Frag.7-7 “トーナメント”・最終日 η
(=ↀωↀ=)<本日二話投稿
(=ↀωↀ=)<まだの方は前話から
□■中央大闘技場
「……あの」
会場中が決闘王者の敗北の予兆に静まり返る中、サンダルフォンがシュウに声をかけた。
彼の<マスター>であるハンニャは、今も両手を組み合わせて祈るようにフィガロを見つめている。
『何だ?』
「あの人は、ここから勝てますか? この状況を覆す切り札は、あるのでしょうか?」
『…………』
サンダルフォンの問いかけに、シュウは沈黙する。
「たとえば、まだ見せていない【超闘士】の奥義、ですとか……」
真っ先に奥義という発想が出てきたのは、ハンニャの超級職である【狂王】が戦闘においては極めて強力なパワーアップ効果を有するからだ。
同様の奥義が【超闘士】にも備わっていれば、この劣勢を覆せるかもしれないとサンダルフォンが考えるのは当然である。
『【超闘士】の奥義は勝因にならない』
だが、シュウの返答は『否』。
それも、【超闘士】の奥義がこの戦いに一切寄与しないことを断定する言い方だった。
「それは……どうして?」
超級職の奥義、切り札がなぜ勝因になりえないのか。
それがサンダルフォンには分からなかった。
『決闘王者になるのは、どんな奴だと思う?』
サンダルフォンの問いに対し、シュウは答えよりも先に一つの問いを投げかけた。
まるで、それが答えとでも言うように。
「え、……それは……強い人でしょう?」
『その通り』
シュウの問いの答えは簡単なものだ。
それも当然と言えば当然だ。
なぜなら、【超闘士】の条件は決闘王者となること。
管理AIが環境を整えた今の表現で言えば、『決闘ランキング一位』こそが条件である。
そのためには数多の猛者……戦闘系超級職の上に立つ強さこそが必要になる。
『【超闘士】は強い奴が……それこそ元々超級職の奴が就く前提のジョブだ』
「それって……」
『【超闘士】の奥義の名は、《統一王者》』
<エンブリオ>がない頃から【超闘士】は存在し、条件も奥義も変わってはいない。
ゆえに……。
『常時発動型の奥義で、効果は――『サブ超級職のスキルを使用できる』、だ』
「…………え?」
本来の【超闘士】は強者の中の強者……超級職が就くことが前提。
ゆえに、奥義もまたその前提を踏まえている。
サブ超級職……決闘王者に就く以前に就いていた超級職があって当然、と。
『それこそ、サブで【狂王】と【破壊王】に就いていれば、【超闘士】は《ラスト・バーサーク》と《破界の鉄槌》の両方を同時使用できる』
極めて高い万能性であり、強者であれば有用だろう。
系統によるスキルの使用制限に縛られず、別種の最強を組み合わせられる。
ビルド次第では、物理系と魔法系の両方を駆使する超戦士足りえるだろう。
装備数拡張スキルも、様々な武器の超級職を使いこなすためであったのかもしれない。
だが……。
『だが、あいつはそうじゃない。超級職に就かないまま前の王者を破り、決闘の頂に立った男。だからこそ……【超闘士】の奥義はあいつの勝利に寄与しない』
超級職を【超闘士】しか持たないフィガロにとっては、無用の長物と言えた。
「それじゃあ、もう……」
頼みの綱、まだ見せていない切り札になると思われた奥義は……フィガロにとっては意味を為さない。
コル・レオニスの必殺スキルを決闘で使うことがないのは、サンダルフォンもハンニャと共に聞いて知っている。そもそも、あの重傷では使えば自滅の道しかない。
ならばもはや、勝ち目はないのではないかと……サンダルフォンは考えざるを得ない。
『だけどな、それでも勝つのはフィガロだ』
しかし、彼の考えに対し、シュウはまたしても『否』と答える。
「それは、どうしてですか……?」
『…………』
シュウは確信を持った様子で……しかし答えない。
その問いへの答えを口にするのは、シュウではない。
「だって……彼だもの」
答えたのは、それまで無言のままフィガロを見つめていた……ハンニャだった。
余人が聞けば理由とも思えぬ理由を、彼女は口にする。
だが、隣でそれを聞くフィガロの友も……同じことを思っていた。
「ヴィンセントは、必ず勝つわ」
ハンニャは、確信と共に愛する者の勝利を予告した。
◇◆
「…………?」
五対一でフィガロと対峙するアルベルト。
時間経過で有利になるはずの彼は……しかし時が経つにつれて一つの疑問を覚えた。
なぜ、まだフィガロは動かないのか、と。
各種状態異常によるHPとMP、SPの減少はフィガロも承知しているはず。
時が経てば死に近づき、使えるスキルもなくなっていく。
だというのに、なぜフィガロはこの膠着状態のまま動かないのか。
無論、判断材料はある。
時間経過によってフィガロの装備強化効率が上がることはアルベルトも知っている。
だが、フィガロの力が尽きるまで数分と掛からない。短時間でどれほどの強化が望めるというのか。
そもそも、強化度合いが上がってもスキルを使う余裕がなくなっては意味がない。
ゆえにフィガロにとって行動しないことは悪手であり、力が残っているうちにアルベルトを打倒することこそがベストであるはずだ。
状況が分からないフィガロでもないはずなのに、そうしない。
そのことが、アルベルトに疑念を抱かせていた。
「……、ふぅ……」
フィガロは少し呼吸を乱しながらも、自分を取り囲むアルベルトの動きを探っているようだった。
アルベルトが動き出したときに対応するためか。
あるいは、何か勝機を掴もうとしているのか。
「…………」
フィガロは少しずつ周囲を見回し、動きの気配を探っている。
それはなぜか……五人のアルベルトがいない方向にも向けられていた。
(……見えないし、感じない。少なくとも、それらしいものはない。……けれど)
フィガロは思考する。
この刻一刻と敗北が近づくこの状況の中から、自らの勝機を探すために。
(七人に増えたとき、僕は増える瞬間を見ていない。その動きを察知もできなかった。目の前のアルカイドから注意を逸らすことはなかったのに……気づけば囲まれていた)
フィガロは考える。
自らが窮地に陥るまでの流れを自身の行動も含めて考えて……直感する。
そこにこそ、勝機があるのだと。
(……そうだ。そもそも最初の攻防。彼は、火炎放射を回していた)
【ファイアリックス】を用いたとき、フィガロを炎に捉えんとしたアルベルトは、舞台上を火で舐めるように火炎放射を回転させていた。
フィガロは回避しきったが、三六〇度全てを攻撃した範囲攻撃だったはずだ。
(あのときの炎の形に、違和感はなかった。遮るモノはなかった。だとすれば……)
やがて、一つの答えに達する。
「……そういうことだね」
「…………」
フィガロが唐突に発した言葉に、五人のアルベルトが身じろぐ。
「ようやく……君のトリックの最後のタネが見えてきたよ」
フィガロの口にした『トリック』という言葉に観客が騒めく。
アルベルトの強化回復のことならば、既にそういうスキルで【殿兵】とのコンボだということは知られている。七人への分裂にしても、必殺スキルならばトリックという程ではない。
ならば、何がトリックだと言うのか?
「さて、そろそろ……決着の刻だ」
フィガロが動き出す。
だが、経過した時間での消耗は激しく、最大火力である《終極》は最早放てないだろう。
そんな状況で、フィガロが打った一手は。
『――《断命絶界陣》』
――【絶界布 クローザー】の、もう一つのスキル。
生前の<UBM>の切り札。
無数の結界刃を宙に浮かべ、守ると共に切り刻むスキル。
だが、この局面でそれを使うことは明らかな悪手である。
《終極》よりは消耗の少ないスキルであるが、もはや他のスキルを使う余力はないだろう。
しかし盾として見たときはアルベルト達の攻撃を防ぐにはまるで足りず、矛としては決定打足りえない威力しかない。
そんなどちらにも活路を見出せないスキルを使ったフィガロの意図が、あまりにも不明だった。
「――疾ッ」
フィガロが腕を揮うと、まるで冬の雹の如く無数の刃が舞台内で吹きすさぶ。
結界内を刃が飛び交い、五人のアルベルトを傷つけていく。
「…………」
しかし、やはり火力はまるで足りていない。
超級職としては脆いと言っても、アルベルトとて戦闘系超級職。
防御すれば如何ほどのダメージでもなく、各自のHPの高さで問題にはならない。
何より、攻撃の密度が薄い。
五人に対して攻撃しているためか、とても致命打など与えられない程度の刃しか降りかからない。
そもそも……。
アルベルトのいない――空中にまで結界刃を回しているのはどういうことか。
その行動に観客は首を傾げ、
猛者達はまさかと思い、
――アルベルトは初めて血相を変えた。
「……!」
五人が五人共、フィガロの無意味としか思えない広範囲攻撃に対し、目を見開いていた。
アルベルトはこのスキルを止めるべく、防御を捨てて攻撃に移らんとしたとき……。
カツン、と小さな音が聞こえた。
空中の刃の一つが……何かに当たった音がした。
「――ああ、やっぱり上か」
――その瞬間に、フィガロは空中へと跳んだ。
このスキルを使った<UBM>との戦い、そして【グローリア】との決戦と同じだ。
結界刃を足場にして――彼は空中へと疾走する。
その先に、あるだろうモノを目指して。
◇◆
アルベルトとの決闘において、フィガロは幾度か奇妙な違和感を覚えた。
フィガロが最初に違和感を覚えたのは、二度目の強化回復のときだ。
完全に【石化】して砕いたはずが、《β星》のスキルの発動宣言がなされて復活した。
あのとき、一体どうやってスキルを宣言したのかということが一つ目。
次は、四度目と五度目。
【殿兵】の《ラスト・スタンド》のクールタイムという間隙に、フィガロは確実に致命になるだけの攻撃を行った。
しかしアルベルトはHP1で耐えきり、復活した。
ジョブスキルが使用できない状態での食いしばりが二つ目。
そして最後は、必殺スキルによる七体への分裂。
フィガロはかつてトム・キャットを倒し、そして【犯罪王】を知っている。
分裂系のスキルは分裂元から分裂するのが基本だ。
しかし、アルベルトはそうではなかった。
直前まで全耐性を集約していたはずの体にフィガロは意識を集中していたが、分裂の予兆などまるでないままに取り囲まれていた。
予兆なき分裂が、三つ目。
これら三つの事象は……一つの要素を当てはめることで説明できる。
それは――本体が別にある、ということ。
HP1の本体が存在するならば……全てに説明がつく。
本体が別にあるならば、【石化】してもスキル宣言可能。
本体が別にあるならば、ジョブスキルが使えぬ間に削りきられてもHPが1残る。
本体が別にあるならば、分裂元ではなく分裂先に集中していたフィガロは気づけない。
もしも本当に本体があるならば、それはどこにあるのか。
そのヒントになったのは、アルベルト自身の行動だ。
【ファイアリックス】の炎による全方位攻撃。
しかしその際、本体が巻き込まれた様子はなかった。
フィガロは炎を回避することに集中していたが、炎の中に不自然な遮りが生じることはなかったと記憶している。
ならば、答えは一つ。
炎の舐めた範囲に本体はなく……炎の届かない空中に存在するということだ。
それを確かめるべくフィガロは《断命絶界陣》で舞台内の空間全域を攻撃した。
そして探し当て――結界刃を足場に本体へと駆け抜ける。
◇◆
『…………』
アルベルトは……アルベルトの本体は自らへと迫るフィガロを見下ろしていた。
フィガロの直感は正しかった。
――《g星》。
北斗七星の傍らの見えない星。
アラビア語の「かすかなもの」を語源とし、国によっては『見えなくなったものは死ぬ』と言われている星。
それこそがアルベルトの機械の体に備わった性質を示すスキルであり、
人型のボディの体外に存在する――頭脳核。
機械の体ゆえの頭脳核とボディの分離。
ゴルフボール程度の大きさの浮遊する金属球こそが、アルベルトの意識の住処。
アクセサリーの五枠全てを使って光学とスキルの両面で迷彩し、ダメージ減算で結界刃が触れたときのような少量のダメージからも保護されている。
そう、これこそが……アルベルトの瀕死と強化回復の本当の仕組みだ。
ジョブはフェイク。
たしかに【殿兵】は取っているが、それは相手にジョブを確認させるための見せ札。
本当は……《ラスト・スタンド》がなくともアルベルトは死なない。
瀕死で死なぬ秘密は《ラスト・スタンド》ではなく、アルベルト自身の体にあるのだから。
アルベルトという<超級>が力を発揮するためのトリックである。
だが、そのトリックは――暴かれた。
暴いた男……フィガロは【グローリアα】を手に彼の下へと駆けあがってくる。
光学的には見えないはずだが、しかしフィガロの疾走に迷いはない。
まして、結界刃が空中で見えない頭脳核にぶつかった時点で……複数の結界刃によって檻のように頭脳核の周囲を囲んでいる。逃げ場はない。
『…………』
眼下からは彼が動かす五体のボディが、フィガロ目掛けて特典武具による砲撃を撃ち放っている。
ゆえに、デッドヒート。
辿り着いたフィガロが頭脳核を斬るか、アルベルトの攻撃がフィガロを捉えるかという最後の競り合い。
二人の<超級>のどちらが相手を仕留めうるか、一秒を刻む戦い。
そしてアルベルトは――勝者が自分であることを知る。
満身創痍のフィガロの上昇速度とボディの攻撃速度、秀でるは後者。
先に動き出したアドバンテージがあったとしても、その差は詰まりつつある。
フィガロがアルベルトの頭脳核に到達するよりも先に、攻撃は命中する。
そしてフィガロの攻撃手段は、【グローリアα】による斬撃以外にない。
もはや特典武具のスキルを使う程のMPとSPは残っていない。
ゆえに、アルベルトの勝利は揺るがない。
『…………?』
一連の計算を一秒に満たぬ時間で終えたアルベルト。
だが、その短時間に……フィガロに一つの変化があった。
右手に握る武器が……変わっている。
それは【グローリアα】でも特典武具でもない。
彼の右手は、長く伸びた鎖の根元を握っている。
その武器の名は――【紅蓮鎖獄の看守】。
フィガロが常用するメインウェポンであり、射程の長さを誇る武器。
それならば、アルベルトの攻撃が命中するよりも先に頭脳核へと届くだろう。
『…………』
だが、届いたところで意味はない。
七体に分裂したボディと違い、本体である頭脳核は全ての耐性を保持している。
【紅蓮鎖獄の看守】の攻撃では、頭脳核の1のHPすら削ることはできないのだ。
フィガロの最後の一手が無駄な足掻きに成り果てたことで、勝利の天秤はアルベルトに確定した。
――最後の一手が【紅蓮鎖獄の看守】であれば。
鎖が届いた瞬間、アルベルトは目撃する。
――鎖の先に絡められた【グローリアα】を。
『ッ!?』
武装と武装の組み合わせ……変則使用。
しかしこれはフィガロにとって最も強力な武器と、最も使ってきた武器。
ゆえに、変則的な使い方でありながら斬撃軌道は揺るぎない。
届かぬ距離を、足りぬ時間を、効かぬ攻撃を――覆す奇跡の一手。
『――――』
フィガロは、一体いつこの一手を思い浮かべたのか。
自らの攻撃よりアルベルトの攻撃が先だと気づいたときか。
あるいは、空中へと駆けだしたときか。
そうでなければ……《断命絶界陣》を使用した時点でか。
いずれにしろ、この一手はアルベルトには読めず……抗うこともできない。
鎖の先端に結わえられた状態だとしても、【グローリアα】の攻撃力は必要十分。
斬撃耐性を持たないアルベルトの頭脳核……たった1のHPを削るには事足りる。
勝利の天秤の傾きを、フィガロは自分の力で覆した。
彼が彼であるゆえに。
『――You are Winner』
彼の戦いを讃える電子音声と共に頭脳核は両断され、――舞台上のアルベルト全てが消滅した。
◇◆
“トーナメント”:最終日。
賞品対象:神話級【夜天大将 オオイミマル】。
能力特性:不明(空間変質?)。
優勝者:【超闘士】フィガロ。
Episode End
≡・ェ・≡<勝った
( ꒪|勅|꒪)<……こいつすげーナ
○《統一王者》
(=ↀωↀ=)<ジョブにつきもののメインとサブの親和性を
(=ↀωↀ=)<全無視して所持超級職のスキルフル活用できる奥義
(=ↀωↀ=)<閣下とかが喉から手が出るほど欲しいスキル
(=ↀωↀ=)<でも現所有者のフィガロは【超闘士】だけなので意味なし
(=ↀωↀ=)<ていうか、使えるスキルならこれまでにも使ってるよねって話
○《七星》
(=ↀωↀ=)<七回倒された後に初めて使用可能
(=ↀωↀ=)<ちなみに耐性は分割、HPは各自が元の最大値ですが
(=ↀωↀ=)<MPとSPは共通です
(=ↀωↀ=)<なので消費七倍の短期決戦スキルでもある
(=ↀωↀ=)<まぁ、アルベルトの特典武具って消費抑える代わりにデメリットガン積みしたもの多いから問題にもならないけど
○《g星》
(=ↀωↀ=)<世にも珍しいコア持ち<マスター>
(=ↀωↀ=)<ちなみに視点は本体視点とボディ視点を選択可能
(=ↀωↀ=)<普段はボディで、必殺時など必要に応じて本体視点
(=ↀωↀ=)<ちなみに本体やられるとボディも消える極大デメリットあり
(=ↀωↀ=)<HPが1しか減らなくてもそれが本体なら即デスペナ
(=ↀωↀ=)<ボディが七回やられても平気な代償と言える
○追記
(=ↀωↀ=)<あ。フィガロのやった鎖+【グローリアα】だけど
(=ↀωↀ=)<あれがちゃんと威力発揮するのは闘士系統だからです
(=ↀωↀ=)<『同じ手に武器を二個以上装備』できて初めて使える戦法




