……か。
俺はどうしようかな。持って帰るにしてもメット一つ分は結構な荷物になる。
場合によっては、実家に戻ってからもう一つ買った方がいいかもしれない。
……デンドロにログインしてばかりでほとんど金使ってないから余裕あるし。
「んー、たまにはログインしないのも健康的でええかもしれへんよー」
「……自分が課題終わるまで付き合わせようとしていませんか?」
「そんなことあらへんってー」
それはどうだろう?
この人が結構課題溜め込む性質らしいとはこの一ヶ月の付き合いで分かってきた。
……手伝う月影先輩が過労で倒れるくらいに。
「でも講和会議からこっち、“トーナメント”あったくらいで平和やしー。……まぁ、レイやんは【魔王】とバトってたみたいやけど、レイやんやし」
「椋鳥君ですからね……」
「……何ですか、変な納得して」
そんなに俺がトラブル誘因装置に見えるのだろうか。
……四月は毎週トラブルに巻き込まれたから否定もしづらいが。
「ですが、いつまでも平和という訳でもないようですよ」
そのとき……これまで無言で立っていた月影先輩が不穏な言葉を漏らした。
「え?」
月影先輩はいつの間にか、携帯端末を手に取っていた。
「どうやら、王都で何事かが起こっているようです」
月影先輩がそう言いながら俺達に見せた画面には、情報サイトであるMMOジャーナルプランターの速報が表示されている。
記事には――『朗報! 王都の水道からジュースが湧き出る!』と書かれていた。
「……どういうことだよ?」
意味不明すぎて、そう呟かずにはいられなかった。
◇◇◇
□【司祭】レイ・スターリング
記事を読んだ後、俺は帰宅してデンドロにログインした。
そしてシルバーに乗って王都へと全速力で飛び、今到着した。(なお、クランのみんなへの伝言はビースリー先輩にお願いしてある)
「混乱は……収まってるみたいだな」
今の王都は午前中で周囲には人も多いけれど、そこに慌てている様子はない。
記事では『大人が慌てふためき、子供は喜んでいる』と書かれていたが、今は落ち着いたものだ。
いや、何かを期待して水道の蛇口をひねっている子供たちはいるか……っておい。
「ネメシス?」
「むぅ、もうジュースタイムは終わってしまったようだのぅ……」
子供に混じってネメシスも蛇口に群がっていた。
ネメシスはこういうところ本当にネメシスだなぁ……。
「今、私の名前が代名詞扱いされておらなんだか!?」
「気のせいだ。それより誰かに事情を……うん?」
視線を動かすと、特徴的なシルエットが入り込んだ。
トンガリ帽子を被った魔法使いらしいその装いに、俺は見覚えがあった。
「……インテグラ?」
王国の重要人物の一人、【大賢者】インテグラがそこにいた。
「おや? レイ・スターリング君じゃないか。王都に来ていたのだね」
「ああ。事件の話を聞いてギデオンから……インテグラは調査を?」
彼女は、水道水を試験管に採取しているようだ。
「ああ。サンプルを幾つか集めての成分分析さ」
「……【大賢者】って、そういう調査もするんだな」
「最近はアルティミアの指示でこういうことばかりやっていたのだけれどね。まぁ、それは水ではなく土の調査だったけれど」
「土?」
はて、アズライトはどうして土の調査を?
というか……どこの?
「ともあれ、今回の事件ではポイントごとの残留物の変化を見ていたのさ」
「残留、ってことは何かが水に混ざったってことか? 大丈夫なのか?」
地球の歴史上の中毒事件が脳裏をよぎる。
だが、インテグラからは「心配ない」と答えが返ってきた。
「成分分析をしても、毒性は皆無。むしろ、甘味がついただけで成分は水だよ。水の代わりに薬品を調合しても効能が変わらないくらいに……ただの水さ」
「そうなのか」
「薬が甘くなるなら嬉しい気もするのぅ」
「……甘いって理由で薬がぶ飲みしたらただのアホだからな?」
でもネメシスだとやりかねないのが本気で怖い。
「ネメシス君は本当に底なしだねぇ」
インテグラも呆れたようにそう言っている。
……以前、インテグラの用意した菓子を全て平らげていたな。
しっかり覚えられている。
「レイ君の格好も相変わらずだし、君達をセットにすると衣食住の不安要素の塊だよ」
「ちょっと待て! 俺の服装……はもう言われ慣れたからともかく『住』って!?」
「君達って八番街の闘技場に住んでるんだろう? 『住』に問題がないと言われても逆に困惑するよ?」
…………なるほど。
住んでみれば便利だけど、外から見たときは確かに怖いかもしれない。
「実際問題、偉い貴族の間でも偶に話題になるんだよ。『うちの国のクラン二位、八番街の闘技場に住む恐ろしげな名前と風貌の集団だけど本当に大丈夫?』って」
「そんなレベルで!?」
「クラン一位が怪しい宗教団体、三位がPKクランだから余計に心配になるのかもね」
「うちは大丈夫だぞ!?」
問題は……今は起こしてないよ!?
「……王都封鎖とかギデオン破壊とかノズ森林炎上おるしのぅ」
「前科持ちが多くて否定しきれない……!」
「他人事のように言うが、王女の風呂覗きも含まれるのではないか?」
「あれは入れないでくれよ!?」
半分は事故だからな!?
……まぁ、混浴って確認してから入り直したの俺だけど。
「百面相してるなぁ……」
インテグラが笑ってるのか呆れてるのかいよいよ分からない顔で呟いた。
「水の話に戻るかい?」
「……そうしてくれ」
なんか、精神的に疲れた……。
「王都の地下水脈に混ざったのは、他に影響を変えずにただ甘くする何か。使い方によっては料理界に革命を起こせそうだね。……ま、今回はどこの飲食店も困ったようだけど」
……そりゃいきなり水の味が変わったら料理する側は大惨事だろう。
ベースである水が甘かったら味を変えるにも限度がある。
誰も彼もがバビのように甘さ+辛さの虜ではないのだ。
「原因は分かったのか?」
「物質的な混入とも違うようだ。だから、真っ先に疑ったのは誰かの<エンブリオ>ってケースさ。レジェンダリアの【怠惰魔王】や、今カルチェラタンで頑張ってるブルー某が皇国でやらかしたみたいに、初使用のスキルで広範囲に影響を及ぼすケースはままあるからね」
スキルの効果範囲が想定よりも広いときにそうした事態に発展するケースは俺も聞いたことがある。
……というか、件のブルースクリーン氏も同席した場でダムダム氏が話していた。
皇国の機械を止めてしまって指名手配された、とかなんとか。
「ただ、原因を究明しようとした矢先に……話が動いたんだよね」
「……何があったんだ?」
俺が尋ねると、インテグラはモノクルの位置を直しながら言葉を続ける。
「レイ君は知っているかな? 王国と皇国の間には、直通の通信魔法のホットラインがある。まぁ、前の<戦争>が決まった時点から、使われていないものだったのだけど……」
だった、という過去形の言葉。
それが意味するものは……。
「――先刻、皇国からホットラインが掛かってきたのさ。これ、今回の件と無関係だと思う?」
To be continued
(=`ω´=)<先輩から会長にランクアップや-
(=ↀωↀ=)<好感度『女化生』は変わりませんけどね
〇追記
(=ↀωↀ=)<黄河との契約は『宝物獣の珠を10個譲り渡す』です
(=ↀωↀ=)<だって『特典武具を渡す』の場合
(=ↀωↀ=)<王国が<UBM>倒せなかったり、逃げられたりしたときに契約不履行になるからね
(=ↀωↀ=)<で、『珠を渡す』契約だから中身がタルラーでも大丈夫でした




