工房と遊戯 その六
(=ↀωↀ=)<三日ぶり更新
(=ↀωↀ=)<ちょっと更新ペース早いって?
(=ↀωↀ=)<……早めないと年内に終わらないからさ
(=ↀωↀ=)<それと昨日はコミックアライブ発売日
(=ↀωↀ=)<今日からコミックウォーカーとニコニコ静画でも公開中
(=ↀωↀ=)<クロレコは今月号から増ページ
(=ↀωↀ=)<そしてアフレコレポート漫画もついております
(=ↀωↀ=)<リクエストの結果、顔文字とポメの融合体と化した作者も出ます
(=ↀωↀ=)<……La-na先生ありがとう
□【装甲操縦士】ユーゴー・レセップス
「かくれんぼ……?」
【呪術王】の宣言した遊戯名、「本当にそれで合っているの?」という思いと共に呟く。
『イエス、かくれんぼですぞ。俺が隠れる側、そちらの四人が捜す側ですぞ。他に協力者を募って人海戦術でも良いですな』
かくれんぼでこちらが鬼ならば、確かに人数差は優位になる。
逆に、あちらは圧倒的に不利と言ってもいい。
この四人以上に鬼を増やしてもいいならば、猶更だ。
『ただし、解答者は今ここにいる四人。俺を見つけたら、指差しながら「LSみーつけた」と合言葉を言ってほしいのですぞ』
何人で捜してもいいけど、隠れた者を捕まえる権利はキューコも含めた四人にしかいない。
合言葉といい、本当に子供の遊びのようだ。
『た・だ・し、ここからペナルティの説明ですぞ』
「ペナルティ?」
『俺ではない人間に「みーつけた」と言ってしまった人はその時点でアウトですぞ。その場で罰ゲームを受けて解答権も失うのですな』
指を一本立てながら、【呪術王】はそう述べる。
そして二本目を立てる。
『捜すのも、俺がこの部屋を出て十分後ですぞ。その間は外部に協力者もつくってはいけませぬぞ? そのときは全員アウトですな』
三本目。
『それと暴力的な捜し方も反則ですぞ。暴力反対! それをやっても全員アウトですぞ! 遊戯は楽しくですな!』
四本目。
『全員がアウトになったら俺の勝ちですぞ。それと、俺が出ていってから七〇分後……つまり一時間の捜索時間内に俺を見つけられなかった場合も俺の勝ちですぞ』
「…………」
内容は変則のかくれんぼ。
隠れた【呪術王】を捜し出し、指差して『LSみーつけた』と言えば勝利。
制限時間は一時間で、見つけられなければ敗北。
誤答した者は失格。暴力行為と時間のルール違反は全員失格。
こちらは解答者以外にいくらでも協力者を増やしていい。
解答者がいなくなれば、あちらの勝利。
思ったよりも制限事項が多い。
ただ、地の利はマニゴルドさんとイサラさんを擁するこちらにあるし、マニゴルドさんならばこの街で多数の協力者を見つけられるだろう。
どちらにも有利不利な条件がある。
「質問だ。遊戯のエリアは? この市庁舎の中か?」
『ここではありませんぞ。範囲はこの【ドラグノマド】の街。建物の中は除きますぞ。遊戯ですからな』
屋外のどこか。この時点で隠れる場所はかなり限定される。
そうなると、あちらが不利か。
『それで、質問は終わりですかな?』
「誤答だが、どうやって判定する?」
『これですな』
【呪術王】は、懐から腕時計のようなアクセサリーを四つ取り出した。
よく見れば時計の文字盤に代わり、【ジェム】に似た光る石がついている。
『判定と罰ゲーム実施のアクセサリーですな』
「……なるほど。【呪術王】として作った呪いのアイテムか」
『心外ですぞ! 俺としては祝いのアイテムですぞ!』
【呪術王】は憤慨した様子で言うけど、それを信じられる訳もない。
罰ゲームの時点で呪いだろうに。
『ゲームの説明は以上ですぞ。それで、受けますかな?』
「…………」
マニゴルドさんは思案している様子だ。
けれど、はっきり言ってこのゲームを受ける必要はない。
だってこのゲームの対価になっている【アムニール】は、あくまでも私の【ホワイト・ローズ】に必要なものだ。カルディナが必要にしている訳じゃない。
そのために、カルディナの外交にとって重要な物品である珠を賭けるのは……普通に考えてあり得ない。
私はそう思っていたけれど……。
「……最後にもう一つ確認する」
『質問多いですが構いませぬぞ。それで、何ですかな?』
「【アムニール】の枝は、この会議室に入らない大きさだな?」
『ですな。目算&概算で……まぁ、壁か天井をぶち抜く必要があるかと思いますぞ?』
「そうか。その全てが、お前の賭け代だな?」
『もちろんですぞ』
「受けよう」
マニゴルドさんは……【呪術王】の遊戯を受けた。
「マニゴルドさん……!?」
『んんん! 良い返答ですぞ!』
遊戯の了承を受けて、【呪術王】はクルクルとその場で回って喜んでみせる。
『では、俺は今から隠れますぞー! 十分したらそのアクセサリーをつけて捜しに来てほしいのですぞー!』
そうしてクルクルと回転したまま器用に扉を開けて、【呪術王】は会議室を出ていった。
私は呆気にとられ、マニゴルドさんはウィンドウを開いて時間を確認している。
「……マニゴルドさん、このゲーム、受けても良かったんですか? 【アムニール】の……【ホワイト・ローズ】のために珠を賭け代にするなんて……」
「気にするな。それより、キューコも呼んでおいてくれ」
「……はい」
本当にいいのだろうかと思いながら、私はキューコを呼び出した。
「キューコ、事情の把握は?」
「もちろん。まかせて」
紋章の中に避難させていたキューコも、話は全て聞いていて分かっているようだ。
ただ、心なし自慢げに見える。
「……そう。かくれんぼはやったことあったっけ?」
「すごくとくい」
そう言って、無表情のまま胸を張る。
……キューコとはずっと一緒だったと思うけど、いつの間に得意と言えるほどかくれんぼをしたんだろう?
クランにいた頃かな?
「それよりユーゴー。あいつ、せつめいのあいだはマジメだったね」
「え? ……ああ、たしかに」
たしかにそうだ。
この部屋に入った当初は頭のおかしい発言しかしていなかったのに、交渉や遊戯の説明では、口調こそ奇妙なものの異常な発言はなかった。
そのことに、何か意味があるのだろうか?
「さて、現状確認だ。協力者の捜索も十分後。つまり、この十分間で隠れきる自信が、【呪術王】にはあるということだ」
マニゴルドさんが、【呪術王】の残したアクセサリーを身につけながら話している。
「魔法職でなおかつ移動スキルを持たない奴の移動速度を考えて、範囲はこの都市の半分程度か」
「従魔に乗るケースは?」
「そうであれば目立つ。聞き込みですぐに足取りがつかめるだろう。そして目立つゆえに、奴はあの装いを変えているはずだ」
「なるほど……」
元が目立つ服装だからこそ、着替えればそれだけでカモフラージュになる。
……でもあの気持ち悪い酸素ボンベはどうするのだろうか。
「……兎に角、十分経ったら協力者を募って人海戦術で……」
「いや、協力者はあまり使えない」
「え?」
「暴力禁止のルールだ。仮に、俺達の協力者が与り知らぬところで暴力的な捜し方をしたとしよう。『【呪術王】はどこだ!』と荒っぽく聞くなどだな。最悪の場合、その時点でこちらの敗北になる」
「……!」
「協力者を増やすほど、状況がコントロールできなくなる。そして現在、信用できる身内もそうはいない」
「信用できる……?」
「この機会に足を引っ張りたい者も、カルディナの中にはいるかもしれない。俺達は議会を主導する議長の直下だが、コルタナの市長のように敵対関係の有力者もいる」
……そういうことか。
つまり、マニゴルドさんは最初から協力者を募れないと分かった上で、勝負を受けたんだ。
「イサラ。あいつは俺達が来る前に、何か言っていなかったか?」
「……多くは交渉冒頭の妄言に近いものです」
「それは……ご愁傷さまです」
あれを面と向かって一対一で言われ続けたら、わたしなら逃げる。ログアウトする。
「ですが、気になることも言っていました」
「それは?」
「『【ドラグノマド】には珠! そして同じくらい大事な目的を持ってやって来たのですぞ!』……と」
イサラさん、声真似はしなくてもいいんですよ……。
真面目だこの人。
「…………」
マニゴルドさんは口元を押さえ、『大事な目的』について思案しているようだった。
「心当たりが?」
「幾つかある。だが、あいつがどの立場で大事な目的と言ったかによって、まるで答えが変わってくる。一時保留だ」
そうこうしている内に十分が経過して、私達は【呪術王】を捜すため市庁舎の外に出た。
◇
直後、市庁舎の入り口前に腕組みをして立つ緑と赤のHENTAIが目に入った。
「「「…………」」」
かくれんぼのはずが隠れてない……。
何なの? HENTAIの自己主張なの?
「あれは……デコイか?」
「その可能性は高いかと……」
マニゴルドさんとイサラさんは、思案するようにそう話していた。
「デコイ?」
「誤答がこちらのペナルティになる以上、当然デコイは用意しているはずだ」
そうか。
解答権は四人で四回。誤答した者はアウト。
態々『俺ではない人間』などと言及するならば……そういうことだ。
「【呪術王】か?」
『…………』
問われたHENTAIは無言だ。
別人ゆえの無言なのか、本人が声でバレるのを避けるための無言なのかは分からない。
だが、逃げもせず、身じろぎもせずにそこに立っている。
一瞬案山子かと思ったけれど、あの酸素マスクから呼吸音が聞こえるので間違いなく人間。
「《看破》で……」
「……生憎と、あの緑色の服はオーダーメイドの装備品だな。《看破》や《鑑定眼》を遮断する機能を持たされている」
無駄に高性能なHENTAIスーツ……!
「……さて、どう見てもデコイだが、裏をかいてあれが本物というケースもあり得る。仮面や服を引っぺがそうにも、暴力と判定されるだろうな」
「どうしますか?」
「……オーダーメイドの服ならば、そこまで数を揃えられないだろう。デコイを一つ潰すか、正解を引き当てるか。ここで一回分使う意味はある」
「主様、でしたら私が解答します」
「……分かった」
イサラさんは率先して前に出て、HENTAIを指差す。
「LS、みーつけた」
『ブッブーですぞー!』
『不正解』という言葉の代わりか、アクセサリーからHENTAIの声が響いた。
イラッとする声と共にアクセサリーは光を放ち、イサラさんの身体を包み込んでいく。
目もくらむ輝きが止んだとき、
「……?」
そこにはイサラさんと同じ髪と肌の色をした……四歳くらいの子供が座り込んでいた。
「…………イサラか?」
「はい。わちゃし、イしゃラ」
若干舌足らずな口で、子供……イサラさんはそう言った。
「おにいしゃん、だぁれ?」
「……そうか。記憶まで子供に戻るのか…………厄介な」
マニゴルドさんのことが分かっておらず、本当に子供のような仕草のイサラさん。
彼女を見て、マニゴルドさんは頭痛を労わるように額を押さえていた。
イサラさんは相手が誰か分かっていない様子だが、特に怯える様子もなくマニゴルドさんを見ている。
「マニゴルドさん、これが……あのHENTAIの?」
「ああ。ネバーランド、という<超級エンブリオ>だ。生物を子供に巻き戻すスキルだと噂には聞いていたが……効果は見ての通り。しかも、【呪術王】のスキルで遠隔自動発動まで可能にしているとはな……」
呪術師系統に《クリエイト・カース・オブジェクト》というスキルがあり、『身体への装備』を始めとする特定条件の成立で効果を発揮する物品を作れるらしい。
スキルレベルが上がるほどに条件指定や封入できる効果・スキルの幅が広がり、スキルレベルEXの【呪術王】は自身の<エンブリオ>のスキルまで封入していたようだ。
「……イサラの【鋼姫】はそのままだな。ステータスも……ほぼ変化なし。大人と子供の体格差程度か」
マニゴルドさんはパーティウィンドウでイサラさんのステータスを確認している。
「子供になっても弱体化はしないということですか?」
「ああ。そもそも、この<Infinite Dendrogram>のステータスのほとんどは肉体ではなく、後付けされるジョブに紐ついているからな。フィジカルがまるで異なる巨人と妖精であろうと、ジョブによっては妖精が巨人を上回る。だから今も、肉体が若返ったところでジョブまでは巻き戻らない。……ああ、イサラ。あまり動き回るなよ。今の精神年齢では慣れていない身体能力だろうからな」
私に説明しながら、マニゴルドさんがイサラさんを抱っこして止める。
イサラさんはわたわたと動こうとするが、抱えられることを嫌がってはいないようだった。
「イサラさんは……」
「……精神まで若返っているからな。ああ、俺達は恐らく大丈夫だ。<マスター>の精神保護の範囲内だからな」
……それは助かる。
何も知らない子供の状態で、あのHENTAIの前に置き去りにされるのはあまりにも恐怖の度合いが過ぎる。確実にトラウマになるだろう。
「この効果、マニゴルドさんのジパングなら防げませんか?」
「無理だ」
あらゆる攻撃を財貨に変えて防ぐジパング。
しかし、それを以てしても『無理だ』とマニゴルドさんは断言した。
「それはどうして……」
「なぁ、ユーゴー。若返りは……デバフか?」
「え? …………あ」
「さっきも言ったように、ステータス面での弱体化はほぼない。これは単に肉体が子供に戻っているだけで、力はそのまま……。生物として見れば、死から遠ざかる行為だ」
マニゴルドさんは「つまりは……」と言葉を置いて、
「これは、バフだ。ゆえに防げない」
攻撃でないから防ぎようがないのだと言った。
「この罰ゲームのアクセサリーとて、欲しがる奴は五万といるだろう」
――俺としては祝いのアイテムですぞ!
【呪術王】の言葉は、そういうことだったのだ。
呪いではなく祝いのアイテム。
こうして絡繰りを聞けば、まるでヒントか何かのようだ。
…………?
「……ヒント?」
振り返れば、【呪術王】の発言内容には他にも思わせぶりなものがあった。
たとえば、隠れる場所を指定するとき。
――ここではありませんぞ。範囲はこの【ドラグノマド】の街。建物の中は除きますぞ。
範囲を聞かれたとき、悩む様子もなくノータイムでその言葉が出てきていた。
ここではない。
かくれんぼをするとなってから隠れる場所のルールを考えたのではなく、まるで……予め隠れる場所を決めていたかのような言い方だった。
「……ぷはぁ!」
そのとき、大きく息を吐く音と共に衣服が脱げる音がした。
すると、HENTAIの装備を身につけていた人物がそれを脱ぎ、素顔を晒している。
二十前後に見える、普通の青年だった。
「ようやく脱げた……!」
デコイ役をしていた人物はそう言って、恐ろしいものであるかのようにHENTAIの装備を地面に落とした。
「……なるほど。装備のいずれかにも呪いが掛かっていたのか。喋れなくなる呪いと、その場から動けなくなる呪い、といったところか」
「そうなんですよ! この服装の変な奴に、この格好で一時間立っていてくれるなら金をやるって言われて……! 暇だったから軽い気持ちで受けたら動けなくなって……!」
そんな妖しい話を受けないでよ……。
「なるほど。こちらの誤答で役目が終わり、解放されたか」
「いやー、しんどかった。服の着心地は悪くなかったんだけど、酸素マスクが窮屈で……。しかも匂いがするからちょっと気持ち悪くてさぁ……」
「…………」
ボンベの中身も同じものだとしたら、普通の人にはきついだろう……。
何のボンベだったかは言わないであげよう。
「その装備を渡した人物について話してはくれないか? 素顔は見えたか?」
「いや、これと同じ格好のまま一揃い装備を渡されたんで……。すぐにそこの路地に入って見えなくなっちまったし……」
……やっぱりこの衣装複数あるのか。
今後も最低一つはデコイを用意できることになる。
あのヒント以外の何者でもない服装も、脱いでしまえば中身が分からない。
仮面と酸素マスクで地肌の露出もほとんどなく、見えていた髪だってカツラか何かかもしれない。
……ん?
「…………本人はもう脱いでいる可能性もある。でも……」
――平均年齢が13歳以上の空気は俺にとっては瘴気と同じですな。
【呪術王】はたしかにそう言っていた。
だから酸素マスクを着けているのだと。
普通に考えればブラフかもしれないが……恐らくは本気で言っている。
妄言……本人の弁を信じるならば、あのマスクは外せないはずだ。
だとしても……いや、だからこそ……。
「子供だけの場所なら、酸素マスクを外せるということ?」
奴が言う空気の平均年齢が12歳以下ならば、あのマスクは必要ない。
「マニゴルドさん。このあたりに、子供が集まる場所はありますか?」
「幼年学校が右背に、イサラの経営している孤児院が【ドラグノマド】の左背にある」
「?」
小さくなったイサラさんが、名前を呼ばれて首を傾げている。
「奴は、きっと二つの施設のどちらかにいます」
「ならば手分けして向かおう。顔の利く俺が幼年学校に、ユーゴーが孤児院だ。地図は渡す」
「分かりました!」
そうして、私たちはそれぞれにHENTAIが潜むと思われる場所へと向かった。
「さて……。先にこのイサラを家に預けてこないとな」
マニゴルドさんはそう言って、幼年学校までの道の途中にある本邸にイサラさんを預けに行くようだった。
……うん。このまま一緒にHENTAIの前に連れてくの可哀そうですもんね。
To be continued




