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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
Episode Fragment

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442/716

Frag.7-6 “トーナメント”・最終日 ζ

(=ↀωↀ=)<決着までやりたいけど一話としてはちょっと長いので分割


(=ↀωↀ=)<次話は22:00投稿

 □■中央大闘技場


 数多の特典武具の中で最強の剣を手にしたフィガロ。

 数多の特典武具の中で最凶の鎧を纏ったアルベルト。


 両者の激突は……アルベルトに分がある。


 フィガロは【グローリアα】を抜いたが……最強のスキルである《終極》を遠間では使えない。

 遠距離からアルベルト目掛けて放つならば水平照射となり、アルベルトの後ろにある結界……そして観客にまで到達する恐れがある。

 『観客への被害を懸念して特典武具の使用に制限がある』というのは、何もアルベルトに限った話ではない。

 だからこそ、かつての迅羽との決闘では至近距離から真上に向けて放ったのである。

 放つならばやはり至近距離になるが……そのときにはアルベルトの拳が届く距離。

 フィガロが先に攻撃を放ったとしても、照射の際の僅かな硬直は拳が届くには十分だ。

 まして、アルベルトは最低でもあと一回は蘇るのである。

 捨て身でカウンターを仕掛けられれば、そこで勝負が決しかねない。


 無論、《終極》を使わずともフィガロの【グローリアα】はそれ自体の攻撃力も極めて高く、刃に光熱を乗せることもできる。

 相手の攻撃を回避しながら、刻んでいくことも可能かもしれない。

 しかしそれでも、一回の被弾が死に直結することは変わりない。

 被弾すれば……掠りでもすれば致死ダメージ。

 加えて、現在のアルベルトの耐性の度合いも不明だ。

 アルベルトは炎熱と物理ダメージで一度ずつ瀕死になり、耐性を獲得している。

 近似の攻撃である光熱と斬撃にはどの程度耐性が働いているのかも、勝敗を左右するだろう。

 いずれにしろ、両者が互いの命に届く牙を持つ。

 ならば、あとは牙の使い方次第。


「…………」

 フィガロは、勝利への道筋を読む。


『――――』

 相対するアルベルトは――即座に動いた。


 当然と言えば当然だ。

 何も考えぬ相打ち狙いならば残機を一つ残したアルベルトが勝利する。

 むしろ、フィガロに打開策を考える時間を与える事こそが悪手である。


『Ooo』


 そして【破壊王】を上回る攻撃力とそれに準ずる防御力を持った悪夢の如き大鎧が唸りをあげながら爆走する。

 一歩踏み出すごとに舞台の残骸に罅とクレーターを刻み込み、触れるもの全てを粉砕する破壊の疾走。

 他の特典武具を使おうともしていない。

 純粋攻撃力でこの【エグザデモン】を上回るものは一つとしてないためか。

 あるいは、他に理由があるのか。


『…………』


 そのまま一直線にフィガロ目掛けて突き進む――そう思われた瞬間、アルベルトの足は転がる岩塊を蹴り飛ばした。

 莫大な力によって砕け散りながら、しかし与えられた運動エネルギーのままに超音速で前方へ向けて射出される岩塊。

 あたかもショットガンの如く、フィガロに逃げ場を与えずに飛来する。


「ッ!」


 だが、フィガロは避けない。

 【グローリアα】の刃に光熱を宿し、自らを捉えるコースの岩塊を正確にその刃で切り払い、蒸発させる。

 常人であれば即死不可避の一撃も、フィガロは一手で防いで見せた。

 だが、その一手を使わせることも含めたのがアルベルトの一手。

 フィガロが防御に割いた僅かな時間で、彼我の距離を詰めた。

 あと数歩で大鎧の拳の射程。

 刃と拳をぶつけ合えば、互いの体砕けちり、残るはアルベルトただ一人。

 そんな光景を観客全てが思い描き、拳を振り上げるアルベルトに数多の視線が集中し、


 フィガロの変化に気づいた者は一割もいなかった。


「あれは……!」


 観客席のレイが目視したのは、フィガロが《瞬間装着》で身に纏った新たな装備。

 否、新たなと言うには語弊がある。

 その装備は、彼の容姿の代名詞の一つなのだから。


 それは蒼き外套――【絶界布 クローザー】。


 フィガロが最初に討伐した<UBM>の遺したモノであり、数多の装備の中で最も長く彼とあり続けたモノ。

 その装備スキルは……。


「――《絶界》」

 ――短時間の外界攻撃完全遮断。


 展開された結界と、【破壊王】を上回る威力の拳が激突する。

 激突は会場中の空気を震わせ、衝撃が突き抜けていく。

 だが、結界は揺らがない。

 常識外の攻撃力を受けてなお、揺らぎもしない。

 そして激突の半瞬後にフィガロは任意で結界を解除し、


「――《極竜光牙斬・終極》」

 ――かつての迅羽の決闘同様、斬り上げる軌道の《終極》を撃ち放った。


 相手の攻撃を受け止めた上での最大火力による反撃。

 だが、その接続があまりにも早い。

 拳が衝突した瞬間のダメージを消しつつ、激突の次瞬には即座に解除して自らも動き出し、一秒の隙間もなく《終極》を返している。

 同様の技術である衝撃即応反撃(インパクトカウンター)を用いるレイでさえ、フィガロが行った接続の速さに戦慄する。

 レイとフィガロにAGI差があるとはいえ、フィガロの高い技巧の証明だった。


『…………!』


 アルベルトは反応できていない。

 攻防が跳ね上がろうと、AGIはフィガロに劣る。

 ましてやあまりにも鮮やかなカウンター。防がれた後に退く時間も、消えた後に二撃目を放つ時間も、そして《終極》に対応する時間も当然ない。

 共に相手を殺す牙を持っていたとしても、牙の使い方を間違えなかったとしても……扱う技量の格が違う。

 ゆえに、アルベルトは何も出来ぬまま、極限の光熱で上下に貫かれた。

 闘技場の結界も、インテグラの増設結界も、諸共に貫いて天に伸びる光の柱。

 照射範囲の【エグザデモン】は蒸発し、中身のアルベルトも同様に消え失せる。

 炎熱への耐性など、最強の光熱の前にさほどの意味もないかのように。

 あるいは、熱を齎す原理が違うゆえに意味を為さないとでも言うように。


 いずれにしろ、アルベルトのHPは即座に瀕死へと到達し、


『――《η星(アルカイド)》』

 ついに、七つ目の……セプテントリオン最後の強化回復スキルが発動した。




『――《七星(セプテントリオン)》』

 ――同時に、もう一つ。




「――!」


 その発動宣言に、フィガロは気づいていた。

 気づいていたからこそ、即座に動いた。

 アルベルトに先手を取らせたのは、速度差による連撃で復活直後に続けて仕留めるため。

 再構成されたアルベルトの肉体。半壊した鎧を纏い、光熱への耐性を獲得しただろう彼の首に、【グローリアα】による純粋な斬撃を叩き込む。

 月夜に「脆い」と評されたアルベルトの機械の体は、フィガロと【グローリアα】の斬撃を受け止められはしない。

 再構成して間もない体は身動きする間もなく、容易くその首を刎ね飛ばされた。

 かくしてアルベルトは撃破される。

 その光景に、フィガロの優勝を数多のモノが確信したとき。



 ――六方向からの攻撃(・・・・・・・・)がフィガロを襲った。



「…………!」


 爆炎の網、砲弾、衝撃の波、極寒の吹雪、暗黒の霧、固定ダメージ弾。

 アルベルトを倒した瞬間に、降りかかった六種の攻撃。

 いかなフィガロといえど、全てに即応するのは不可能であり、


 フィガロの姿は……破壊の嵐の中に呑み込まれた。


 ◇◆


「えっ!?」


 会場の警備に当たっていた<超級エンブリオ>……サンダルフォンは決闘の様子を見ていた。

 彼の<マスター>であるハンニャにとって、愛するフィガロの試合を見届けるのは当然。

 それゆえ、彼もまた会場の警備を行いながら、ハンニャと共に観戦していた。

 そして、フィガロが勝利したと思った瞬間に……盤面をひっくり返された。


「なんですか、あれは……」


 ああ、そう言うしかないだろう。

 盤面どころか、ルールさえひっくり返されてしまった感さえある。

 それほどに、今の舞台上には驚愕の光景が広がっている。



 舞台上には――――六人のアルベルト(・・・・・・・・)が立っていた。



 今しがた最後の復活を遂げた体が首を飛ばされたはずなのに、六倍に増えている。

 観客の中で、レイや決闘ランカーが思い浮かべたのは……トム・キャット。

 必殺スキルにより増殖・再生するかつての決闘王者の姿。

 しかし、彼の必殺スキルとアルベルトのこれは、似て非なるスキルだ。


 《七星(セプテントリオン)》。

 アルベルトの<超級エンブリオ>、【七星転身 セプテントリオン】の必殺スキル。

 七度の強化回復スキルの発動後にのみ使用できるこの必殺スキルの効果は、学習・克服内容の一斉開示。

 ここにいる六人と、フィガロに首を刎ねられた一人の計七人。

 彼らは、《α星(ドゥーベ)》から《η星(アルカイド)》までの七つのスキルに応じたアルベルトである。


 炎熱耐性を持つアルベルト・ドゥーベ。

 石化耐性を持つアルベルト・メラク。

 物理衝撃耐性を持つアルベルト・フェクダ。

 氷冷耐性を持つアルベルト・メグレズ。

 闇属性耐性を持つアルベルト・アリオト。

 固定ダメージ耐性を持つアルベルト・ミザール。

 光熱耐性を持つアルベルト・アルカイド。


 七星への転身。

 異なる耐性と攻撃手段を備えた七つの体。

 だが、各々の攻撃手段は上乗せされる。

 彼が未だ複数所有する特典武具の数々、自身の耐性と合致したデメリットを持つ武具を用いることで……攻撃力は跳ね上がる。

 石化は持ち合わせがなかったのだろうが、それ以外はこれまでの戦い同様にセーフティが外れている高火力特典武具。

 そんなものが六方から一斉に、フィガロへと牙を剥いたのだ。

 ひとたまりもない。


「…………」

「ハンニャ様……! あの、フィガロ様は……」


 フィガロの婚約者であるハンニャは舞台を凝視しながら、祈るように両手を組み合わせて一言の言葉もない。

 そんな彼女を気づかわしげに見るサンダルフォンの方が、狼狽えているようですらある。


『落ち着けよ、サンダルフォン』


 しかしそんなサンダルフォンに、彼とはハンニャを挟んで反対側に立った人物が声をかける。

 ハンニャ同様に会場の警備に当たっていた<超級>……シュウである。


『フィガ公は負けちゃいない』


 彼の言葉を示すかのように、破壊によって巻き起こった粉塵が晴れる。


「……ふ、ぅ……」


 そこに、フィガロはまだ立っていた。

 全身に傷を負いながらも、【グローリアα】を地に突き立て、己の身体を支えている。

 いまだ、勝敗決さず。


 しかし状況は決して良くはない。

 フィガロは目に見えて満身創痍であり、この状態であと六人のアルベルトを倒すことは難しい。 


『……あと五人(・・)か』


 だが、シュウは舞台上に立つアルベルトとは異なる数を口にした。

 直後にアルベルトの一人……固定ダメージ耐性のアルベルト・ミザールの体が揺らぎ、背後へと仰向けに倒れる。

 ポーズも変わらないまま地に倒れた体は粉々に砕け……石になっていた(・・・・・・・)


「あれは……?」

『フィガ公のカウンターだ。六方向から攻撃が飛んで来たとき、その内の一方にさっきの【マーブルドロップ(短銃)】を撃ったんだよ』


 既に【石化】の耐性を獲得されていた状況で、なぜ反撃として再び撃ち放ったか。

 それは、フィガロ自身が七人目のアルベルトの首を切った時点で……手応えから耐性の分散に気づいていたからだ。

 物理衝撃耐性があるにしては、フィガロの想定よりも斬撃の手応えがあったこと。

 それに加えて六方からの攻撃が降りかかったことで、『自分自身の七分割』という答えを思考よりも早く直感で導き出した。

 そして、六方の内、攻撃が弾であり、攻撃者の姿が見えた二人のアルベルトに向けて、『生命なきものに阻害されない』特性の【マーブルドロップ】で反撃を行ったのである。

 一方は石化耐性のアルベルト・メラクだったために無力化されたが、固定ダメージ耐性のアルベルト・ミザールは【石化】によってなす術もなく固まった。

 その咄嗟の判断と反撃が、フィガロの命を繋いだのである。


「…………」


 アルベルトも結界が解除されない時点でフィガロの生存には気づいていた。

 しかし必殺を期した状況での同時攻撃の中で反撃されて一体を失ったがゆえに、攻撃の連続ではなく慎重策をとっていた。

 先刻とは逆の判断だが、今は正解でもある。

 状況は変わり、フィガロは一斉攻撃によって傷痍系状態異常や呪怨系状態異常を受けている。

 全身の【出血】や【火傷】はHPを削り、呪怨系の【吸魔】と【吸魂】はMPとSPを減少させていく。

 フィガロがもつそれら状態異常への耐性装備も、先に身につけていればこそ。

 回復アイテムも使えない決闘、一度状態異常を受けてしまえば治す手段は限られる。

 もはや時間はアルベルトの味方だ。

 さらに五対一。何らかの反撃があったとしても、一体が潰される間に残りの四体で詰められる。

 だからこその、慎重策。

 フィガロは生き延びたものの、劣勢を覆す手段がない。

 それこそ、敗北までのカウントダウンが始まっていると言ってもいいほどに。


 勝利の天秤はアルベルトに傾いている。


 To be continued


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増える……七星……!リュウケン……うっ、頭が……
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