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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-  作者: 海道 左近
Episode Ⅵ-Ⅶ King of Crime

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428/737

第十九話 夢の終わり

(=ↀωↀ=)<おしらせー


(=ↀωↀ=)<5月27日発売のコミックアライブ7月号より


(=ↀωↀ=)<ジュリエット主人公のスピンオフが始まりますー


(=ↀωↀ=)<完全新規エピソードですよー


(=ↀωↀ=)<……実はトムもこっそり出てるのでよろしくー


(=ↀωↀ=)<そして6月1日には記念すべき書籍十巻も発売です


(=ↀωↀ=)<こちらも書き下ろし多めとなっておりますのでどうぞー


 □■【遊迷夢実 ドリームランド】・内部


 レイとカーディナルAの戦いは、一つの決着を迎えた。

 カーディナルAは膨大な熱量によってその体を完全に両断され、その直後に夢の世界から消えていった。

 恐らくは意識の消失……死によって夢の世界に存在する資格を失ったのだろう。

 勝利したレイは流星風車から降り、疲労と負傷のためか膝を着いて大きく息をしていた。


「…………」


 ガーベラは、どこか物憂げな表情で彼を見ている。

 それから不意に、視線を左手の甲に落とす。

 隠蔽に特化した<エンブリオ>であるため、彼女の紋章は余人には見えない。

 それでも彼女だけに見える何かを、見つめていた。


『……なるほど』


 二人を見るゼクスは、今しがた何が起きたのかを正しく理解していた。

 現実のレイを襲っていたであろうカーディナルAの攻撃。

 それは恐らく、届く寸前だったのだろう。

 だが、レイは死んでおらず、何らかの……想定外の事象で硬直したカーディナルAがレイに討たれる結果となった。

 そのときにレイを守ったものが何かをレイ自身は知らないし、妨げられたカーディナルAも理解できなかっただろう。

 分かるのは、ガーベラとゼクスだけだ。

 アプリルではない。アプリルはレイが狙われていても、ゼクス達を守ることを優先する。


 だから、レイを庇ったのはガーベラのアルハザードである。

 夢に取り込まれもせず、現実に居続けた(・・・・・・・)アルハザードだ。


 ◇◆


 話は、レイがゼクス達を発見し、【スラル】が彼らを襲撃した頃にまで遡る。

 ゼクスとキャンディが迫る【スラル】の気配を察し、臨戦態勢を整えたとき。


 ――で、でも私ってまだアルハザードのHPが……とりあえず再出撃させて……。


 ガーベラもまた、動いていた。

 半死半生状態とはいえ、アルハザードを紋章から再出撃させていたのである。

 ダメージゆえに【スラル】と戦わせることもなく、置いていた。

 問題が起きたのは、その後にカーディナルAによってミスリルの【スラル】が爆裂し、ドリームランドのオーラを散布されたときだ。

 それによる無差別広範囲の散布に、当然ながらアルハザードも巻き込まれた。

 稀薄ながらも意思がある<エンブリオ>であり、本来ならば夢に取り込まれるだろう。

 だが、スルーされた(・・・・・・)

 アルハザードは隠蔽能力に特化し、突き抜けた<超級エンブリオ>。

 見えず、聞こえず、感じもしない。

 だからこそ、ドリームランドも自身にアルハザードが接触したことを察知できず、スキルを用いて夢の中に引きずり込むこともできなかった。……存在に気づきもしなかったのである。

 その後は<マスター>であるガーベラが眠ったために、傍で待機し続けたのである。


 ◇◆


 夢に引き込まれず、現実で出続けていたアルハザード。

 そのために、夢の中でガーベラが使うこともできなかった。

 しかし、ガーベラがゼクスから現在のアルハザードの状態の推測……『現実世界で待機状態』という答えを聞かされたことで状況が変化する。

 現実にいると理解したことで、ガーベラはアルハザードに関して『自分を守ってほしい』と思考した。

 夢の中からアルハザードに呼び掛けていた形だ。

 本来ならアルハザードの視覚を共有できるが、夢と現実に分かたれてはそれもできなかった。

 現実からの情報は受け取れないため、夢の中から一方通行で曖昧な命令を下すことしかできない。

 それでもアルハザードは命令を受け取り、実行していた。

 ガーベラの傍で、何かあれば彼女を守れるようにと。

 だが、その命令は途中で変化していた。

 斧を手にしたレイとの戦闘でカーディナルAの動きが変化し、現実のレイを殺そうとしているとガーベラが察したとき。


 ガーベラの命令は、『彼を守って』というものに変化していた。


 ガーベラ自身も……それを自覚していたのかは分からない。

 あるいは、『このまま敗れてほしくない』という気持ちだったのかもしれない。

 しかし彼女の心はそれを念じて、命令を受諾したアルハザードはレイを守るために動いた。

 アルハザードは脱獄後の半死半生の状態であったために、カーディナルAと戦う力は残っていなかった。

 だが、最後の力でレイとシルバーを動かし、身を挺して庇ったのである。

 己の主の意思のままに。


『……ふむ』


 そんな顛末を、当然ながら夢の中のゼクスは直接見ていない。

 だが、何があったかは察していた。

 左手の甲……紋章を見つめるガーベラの様子から、アルハザードの消滅を感じているだろうことも。


 己の<エンブリオ>を犠牲にして、誰かを守る。

 それはかつてのガーベラにはなかったことだ。

 ゼクスの下で修業を積んだガーベラでもそうはならない。

 だとすれば、この夢の中の短い時間で感化される出来事があったのだろう。


 それはあるいは、レイが発した言葉一つかもしれない。


 ただの言葉。

 だが、強い意志の込められた言葉はガーベラに確かな影響を齎していた。

 彼の敗北を、望まない程度には。


(他者に与える影響という面で見れば、彼はシュウよりも大きいのかもしれませんね)


 それが自分達にもどれほど影響を与えるか、ゼクスは興味を抱いた。

 だが、今はそれより先にすべきことがあった。


(……さて)


 決着がついた今も彼らの意識はドリームランドに在る。

 恐らく彼らを夢に縛り付ける鎖であった【スラル】が全滅しても、夢から覚めるには自然に起きるのを待つしかないのだろう。

 起きようと夢の中で足掻いても、起きられるものでもない。悪夢とはそういうものだ。

 現実のアプリルが起こしてくれれば手っ取り早いが、現時点ではその様子はない。

 だが、あまり長居もしていられない。

 目覚めるまでの間隙に、第二波の【スラル】が派遣されてくる恐れもある。

 あるいは、既に送り込まれているのか。


(【怠惰魔王】を殺し、このドリームランドから脱出するとしましょう)


 ゼクスはZZZの近くに潜めた分体を動かし始める。

 気づかれていない今のうちに、急所へ致命の一撃を打ち込む。

 それで決着。

 脱獄後は想定外の問題が重なったものの、これで状況を想定の範囲内に戻せる。

 【怠惰魔王】を殺し、夢から目覚め、レイに正体が発覚する前に移動。

 あとは【怠惰魔王】がいなくなったレジェンダリアの縄張りを通り、人目を避けながら大陸の東へと向かう。

 カルディナでラスカル達と合流できれば言うことはない。


『……?』


 そこまでの状況を想定したとき、不意にゼクスの分体が奇妙な感覚(・・・・・)を覚えた。

 それ自体はありふれた感覚だ。

 今までに何度も、それこそあの“監獄”の中でさえ感じたことがある。

 けれど、この夢の中では一度も感じることがなかった感覚。

 それは……。


『風……?』

 風が体の表面を吹き抜けていく感覚だった。


 風の吹かない凪のような夢の世界に、今は音を立てて風が吹き始めている。

 その出所は、



 レイが手にした――――流星風車(ネメシス)



 カーディナルAに追いつき、撃破し、役目を終えたと思われた流星風車は……今もまだ回っている。

 移動時には閉じていたはずの風車を、華のように開いて。


『……まさか!』


 ゼクスは、レイが何をしようとしているかに気づいた。

 彼にとって、戦いはまだ決着していない。

 眼前のカーディナルAを倒して、終わりとは考えていなかった。

 まだダメージカウンターを蓄積した敵……【怠惰魔王】ZZZが残っている。


 だからこそ、【魔王】を倒そうとしていた。


 レイが至ったのは、ゼクスと同じ考えだ。

 相手は【スラル】を大量に送り込んできた【怠惰魔王】。

 いかに特別製のカーディナルAを倒したとはいえ、後続が来ないと考える方が甘い。

 そして、満身創痍のレイにはこれ以上の連戦を続ける余力はない。

 だからこそ、この一戦で全ての決着をつけるべくレイは最後の一手を打つ。


『《応報は(ペイバック)――』


 回転する刃の加速は極まり、やがて最高速度に達していく。

 そして流星はかつての【魔将軍】との戦い以来の、真価を発揮する。


 それこそは、彼とネメシスが届かぬものに届かせるために生み出した力。

 【復讐乙女 ネメシス】の現時点で最強の一撃。


 流星風車の本質は、地を駆ける車輪ではない。

 その本質は、


「――星の彼方へ(オーヴァー・スター)》」

 ――天翔ける星に他ならない。


 ネメシスは亜音速の星となって、雲上の如き夢の世界を飛翔する。


 カーディナルAとの戦闘でレイが負ったダメージの総計は、五万を優に超える。

 今のレイの最大HPよりも遥かに多く、途中で回復魔法を挟まなければ死んでいたほどのダメージ量。

 その蓄積が齎した速度で、ネメシスは飛んでいた。

 ネメシスは、己のダメージカウンターの示すままに一直線に突き進む。

 視えずとも、その先にいるのだと理解していた。

 目指す対象は、言うまでもなく……【怠惰魔王】ZZZ。

 ドリームランドを展開し、己の手足である【スラル】を送り出した者――レイが受けたダメージの大本である。

 この夢の中でスキルを行使するならば、ZZZは夢の中にいるはずだと……レイもまた察していた。

 だからこそ、《応報》は届くと考えたのだ。


『そこ、かっ!』

 その姿を、バクの着ぐるみを纏った姿を、ついに目視した。

 


『……《スリープウォーキング(夢遊病)》』


 己に飛来する敵手を察知し、身の危険を察したZZZは即座にスキルを行使する。

 カーディナルAを送り出した時にも使用した『夢の中での自軍の配置を操作する』スキルを使用し、自分を迫るネメシスから遥か遠くに移動させる。

 クールタイムは長く、範囲も夢の中限定であるが、自由に位置を変更できる瞬間移動。

 このスキルによってZZZはネメシスも、ゼクスの分体も置き去りに、夢の中で最も離れた位置に配置を変更する。

 夢の世界であるドリームランドの面積も有限であるが、それでも数十キロメテルは移動していた。


『これで』


 ZZZはレイとネメシスのことを何も知らず、ネメシスの力のほとんどはカーディナルAとの戦いで見せることがなかった。

 当然ながら《応報》の仕様も知らないが、《応報》はダメージカウンターの十分の一までの距離しか追尾できない。

 今回の射程距離は五〇〇〇メテル程度しかなく、距離を離された時点で《応報》は届かない。

 ZZZは最善手を打ったのだ。



 ここが、夢の中(・・・)でなければ。



『――これでも追って来られるかぁ』


 五千メテル、一万メテル。

 本来の射程距離の限界を越えてもなお、ネメシスは飛び続ける。

 飛翔が途切れない理由は、ここが夢の中(・・・)だからだ。

 ゼクスの分体が距離の限界なく拡散できたように、この夢の中においては本来の距離の概念が生じない。

 現実では分離せずに繋がっているためか、あるいは単に夢だからか。

 少なくともこの夢の特性は、皮肉なことに夢の主であるはずのZZZに利さなかった。


『今度は、逃がさぬ……!』


 ネメシスはただ真っ直ぐにZZZの気配を追い続けた。

 距離の限界なく飛び、ダメージカウンターを目印に追尾し、回転は衰えず、


 やがてZZZを再度目視するに至った。


『見つかったかー……』


 再度逃げることは……できない。

 《スリープウォーキング》は同じ対象への再使用には三〇分のクールタイムが必要になる。

 そうでなければカーディナルAが時間稼ぎの逃走を始めた時点で使用し、サポートしていただろう。

 ZZZ自身であっても、クールタイムが明けるまで対象に選ぶことはできない。

 また、【魔王】シリーズの中ではステータスが決して高くはない【怠惰魔王】。

 一部を除けばカーディナルAに劣るステータスのZZZでは、避けることもままならない。


『……ふぅ』


 ZZZは嘆息し、飛来するネメシスを見据える。

 そして右腕と左腕で頭部と心臓をそれぞれ庇うように掲げる。


『ドリームランド――』


 ZZZは、この夢の空間そのものである自身の<エンブリオ>に語りかける。

 そして一つの命令を下そうとしたとき、


 ――――頭部を庇った右腕に流星風車が突き刺さった。


 間を置かず、《応報》の三倍カウンターが炸裂する。


 ZZZの右腕が送り込まれる純粋なダメージによって砕けはじめ、




『――自壊(・・)

 ZZZが命令を言い終えた瞬間、ドリームランドは色と音を失い――(ほど)けた。



 ◇◆


 そして、夢は終わる。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<六・五章はあと二話ほどで終わりの予定です


(=ↀωↀ=)<その後はとても重要かつ締め切りのある大量書き下ろし作業のため


(=ↀωↀ=)<しばらくお休みさせていただきます


(=ↀωↀ=)<お休み明けからは


(=ↀωↀ=)<一話完結式のスタイルで幾つかの“トーナメント”の話や


(=ↀωↀ=)<皇国側のエピソードをお送りする予定です


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