工房と遊戯 その三
(=ↀωↀ=)<昨日の話で「本当はここまでやりたかった」部分
(=ↀωↀ=)<短めだけど早めに投稿
(=ↀωↀ=)<それと本日22:30からBS11で放送のアニゲー☆イレブン!にて
(=ↀωↀ=)<ネメシス役の大野柚布子さんがゲスト出演されると共に
(=ↀωↀ=)<デンドロ一話の冒頭五分が公開されるそうです
(=ↀωↀ=)<よろしければご覧ください
□【装甲操縦士】ユーゴー・レセップス
<Infinite Dendrogram>の物品には、リアルの物理法則とは異なる法則が働いている。
致命の攻撃を防ぐ【ブローチ】などが代表例だろう。
多種多様な現象を引き起こす物品が存在し、人の手で作ることもできる。
それは身につける装備品だけでなく、建造物についても同様だ。
ただ住まうだけの、形通りの施設ではない。
内部の者に影響を及ぼすスキルを持った建造物も<Infinite Dendrogram>では建造可能なのである。
自然大型化するためにコストは装備品よりも高くなるが、内部にいる複数人に影響を及ぼす。
特に、人体への干渉効果が多い。
回復魔法スキルの効果を高める神殿。
生産系スキルの成功率を底上げする工房。
特殊な飲食物のバフを強め、『美味と感じる効果』を高める食堂。
様々な建造物が、<Infinite Dendrogram>には存在する。
そして……。
「シェフのシルキーは、建造物の強度や付与された効果を引き上げる。建造物専門のバッファーということだ。普通の料理が異常に美味いのもそのためだ。味覚そのものに干渉されている」
マニゴルドさんは、シェフさんの隣に並ぶシルキーを指しながら説明している。
「この店も基礎部分は俺達がぶっ壊した店のものを直して使ってるが、他は俺が金と素材を用意して、カルディナでも最高の大工に作らせた最高の飲食店だ。倍化の元となる効果も高い」
「なぜそこまで……」
「美味い食事を楽しむため。それで十分だろう」
マニゴルドさんはとてもイイ顔でそう言った。
「さすがもとデブ。しょくへのしゅうねんおそるべし……」
「さっきアイデンティティ崩壊しかけたキューコは、人のこと言えないと思うよ」
「ふかく」
けれど、なるほど。倍率強化の<エンブリオ>か。
真っ先に連想したのは、ジョブスキルを十ヶ所十倍化するという【魔将軍】ローガン・ゴッドハルトのルンペルシュティルツヒェンだ。
あれの建造物版と考えれば、なるほどと納得もする。それは味覚もオーバーフローするというもの。
「……凄まじいですね」
「と、思うだろう? しかしシェフのシルキーはあのルンペルシュティルツヒェンほど応用は効かない。というか、手間がかかる」
「手間?」
私が疑問に思うと、マニゴルドさんは壁をノックするように叩きながら説明してくれる。
「まず、一つの建造物にオリジナル含めて六人までしか配置できず、オリジナル以外は一度設置した建造物から移動する際に制限がある」
数が六人なのは<超級>ではなく第六形態だから、だろうか。
それでも二の六乗で六十四倍。
あまりにも十分すぎる強化だけれど……。
「制限?」
「一人当たりの倍率が二倍になるのはあくまでも最大値だ。オリジナル以外はある程度その環境で働き、仕事に慣れないと倍率が上がらない。複数人を同時に配置しても、経験値を得られるのは一人ずつだしな」
オリジナル以外の五人は他の建物に移しても、力を発揮するまで準備期間が必要ということか。
ルンペルシュティルツヒェンはジョブスキルのどの数値を十倍化するかを時々で自由に選べたはずなので、用途の変えやすさは明確にあちらが高い。
先ほど店の基礎部分が前と同じと言っていたのは、それも影響しているのだろう。
「あとは、建造物が巨大なほど倍化に至るまでの必要時間が増す」
働いて最適化していくなら、広くてやることの多い建物の方が時間が掛かるのも当然と言えば当然だ。
「そして配属先は普通の建造物限定だ」
「普通?」
「<エンブリオ>やモンスター扱いの建造物は強化対象外、ということだ」
「あー……」
<超級>である姉さんのパンデモニウムが六十四倍、あるいは皇都の中心にある【エンペルスタンド】が六十四倍に強化された姿を想像する。
うん、明確にバランスブレイカーすぎる。
「で、ここまで言えば分かったと思うが……」
「カリュートさんの工房を強化して、【ホワイト・ローズ】の修復成功率を上げるんですね」
「そういうことだ」
ようやくここに来た理由と、【ホワイト・ローズ】が繋がった。
工房の加工技術や生産スキルへの干渉力を底上げすれば、修復できる可能性は大きく増すだろう。
「一人を派遣して働かせ、あとはオリジナルが一時的に助力。これで四倍まではいける」
最大値の六十四倍と比較すれば少なくても、十二分に破格の倍率だ。
「わざわざここで飯を食ってもらったのは、シルキーのスキルを実感してもらうためだ。いけそうな気がするだろう?」
「はい」
シルキーの強化を目の当たりにして、姉さんの【ホワイト・ローズ】が復活する希望も見えた。
「派遣したシルキーが工房に馴染む時間も必要だから、しばらく先になるかもしれないが……ともあれ目途は立った。あとはカリュートと相談して修理に際しての方針を固めておけばいい。今日はもうログアウトしているため、こちらの時間で二日後の朝以降にまた工房まで来てほしいそうだ」
「はい。分かりました」
「さて、用件はこんなところだ。ところで、【ドラグノマド】での滞在先に当てはあるか?」
「宿を取ろうと思ってます」
「だったら、俺の別荘を使え。この市内に三つあるうちの使ってない奴で、港や工房の近くにある」
マニゴルドさんはそう言ってメモに住所を書き、家の鍵と共に私に手渡した。
「いいんですか?」
「構わん」
「なんでみっつもべっそうある?」
「用途別だ。展望台の傍で良い景色を楽しむための別荘がそれ。それとメインで使う市庁舎傍の実務用。あとは歓楽街に作った夜遊び用だ」
「…………」
なんてコメントすればいいのか。
この人は良い人なんだけど、やっぱり……。
「ぞくぶつ」
「そうだと言っている。さて、俺はシェフと少し話すことがある。二人はもう戻るといい」
「分かりました。何から何まで……ありがとうございます」
「気にするな。【エルトラーム号】での仕事はそれだけの価値があった」
マニゴルドさんにお礼を言って、その日は別れた。
貸してもらったマニゴルドさんの別荘は、私の幼少期の実家くらい豪華で使用人の人達も常勤していた。
……『久しぶりにもてなしができる』と喜んでいたのが印象的だった。
◇◆◇
□■レストラント・マルクト
「途中から何も喋らなかったな、シェフ」
ユーゴーとキューコを見送ったマニゴルドは、そう言ってシェフに振り返る。
シェフは、マニゴルドがユーゴーに自分の<エンブリオ>の特性を話す際も口を挟まなかった。
自分の<エンブリオ>の説明をマニゴルドに任せて黙していた、というべきか。
「……僕はブラフが下手なので」
「俺も嘘は言っていない。だが、ユーゴーは信頼できる人物ではあっても、皇国のMr.フランクリンの身内だ。最終的にあちらに伝わることも想定した情報になる。見せ札までしか話せない」
マニゴルドは、先の説明が不十分であると言った。
実際、マニゴルドの説明には嘘はないが……意図的に一つの誤認を生じさせる言い方だった。
「……ところで予定よりも来店が遅かったですけど」
「トラブルだ。先延ばしにはしたがな」
「?」
「また、あの珠絡みだよ。……レジェンダリアの<超級>が交渉に来た、と言えば分かるだろう」
「……なるほど。とても面倒そうで、嫌な話ですね。店には持ち込まないでください。市庁舎かマニゴルドさんの家でどうぞ」
「シェフがオーナーとして交渉してくれてもいいが?」
「……死ぬほど向いてませんので嫌です。事務と料理と派遣の対価に、良い環境で料理の勉強をさせてもらってるだけの身ですから」
「シェフもオーナーとして、まとめ……ているかはともかく散らない程度にはやれてるぞ。そも、俺達を纏めるのは無理だ。俺や、ファトゥムでもな」
マニゴルドはそう言いながら、肩を竦める。
本当に自分では無理だと思っている様子だった。
「……メンバー同士で『あいつの下はイヤ』なんて揉め方して、誰が立っても角が立つ状況でなければ、僕が名目上のトップになる必要もなかったんですよ」
「俺達は気の合う仲間が集まったクランじゃない。カルディナの議会……議長と取引して寄り集まった戦力集合体。俺も含めて我が強く、個性の暴力で、頭のどこかがおかしい馬鹿ども。自然……殺し合うほどに馬が合わないメンバーの一人や二人はいる。俺もあの色情狂がオーナーになると考えたら寒気がする。……あっちも同じだろうが」
【撃墜王】AR・I・CAを思い出しながら、マニゴルドは苦い顔をする。
皮肉にも、その弟子であるユーゴーへの評価は高いが。
「だからこそ、そもそも争いの枠内にいないシェフが最適だ。今後も頼むぞ、オーナー」
「はいはい……」
肩を叩くマニゴルドに対し、疲れた顔で苦笑……曲がりなりにも笑みを浮かべながら、シェフはそう言った。
「それで、次はいつだ?」
「明日の夜。月に一度ですから」
「良いタイミングだ。問題はないか?」
問われたシェフはやはり明るくない表情だったが、しかしあまり強い不満もなさそうだった。
「はい。【七光要塞】への配属も終わって、次は工房等の重要施設に回す。……理には適ってますし、代価も受け取っているので」
「発展プランは順調、か」
「ええ、まぁ」
シェフは曖昧に頷きながら、
「……ですよね、議長」
店内の一角に言葉を投げかけた。
「…………」
カウンター席に独り座ったまま今までのやりとりをずっと聞いていたヴェールの女性。
カルディナ議会の議長ラ・プラス・ファンタズマは……無言のまま穏やかに微笑むことを返答とした。
To be continued
(=ↀωↀ=)<ちなみにアルベルトは特に誰からも表立って反発されてなかったけど
(=ↀωↀ=)<幾つかの理由でオーナー適性が皆無だったので駄目でした




