Frag.1 “トーナメント”・三日目
(=ↀωↀ=)<大仕事も一段落したので更新再開
(=ↀωↀ=)<でもアニメ関連をはじめとする作業は多いので
(=ↀωↀ=)<しばらくは更新ペースを週一程度に落としつつ
(=ↀωↀ=)<『続く』で終わらない一話完結エピソードでやっていきます
(=ↀωↀ=)<“トーナメント”も幾つかを抜粋しつつ、他の日にちの顛末もダイジェストで
(=ↀωↀ=)<そんな訳で第一弾は“トーナメント”三日目
□■決闘都市ギデオン・中央大闘技場
“トーナメント”:三日目。
賞品対象:名称不明(推定:アンデッド)。
能力特性:ポルターガイスト、呪怨系状態異常。
◇◆
これまでの“トーナメント”の結果は、はっきり言えば順当な結果と言えた。
【鬼面仏心 ササゲ】を賭けた初日の“トーナメント”は<超級>の一角である“酒池肉林”のレイレイが優勝し、その後の挑戦でも危うげなく特典武具を獲得した。
【破砦顎竜 ノーマーシー】を賭けた二日目の“トーナメント”においては、決勝において“蹂躙天蓋”バルバロイ・バッド・バーンと“骨喰”の狼桜が激突。
王国屈指のPK同士の戦いは白熱したが、最終的にバルバロイ・バッド・バーンが僅差で制した。
その後の挑戦においては自身とクランオーナーである“不屈”のレイ・スターリング、それとルーキーらしい四人の<マスター>と共に戦い、勝利して特典武具を獲得した。
結果としてここまでの二戦、いずれもランキング二位<デス・ピリオド>に所属する<マスター>が特典を獲得している。
その結果とレイレイやバルバロイが“トーナメント”で戦う様は、<デス・ピリオド>の力と恐ろしさを広く知らしめることとなった。(そして大多数が名称とバトルスタイルのせいでアンダーグラウンドなクランだと誤解した)
しかしそれでも、三日目までも<デス・ピリオド>の勝利はないだろうと思われた。
なぜならば、<デス・ピリオド>が三日目に送り込んだ<マスター>は、それまでの“トーナメント”を制した二人とは違う。
<超級>でもなく、名が知れたPKでもない。
まだルーキーとさえ言える無名の<マスター>だったからだ。
予選である四回戦までを勝ち、本選に残りはしたが……これ以上はないと考えられた。
本選の他の参加者は魔法系の超級職を筆頭に、二つ名付きの前衛やテイマーの名が連なっている。
それゆえに無名のメンバーのオッズの倍率も高く、大穴と言われた。
この面子を相手に、勝つ訳がないからだ。
ただし、情報を付け加えるならば……その無名のメンバーに大金を賭けた者達もいる。
クランのオーナーであるレイ・スターリング。
そして、<デス・ピリオド>とは無関係な四人の<マスター>。
彼らはいずれも……予選で無名のメンバーに敗れた者達だった。
◇◆
「……、っ……!」
荒く、息を吐く。
彼……白いローブを纏う魔法職は、眼前の相手との戦闘に消耗していた。
体力よりも、魔力よりも、精神が摩耗しかけていた。
彼の名は、【氷王】アット・ウィキ。
クランランキング五位、<Wiki編纂部・アルター王国支部>のオーナー。
その名の通り、<Infinite Dendrogram>のWikiを編纂するために多くの国に拠点を持つクランの支部を担う男であり、討伐ランキングでも最高六位にまで到達したことがある。
また、パーティを組んでの<墓標迷宮>攻略で四五階にまで到達した実績もある。
そして先日、突如として空位になった【氷王】の座にも就き、超級職としての力も手に入れた。
戦闘経験も知識も豊富であり、超級職であることと装備の充実ゆえに一対一の戦闘においても前衛に後れを取らない。
今日の“トーナメント”においても言うまでもなく大本命。
そんな彼が――無名のルーキーを相手に攻めあぐねていた。
(……九回目の試行失敗。視覚攪乱効果なし)
相手が上位クラン、<デス・ピリオド>のメンバーであることは知っている。
だが、彼の調査によれば<デス・ピリオド>は少数精鋭の……否、少数の精鋭によってその地位に座したクランだったはずだ。
四人の<超級>。有名なPK。そして、様々な事件に出くわし、運よく解決してきた“不屈”。他のメンバーは数合わせかお荷物、偶々フランクリンの事件で同道したことが縁でクランに入っただけのルーキーだったはずだ。
だが、アットと相対する眼前のメンバーは……違う。
「……《ホワイト・フィールド》」
アットが魔法を行使しようとした瞬間に、相手は指を鳴らした。
それだけで……【白氷術師】の奥義が雲散霧消する。
「――すみません。氷って、あまり好きじゃないんですよ」
それをなした相手は……まるで雪の妖精のような美貌の少年はそんな言葉を発する。
真鍮色の衣を纏った彼は、傍らに<エンブリオ>――ガーディアンの淫魔と地竜――【ヘキサホーン・グランド・ドラゴン】を従えて微笑んでいる。
「少々不愉快な相手を思い出すので……。それに、使われると負けてしまいますから」
少年は人に好まれそうな笑顔でそう言うが、アットの内心は凍りつく。
(……上級職の奥義でも、潰すのに支障なしか)
魔法を消されたのは、これが最初ではない。
これまでに都合一〇回、戦闘中に魔法を潰されている。
それを為しているのが、両手に装備した特典武具であることは分かっている。《鑑定眼》でも詳細が読めないが、指を鳴らすだけで魔法を潰す効果がある代物だということは明らかだ。
だが、それだけならば対処の仕様はあるのだ。
オートで魔法を消す訳ではなく、その都度に装備者のアクティブな動作が必要になる。
であれば裏をかき、相手の予期せぬタイミングで魔法を行使すれば使える。
ステータスの差は歴然であり、一度でも魔法が決まればそのまま押し込める。
だが、その一度が……ただの一度も成功しない。
無詠唱で使おうとした魔法さえも極僅かな間隙に、装備スキルによる目晦ましを織り交ぜての発動までも最適なタイミングに、指を鳴らして込めた魔力を霧散させる。
完全に、アットの動きを読み切っている。
お陰で、アットはMPの消耗を強いられている。
(なぜここまで私の手の内を……!)
「アナタが勝ち上がってくるのは分かっていたので、アナタのこれまでの試合は欠かさず見ていました」
まるで心を読んだかのように、眼前の美少年が答える。
「ですから、これまでの試合で見せていない手を使わない限り、僕の裏はかけないと思ってください」
「…………」
それは明らかな挑発だったが、ここで乗る訳にはいかない。
これまで相手の試合を見てきたのは、アットも同じ。
(全ての試合で、敵手の攻撃を潰して勝利を得たのがこの少年だ……)
少年のスタイルを端的に言えば、『攻め手潰し』だ。
カードゲームで言えば、ロックデッキかパーミッションデッキだろう。
それほどに、彼と相対した者は戦闘の自由を許されない。
観戦可能だった五回戦から準決勝までの三戦の内容が、それを物語る。
五回戦の相手は、彼同様にモンスターを連れたテイマーだった。
モンスターのステータスは相手がやや上であり、さらに従魔強化の<エンブリオ>も有していた。
だからこそ、ぶつけ合えば相手が勝ると思われたが……ぶつかることはなかった。
先手を取った【魅了】により、相手は自身が連れたモンスターに殺された。
準々決勝の相手は、魔法職だった。
先の試合を見ていた魔法職は【魅了】対策の装備を施して挑んだ。
だが、今のアット同様に魔法を潰された後、淫魔と地竜に距離を詰められて轢殺された。
そして準決勝の相手は、上級職の【砕拳士】だった。
素早いフットワークで距離を詰め、相手の頭部を粉砕する。
【魅了】の対策装備もやはり備え、今度こそ少年を倒せると思われた。
身体強化鎧のアームズに身を包み、懐に飛び込んだ【砕拳士】の拳は一撃で少年を葬る威力を持っていた。
しかしその拳は少年の真鍮色のコート――コートに擬態した【オリハルコン・アーモリー・スライム】に防がれた。
拳をもってしても破壊できない……物理攻撃を無効化する液体金属のスライムに拳を止められたのだ。
その間隙に淫魔が【魅了】以外の状態異常を浴びせ続け、掛かった瞬間にスライムが彼をバラバラに切り刻んだ。
こうして彼は決勝の舞台にまで立ったのだ。
そして実際に相対して、アットは実感する。
(……これを、ルーキーとは思うべきではない)
先を読み、手駒を奪い、魔法発動を潰し、物理攻撃を妨げ、状態異常で陥らせ、息の根を止める。
相手の力を二割も発揮させずに潰し続けた。
相手は紛れもなく、バケモノである。
超級職ではないだけで、準<超級>の領域に当たり前のように踏み込んだバケモノだ。
ある意味では“不屈”以上に、ルーキーと思うべきではない手合い。
(慎重に勝機を探る。ステータスではこちらが上)
相手の挑発に乗る必要はない。
そして、準決勝までの相手を下した状態異常もアットには効かない。
アットの<エンブリオ>の銘は、【白夜洛陽 ティエンレンウーシュァイ】。
仏教用語の天人五衰をモチーフとした<エンブリオ>であり、その特性は『対状態異常』。
TYPE:ワールドであるティエンレンウーシュァイは、アットと指定した周囲五人(五体)に与えられる全ての状態異常を無効化する。
その上で状態異常を蓄積し、状態異常を掛けた相手に増幅して撃ち返す。
対状態異常に特化したカウンター型の第六形態<エンブリオ>。
この<エンブリオ>ゆえに、彼のパーティは恐るべき状態異常渦巻く<墓標迷宮>の深層にまで辿り着いた。
この<エンブリオ>を有するアットに状態異常を使うことは、その時点で敗北が確定する悪手。呪怨系状態異常を使うという三日目の珠を狙ったのも、勝算ありと見てのことだ。
しかしそんなアットの力を知るからこそ、少年も状態異常を使ってこない。手の内を知っていれば罠に嵌ることもない。
ゆえに、本人同士の戦いは千日手。
成功を狙うアットの魔法の行使と、少年の妨害。
均衡を崩しうるのは、そんな両者を潰そうとする……お互いのモンスターだ。
『VAMOOOOO!!』
『…………』
地竜がアットに向けて突撃するが、巨大な氷塊がそれを止める。
この氷塊は、アットがスキルで作り上げた【パルマフロスト・ゴーレム】だ。地属性魔法が得手とするゴーレム作成の、氷版と言える。
上位純竜級かつ耐久に特化した性能をしているため、壁役として地竜の攻撃を防ぎきっている。
魔法の攻めは防がれるが、地竜の攻めも防いでいる。
この勝負は一進一退の五分と言えるだろう。
(淫魔、地竜、スライム。いずれもステータスに上昇がみられるが、バフを加味しても【パルマフロスト】は抜けん)
あちらのパッシブスキルによるバフと同様に、氷のゴーレムである【パルマフロスト】は【氷王】であるアットのパッシブスキルで強化され、魔力を送り込めば傷も塞がっていく。
加えて、かつて手に入れた特典武具には自身を守る壁役の防御力を引き上げるスキルが備わっている。
計算しても、守りを貫いてアットを仕留めるには攻撃力がまだ足りない。
「…………」
五位クランのオーナーであり、集団戦闘を得手とするアットだが……ソロでもタンク・アタッカー・ヒーラーのロールをこなせる万能者だ
だからこそ、そんなアットと互角に戦う少年が脅威だった。
(《鑑定眼》で見る限り、装備面での隠し玉はない。魔法を潰す特典武具とあのスライム以外は、いずれも従属キャパシティ増大が付与された装備品。……そうでなければ、純竜級モンスター二体をキャパシティに収めるのは難しいだろうが)
決闘ルールではモンスターにパーティ枠を使うことができず、従属キャパシティ内に収めなければならない。
決闘ルールの“トーナメント”でこの問題をクリアするために、少年の装備品はキャパシティ増大に偏っている。
(二体のモンスターもバフ分を除けばまだ種族の平均ステータスに達していない。上位種への進化から間もないのだろう)
アットは膠着状態中に《看破》を使い、正確に少年の手の内を読み切っていく。
(ジョブについても把握済み。残る不明点は……あの<エンブリオ>か)
少年の傍らに立つ、淫魔の<エンブリオ>。
飛行能力を持っているが、【パルマフロスト】を飛び越えてアットを狙う様子はない。
回復魔法スキルを地竜にかけているだけだ。
アットを警戒し、不用意に飛び込ませないのだろう。
(【魅了】に回復魔法、他にも幾つかスキルを使っていたな。特性が不明瞭だ。あるいは、学習か保持に類するスキルかも知れない。そうであれば、出力自体は低いと見るが……)
<エンブリオ>というものは、万能になればなるほど出力が落ちる傾向にある。
あるいは、特殊な外部コストを要求するようになる。
少年が外部コストを支払っている様子は現時点では見受けられず、であればスキル自体の出力は低いと見るべきだろう。
(……何か、隠し玉があるか?)
これまでの試合では<エンブリオ>がさほど目立っていないからこそ、この決勝でその手札を切る可能性は高い。
あるいは、使用までに時間が掛かるスキルなのかもしれない。
であれば……。
(先に勝負をかけるか。挑発に乗る形にはなるが……仕方ない)
アットは自らの両手を【パルマフロスト】の背に、その先の地竜や少年に向ける。
少年は指を弾こうとして……止める。
それが、魔法の発動ではないと悟ったからだ。
――瞬間、少年の眼前で何かが弾けた。
それは少年の衣服として身に纏っていたスライム。
少年を守るように動いたスライムの一部が、弾け飛んでいる。
「……なるほど」
少年は納得するように、アットの両手を……両手に収まったモノを見る。
それはアットが《瞬間装備》した――二丁の銃だった。
それらはただの銃器ではなく、魔力式銃器。
制作するジョブ自体がロストジョブと化し、今では<遺跡>などから出土する限られた丁数しか存在しないものだ。
アットはその希少品を、二丁拳銃で構えていた。
右手の銃がレーザーを撃ち出し、左手の銃が見えない弾丸を撃ち出す。
彼が数多のクエストや討伐で得た資金を使い、自身の得手とする氷属性以外の魔力式銃器二丁を手に入れた理由は二つ。
一つは、自身の得意属性が効かない相手を想定したため。
もう一つは、魔法そのものが使えない環境での攻撃手段を持つため。
そして今、少年は魔力式銃器の発射を止めることはできなかった。
これにより、アットは攻め手を一つ確保したことになる。
(隠し玉として、これまで使わずにいた甲斐もあるか。だが、これだけでは仕留めきれない)
不意打ちに近い銃撃であったはずが、少年はスライムにガードさせることで本人は無傷。
発動を潰せずとも、何をしてくるかは読んでいたということだろう。
今も続けて撃ち放っているが、防御態勢を完全に固めたスライムには効果が薄いように見える。メタル系のスライムでなおかつオリハルコンの名を持つ以上、魔法攻撃への耐性は高いのだろう。
あるいは、魔法を潰すスキルを持つ特典武具ゆえに、魔法耐性を上げる装備効果もあったのかもしれない。
このまま銃器で狙い続けても、火力不足で仕留めきれるかは怪しい。
であれば……。
(こちらも試すか。まだ、検証中の技術だが……)
アットは少年を見据えながら……自身の魔力を回し始める。
対応して少年が指を鳴らすが、何も起きない。
アットの体から魔力が溢れ……結界内の気温が急速に低下し始める。
まるで先刻潰された《ホワイト・フィールド》のように。
「……これは」
少年が顔に疑問を浮かべる。
それはそうだろう。
銃器とは違い、これは明らかに氷属性魔法なのだから。
だと言うのに、発動を潰せない。気温が低下し続けている。
なぜなら、これは魔法であって魔法スキルではないからだ。
長くこの<Infinite Dendrogram>で様々な検証を重ねたアットの辿り着いた情報。
ジョブスキルとは言ってしまえばガイド付きのスキルであり、使用を選択するだけで自動的に発動する。そうなるようにシステムからサポートされる。
だが、そうしないことも……できると彼は知っていた。
ジョブスキルを使わず、身に備えたMPを使う術。
【神】シリーズの座に就けるほどのティアン達が辿り着くという、技術の境地。魔法の改造、創作。
その入り口に検証と情報収集の末にアットは足を踏み入れ、極めて単純なオリジナル魔法を作り上げた。
彼が今行っているのは、プログラムで言えば『HelloWorld』程度の初歩の初歩。
MPを冷気に変換する。
増幅もなく、指向性の調整もない、形すらない。
変換効率も比ぶべくもなく……消耗は激しい。
魔法と言うには原始的で、名前すらない単純なものだ。
だからこそ、あの手袋では崩せない。
あるいは指を鳴らした瞬間には無力化できているのかもしれないが、アットは継続的に魔力を冷気に変換し続けている。
言うなれば、極めて原始的で発動時間の短い魔法を間断なく使い続けているようなものだ。その内の一度を潰したところで、意味はない。
(恐らく、あの特典武具は単一のスキルを狙い撃って潰すもの。ならば、短時間で連続するこの発動は防げない……!)
それは正しかった。
結界内を冷気が満たしていくが、少年が再度指を鳴らすことはない。
崩せないと、彼自身が承知しているのだ。
地竜の体に、そしてスライムに守られた少年の顔に……霜が張り始める。
「…………」
凍り始めた少年の容貌も相まって、その様はまるで雪の精のようだ。
だが、この冷気によって彼は死に近づいている。
このまま気温を下げ続ければ、アットの勝利で確定する。
「やはり、上位ランカーの方は一筋縄ではいかないようです。これは想定外でした」
吐く息も凍りそうな極寒の世界で、……しかし少年は変わらぬ声音で話す。
「手札の数。先日相対した【獣王】もそうでしたが、上位の者ほどできることが多い。勉強になります」
そうして少年は微笑んで、
「――僕もこれまで見せたものが全てじゃありません」
『――《ユニオン・ジャック》、竜魔人』
少年の言葉と重なりながら、淫魔がそう宣言した。
その瞬間に、少年の姿は消え去っている。
代わりに立っていたのは、一人の美丈夫の姿。
悪魔の翼を生やし、右手に竜の角を束ねたような槍を持っている。
少年とは種族も体格もまるで違うが、両手の特典武具と金色の衣、僅かに年経てもなお健在の美貌だけは変わらない。
(……ガーディアンの融合スキルか!)
彼と、地竜と、<エンブリオ>。
三者のステータスを足し合わせ、元よりも強力な力を持った一つの個がそこに生まれたのだと、アットはすぐに察した。
(……まずい!)
アットがそう考えた直後に、激しい激突音が響く。
これまで地竜の攻撃に耐えていた【パルマフロスト】が、合体した竜魔人の一撃でその体に大きな罅を作っていた。
(三者のステータス、そしてスキルの統合! テイマーとしてのパッシブとガーディアンの自己強化! いやそれだけではなく……【付与術師】の単体強化スキルもか!)
通常、従魔師系統が【付与術師】をサブに置く意味はない。付与術師系統のスキルは従魔師系統をメインにしていては使えない。汎用ならざるスキルであり、系統が違うからだ。
だが、仮にこの融合スキルが、『融合したモノのステータスを統合し、全スキルを使用可能にする』という効果であったならば……系統が違うジョブスキルでも使えるようになる。
だとすれば、テイマーのパッシブとガーディアンの自己強化、そして【付与術師】の単体強化が重なることになり……。
(まずい、完全に超えられている……!)
竜魔人のステータスは、完全に【パルマフロスト】を圧倒した。
冷気は今も生じているが、強大になった竜魔人を凍死させるまでにはまだ時間が掛かる。
まず間違いなく、【パルマフロスト】の破壊とアットの殺害が先になる。
両手の魔力式銃器での牽制射撃を試みるが、竜魔人はアットを見もせずに槍の柄を回して防いで見せた。
銃器や冷気では殺すに至らない。
【氷王】としての氷属性魔法スキルを放てれば彼の動きと息の根を止めることもできるかもしれないが、特典武具がある限りは悪手となる……。
「ッ……!」
アットは、その瞬間に気づく。
竜魔人は両手で槍の柄を握り、振るっている。
(今ならば……!)
今このときならば、潰される前に先手を打って魔法を放てるかもしれない。
【氷王】の奥義である《氷河期》は未だレベルが届かずに使用不能だが、他のスキルで増幅を重ねた《ホワイト・フィールド》ならば奥義に近い威力を発揮することができるはずだ。
「《魔法威力拡大》……!」
左の銃器を納めながら、手に魔力を収束させる。
同時に、右手の魔力式銃器は継続して牽制射のレーザーを放ち続けている。
このまま、魔法が発動すれば良し。
潰されるとしても左手を離して指を鳴らす動作は明らかな隙。
そこで【パルマフロスト】を立て直し、戦況を戻す。
アットはそう考え、魔法を発動させる。
「――《ホワイト・フィールド》!」
(…………?)
だが、魔法を発動したその瞬間に、竜魔人の左手の様子に気づいた。
槍から左手を離した、予想の範囲内の動き。
しかし、その左手がとっている形が違う。
竜魔人は指を鳴らすのではなく、左の掌を大きく広げている。
そうして広げた左の掌を――竜魔人が握り込む。
その瞬間、――アットの体は内側から弾け飛んでいた。
「なん、だと……」
全身が砕け散るほどの致命ダメージが、一瞬でアットのHPをゼロにする。
「…………そこ、まで……?」
最期に何が起きたのか分からぬまま、アットは敗北する。
理解できたのは、ただ一つ。
両手で槍を使って見せた時点で、何らかの罠を張っていたのだろうということ。
それを証明するように……勝利した敵手の顔は微笑んでいた。
◇◆
“トーナメント”:三日目。
賞品対象:名称不明(推定:アンデッド)。
能力特性:ポルターガイスト、呪怨系状態異常。
優勝者:【亡八】ルーク・ホームズ。
Episode End
余談:
○《法爆》
【断詠手套 ヴァルトブール】の第二スキル。
右手と左手で二四時間に一度ずつ発動可能。掌を広げ、握り込む動作で作動する。
対象の魔法を消し去ると共に、その魔法に使用されたMP分の固定ダメージを相手に与える。
【尸解仙】などの例外を除けばHPの低い傾向にある魔法職にとって、HPを上回る消費量の大魔法を用いた時点で死亡が確定する恐るべき“魔術師殺し”。
シュウ曰く、『【地神】の天敵』。
○アット・ウィキ
古参のプレイヤーであり、戦闘経験も多い。
インフィニット・デンドログラムの攻略Wikiにて王国方面の編纂を担当するクランのオーナーであり、本人もメンバーも知識豊富。
パーティ戦闘では<墓標迷宮>の探索でフィガロに次ぐ成果を出している。
加えて戦闘面でのセンスもあり、魔法職ながらソロでも問題なく戦える。
さらに魔力式銃器など装備への資金投資にも余念がない。
状態異常へのカウンター特化の<エンブリオ>まで持っている。
【氷王】サリオン死亡後に超級職に就いたが、超級職といった限定要素がなくとも真っ当に強かった<マスター>である。
ただし、真っ当に強い手合いほど痛い目に遭わされるのがルークという規格外である。




