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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
第七章 女神は天に在らず

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第一話 取引

(=ↀωↀ=)<告知のため予定より早めに更新ー


(=ↀωↀ=)<明日1月15日は悠木碧さんが歌うインフィニット・デンドログラムのOPテーマ


(=ↀωↀ=)<Unbreakableの発売日となりますー


(=ↀωↀ=)<格好いい歌なので是非お聞きください


(=ↀωↀ=)<それと多分、木曜日の二話からは内田彩さんのEDも流れると思います

 □椋鳥玲二


 四月最後の金曜日。

 選択した授業が全て終わった時間に、俺は帰宅もせずに大学のカフェにいた。


「……はぁ」


 帰らないのはまだ用事があるからだが、その用事が嫌すぎてこのカフェに留まっている。

 しかし、催促するように携帯端末が振動し、ディスプレイには「はよ部室おいでー♪」と表示されていた。


「…………」


 俺の用事とはメッセージの主と、その住処にある。

 虎穴どころか虎口に等しいその場所に、正直行きたくはない。

 だが、行かねばならない。そういう約束だからだ。


「…………仕方ない」


 俺は覚悟を決めて……<Club of Infinite Dendrogram>の部室に向かうべく立ち上がった。


 なぜ俺が可能な限り避けていたあの場所に行かねばならないのか。

 その理由はとある取引によるものだった。


 ◇◇◇


 □【司祭】レイ・スターリング


「レイやんレイやん。ちょっと待ってーな」


 その日、新しくジョブに加えた【司祭】のレベリングをしようと思っていた俺を、女化生先輩が呼び止めた。


「?」

「レイやんにお願いがあるんやけどー」

「お願い?」

大学のサークル(<CID>)に入会してくれへん?」

「…………その話、前に断りましたよね?」


 断ったというか、逃げた。

 正確には逃げようとしたけど捕獲されて、ビースリー……藤林先輩に助けられた。


「んー、せやけどなー。大学から『もう一人増やさないと部室没収』って言われてしもてー」

「……?」


 はて、うちの大学は三人以上でサークルを結成できるはずだが。

 サークルに入ってないので詳しくないが、ルール改定があったのだろうか?


「サークルが細分化して増えすぎたみたいなんよ。だからもう一人増やさないと部室の優先度的に危ういって言われてしもて」

「なるほど……」


 たしかに、変わったサークルが多すぎるほどに多かった。<CID>もその一つだが。

 何だかんだで世話になったことも多いので、名義貸しくらいなら良いかとも思う。

 だがそこから宗教に引っ張られるリスクもあり、素直にうんとも言いづらい。

 以前も『治療一回でサークルに入会。治療二回で<月世の会>に入信』と言われて「絶対に頼まねえ!」と断った記憶がある。


「ただとは言わへんよ?」

「……治療ですか?」

「もっといいものがあるんよー。ふっふっふ、わかりますー?」

「…………」


 勿体ぶり方がちょっとうっとうしい。


「ご存じのとおり、うちは先日の“トーナメント”で優勝した身の上や」

「そういえば……」


 二番目に人気だった五日目、【窮鼠回天 バルーベリー】が賞品だった日だ。

 あれに優勝したのがこの女化生先輩であり、挑戦権を持っている。

 ただ、疑問にも思っていたのだ。

 たしか、女化生先輩はポリシーとして【救命のブローチ】を装備しない。

 だというのに、『致死攻撃無効化&無効化からの一定時間身体強化』という【ブローチ】の強化版とも言える特性を持つ【バルーベリー】に挑戦したのは疑問だった。

 ただ、女化生先輩は俺が疑問を口にするよりも先に、


「<CID>に入ってくれるなら、挑戦時のパーティメンバーに入れたるわー」

「!」

 ――取引を持ち掛けてきた。


「しかも、うちは手を出さへんよ。デバフの貢献度でうちがゲットする心配もなしや。それに影やんも抜き。<月世の会>には他に超級職もおらへんし……どや? グッと入手確率が上がるやろ?」


 俺自身は“トーナメント”でレイレイさんに敗れて勝ち残れなかった。

 ここにきて戦力アップの可能性がある、<UBM>への挑戦権はたしかに魅力的だ。


「……入会は<月世の会>ではなく、<CID>ですよね?」

「もちろんやー。で、受けてくれはる?」


 俺は少し考える。

 これが一種のフットインザドア、小さな頼みごとを成立させ、それを重ねて本命の頼みごとを受けさせやすくする類のテクニックであることは察している。

 しかしながら、取引自体は悪くない。

 <月世の会>のメンバーは俺よりも経験豊富なベテラン揃いだが、超級職のように地力の時点で大きな差がついているわけではない。

 ならば競い合った上で<UBM>相手にMVPをとる確率は、二人の先輩が参加しているときよりも確かに上がっている。

 それに、<CID>の部室が無くなれば藤林先輩……それと扶桑先輩と月影先輩も困る。

 ならば利のある挑戦と人助け、そのどちらも達成できるこの取引は受けるべきか。


「分かりました。承諾します」

「さっすがレイやん! 話が分かるわー♪」


 扶桑先輩は嬉しそうに俺の肩を叩いた。


「挑戦は明日やけど頑張ってなー。MVPになれるかはレイやん次第やー」


 そう言う扶桑先輩は……実にニコニコとした笑顔だった。

 あとから考えれば、その時点で何かを怪しんでおくべきだったのだろう。


 ◇


 結論から言おう。

 特典武具は取れなかった。


 ◇


 挑戦の当日、【バルーベリー】に挑むパーティメンバーが集まった。


「……………………」


 そして俺は言葉を失った。


『これは、また……』


 ネメシスが呻くのも仕方がない。俺も呻きたいくらいだ。

 この日集結した面々、挑戦の当事者として参加が義務付けられている女化生先輩は問題ない。

 問題は、他の四人。


 【伏姫】狼桜。

 【傾国】キャサリン金剛女史。

 【氷王】アット・ウィキ氏。 

 そしてうちのクランに入った【殲滅王】アルベルトさんである。


 うん、俺以外は全員超級職だね。


「…………どういうことだよ」


 何で、こんな豪華メンバーでの挑戦になっているんだ?


「<月世の会>のメンバーとパーティを組むんじゃ……」

「えー? うちそんなこと言うてへんよー?」


 言われて、当時の会話を思い出す。

 ……たしかに。<月世の会>には他に超級職はいないと言っていたが……メンバーを<月世の会>で組むとは一言も言っていない。

 完全なミスリードである。


「……ちなみに、皆さんは何でここに」


 四人は顔を見合わせた後、代表のようにウィキ氏が話し出す。


「そこの【女教皇】が挑戦するパーティメンバーの枠を売りに出した」


 ……なんですと?


「備考として、私は五億リルで競り落とした」

「……おい、あたしは六億だったぞ」

「七億ねぇん」

「…………」


 アルベルトさんは無言で両手の指を広げている。恐らくは十億という意思表示だ。


「枠が減るほどに価値が高まって値上がりしたんよー。しゃあないやろー?」


 ……なるほど。理解した。

 この女化生、俺を<CID>に引きずり込む横で荒稼ぎしていやがったのだ。

 ここに集まったのはいずれも“トーナメント”で二位以下に終わった実力者達。

 一位の者が討伐を達成すれば、<UBM>への挑戦ができずに終わる。

 実際、フィガロさんが神話級への挑戦を控えているアルベルトさんと金剛女史以外は、既にそうなっていたはずだ。ウィキ氏を破ったルークの挑戦も一昨日に終わっている。

 それに目を付けて、金で枠を売ったのだ。


「ていうか、狼桜は<月世の会>と因縁があったんじゃなかったか?」


 それに巻き込まれて危うくPKされかけたことあるし。


「……背に腹は代えられないのさ」


 俺の問いに対し、狼桜は苦渋の表情を浮かべながら答える。


「ジュリエットに勝てず、ビースリーの奴にも負けて特典武具もゲットできず仕舞い。ランキングでダーリンと並ぶためには、特典武具での戦力強化が必須なんだよ!!」


 ……なるほど。それで仇敵の女化生先輩からの取引に乗ったということか。

 本来は遭遇さえも稀な<UBM>と、確実に戦えるチャンス。

 熟練者ほど、金銭を積んで獲得したいと思うのは自然なことだろう。

 まして、対象は【バルーベリー】。

 有用性ゆえに最終日の神話級に次ぐ注目を浴びた<UBM>なのだから。

 それは……大層儲かったことだろう。


「……甘かった」


 むしろ、俺の方が考えて然るべきだった。

 俺以外にも取引を持ち掛けていた、なんてケースは。


「んふふー、せやけど挑戦は公平やでー。討伐で誰がMVPになっても恨みっこなしやー」


 既に誰が勝っても女化生先輩の懐は温かいだろうからな!


「……いいさ! やってやろうじゃないか!」


 こんな争奪戦形式での<UBM>との戦いは初めてだし、【紫怨走甲】と【黒纏套】のチャージも不十分だが、やってやる!


『うむ! 可能性は零ではないのだ!』


 ネメシスを構え、斧を除くフル装備を身につけ、シルバーに騎乗する。


 なお隣では狼桜が上位純竜のものと思われる頭骨で必殺スキルを使い、

 金剛女史が四大冥土を全員展開し、

 ウィキ氏が魔法銃器と無数のマジックアイテムを構え、

 アルベルトさんは早々に切り札の【紅徹甲 エグザデモン】を装備していた。


 ……あ、そっかー。決闘じゃないから準備含めてあれもこれも使い放題なんだー。


「そんならはじめよかー♪」


 女化生先輩の陽気な声と共に【バルーベリー】は解放され――争奪戦が始まった。

 そして<超級>一人と準<超級>三人が猛威を振るい、外野から扶桑先輩が他人事のようにやんややんやと騒ぎ立てる戦闘の末……俺はMVPにはなれなかったのだった。


「……ほとんど何も出来なかったな」

『そういえば、<UBM>と戦って特典を取れなかったのは初めてだのぅ』

「…………」


 本来はそれもよくあることなのだろうけど。

 結果として、やはり自分の地力の不足を再確認することとなった。


 そして今回最も災難だったのは、数百年ぶりの解放であんな状況に放り出された【バルーベリー】だろう。

 ……強化復活して頑張ってたが、ちょっとどうにもならなかったようだ。


 ともあれ、このような経緯で俺は女化生先輩から取引を交わし、<CID>に入会したのだった。


 ◇◇◇


 □椋鳥玲二


「待っとったでー♪」


 部室に入ると、ニヤニヤ笑いの女化生先輩が俺を出迎えた。

 テーブルの上にはジュースやお菓子が並べられている。

 また、先に来ていたらしい藤林先輩もソファに座っていた。

 ……なんだか、「とうとう捕まったんですね」みたいな目を向けられている気がする。

 はて、月影先輩は?


「どうぞお好きなところにお座りください」

「!?」


 そう思っていた矢先、ドアの横から声をかけられてギョッとする。

 どうやら、月影先輩はずっと壁を背にして立っていたらしい。……座ればいいのに。

 とりあえず……女化生先輩の隣を避けてソファに座る。


「……で、今日は何で呼ばれたんですか?」

「ふっふっふー。金曜日はサークルの集会日やからねー。特に用事がない場合は集まって情報交換や-」


 ……そういえば、入学して初めて部室にきたときも金曜日だったな。


「情報交換……することあります?」


 最近、俺達は特にこれといって動きはない。

 【怠惰魔王】との戦いも既に話しているし、アルベルトさんの加入も周知だ。


「あるやろー。三日目の珠(・・・・・)のあれこれとか?」

「…………なんのことですかね?」


 努めて表情に出さないように気を付けながら、俺はグラスにジュースを注ぐ。

 先輩も同様に表情を変えていない。


「んー、景品表示法違反(・・・・・・・)的な?」

「…………」


 ……やばい。これ、バレてるっぽい。

 この女化生先輩に知られているなど、王国と黄河にどれだけの……。


「そないに深刻な顔されても困るんやけど。うち、個人的な興味で聞きたいだけなんよ?」


 その言葉を信じるには流石に前科が多すぎる。


「なーなー、教えてーやー。教えてくれたらうちも影やんも他言せえへんからね?」

「だけど……」

「教えてくれへんかったら……<月世の会>の総力であることないこと吹聴してまうよ?」

「そういうところだよ!?」


 この女化生先輩は本当に性質が悪いなぁ!

 どう考えても話さない方が状況悪化してしまう。

 ……こうなると、取引にのって話すしかないだろう。


「……景品表示法違反、なんて言ったからには気づいてるんですよね?」

「もちろん」


 女化生先輩はそう言って頷き、


「三日目に景品になった珠――<UBM>入ってへんかったやろ?」


 外部には絶対にバレてはいけない事実を口にした。


 To be continued


(=ↀωↀ=)<【バルーベリー】のMVP


(=ↀωↀ=)<誰がとったかはまだ秘密です


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ラ・プラスの言ってた第1王女暗殺とレイくんの斧を使うことができる複合系統超級食の登場が何時頃か私気になります!! [一言] 続きが読みたい。
[良い点] 文字数300万突破おめでとうございます。 [気になる点] レイ君はかたくなに【騎士】を獲得しないなぁ。 【聖騎士】を最初に取っておきながら他の下級職5つを優先するなんて。
[一言] >そういえば、<UBM>と戦って特典を取れなかったのは初めてだのぅ <UBM>戦ほぼ1対1で戦ってたから取れるの必然でしょう。1対1で勝ててしまっているのがスゴい所でもあるけれど。 トー…
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