Frag.7-4 “トーナメント”・最終日 δ
(=ↀωↀ=)<解説用ミニアニメ『なぜなにデンドログラム』
(=ↀωↀ=)<TVアニメ本編に先駆けて
(=ↀωↀ=)<TVアニメ「インフィニット・デンドログラム」公式チャンネルで配信中!
https://www.youtube.com/watch?v=i6dEmpj1eRk
( ̄(エ) ̄)<ここや書籍あとがきのノリに近いクマ
(=ↀωↀ=)<三人(僕、クマニーサン、ネメシスちゃん)の声が初出しなのでぜひ見てねー
( ꒪|勅|꒪)<…………
□■Past――地球・某国某所
『彼』――便宜上『彼』と呼称する――が鮮明に覚えている記憶の一つは、眠りから目覚めたばかりの自分の前で会話する二人の女性の姿だった。
「ありがとう! 本当にありがとう! お陰であのダークで非人道的な犯罪結社から脱出できたよ!」
興奮して話す若い女性――便宜上『彼』の『母』――はとても興奮し、もう一人の女性の両手を握りながら涙声でそう話していた。
「名前に鳥と数字が入った凄腕の噂を聞いて依頼した甲斐が……ていうか噂よりすごかったね!? どうやって素手でビル圧し折ったの!? いや、無人兵器群潰すには最良の一手だったと思うけどね!? でも普通できないし!?」
『母』のテンションには、『理解できない超常現象』を見た恐怖も混ざっているのかもしれない。
二人の背後には山中に似つかわしくない高層建造物……その成れの果てがあった。
なぜか半ばから圧し折れたビルは、黒煙を上げて炎上していたのだ。
その実行犯であるもう一人の女性は、『母』を宥めながら話していた。
「え? 依頼料? 分かってるってー! 亡命先のドイツ政府から契約金たんまり貰ってるしー。ふふふ! これで自由度と予算爆上げで研究ができるわ! この子も死なずにすんだし」
笑顔の『母』はそう言って、『彼』を抱きかかえた。
ただ、抱きかかえた腕は数秒も経たないうちにプルプルと震えていた。
「……う、運動不足には辛い。この子、十キロもないはずなのに……」
危うく『彼』を落としそうな『母』を心配し、女性は『母』の腕から『彼』を預かった。
「ふー、ありがとね。もう、折角二人で脱出したのに私の手で落っことして死なせちゃったら怖すぎるって……」
『母』は額の汗を手の甲で拭いながら、あまり笑えないことを言った。
そんな『母』の言葉に対し、『母』の代わりに『彼』を抱きかかえる女性は不思議そうな表情で『彼』を見下ろした。
「え? うん、そうそう。この子は生きてるよ。ちょっと見た目は違うけどね。ああ、国や大企業の使う情報整理用の従来型とは違うよ。この子は次世代か……あるいは完全な新種とも言うべき存在ね。……まぁ、作った私もどうしてこの子が生まれたのか理解しきれてないんだけど」
女性の腕の中の『彼』の体の表面を撫でながら、『母』は苦笑した。
「変に聞こえるかもしれないけどねー。この子には多分、魂って奴があるんだよ。こんな見た目だけどね」
『母』の言葉に、女性は驚いたようだった。
「うん? 科学者が非科学的じゃないかって? とんでもない。魂は存在するよ。ただし、スピリチュアルな話じゃない。人間の思考は脳内の電気信号だけど、外界とのやりとりだけでは生まれない思考もある。前世紀のとある非人道的な学者が、何組もの双子を全く同じように育てても差異が出たようにね。周辺環境だけでは起こりえない差異を生み出す。情報のやりとりの中で生じたまだ観測できない現象を、便宜上は魂って呼んでいるの。まぁ、見えない隠しフォルダに収まったデータみたいなものね」
早口に述べられる『母』の言葉を、女性は理解できているのか頷きながら聞いていた。
「従来型にはそれがないの。同一ベースの個体に同じ教育を施せば、決まった答えがない問題でさえも同じ答えにしかならないわ。けれど、この子は違う。同じ教育を受けても、他の個体とは違う答えを出した。連中はそれをバグだとかミスだとか言っていたけど、私は違うと判断した。この子は異常ではなく、特別なの」
そうして、再び『彼』を撫でながら笑う。
今度は苦笑ではなくて……慈愛のこもった微笑みだった。
「ま、だから私はこの子を処分しようとする結社を脱走したくなって、依頼したってこと。……まさかぶっ潰すまでいくとは思わなかったけど」
若干顔が引きつっている『母』の言葉に、女性も苦笑して答える。
「さぁて。それじゃ隠してある船までこの子を……え? この子の名前? 愛称ならあるよ。アルベルトって言うんだけど」
そうして、『母』は『彼』……アルベルトの名前を呼んだ。
「でもねー、ちょっとシンプル過ぎかなって思ってるんだよね。私の死んだ弟の名前だけど。……いや、私まだそんな年齢じゃないし。うーん、折角脱出できたんだし、フルネーム考えてみようかな」
そう言って、『母』は『彼』をジッと見つめる。
「キング……とか? うん、すごい。我ながらこの子にぴったりだと思う。あ、黒いからブラックもいいね! アルベルト・ブラックキング! …………え? そういう名前の怪獣がジャパンにはいるって? じゃあドイツ語にしよう! 私これからドイツ人だし!」
そうして、『母』は『彼』をビシッと指差しながら、
「アルベルト! 今日からあなたの名前は――アルベルト・シュバルツカイザーよ!」
『母』のネーミングセンスに対して異議を唱えるほどの情緒はまだ『彼』にはなかったし、「キングの互換ならケーニッヒではないか」と思ったが『母』が嬉しそうだったので言わずにおいた。
かくして、その名が『彼』の正式な名前となった。
アルベルト・シュバルツカイザーの名を、彼はこの後も使い続けることになる。
――異なる舞台においても。
◇◆◇
□■中央大闘技場
【超闘士】フィガロと【殲滅王】アルベルト・シュバルツカイザー。
二人は共に<超級>であり、決闘の猛者であるが……共通点はそれだけではない。
この二人は……共に記録保持者。
王国とカルディナそれぞれの――特典武具最多獲得者である。
コル・レオニスによる装備の強化で万能性を有し、墓標迷宮のソロ探索において管理AIに配された数多の<UBM>を屠ってきたフィガロ。
セプテントリオンによる耐性獲得と特効攻撃獲得能力を有し、カルディナにおいて攻撃と生存の特殊性ゆえに難関とされた<UBM>を数多討伐したアルベルト。
共にあらゆる敵の天敵になりうるがゆえに、特異個体さえも葬り続けてきた。
二人が保有するのはその結果。彼らにアジャストした特典武具の数々。
そんな二人によって行われる決闘は、武具の展覧に他ならない。
フィガロが初手で手にした武器は――短銃。
普段の彼は使わず、メインウェポンにはなりえないもの。
しかし、だからこそフィガロは初手にこの短銃を手にした。
アルベルトは最低七回の復活能力を有し、その度に耐性と……攻撃力を獲得する。
ゆえに復活を繰り返した果てこそが最強のアルベルトであり、それと相対するときにこそ最強の切り札――【グローリアα】を振るわねばならない。
逆に初期状態では、戦力に劣る武具で光属性と斬撃以外の耐性を埋める必要がある。
それゆえに、フィガロは短銃を選んだのだ。
「…………」
フィガロの動きを目視しながら、アルベルトも武器を構える。
彼が装備した武器も銃火器だが、フィガロの短銃とはまるで異なる。
それは一対の大砲だった。
巨漢のアルベルト自身と同じサイズの大砲を、両腕に一門ずつ下げている。
だが、その大砲は二つではなく一つ。
尾部から大蛇の如きケーブルが伸び、二門を一つに繋げていた。
あたかも、双頭の蛇の如く。
アルベルトの初手――伝説級特典武具【掃討蛇火 ファイアリックス】。
引き金を引くと同時に二つの砲口の奥にチロリと小さな火が覗き、
――二筋の火炎放射が闘技場に元からあった結界の内の三枚を貫いた。
呆気なく破れた結界に観客が騒めくが、まだ舞台の結界が二枚とインテグラの結界が残っていることに安堵した。
同時に納得する。こうも容易く結界を破れる火力があるならば、使用を躊躇ったのも納得だ……と。
しかしそれは、納得が早すぎる。
アルベルトのこれは、初手なのだから。
「……!」
自分目掛けて放たれた強大な火炎放射を、フィガロは短銃の発砲を中断して回避していた。
だが、回避するフィガロの姿を、アルベルトの両目は捉えていた。
アルベルトは、自らの体ごと【ファイアリックス】の砲身を旋回。フィガロを追うように火炎放射が舞台を舐め、結界が二の字に切り裂かれていく。
仮にモンスターの軍団の真っ只中で行えば、これだけで殲滅可能なほどの火力である。
(恐らくは伝説級。……レイ君の【瘴焔手甲】を火力に特化させたような特典武具か。まぁ、あちらは少し特殊な部類だけれど)
渦巻く火炎を避けながら、フィガロは【ファイアリックス】について考察する。
超級職の奥義にも近い威力の火炎だが、あれだけ継続して放てるということは消耗は少ない。
この連続放射を可能としているのは機能を単純化しているためかと考え……それでもリソースが足りないように感じた。
しかし……。
(いや、彼の特典武具も特殊らしい)
【ファイアリックス】を使用するアルベルトを見て、フィガロは一つのことに気づく。
(――使用者へのセーフティがない)
――アルベルトの体は【ファイアリックス】から漏れ出る炎熱によって炎上していた。
本来、【瘴焔手甲】の《煉獄火炎》が(発射方向さえ間違えなければ)使用者には無害であるように、装備スキルは使用者への反動を抑えるのが自然だ。
だが、そうしたコントロールや安全対策はリソースを消費し、威力自体を鈍らせもする。
【ファイアリックス】には、それがない。
恐るべき火炎を放つと共に、火炎を放つ砲もまた超高温に加熱されていた。
使用者へのMP消費を抑えながらも威力を発揮する代わりに……使用者を焼き殺す。
本末転倒の欠陥特典武具とさえ言える。
――使用者がアルベルトでなければ。
「――《α星》」
炎上していたアルベルトが、一瞬で元の姿に戻る。
それどころか、超高温に加熱されているというのにもう燃え上がる様子がない。
その理由は……言うまでもない。
(……耐性獲得。なるほど、自傷ダメージでも発動可能か)
かつてはビシュマルのスルトによって発動した炎熱への耐性を、今度は自らの特典武具の炎によって獲得したのだ。
アルベルトの<超級エンブリオ>、セプテントリオンの特性は学習と克服。
《α星》に始まる一連のスキルは、アルベルトが瀕死になるまでに受けた最も瀕死の要因としての割合が大きい事象……大抵の場合はより多くのダメージを与えたものへの耐性を獲得する。
ゆえに、自傷であっても瀕死になればスキルは発動可能だ。
もっとも、この場合はダメージ源に有効な攻撃手段の獲得は意味がない。
対象はアルベルト自身であるし……TYPE:ボディであるアルベルトの体は通常の人体と作りが違う。
ゆえに、フィガロに有効な攻撃手段はこの一回目のスキル使用では獲得できないが……大した問題ではない。
代わりに、【ファイアリックス】をノーリスクで使えるようになったのだから。
◇◆
一度目の復活を遂げた後、決闘を観戦する者達はアルベルトの火炎放射がさらに勢いを増したかのように感じた。
しかし実際には火勢自体に変化はない。
最初から全力で放射している。
変わったのは……結界内の気温である。
延々と、炎炎と、【ファイアリックス】が放ち続けた炎。
それによって、既に結界内の気温は数百度に達していた。
闘技場の結界は外部からの気体流入はなされるため真空にはなっていないが、既に常人が生存できる環境ではない。
相対するフィガロが今も平常でいられるのは、指輪の一つを炎熱耐性の装備に切り替え、強化しているからだ。
この超高温環境、フィガロは<墓標迷宮>の深層にも罠のように存在する灼熱エリアで経験済みだった。それゆえ、手持ちの装備から即座に対応できたのである。
(流石に戦術が上手いな……)
だが、逆を言えばフィガロの装備枠の一つ……それも数を減らして特化させる枠の一つを環境対策に使わされた。
加えて、この指輪でも【ファイアリックス】の直撃を受ければどうなるか分からない。
ゆえに、フィガロは反撃に移った。
双蛇の如き炎を空中に身を翻して回避し――右手の短銃をアルベルトに向ける。
その短銃は金属製ではなかった。
まるで蛇の鱗のような模様がある石灰色。岩間を這う蛇の如き装い。
その本来の姿を幻視することもできるだろう。
フィガロの初手――伝説級武具【落生化石 マーブルドロップ】。
かつて、<墓標迷宮>の探索者に視えざる恐怖として怖れられた、小さな毒蛇型の<UBM>の成れの果て。
フィガロが炎を避けながら放った銃弾は、真っすぐにアルベルトへと向かう。
だが、その瞬間と銃口の向きを目視していたアルベルトは、【ファイアリックス】の炎を以て空中で銃弾を蒸発せしめんとする。
僅かに動かされた火炎の蛇が宙を貫く銃弾を舐めとらんとし、
しかし、――静かにすり抜ける。
「…………!」
かつての【マーブルドロップ】は、<墓標迷宮>の壁や床を透過しながら目標に近づき、致命の牙で仕留めてきた<UBM>である。
ゆえに、放たれた弾丸の第一効果は、命なきもの全てをすり抜けること。
あたかも闇属性魔法のように超高温の炎さえも意に介さない。
石灰色の弾丸はアルベルトへと突き進み――着弾。
そして、第二効果が発動する。
「!」
着弾した箇所から、アルベルトの体が石灰色に変質していく。
そう、命中した物体を構成する物質の石への変換――即ち【石化】である。
本来であれば、HPとENDによってレジストが可能。
だが、今この銃を放ったのはフィガロ。
彼によって効果を高められた石毒の弾丸は、アルベルトの全身を瞬時に蝕んだ。
まだ【石化】への耐性を持っていないアルベルトは……なす術もなく石へと変わっていく。
『…………』
程なくしてアルベルトは全身が【石化】し、動きを完全に封じられた。
同時に……アルベルト型の石像が持つ【ファイアリックス】の砲身も、固定される。
「疾ッ!」
フィガロはアルベルトに接近すると同時に、装備を切り替える。
手にした装備は……【グローリアα】。
数ある特典武具の中でも最強と言える刃。
しかしそれで断ち切るは【石化】したアルベルトではない。
フィガロはその剣閃を以て――【ファイアリックス】の双砲身を両断した。
――直後、砲身の中の火力が解き放たれて爆発する。
既にフィガロは後方へ飛び退くが、【石化】して動けないアルベルトは退避も防御もできない。
炎熱への耐性はあれども、爆圧が【石化】した体を襲い……アルベルトは砕け散った。
「……さて」
炎熱耐性の指輪と自らの身ごなしで爆発のダメージを掠り傷に抑えたフィガロ。
炎が消えたとき、彼の視界からは【ファイアリックス】もまた消え失せていた。
アルベルトも、そうと分かるほどに大きな破片は見当たらない。
アルベルトは、今再び死の淵に立っているのだろう。
「…………」
フィガロは、『あるいは』とも考える。
動きの全てを封じられる【石化】の状態異常。
だが、通常フィガロはこの特典武具を使わない。
命中すれば致命的な状態異常とはいえ、銃弾を当てるよりも簡単かつ強力な絶命手段がフィガロには幾つもある。
何より、死に直結はしても死そのものではない状態異常では、決着までのテンポが数段劣る。
それでもなお今回使用したのは、本命から遠い手法で耐性を埋めるという目的が一つ。
もう一つは……確認のため。
身動きできず、スキルも使えないだろう【石化】状態。
《ラスト・スタンド》はともかく、強化回復スキルは発動不可能ではないか、と。
初手に【マーブルドロップ】を選んだのは、それを確かめるためである。
その結果は……。
『……《β星》』
虚空からスキルの宣言が為され、問題なくスキルが発動された。
細かな破片が集合し、アルベルトの体が瞬く間に形成されていく。
「……なるほど」
残念とは、思わなかった。
ビシュマルが頭部を蒸発させていても、キャサリン金剛が【魅了】していても、アルベルトは復活していたのだから。
これで行動不能にしていようと関係なく、アルベルトは復活すると確信できた。
あるいはこのスキル使用にもトリックがあるのかもしれないが、自分には向かないとフィガロは考える。
幸いにして、撃破の手段には事欠かないのが彼である。
『あと六回か七回倒せばいい』と……至極単純に考えた。
「…………」
完全復活したアルベルトの両手には、バチバチと衝撃波が走っている。
ビシュマル戦での一度目の復活と同じもの。恐らくは、臓器の収まった人体内部に深刻な損傷を齎すための追加武装だ。
だが、この局面では……と言うよりもアルベルトが特典武具を用いる本来のスタイルで戦うならば、人体への攻撃手段はあまり意味がない。
特殊な耐性を持つモンスターならばともかく、人間ならば彼本来の特典武具の火力で押し切った方が早いからだ。
ゆえに、アルベルトは消失した【ファイアリックス】に変わる武装を既に選択している。
フィガロもまた、【グローリアα】と【マーブルドロップ】を仕舞い、続く武器を手にする。
二人の戦いは、まだ第一ラウンドが終わったばかりだ。
だが、あえて言うならば……この時点で勝敗の天秤はアルベルトに大きく傾いていた。
To be continued
(=ↀωↀ=)<11巻の著者校正作業があるので
(=ↀωↀ=)<次回は恐らくお休みです
(=ↀωↀ=)<でもちょうどその頃にコミックアライブでクロレコの四話が出ているはず
(=ↀωↀ=)<そちらもどうぞよろしくお願いします
(=ↀωↀ=)<ところで冒頭の地球シーンの女性ってさ……
( ̄(エ) ̄)<♪~(口笛吹いて白を切る)




