工房と遊戯 その四
(=ↀωↀ=)<メリークリスマス
(=ↀωↀ=)<キリがいいところまでなのでちょっと短めですー
(=ↀωↀ=)<そういえばdアニメストア様にて12月28日に一話のWEB先行上映をしてくれるらしいです
(=ↀωↀ=)<先着順らしいのですが二週間ほど早く一話を視るチャンスだそうです
(=ↀωↀ=)<よろしければー
□【装甲操縦士】ユーゴー・レセップス
デンドロ内で二日後の昼、私はマニゴルドさんの別荘に再ログインした。
お昼時だったので、マニゴルドさんの別荘の料理人がお昼ご飯を作ってくれた。
何でもマニゴルドさんはこの別荘であまり食事をとらないので、久しぶりに客人に振舞えることが嬉しいらしい。
ちなみに料理はとても美味しかったけれど、……シェフさんのチート料理と比較すると流石に味覚へのパワーが足りていなかったようだ。
「……ふー、ん?」
食後にコーヒーを飲みながら、使用人の人達が用意してくれた新聞に目を通す。(キューコはラテアートに挑戦していた。なお、コーヒーは見下ろしたときに上部分が白くなっていれば、キューコの食癖的にはギリギリセーフ判定らしい)
新聞には、湖上都市ヴェンセールにおいて、カルディナとグランバロアが交渉に入ったことが書かれている。
カルディナに上陸したグランバロア勢と小競り合いが起きていたのは知っていたけれど、どうやら事態は進展するらしい。
ただ、交渉とは書かれていてもその焦点までは書かれていないし、現地ではなくドラグノマドにいる私には分からない。
「……師匠なら、何か知っているのかな?」
たしか、師匠もグランバロア対策に向かっていたはずだ。
カサンドラの能力も含め、あの師匠ならば何が起きても無事だとは思う。
でも、【エルトラーム号】に乗り込む前に別れたきりなので、少し心配にもなる。
どちらかと言えば、私のように姉さんの機体を壊してはいないかという心配だけれど。
それ以外の記事では、『カルディナ各所で身寄りのない少年少女が行方不明になっている』というものが目についた。
かつてのゴゥズメイズ山賊団の事件を思い出す話に少し気分を沈ませながら、私は新聞を畳み、キューコと共にカリュートさんの工房に向かった。
◇
カリュートさんの工房には、見覚えのある人物がいた。
それは、シェフさんのシルキーだ。
赤い髪……レッドと呼ばれていた分身が、カリュートさんの工房で働いている。
……? でもちょっとだけ髪の色が違うような?
「来たか」
丁度そのとき、私達が来たことに気づいたカリュートさんが出迎えてくれた。
「はい。シルキー、もう働いているんですね」
「ああ。今朝方からな。スキル云々除いても、勤勉だから普通に助かる。まぁ、注意事項も聞かされたが……」
「注意事項?」
「<マスター>本人以外が所有する建物で働いてるとき限定のな。何でも余計なことして怒らせるとスキル効率が下がって、最悪いなくなっちまうらしい」
「あぁ……」
原典のシルキーの逸話に近い。
機嫌を損ねるといたずらされたり、追い出されたりするという話だったはずだ。
「お触りも禁止だとさ」
「それはそうでしょうね」
「言われずとも、メカどころか義肢ですらない女に手なんか出さないがな」
「そうですね。…………そうですね?」
今酷いカミングアウトがあった気がするけど……スルーしよう。
カリュートさんは預けていた【ホワイト・ローズ】の前に立ち、説明を始めた。
「さて、シルキーが加わったことで【ホワイト・ローズ】修復の目途は立ち、私の方でいくつかの修復プランを纏めていた」
「いくつか?」
「ただ直すだけでは、『少しボロくなったが直った』程度になって性能が落ちる。なにせ、一度全壊しているんだ。付与スキルの効率も含めて劣化する」
「…………」
それは仕方がないかもしれない。
あそこまで壊れてしまうと、直せたとしても完ぺきではないということだ。
「で、何かしら手を加えて補強する必要があるんだが、持ち主として何か希望やアイディアはあるか?」
「補強……」
そう言われて何かがあるような気がして……すぐに思い出した。
「そういえば、【エルトラーム号】での戦いでこんなものを手に入れました」
工房の作業台の上に、アイテムボックスからとあるアイテムを取り出す。
それは、一つの動力炉。
――【機竜心核 インペリアル・グローリー】。
あの戦いで<UBM>と化した竜頭の機体から獲得した、特典武具。
「…………」
カリュートさんは【機竜心核】をジッと観察した後、私を手招きした。
「?」
そうして彼に近づくと――額に強烈なデコピンを喰らった。
「ッ……」
「さ・き・に・い・えっ!」
走った衝撃に額を押さえるが、間髪入れずに形容しがたい表情と絞り出すような声で怒られた。
「おま、お前、こんなもんあったら全く話が変わってくるだろうが! 四暗刻できてるのにタンヤオ宣言するようなもんだぞ!?」
「喩えが分からないのですが……」
「一言で言えば『もったいない』、だっ! 『おばか!』も足す!」
漫画ならばプンスカとでも擬音が出そうな怒りっぷりだった。
「え、でも一昨日説明して……」
「ない!」
……言われてみれば、【インペリアル・グローリー】と戦ったとは説明したけど……<UBM>になったとは言ってなかった気がする。
「動力炉としちゃ【インペリアル・グローリー】とほぼ同性能! 読めないが何かしらのスキルも追加! 用途は限られるが、逸話級として見たら破格! ……一からプランの練り直しだ! この動力炉のエネルギーを無駄にする手はない」
「えっと、私の意見は」
「聞く意味がなくなった」
……私の機体なんだけど。
でも、私じゃこの動力炉の有効活用もできそうにないから任せるしかない。
「私が設えたが燃費の問題でお蔵入りになった武装の数々……この動力炉ならいけるな。多少ハリネズミになるが、性能は前よりも遥かに上がる」
怒っていたカリュートさんだけど、【機竜心核】を見ている内にニヤリと笑みを浮かべる。
「【インペリアル・グローリー】以上の性能を望めるな」
「あの機体以上の……?」
「あれは戦争前の設計だ。<マジンギア>の技術は日進月歩。カルディナに来て、私のレプラコーンの技術力も上がっている」
カリュートさんはそう言うと、コツンと【ホワイト・ローズ】の装甲を小突いた。
「何より、基礎部分が違う。前の【インペリアル・グローリー】はフランクリンの手が入っていないが、こいつの基礎部分はあいつが専用のモンスターで加工した逸品だ。それも、<超級>に至ったあいつがな。必然、生まれ変わる【ホワイト・ローズ】はこれまでと……いや、他の<マジンギア>と一線を画す存在になる。亜竜級、純竜級を超えた最上位純竜級……<竜王級マジンギア>になるだろう」
「竜王級、マジンギア……」
カリュートさんの断言に、息を呑む。
「ただし、そのためにはどうしても必要なものが一つある」
「それは?」
「【アムニール】だ」
その名前には、聞き覚えがあった。
「それは、レジェンダリアの霊都の……」
「ああ、都市の名前であり、国家の象徴である樹木。そして、そこから採れる素材の名称だ」
「けれどそれは……木材なのでは?」
どうして機械兵器である<マジンギア>の生産に、木材が必要なのだろうか?
「ああ、木材だ。しかし枝の繊維は強靭で、何より魔力の伝導率が恐ろしく高いんだよ。<マジンギア>の神経や血管……動力から各部に魔力を流すラインには最適なんだ。特に、このレベルの動力炉……その出力を最大限発揮しようと思ったらな」
脳裏に過ったのはトーマス・アルバ・エジソンのフィラメントの逸話だ。
あれは日本の竹を使ったという話だし、植物素材を使うことは稀にある話なのかもしれない。
「元の【インペリアル・グローリー】も【アムニール】を使った。あのときは国の依頼だったんで皇国も保管していた虎の子の素材を使って……チッ、そうか、その問題があった」
「カリュートさん?」
それまで上機嫌に語っていたカリュートさんは、何かに躓いたように表情を歪めた。
「……【アムニール】は、レジェンダリアの外には滅多に出回らない。大昔……三強時代に侵略国家アドラスターに提供したくらいでな。ドライフの蔵にあった素材もその時代の残りだ。多少、品質は落ちていたんだろうがな」
六百年以上前の素材が保管されていたことも驚きだけど、それを使ってあの【インペリアル・グローリー】が性能を発揮していたことも驚きだ。
【アムニール】がどれほどの素材なのかが分かる。
「超高性能装備の最適素材の一つであるがゆえに、レジェンダリアも戦略物資として禁輸品に指定している。レジェンダリア所属の優秀な職人や重要人物にしか渡されない。『金があれば手に入らないものはない』と言われるこのカルディナでさえ、所有者はいないだろう」
「……もし、【アムニール】抜きで作る場合はどうなりますか?」
「性能半減、で済めばいいがな」
それほどの大きな差が、【アムニール】の有無で決まる。
……どうにかして手に入れればいいのだろうけど、入手方法は見当もつかない。
「……巡り合わせというのは、あるものだな」
そのとき、工房の入り口から聞き知った声が聞こえた。
「マニゴルド」
「マニゴルドさん?」
入り口には……どこか疲れた表情のマニゴルドさんがいた。
「ユーゴー。一緒に来い。また護衛依頼で、ついでに【アムニール】が手に入る可能性もある」
「え?」
「レジェンダリアの重要人物が、丁度この街に来ている。恐らく、あいつならば【アムニール】も持っているだろう。そいつとの交渉……万が一のための戦闘要員としてユーゴーに同行してもらいたい。お前とキューコは、対人戦を重ねた相手には特効だからな」
あの【エルトラーム号】と同じ理由。
けれどそれは……私達の《地獄門》が必要な相手に会うということだ。
「……一体、誰との交渉なんですか?」
私の問いかけに、マニゴルドさんは疲労の色を一層濃くしながら……答える。
「――【呪術王】LS・エルゴ・スム」
「……………………え?」
その名前にもやはり、聞き覚えがあった。
だって、その名前は……。
「レジェンダリアトップクラン<YLNT倶楽部>の首魁だ」
レジェンダリアで……<Infinite Dendrogram>で最低の変態の名前だったからだ。
師匠をはじめ、誰に噂を聞いても『変態』としか言われない男である。
それと顔合わせての交渉と、マニゴルドさんの護衛かー。
…………わたし、そこまでして【アムニール】要らないかも。
◇
そんな思いは空しく、私は交渉に参加する羽目になったのだった。
To be continued
(=ↀωↀ=)<…………
(=ↀωↀ=)<なぜアニメ化直前のクリスマスシーズンにこのエピソード(蒼白Ⅳ)書いてるんだろう作者




